選択肢に抗えない   作:さいしん

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負けられない戦いがそこにはある、というお話。



第17話 旋焚玖の叛逆

 

 

【友との再会は素晴らしい。鈴にも会いに泳いで行こう!】

【友との再会は素晴らしい。鈴にも会いに飛行機で行こう!】

 

 

 何言ってだコイツ。

 泳ぐ? 海を? 

 どれくらい? 

 学校のプール何往復分だ?

 

 却下に決まってんだろバカ! 

 ちゅぅぅぅ~~~~~ごくだぞ!? 

 

 真面目な話、泳いで行くのも可能ではあると思う。俺はそれだけの鍛錬を今までしてきたからな(ドヤぁ)

 ただそれは水着での話だ。でも海パン一丁で鈴に会いに行ったところでよ。

 

 

『お前に会いに泳いで来たぜ!』

 

『やっぱり変態じゃないの!(誤認)』

 

 

 埋もれかけていた変態のイメージがまた復活してしまう。それは普通に嫌だ。かと言って、服を着たまま中国まで泳いで行けるとは流石に思えねぇ。服を着たまま泳ぐ困難さを見くびっちゃいけねぇよ。

 

 とりあえず下だ下!

 上を選んだ時点で行くのが確定しちまうからな。少なくとも下を選んでおけば、まだ足掻ける。

 

 母さんと父さんが反対すれば万事解決、単純な話だ。大阪と中国じゃ色んな意味でスケールが違うからな、普通に考えたら反対するだろ。ウチの両親ナメんなよ、流石にそこらへんの常識は持ってるわ!

 

 

.

...

......

 

 

「あら、いいじゃない! 行ってきなさい、旋焚玖。ハイ、これお金ね」

 

 この前と全く同じ返事してんじゃねぇよ!

 なんだおま……ちくしょう、流石に心の中でも母さんをお前呼ばわりは出来ねぇ!

 

 母さんおかしくない!?

 何でそんなポンポンお金出せるの!? ウチって結構裕福な家庭なの!? 小金持ちだったりするの!?

 

 だ、ダメだ、金銭面でのアプローチは無駄に終わった……なら今度は倫理観で勝負だッ!

 

「いやいや、ちょっと待ってくださいなお母様。私の話を聞いてくださいな」

 

「あらあら、お母様呼びは初めてねぇ。今でも週に1回はママって呼んでくれるけどねぇ、うふふ」

 

 やめろぉ!

 それは俺の意思じゃないんだよぉ!

 

「まぁまぁ、それは置いておいてくださいな」

 

「え、ママ?」

 

「違うわ! なんだその聞き間違い!?」

 

 やりづれぇ!

 母さんみたいなタイプは苦手だ。自分のペースが掴みにくいったらありゃしねぇ! だけど今回ばかりは俺も引かんぞう!

 

「あのですね、母さん。俺が行きたいって言ってるのは中国なんですよ? 今日みたいに新幹線でぴゅ~っと行くのとは訳が違うんですよ?」

 

 中学3年生が一人で海外に行くなんて危険すぎるよな! それを言ってるんだよ俺はよぉ!

 

「旋焚玖はとてもしっかりしてるから大丈夫。それに空港まではちゃんと送ってあげるわ」

 

 それなら安心だな!

 いや安心してどうする!?

 

 ま、まだだ…! 

 まだ負けんよ…!

 

「ただいま~」

 

 と、父さんが帰ってきた!?

 まだ母さんも説得出来てないのに…!

 

「聞いてよ、パパ~!」

 

「ちょっ、母さん!?」

 

 またかよ!

 前と全く同じ流れじゃねぇか!

 

 玄関にパタパタ早歩きで向かう母さんの腕を掴……もうとして、ヤメた。そうだよ、前と同じ流れでいいんじゃないか。母さんが前と同じ事を言ってくれるのがいいんじゃないか!

 

「ねぇ、パパ。旋焚玖がね、今年中国に帰っちゃった鈴ちゃんに、どうしても会いに行きたいんだって」

 

 よし…!

 中々いい台詞で言ってくれた、母さん!

