何の話?、というお話。
「ただいまぁ!」
「……お邪魔します」
中華料理『鈴』の看板が立てられている店へと、乱に続いて入っていく。凰家は下で店を開いて、上で生活をしているらしい。日本に居た頃と同じスタイルでやっているんだな。ただ今日はお店は閉めているんだとか。
これはアレか?
日本から来た俺のために、わざわざ店を閉めての歓迎パーティーが始まるのではなかろうか…!
「いや、ただの定休日だから」
「あ、鈴姉! ただいま!」
呆れた顔して出迎えてくれたのは半年ぶりに会う友達。
「ええ、おかえり乱。それと……久しぶりね、旋焚玖」
「ああ、久しぶりだな鈴」
何で俺が考えてる事が分かったんだろ。
「アンタは表情に出る時と出ない時の差が激しいからね。さっきのは妙にウキウキしてるのがバレバレだったわよ? そういうトコ、全然変わってないのねぇ」
「む……」
しみじみ言われるとやけに恥ずかしい。
だが、鈴の接し方はとてもありがたい。電話でも少し話に出ちまったけど、何か適当に話してないと気まずいんだよ、やっぱり。用心するのは下手にあの時の事(旋焚玖おフラれイベント)を思い出すような話題は避ける事だな。
【お前はもっと可愛くなった】
【成長した俺の超モナカを魅せつける】
避けるツってんだろコラァッ!!
【上】はあかんだろ、なんだそのセリフ!?
未練タラタラじゃねぇか! 確実だ! 確実にあの日の光景が浮かんじゃうだろぉ! 分かってんの!? 1度フッた男から【可愛い♥】なんて言われても女の子は嬉しくないの! キモいだけなの!
「……ッ、オラァァッ!!」
「ちょぉッ!? なに上脱いでんの!?」
上だけだから!
プールの授業で散々見てるし勘弁して!
「俺の鍛え上げられた腹筋(超モナカ)を見ろッ!!」
「うわっ……これは…確かにまた凄くなったわね…!」
フッ……最後に見せたのは中2の夏だったか。なんだかんだ修業ってヤツは嘘をつかんからな。俺の肉体はまだまだ進化を遂げられるってな…! これに関してはちょっと自分でも誇っていたりするんだぁ~♪
「何してるの、バカ旋ちゃん!」
「うぇい!?」
ビターンな音と共に背中に衝撃が走る。
し、しまった……乱ママ…じゃねぇ、乱も居るんだった。正直、完全に気ぃ抜いてた。いや、だってさ……勘違い以外で「凄いわ!」的な目を向けられるのって、やっぱり嬉しいじゃん……ちょっとだけ浸っちゃうのも無理ないと思うんだ。
「そういう事もしちゃダメ! また変態って呼ばれちゃうよ!?」
「あ、ああ……そうだな。俺が悪かったよ」
やべぇ……この子にはホントに頭が上がりそうにないぞ…? どうしても、母さんに怒られてる気分になっちまうんだもん。この世界じゃ俺が初めて出会うタイプだ、マジやべぇ。
「ん! 分かればいいよ! 物分かりはいいんだよね、旋ちゃんは」(今までちゃんと注意する子がいなかったのかな? しょうがないから、アタシが教えてあげるしかないかぁ)
俺は物分かりいいよ、俺はな。
「ふーん…? 何かよく分かんないけど、確執は取れたみたいね、乱?」(旋焚玖のことを旋ちゃんって呼んでるのが気になるけど)
「ん~……なんかね、怒る気分じゃなくなったっていうか。思ってた感じと違うっていうか」(変態っていうか、旋ちゃんって超絶バカなだけな気がするんだもん。意気込んでた分、余計に拍子抜けしちゃったよ)
呆れられてるんですね、分かりますよ。
年上の男が泣いた上に、年下の女の子にママと呼ぶ。普通ならドン引き案件ですわ。それでも許してくれた乱さん。
総評、この子はとてもいい子である。
そんな子に対して、これから【定期的に】……両親をママパパ呼びが週1スパンだから、多分同じ週1だと思うが、それでもなぁ…。
この子を【乱ママ】と呼ばなきゃいけないのがツライです、とってもいい子だから…。
「それなら良かったわ。でもごめんね、旋焚玖。あたしがアンタの話を考えなしで乱に話しちゃってさ」
「気にするな」
この感じじゃ俺をフッた話まではしてなさそうだし。パンツな挨拶に関しては完全に俺に落ち度があるし、わざわざ謝ってくれた鈴に申し訳ない気持ちすら湧いてくるわ。
【俺をフッた話はしてないか?】
【あの日の事は話してないか?】
自分で蒸し返していくスタイル。
好きじゃないし嫌いだよ。
「あの日の事は話してないか?」
明確に示さない事で、【上】とは違うやつを思い出してもらえる可能性…! 俺はそれに賭けるッ!
