選択肢に抗えない   作:さいしん

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勝負に勝って試合に負ける、というお話。



第154話 vs.マッドゴーレム 後半戦

 

 

『正式名称はヴァルキリー・トレース・システム(◦ˉ ˘ ˉ◦)

過去のモンド・グロッソの部門受賞者の動きを搭乗者にトレースさせたがる国際問題必至な違法システムです٩(๑> ₃ <)۶』

 

 

 普通に解説してくれるのか(困惑)

 というか文面の重さに対して顔文字が軽すぎるだろ。いや微妙に文面も軽いな、何だよ『させたがる』って。まぁでも、これであの黒いのが千冬さんの型を模倣している理由は分かったな。

 

 あとは。

 

『どうすればボーデヴィッヒを解放できる?』

 

 これが最重要ポイントよ。

 無敵の千冬さんを召喚できない今、俺達だけでアレを何とかしなきゃならないんだ。なら無鉄砲にテキトーこいて状況を悪化させる訳にはいかんでしょ。しっかり対策を練るのは当然だよなぁ?

 

『策は上から順番に松・鷹・子とございますヾ(。>﹏<。)ノ゙

どれをご希望しますか?щ(゚Д゚щ)カモカモーン』

 

 何言ってだコイツ(ン抜き言葉)

 内容も聞かされてないのにカモカモーンてお前……というか松・鷹・子ってなんだよ、普通こういう場合は松・竹・梅とか上・中・下とかで表すモンだと思うんですけど(凡指摘)

 

 まぁでもアレだろ、クロエも上から順番ってわざわざ言ってんだから『松』が『上策』なんだろ。なら返信なんて『松』一択だよね。

 

 乱にも聞いてみるか。

 せっかく隣りで一緒に見てくれてんだし。

 

「松でいいと思う?」

 

「うむ!」(ドヤッ)

 

 お、ボーデヴィッヒの真似か?

 あっという間に仲良くなったなお前らな。だからこそ、さっさとナイスな策を聞いてアイツを助けてやろうずぇ!

 

 

【返信:松・竹・梅】

【返信:上・中・下】

 

 

 あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ッ!!

 (ポチポチポチポチポチッッッ!!)

 

 

「ちょっ…!? 何打ってんの旋ちゃん!?」

 

 うるせぇ!(反抗期)

 指が勝手に動くんだよぉ!

 

「……返信できた」

 

「うん、できたね。松・竹・梅って送ってたね」

 

「お、そうだな」

 

「これだとどれか分かんないよね」

 

「お、そうだな」

 

「……旋ちゃん?」

 

「ごめんなさい」(土下座な旋ちゃん)

 

 そらそうよ。

 どう足掻いても、今の返信はただの遅延行為にすぎんからな。とはいえ、ほのかな期待感はある。

 

 クロエは割と聡いからな。

 少なくとも俺の返信も『松』は被ってるんだから、そのまま空気を読んで上策な『松』の中身を送ってきてくれてもおかしくはないさ。「ピロン♪」お、きたきた。

 

 

『ちょっと何言ってるか分かんない(全ギレ)』

 

 

「……oh」

 

「……全ギレって書いてあるね」

 

 まさかのマジレスが返ってきたでござる。

 しかも初めてのタメ口である。反抗期か?

 というかメールで『(全ギレ)』とか使う奴ホントにいるんだな。コイツ短期間のうちに毒されすぎだろ。新品のスポンジかお前。

 

 しかし非は俺にあるしなぁ。

 ここは謝罪メールを送って……ん?

 

 

『*・゜゚・*:.。..。.:*・゜b(* ´∀`)d ウソです゚・*:.。..。.:*・゜゚・*』

 

 

 なんだコイツ!?

 何でそんなにウザさに磨きかけてんの!? というか前々から密かに思ってたけど、距離感がおかしいんだよこのヤロウ! お前スパイとちゃうんか! やのにフレンドリーすぎるんじゃ友達かお前!……ん?(記憶さかのぼりー)

 

 友達だったわ(第87話参照)

 しかも俺から誘ったんだった(げっそり)

 

「旋ちゃんって個性的なお友達いるよね」

 

「お、そうだな」

 

 出会った時はこんな感じじゃなかったんだよ。もう保護者も規制とかした方がいいんじゃないのか〇ch関連。

 

『ちなみに松の策は「敗北を認めさせる」です( ゚∀゚)アハハ八八ノヽノヽノヽノ \ / \/ \さすれば自ずとラウラ・ボーデヴィッヒは解放されるでしょう( ゚∀゚)アハハ八八ノヽノヽノヽノ \ / \/ \』

 

 どこに爆笑ポイントがあるのか(困惑)

 独特すぎるセンスは控えてくれませんかね。

 

 しかし『敗北を認めさせる』か。

 まぁシンプルではあるが、アレの実力は如何ほどよ? いつくらいの千冬さんを模倣しているのかで手段は変わってくるよなぁ。

 