 

「なんだって? 旋焚玖は今日、箒ちゃんに会いに行ったばかりじゃないか。それなのに次は鈴ちゃんだって?」

 

 うっっっしゃぁぁぁッ!!

 そうだよ、父さん!

 そこはスルーしちゃいけないよな!? 倫理観作戦はまだ終わってねぇ!

 

「旋焚玖、どういう事なんだ? お前は箒ちゃんが好きで会いに行ったんだろう? それが済んだら次は鈴ちゃんに? それは人としておかしいんじゃないのか?」

 

 父さんが険しい顔で俺に詰め寄ってくる。

 いいよ、来いよ! 

 この際殴ってくれても構わんよ! いや殴ってくれ! それなら自然に「俺が間違ってた。この話は忘れてくれ」って言えるじゃん!

 

「旋焚玖ぅッ!!」

 

「おうよ!」

 

 既に歯は食い縛ってんぜ!…………あぁ? 

 何でぇ? どうして優しく肩に手を置くの?

 

「お前は今、人として最低な事をしようとしている」

 

 あ、なるほど。

 優しく諭してくれるんですね、分かります。

 

 そういや父さんが俺に手を上げた事なんて一回も無かったしな。周りがすぐ暴力に訴える奴ばっかで、俺もそっちに馴染んじゃってたわ。

 

「2人の女の子に言い寄るなんて最低だ」

 

 うんうん、流石は父さん。

 伊達に母さんを愛しちゃいねぇな!

 

「だが、それでも……!」

 

 ん?

 

「好きになってしまったんだろう? それなら旋焚玖の想いを一体誰が否定できる?」

 

 お前が否定するんだよ! 

 父親だろ!? 息子の二股になに理解示そうとしてんの!? 

 ついお前って言っちゃってゴメン! いやでも言うわ! だっておかしいもん! それにさそれにさ、何かちょっといいハナシ風に持っていこうとしてない!?

 

「そうね……恋は理屈じゃないものね…」

 

 ババァコラァッ!

 お前も拍車かけてんじゃねぇよ! あとババァ言ってごめんなさい! お前呼びは……もう謝らん!

 

「旋焚玖の目を見れば分かるさ。2人に惚れてしまった不義に苦悩しつつ、それでも2人を全力で愛そうと決意している瞳だ。パパには分かる」

 

 全然分かってねぇぞコイツ!

 なに満足気な顔してんだ、いい事言ったみたいな顔してんじゃねぇぞ!

 

「そうね。日本では一夫多妻なんて許されない事なのかもしれない。でもこれだけは忘れないで、旋焚玖。ママとパパは何があっても貴方の味方よ」

 

 一気に話飛躍させんなよ!

 何でもう結婚的な話になってんだよ!?

 

 そもそも俺と篠ノ之はそういう関係になってねぇよ! 鈴もなってねぇよ! むしろフラれてんだよ俺が! 俺がなぁぁぁッ!!

 

「ああ、一応聞いておくが、箒ちゃんとは付き合えたんだろう?」

 

 

【身体だけの関係に落ち着いた】

【初キッスはレモンの味がした】

 

 

 あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ッ!! 

 あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ~~~~ッ!!

 

「初キッスはレモンの味がしたぁぁぁぁッ!!」

 

「ハハハ! こいつめ、大声で言うほど嬉しかったんだなぁ!」

 

「あらあら! 旋焚玖も大人になっていくのねぇ!」

 

 や゛め゛て゛く゛れ゛よ゛ぉぉぉぉ!

 

 ただでさえ親とそういう会話すんのは抵抗あんのに、嘘の報告させんなよぉぉぉッ! 何もしてねぇよぉ! 名前で呼ばれてキュン♥ってしちゃっただけだよぉぉぉッ!

 

「も、もういいだろこの話は」

 

「ハッハッハ! 照れるな照れるな!」

 

 や、やめろ!

 温かい目で頭撫ででくんじゃねぇよ! しまいにゃドツくぞ!? 今の俺はDV上等だぞコラァッ!!

 

 く、くそ…!

