選択肢に抗えない   作:さいしん

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主車旋焚玖くんの自己紹介、というお話。



第2話 選択のタイミング

 

 前世の存在を信じているか?

 信じている、信じていないは人の思いによるものだ。俺は全く信じていなかった。だが、今の俺は前世の存在を知っている。信じてはいないが知っているんだ。

 

 死して再び魂が転生した者だけが知る不可思議。何の因果か、俺がそうなんだ。そう……俺は一度死んでいる。いや、死んだと思う……と言った方が良いのかもしれない。仕事の帰りに車に轢かれたんだ。そこで俺の意識は飛んだ。

 

 目が覚めたら病院でも死後(?)の世界でもなく、見知らぬ女性(まぁその人が母さんだった訳だが)の乳がドンと目の前にアップで迫っていたんだ。あれはホントにたまげたね、これが天国なのかと本気で思っ……いや、やめておこう。

 

 まぁ何だ。

 俺の前世は一言で表せば、超平凡だったと思う。山なし谷なしな人生。流れるまま流されるままに、見えない敷かれたレールを逸れる事なく歩むだけの人生だった。

 

 自分から進んで行動する事など数えるくらいしか無かったと思う。交友関係も狭くはないが広くもなく、浅くはないが親友と呼べる程深い関係になった奴はいなかった。学業も親から平均は取れと言われ続け、平均より少し上を取り続けた。大学も可もなく不可もなくなところに進学し、就活も特に滞ることなく中小企業へ行けた。

 

 自分が場の中心になる事など1度もなかった。

 それはこの先も変わらないだろう。自分はワイワイ騒いでいるグループの中心ではなく、その端に居るその他の1人的な立ち位置のままなんだろう。自分は決して主人公にはなれない、モブキャラなんだ。

 

 でもそれを苦に思った事はないし、そういう人生だと受け入れていた。ただ、車に轢かれ衝撃で身体が吹っ飛んだ時……薄れゆく意識の中で、走馬燈のように少しだけ思ったんだ。

 

 俺の人生って何だったんだろう、と。

 平坦平凡な人生だったけど、誰に迷惑を掛ける事なく生きてきたつもりだった。その結末がこれなのか……25にも満たず呆気なく死んでいく……俺は一体何のために生きてきたんだろう、と。

 

「モブキャラらしい最後なのかな……主人公ならどんな………」

 

 意識が暗闇に沈む直前、そんな事を呟いたっけ……。

 その結果が

 

 

 

【おはよう、今日のパンツ何色?】

【おはよう、今日のパンツくれ】

 

 

 

 望んでない!

 望んでねぇよ、こんな意味不明な世界! 確かに死ぬ間際は思っちゃったよ? 平凡な人生とか正直つまらんかった、とか思ったさ。ああ、思ったさ! でも極端すぎるだろ! 生まれ変わっただけでもお腹いっぱいなのに、なんでこんな事になってんの!? 劇的な毎日すぎて禿げるわ! 主にストレスと未知の恐怖で禿げるわ!

 

 うぅ……嘆いていても始まらねぇんだ。っていうか動いてくれねぇんだ。どっちかの【選択肢】を選ぶまでずっとこのままなんだ。今日もやっぱり穏やかな1日を送らせてはもらえそうにない。

 

 なら自分は抗うだけだよちくしょう…!

 どっちの【選択肢】が正しいのか……いや、この場合どっちもどうせ不正解なんだ、どっちの方がマシな展開に持っていけるかを考えるんだ俺…!

 

 今の俺の心境はまさに一休さん。

 脳内でポクポクを奏でながら小さい頭をフル回転させる。

 

……ッ、これだ…!

 

 

「おはよう、今日のパンツくれ」

 

「なっ…! き、貴様、いきなり何を言うか!?」

 

 顔を真っ赤にさせ、プルプル震える篠ノ之は、肩に掛けている謎の袋から竹刀を取り出し……へぁっ!? な、何で竹刀常備してんのこの子!?

 

「一夏から良い奴だと聞いていたのに……女子に向かって最低な男だな…!」

 

 うわっ、うわわ…!

 竹刀持っちゃったよこの子! 握られた竹刀の用途なんてめちゃくちゃ限られてるじゃないか! 殴るか切るか突くくらいしかないだろ!

 

 失敗は許されない。

 少しでも誘導をミスれば、待っているのは殴られる未来のみ…! ガクガク震えそうになる身体に活を入れる。絶対に震えるな、平常心を保つのだ俺よ!

 

「……フッ、まだまだ青いな篠ノ之よ」

 

「な、何だと…? というかそんなに話した事ないだろ」

 

 スルースルー。

 こういう時の処世術はもう何度もやってきた。相手の言葉を待ってちゃいけないんだ、自分が話しきってしまうのがベストなんだ。

 

「言葉遊びをしらないのか? 俺が言った言葉をゆっくり言ってみろ」

 

「バカか! どうして私がそんな卑猥な事を言わねばならんッ!」

 

 ひぇっ……竹刀を握る手に力が入ってます! ってかコイツまだ小2だろ、何で卑猥とかいう言葉知ってんの? お前の方がよっぽど卑猥だな!(心の中では強気)

 

「ふぅ……いいか篠ノ之。俺はお前にパンつくれと言った。パンツくれとは言ってないぞ?」

 

「ますます意味が分からんぞ!? お、おい一夏、コイツ頭おかしいんじゃないのか!?」

 

 小学生って割とひどい事でも平気で言うよね。別に傷ついてないからいいけど。俺強いもん。

 

「ん~~~……あっ、俺、分かった! こういう事だろ旋焚玖? パン、作れって事だろ!?」

 