「…ッ、ば、バカ! 言う訳ないじゃない!」(な、何でアンタから言ってくるのよ!? ずっと意識しないようにしてたのに!)
鈴の頬に薄っすらと赤らみが浮かぶ。可愛い。
うん、知ってた。だって鈴って頭いいし空気読める子だもん。あの日とかボカしても正直意味ないかなって思ってたさ。ああ、分かってたさ。
だから、これだけは言わせてくれ。
「すまん」
「あ、謝るなら言わないでよぉ…!」(んもぉぉッ! どうしてあたしがアタフタしなくちゃいけないのよぉ! で、でもこんなの意識するなって方が無理でしょ!?)
「むむっ! また鈴姉を困らせたな!?」
「ご、ごめんなさい」
「むー……でも、反省してるみたいだし、許してあげる!」
「……ホッ…」
いや待て俺。何でそこでホッとしてんの?
まるで母さんに怒られずに済んだ的な、そんな感情が芽生えてきてないか? いやいや……えぇ…? それがマジなら、非常にマズいのではないでしょうか。
年下にママを感じる……いや、ママを感じるってなんだよ。母性だ母性。そう、母性を感じてしまう病に罹ってしまった…?
「……何かさ、アンタの乱への態度…おかしくない?」(なんていうか……上手く言えないけど、あたしと話す時と違うような気がする……正直、もやもやする…)
き、気付かれた!?
いやだ、こんな訳分かんねぇ感情だけはバレたくねぇッ!
「……おかしくない」
「今、間があったわよ? いつものアンタなら即答してる筈よねぇ?」
さ、流石鈴…!
相変わらずキレてやがる…! だがこればっかりは、俺だって簡単に引くわけにはいかねぇ…!
「そんな事はない」
「……ふーん…」
じ、ジロジロ見られてます。
明らかに疑いの目で見られてます。でも、いくら疑われようが頭の中までは覗けまい…! 何が何でも誤魔化し押し切ってやる…!
「聞くつもりはなかったけど気が変わったわ。アンタと乱、此処に来る前なにしてたの?」
泣きベソかいて、年下の乱に慰められて、彼女をママと呼びました。
なーんて……ぜっっっったいに、言わねぇぇぇッ!! 言っちゃならねぇッ! 改めてみりゃ、ドン引きどころか軽く犯罪案件やんけ!
鈴は数少ない俺の親友なんだぞ!? 俺はコイツとこれからも仲良くやっていきたいんだよぉ! こんなの話したら嫌われちゃうよぉ! もう絶交レベルだよぉ!
「……あたしに言えないの?」
「言えない」
「ッ……あぁ、そうッ!」(なによ! いつもだったら聞かなくても話してくる癖に! どうしてコレに限っては話してくれないのよ!)
「乱……!」
「な、なぁに?」(うわわ……鈴姉が怖いよぅ)
マズい…!
まずいまずいまずいッ! 俺が幾ら拒否ったところで乱が話しちまったら最後だ…! 最後っていうか最期だ…!
た、頼む乱様神様仏様!
言わないでくださいぃぃぃッ!!
「旋焚玖と何があったの? 乱はいい子だから教えてくれるわよねぇ?」
「ヒェッ……う、う~んとね……ん…?」
お、お願いです乱様ぁぁぁッ!!