 完全に計算違いだった。

 まさかウチの両親が、ここまでトンデモ寛容力を持っていたとは……で、でも! 俺はまだッ……まだ諦めないッ! 

 

 涙で前がよく見えないが、それでも俺はまだ戦うんだ…!

 

「それは置いておいて。ちょっと私の話を聞いてくださいな、お父様」

 

「お父様かぁ! パパ呼びは今でもされ「もうそれはやったわ!」な、なんだよう……反抗期か?」

 

 この似たもの夫婦めが!

 

「あのですね、父さん。俺は確かに鈴に会いたいとは言ってますが、いきなり家に押し掛けられても迷惑だと思うんですよ」

 

 どうだオラァッ!

 俺の常識攻撃はよぉッ!

 まだ死んでねぇんだよ、俺の意思はよぉッ!

 

「確かに急に行くのは凰さんに迷惑が掛かってしまうな」

 

 そうだろうそうだろう!

 

「中国だし日帰りって訳にもいかないしねぇ」

 

 そうなんですよ!

 俺が行くだけで鈴の家族が困っちゃう! それはイカンでしょう、イカンよなぁ! ヒヒヒッ、これじゃあ行けないなぁ! だって鈴のご両親にも迷惑が掛かっちゃうんだもんなぁ!

 

「電話して聞いてみたらいいんじゃないかしら!」

 

 あ、おい待てい。

 それはずるいぞ、発達文明の力に頼るとか、そういうの俺の中ではノーカンだから。

 

「…………あ~、もしもし、凰さん? 主車です主車……ええ! ええ、そうです! いやぁ、お元気そうで何よりです、あっはっは!」

 

 の、ノーカン……。

 

 父さんが国際電話ってる。行動力早すぎだろ、少しは躊躇えよ。

 

「いえいえ、まだまだこれからですよ、なっはっは!」

 

 相手はきっと鈴の父親だろう、何やら仲良さげに話してる。

 

 くっそぅ……一夏もだけど、鈴も俺とは家族ぐるみで仲良かったもんな……それがここにきて弊害になるなんて、流石に想像だにしてなかったわ。

 

「ええ、ええ、そうなんですよぉ! で、どうでしょう? よろしければ、息子をそちらに行かせても……」

 

 断ってくれ親父さん!

 アンタの可愛い一人娘が俺に何かされるぞ!?

 

「本当ですか!? えぇっ、お泊りまでさせていただけるんですか!?」

 

 あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ッ!!

 

「やったわね、旋焚玖! んもうっ、泣くほど喜んじゃって!」

 

 涙が止まらねぇ……いや、鈴に会いたくない訳じゃないんだ。こういう形で会うのが死ぬほど嫌なだけなんだ。

 

 だってよ……俺、鈴にフラれてんだぜ?

 篠ノ之の時とは違う。まだ篠ノ之には全国大会の応援っていう名目があった。だから俺もまだ耐えられた。

 

 今回はそういう名目っていうか言い訳が無いんだ。

 いや、確かに転校前に言ってたよ? 中国に来る事があったら真っ先に連絡寄こせって。中国でも引き続き店は開いてるからって(鈴の家は中華料理店を営んでいる)

 

 いやでも……それを理由にしてもキツいだろ、俺の場合。鈴からしたらフッた俺が一人で会いに来たらどう思う? 

 「うわ、コイツ一人で会いにきたよ、やべぇよやべぇよ」って引かれても不思議じゃないだろ……少なくとも未練たらたらマンだと思われちゃうじゃないか……………それはとっても辛いなって…。

 

「はい、はい、ああ、それもいいですね! 分かりました、では3日後に……はい、はぁい」

 

 電話が終わった。

 それは俺への死刑宣告に等しい。

 

「鈴ちゃんのお父さんが『どうせなら一夏くんも呼んで一緒においで』だってさ。お金の事は心配するな、父さん達が出すよ」

 

「!!!!」

 

 執行猶予だオラァッ!!

 

「一夏の家行ってくるッ!!」

 

 

.

...

......