『σ(・ω・*)ンート…第1回目モンド・グロッソですね』

 

 千冬さんがまだピッチピチの十代だった頃じゃねぇか! そんなモンお前クソ雑魚やんけ! 当時の千冬さんの境地なんか2000年前に通過しとるわ!(烈海王)

 

 よし、ここはもう力にモノを言わせて助けちまおう。普段ならバイオレンスは忌避したがるラブコメ脳な旋ちゃんだが、今回に限り一番手っ取り早い方法を取るのが吉だ。

 

 ボーデヴィッヒの救助が最優先だし、長引かせたらイカンでしょ(建前)

 それで騒動になって、千冬さんにバレたらシャレにならないもんね(本音)

 

 オラ、覚悟しろゴーレム。

 

 

【恐ろしく速い手刀で四肢をぶった斬る】

【しりとりで勝負だ! 乱は審判で!】

 

 

 あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ッ!!

 

 毎度毎度両極端なんだよこのヤロウ! 1か100しかねぇなお前な! 俺は別にアイツをリョナりたくなし、しりとりもしたくないし、普通に戦いたいだけなの! たまにバイオレンスに乗り気になったらコレだよ!

 

「おいそこのマッドゴーレム!」

 

「お゛?」

 

「しりとりで勝負するぞ! 乱は審判を頼む!」

 

 なんでだよ!(自問)

 どんな絵面だこのヤロウ!

 

 というか「お゛」しか言えないアイツが、しりとりなんて出来る訳ねぇだろ! それとも何か!? しりとりになった途端、流暢にしゃべりだすってのか! 面白しろすぎるんだよこのヤロウ!(ちょっぴり期待)

 

「分かったよ! 何でも力で解決しようとしないのが旋ちゃんの良いトコだね!」

 

「お、そうだな!」(やけっぱち)

 

 そこは分からなくていいよぉ!

 俺は力で解決したいんだよぉ!

 

 もういいよ!

 やればいいんだろやれば!

 意味不明な時こそ全力だ! 中途半端にやるのが実は一番寒いって事を俺はよく知ってるからな! 冷静なんか捨てちまえ! 熱くノリノリでいくぞオイ! 

 

「ゴーレムもいいな! 千冬さんなら受けるぞこのヤロウ!」

 

「お゛お゛」

 

 頷いたなコイツ!

 期待値アップだ!

 

「はい、じゃあ…しりとり!」

 

 りんごって言えこのヤロウ!

 

「お゛お゛お゛」

 

 何言ってるか分かんねぇよ!

 でも続けるぞオイ! 

 

「ゴリラ!」

 

「お゛っお゛」

 

 促音ったなコイツ!

 流れからして多分「ラッパ」だろ!

 だから続けるぞオイ!

 

「パンツ!」

 

「お゛お゛お゛」

 

 

【ちゃんとしりとりしろよ(マジレス)】

【ちゃんとしりとりできるように妥協案を出す】

 

 

 続ける方向で話進めんなってお前!

 どう考えても続行は無理だろぉ! 2~3ターンのやり取りでハッキリしたじゃねぇか! でも【上】は辛辣すぎて言えないんだよぉ! 俺が良心の呵責に弱いと知っての狼藉かこのヤロウ!

 

「乱審判!」

 

「はい旋ちゃん!」

 

「どうやらゴーレムは『お゛』しか言えないようなので『お゛』を『お』と見なす案を打診します!」

 

 何言ってだ俺(ン抜き言葉)

 いやまぁ『お』に変換してもいいなら、やり様によっては一応しりとりの体を成すけどね。

 

「ふんふむ……ゴーレムちゃんはどう?」

 

「お゛お゛」

 

 うむ、ゴーレムちゃんも不満はないらしい。

 なら、さっそくやってみようぜ! 

 

「じゃあ、次はゴーレムちゃんが先攻だね!」

 

 フッ……大船に乗ったつもりで来な。

 パーフェクトな返答でお応えしよう。

 

「お゛お゛お゛お゛」

 

「追い鰹」(おいがつお)

 

「お゛お゛お゛」

 

「大山椒魚」(おおさんしょううお)

 

「お゛お゛お゛お゛」

 

「大潮」(おおしお)

 

 どや?