「……ッ!!?」(こ、子犬ぅぅぅぅッ!? 雨に濡れた子犬の目ェェェ!! 耳を垂らして子犬がくぅーんくぅーんって泣いてるぅぅぅッ!!)
「……旋ちゃんが言わないなら、アタシも言わない」
うおおおおぉぉぉぉッ!!
アンタ、やっぱりいい人だ!
「はぁッ!? アンタまであたしに隠す気!? そんなに言えない事してたの!?」
し、してました。
反省してるんで、ホント、すいません。だから乱に突っかかるのはヤメていただけないでしょうか? 私をボコッていいですから。
「……ッ、鈴姉こそ、さっきから何なの?」(そこまでキレられるとアタシもイラッてしてきたんだけど…!)
あ、あかん…!
乱までヒートアップしてきてる!? このまま傍観してるのはマズい気がする、何とか割って入れるか…!?
「何がよ?」
「旋ちゃんは鈴姉にとって3なんでしょ? じゃあ別にアタシと旋ちゃんが何してようがいいじゃん!」
2人の間に入り込もうとしていた足が止まる。いや、止まるだろ。
3ってなに…? 何で唐突に数字? めちゃくちゃ気になるんだけど。俺って数字でいう3なの? どういう意味で?
「そ、それは……べ、別に今はそれと関係ないでしょ!」(せ、旋焚玖の前でそれはしないでよ!)
なんだ、関係ないのか。
「関係あるじゃん! だからそんなにイライラしてるんでしょ!?」
関係あるの!?
いや、そもそも2人してさっきから何の話してんの!? まだ俺の話だよな!? 何でそれで俺がついていけなくなってんの!?
っていうか、今こそお前の出番だろ【選択肢】ィッ!! なんでこういう時はウンともスンとも言ってくれないの!? お前ならこの空気をブチ壊せるだろォ!?
「うるさいわねぇ! アンタが勝手に3って決めてんじゃないわよ! もしかしたら4かもしれないでしょ!?」
4!?
3じゃなくて4の可能性もあるの!?
え、ま、まだ俺の話だよな? 俺が3か4って表現されてる、で間違いないよな? え、合ってんの? ほんとに俺の話で合ってる…?
「4……? って事は4:6になったって認めるんだね、鈴姉!」
4:6!?
ここにきて割合!? なんのだよ!?
クソッ、なんの比率なんだよ、流石に気になりすぎるぞオイ! 気になるし不安だぞ!? お前ら俺の話してるんだよな!? 日本語で話してくれてるのにまるで分かんねぇよ!
「どうなの、鈴姉!? ハッキリしないと旋ちゃんに言っちゃうよ!?」
やっぱり俺の話か!?
「あたしにだって分かんないのよ! 5:5になるかもしれない…! もしかしたら6:4になるかもしれない…!」
確率変動!?
お前らもう俺の話してねぇだろ!?
「でも……分かんないの! こんなに旋焚玖と早く会うなんて思わなかったんだもん!」
やっぱり俺の話!?
「……そうだね、鈴姉。でも、いつかは0か10にしなきゃいけない日がくると思う。でないと鈴姉が苦しいままだもん」
「ええ、分かってるわ……ありがと、乱」
「えへへっ! アタシは鈴姉の妹分だからね!」
「んもう、調子いいんだから」
俺、途中から何もしゃべってねぇや。
完全に2人の意識からも消えちまってんじゃねぇかな。楽しそうにキャッキャおしゃべりしてるし。別にいいけど。2人が険悪なままより全然いいや。
俺はこのまま空気になってりゃいいんだ。俺の存在なんて、やっぱ所詮こんなモンよ。
【叫んで存在をアピールする】
【静かに控えておく】
俺は……。
「ウ゛ェェェェェーーーイッ!!」
「「!!?」」
この後、2人に怒られました。
でも気付いてもらえて嬉しかったです。
中国編の主役は乱ちゃんだったのか…(困惑)