 

 

「一夏ぁ! 鈴に会いに行くぞ鈴に………ぁあ…?」

 

「お゛ぅ゛……ぜんだぐぅ……」

 

 何故、そんなダミ声なんだ…?

 何故、マスクを装着している…?

 何故、この真夏に厚着をしている…?

 

「……風邪、引いてんのか?」

 

「ゲホッゴホッ……インフルった…」

 

 あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ッ!!

 

「あ゛……ぜんだぐ…?」

 

 超スピードで近くのスーパーまで駆けていく。

 

「コレとコレとッ、あとコレもだオラァッ!!」

 

 目ぼしいモノを買って、即行で一夏の家に戻る。

 

「デコ出せオラァッ!! 冷えピタ貼ってろ!」

 

「あ゛~~~、ずまねぇ……」

 

「水分だ! ポカリってろ!」

 

「んぐんぐ……ぷへぇぁ~…」

 

「栄養だ! リンゴ食えお前このヤロウ!」

 

「シャクシャク……ンまい…」

 

 くそっ、他に俺に何が出来る…!?

 クソバカ一夏め、こんな時にインフルなりやがって…!

 

「で、医者から何て言われてる?」

 

「1週間あんせー」

 

 クソッたれぇ……(諦め)

 

 

.

...

......

 

 

 トボトボ帰宅。

 父さんと母さんに一夏の事を話す。

 

「……そうか、一夏くんはインフルエンザか…」

 

「う~ん……それなら無理強いできないわねぇ」

 

 ぐぬぬ……こういう時に、無理やりにでも連れていける精神を持てない自分が恨めしい。良心の呵責に負けるボク……ちくせぅ。

 

 

~♪~♪~♪~♪~♪

 

 

 で、電話……一体、誰から…?

 

「ひぃっ…!」

 

 い、嫌だ、出たくねぇ!

 間違いなく要件はアレだもん!

 でも出ないと余計に怒られる……ええい、ままよ!

 

「は、はい、もしもし…」

 

『ちょっとアンタ! さっきパパから聞いたわよ!? 急すぎてあたしもよく分かってないんだけど!? ちゃんと説明しなさいよね!』

 

 は、半年ぶりの電話なのに情緒もクソもねぇ……。

 

「いや、まぁ、アレなんですよ、その……まぁアレなんですよ」

 

『全っ然、伝わってこないわ』

 

 だろうね。

 ごめんね、ほんと。

 

『……一夏も、その…来るの?』

 

「あー……いや、それがアイツ今、風邪引いててさ……その、なんていうか、俺だけになりそう、です、はい……」

 

『そうなんだ……あっ、べ、別にアレよ? 今のは深い意味で言った訳じゃないんだから!』

 

「はぁ……」

 

 深い意味ってなんだろう。

 

『……アンタ1人で来んのよね?』

 

 うぐっ、やはり来たかこの話が…!

 

「あー、まぁ……あ、でもやっぱ俺だけじゃ気まずいよな!? この話は別に無かった事にしても」

 

 そうだよ!

 ここで鈴に断ってもらえれば!

 

『だ、誰もそんな事言ってないじゃない! いいから気にしないで来なさいよ! いいわね!? 今更来ないとか言ったらブン殴るわよ!?』

 

 鈴の気遣いが身に染みる。いい子すぎて涙がで、出ますよ……今回ばかりは違う意味でだけど。

 

「あーっと……じゃあ、お邪魔するわ」

 

『分かればいいのよ。ああ、あと今ウチに従妹も居るから。アンタが来た時に紹介す……ちょっ、何すんのよ乱!?』

 

 乱?

 

『くんな変態!』

 

 ブツッ……プーッ、プーッ、プーッ……。

 

 電話は既に切れていました。

 鈴より少し幼い女の子の声でした。

 

 見ず知らずの少女に電話口で変態と罵られて……なんていうか……その……下品なんですが……フフ……フフフ…………………勃たねぇよぉ……いっそ、そういう性的嗜好持ってりゃ良かったよぉ……普通にグサッときたよぅ…。

 

 

「…………行きたくねぇなぁ…」

 

 





乱も居るのか(困惑)

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