 俺さえ「お」で始まり「お」で終わる言葉を言い続ける限り、しりとりは続けられるんだぜ? まぁ勝負の行く末は悲しいかな、既に視えまくってるんだけどね。

 

 

 

~旋ちゃん、ゴーレムちゃんとのしりとりを満喫中~

 

 

 

「お゛お゛お゛お゛」

 

「…………………うむむ」

 

「旋ちゃん?」

 

「いや待て、待ってくれ。……えっと……御家頬(おいえほお)って言ったっけ?」

 

「言ったね! 2回目はダメだよ~」

 

 ぐぬぬ。

 言ってたらしゃーない。

 

「ちなみにリアルな人名とか建物の名前とかってアリ?」

 

「何か色々と引っかかりそうだからナシ!」

 

「巻紙さんならアリって言ってくれるのに?」

 

「誰それ!?」

 

「変なメル友」

 

 去年飛行機の中で仲良くなったしりとり友達である(第19話参照)

 『アタシが勝つまでやめねぇからな!』とか言って、いまだにメールでしりとりを挑んでくる変なお姉さんなんだが……まぁ今の問題はソコじゃない。

 

 ぶっちゃけもう「お」から始まって「お」で終わる言葉、思いつかねぇな、うん。巻紙さんから『歩く姿が広辞苑』とまで賞賛されている俺の博識っぷりも流石に底はある。つまり――。

 

「旋ちゃ~ん、まだぁ~?」

 

「お゛お゛ぉ゛~?」

 

 審判な乱はいいとして、お前までなに普通に催促してんだこのヤロウ。お前が「お゛」しか言えんからこんな事になってるんとちゃうんか!……いや、それでキレるのは御門違いか。

 

「………ギブで、お願いします」

 

 そもそも「お゛」しか発音できないコイツとの勝負を「しりとり」にした時点で、こうなる事なんて分かりきってた事じゃないか俺…! 頭を悩ませてひたすら敗北のゴールに突き進んで行くとか滑稽すぎるぞオイ!

 

「ゴーレムちゃんの勝ち~!」

 

「お゛お゛お゛お゛お゛お゛――ッ!!」(勝利の雄叫び)

 

 ちょっ、お前喜びすぎだろ! 

 なんだそのガッツポーズ!? 

 

 ちょっとは遠慮しろよ四肢ぶった斬るぞコラァッ!!(リョナ旋ちゃん)

 

 

【恐ろしく速い手刀で四肢をぶった斬る】

【早口言葉で勝負だ! 乱は審判で!】

 

 

 あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ッ!!

 

 言語を要する勝負やめろコラァッ!!

 「お゛」しか言えねえツってんだろぉ!

 

 

「ママ豆豆とママに豆もらい豆豆まみれママママともがくゥ!!」

 

「オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛――ッ!!」

 

「ラバかロバかロバかラバか分からないのでラバとロバを比べたらロバかラバか分からなかったァ!!」

 

「オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛――ッ!!」

 

「新設診察室視察瀕死の死者生産者の申請書審査行政観察査察使親切な先生在社必死の失踪んんんん――ッ!!」

 

「オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛――ッ!!」

 

 

 お゛ばっかじゃねぇかお前ん早口ィ!!

 勝ったな、3本勝負余裕の全勝だオラァッ!!

 

「うーん、これは引き分け!」

 

「なんでやねん!」(ツッコミ旋ちゃん)

 

 ふざけんな!

 乱でも言っていい事と悪い事があるぞ!

 今のは確実に悪い事だぞ!

 

 でもここでキレては大人げない。

 理路整然とした反論で覆してこそ大人な対応よ。

 

「ちょっと待ってくださいな、乱さん。どうして引き分けなんでせう? 僕は一度も噛まずにスピード感溢れる早口を披露しましたけど、ゴーレムちゃんは「お゛」しか言ってませんでしたよ?」

 

「ゴーレムちゃんも一度も噛まずにスピード感も溢れてたからね」

 

 ウッソだろお前(唖然)

 いや確かにコイツも一度も噛んでなかったし、スピード感っていうか何か勢いはあったけどさ。早口言葉って難しい言葉をチョイスしなきゃいけないんじゃないの? 俺ちょいす~。

 

「それにアタシ達には「お゛」にしか聞こえなくても、ゴーレムちゃんは難しい言葉を言ってるつもりかもしれないし」

 

 つもりって何だよ!

 そんなん言い出したらキリないやんけ!

 

「お゛お゛、お゛お゛」

 

 テメェなに頷いてんだコラァッ!!

 2回も頷きやがって念押しかコラァッ!!

 

「あ、やっぱり? じゃあ判定は引き分けだね!」

 

「……お、そうだな」(棒読み)

 

 納得できねぇ……ん?

 なに見てんだコラ。

 

「お゛ッ……」

 

 てンめぇぇぇぇぇぇぇッ!!

 今、鼻で「フッ……」って笑っただろ!? 

 今のは確実に通じたぞコラァッ!!

 

「ちなみにずっとムービーで撮ってたんだけど、さっきの人に送る~?」

 

「む……そうだな、送ってみるか。いい感じの勝負内容とか提案してくれるかもしれないし」

 

「分かった! じゃあ、送るよ~ぅ」

 

 うい、任せた。

 これで展開が動いてくれる事を祈るぜ。

 

 






束:何やってんだあいつら…(困惑)

クロエ:たまげたなぁ(恍惚)

束:は?(威圧)

クロエ:(;・3・)~♪

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