 流石は我が友一夏。

 お前のおかげで何とか痛い目みずに回避できそうだ。篠ノ之も、あっという顔になったし。

 

「むぅ……パン作れ、か。紛らわしい言い方しおって。しかも挨拶に全然関係なかったし」

 

 ははは、それは俺が一番聞きたい。

 話の流れに沿った【選択肢】ばかりじゃないのがホントにキツいんだわ。何の脈略もない【選択肢】に塗れた時の絶望感……何度味わっても慣れねぇよぅ…。

 

「すまんすまん。昨日テレビでそんな事を言ってたのを観たんだ」

 

 観てないけど。

 

「テレビで観たなら仕方ないな! ほら、箒も竹刀しまえよ」

 

 一夏っていいヤツだなぁ。

 天然でフォローしてくれるし、これまでも何度か助けてもらってたりするし。

 

「わ、分かっている! 今しまおうとしてた!」

 

 ううむ、篠ノ之って何かずっとプンスカしてるなぁ……ま、別にだからと言って俺がどうこうする訳でもないし、いいんだけどね。あくまで篠ノ之は一夏の友達なんだ。友達の友達は……ってやつだな、うん。

 

「あ、そうだ旋焚玖。今日俺の家に遊びに来ないか?」

 

「一夏の?」

 

「ああ! たまには一緒にゲームでもしようぜ!」

 

「ゲームか……いいな、行こう」

 

「へへっ、そうこなくちゃな!」

 

 赤ん坊からやり直して幼稚園と小学校と。

 自分の精神年齢も、年相応まで落ちてきている錯覚に陥る今日この頃。まぁ別に悪い事ではないと思いたい。正直ゲーム自体にはあまり興味ないんだが、誘われたら付き合ってしまう流されやすい性格は中々直らないなぁ。

 

「でもいきなり行っていいのか?」

 

「大丈夫大丈夫! 千冬姉も歓迎してくれるさ!」

 

 千冬姉…?

 ふむ、一夏にはアネキがいるのか。俺は前世も含めて一人っ子だから、姉弟の居る感覚は分かんねぇけど、一夏の口振りからして仲は良好そうだ。2人で遊ぶのも何だし、一夏の姉ちゃんと3人で遊ぶのもアリだな。一夏の姉ちゃんも同じ小学生だろうし。

 

「……おい、主車」

 

「ん…どうした、篠ノ之?」

 

「千冬さんを怒らせるなよ」

 

「はぁ…?」

 

 さっきのやり取りを懸念してんのか?

 大丈夫、とは言えないが俺だって変な【選択肢】さえ出てこなけりゃ普通に接するっての。

 

「死にたくなければあの人を怒らせるな。いいな? 私は忠告はしたぞ?」

 

「え、なにそのマジトーンは」

 

 え、え、一夏の姉ちゃんなんだろ?

 高学年くらいの姉ちゃんじゃないの? アレなの? 小学生は小学生でもアラレちゃんみたいな怪力の持ち主なの?

 

「なぁ一夏、お前の姉ちゃんって何歳?」

 

「んーっと、確か17歳くらいだったと思う」

 

 随分年が離れてるんだな。

 高校生、か。確かに小学低学年からしたら、高校生なんてのは超がつく大人だもんな。大人が怒れば子供は怖がって当たり前だ、きっと篠ノ之もその感覚で大げさに言ってるんだろう。

 

「そうそう! 千冬姉の影響で俺も箒の道場に通うようになったんだ」

 

「ああ、剣術道場だっけか? 姉ちゃんは強いのか?」

 

「おう! この前も全国大会で優勝したんだぜ!? すげぇよ千冬姉は!」

 

 え、全国ナンバー1の剣術家なのでせうか?

 

「千冬さんな……この前もウチに来た道場破りの男をフルボッコにしてたよ、素手でな……」

 

 え、拳術家でもあるのでせうか?

 アカン……第6感がビンビンに反応しやがる。コイツの家に無策で行くのはあまりに危険だと、俺の経験が警報を鳴らしてくる…!

 

「あー、ちなみに一夏君や。君のお姉さんはどんな人なんだい?」

 

「えっと、んーと、そうだな……アレだ! 切れたナイフだな!」

 

「なんてことだ……」

 

 コイツの姉ちゃんは芸人だったのか……。

 いやそんな訳ねぇよ、多分触れれば切れるナイフのような雰囲気ってな感じを伝えたかったんだろうし、十分伝わったよ、うん。

 

「怒ったら怖い?」

 

「「 超怖い 」」

 

 あ、うん、2人してハモるレベルなんだな。

 

「まぁまぁ、確かに千冬姉も怒ったら怖いけど、別に怒らせなきゃいいだけだろ?」

 

 そりゃそうだ。

 何より会ってもない人の事を悪く思うのは良くない。それこそ一夏にもコイツの姉ちゃんに対しても失礼極まりないってやつだ。

 

 変な【選択肢】だってさっき出たし、もう今日は出ないだろ、HAHAHA!

 

 

.

...

......

 

 

「ただいま、千冬姉!」

 

「ああ、おかえり一夏。お、友達を連れて来たのか?」

 

「お邪魔し……―――ッ!?」

 

 放課後までなりを潜めていたあの感覚がここでやってきた。わざわざ一夏の姉ちゃんと初対面したタイミングでやってきた。やめて、止まらないで、選択肢出てこないで。

 

 しかし現実は非情である。

 

 

 

【へぇ、お前の姉ちゃん弱そうだな!】

【へぇ、お前の姉ちゃんブサイクだな!】

 

 

 

 はい死んだ。

 この物語は早くも終了ですね。

 

 






原作開始まで辿り着けるのだろうか(不安)


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