選択肢に抗えない   作:さいしん

21 / 158

何の話?、というお話。




第21話 乱v.s.鈴

 

 

 

「ただいまぁ!」

 

「……お邪魔します」

 

 中華料理『鈴』の看板が立てられている店へと、乱に続いて入っていく。凰家は下で店を開いて、上で生活をしているらしい。日本に居た頃と同じスタイルでやっているんだな。ただ今日はお店は閉めているんだとか。

 

 これはアレか? 

 日本から来た俺のために、わざわざ店を閉めての歓迎パーティーが始まるのではなかろうか…!

 

「いや、ただの定休日だから」

 

「あ、鈴姉! ただいま!」

 

 呆れた顔して出迎えてくれたのは半年ぶりに会う友達。

 

「ええ、おかえり乱。それと……久しぶりね、旋焚玖」

 

「ああ、久しぶりだな鈴」

 

 何で俺が考えてる事が分かったんだろ。

 

「アンタは表情に出る時と出ない時の差が激しいからね。さっきのは妙にウキウキしてるのがバレバレだったわよ? そういうトコ、全然変わってないのねぇ」

 

「む……」

 

 しみじみ言われるとやけに恥ずかしい。

 だが、鈴の接し方はとてもありがたい。電話でも少し話に出ちまったけど、何か適当に話してないと気まずいんだよ、やっぱり。用心するのは下手にあの時の事(旋焚玖おフラれイベント)を思い出すような話題は避ける事だな。

 

 

【お前はもっと可愛くなった】

【成長した俺の超モナカを魅せつける】

 

 

 避けるツってんだろコラァッ!!

 【上】はあかんだろ、なんだそのセリフ!? 

 未練タラタラじゃねぇか! 確実だ! 確実にあの日の光景が浮かんじゃうだろぉ! 分かってんの!? 1度フッた男から【可愛い♥】なんて言われても女の子は嬉しくないの! キモいだけなの!

 

「……ッ、オラァァッ!!」

 

「ちょぉッ!? なに上脱いでんの!?」

 

 上だけだから!

 プールの授業で散々見てるし勘弁して!

 

「俺の鍛え上げられた腹筋(超モナカ)を見ろッ!!」

 

「うわっ……これは…確かにまた凄くなったわね…!」

 

 フッ……最後に見せたのは中2の夏だったか。なんだかんだ修業ってヤツは嘘をつかんからな。俺の肉体はまだまだ進化を遂げられるってな…! これに関してはちょっと自分でも誇っていたりするんだぁ~♪

 

「何してるの、バカ旋ちゃん!」

 

「うぇい!?」

 

 ビターンな音と共に背中に衝撃が走る。

 し、しまった……乱ママ…じゃねぇ、乱も居るんだった。正直、完全に気ぃ抜いてた。いや、だってさ……勘違い以外で「凄いわ!」的な目を向けられるのって、やっぱり嬉しいじゃん……ちょっとだけ浸っちゃうのも無理ないと思うんだ。

 

「そういう事もしちゃダメ! また変態って呼ばれちゃうよ!?」

 

「あ、ああ……そうだな。俺が悪かったよ」

 

 やべぇ……この子にはホントに頭が上がりそうにないぞ…? どうしても、母さんに怒られてる気分になっちまうんだもん。この世界じゃ俺が初めて出会うタイプだ、マジやべぇ。

 

「ん! 分かればいいよ! 物分かりはいいんだよね、旋ちゃんは」(今までちゃんと注意する子がいなかったのかな? しょうがないから、アタシが教えてあげるしかないかぁ)

 

 俺は物分かりいいよ、俺はな。

 

「ふーん…? 何かよく分かんないけど、確執は取れたみたいね、乱?」(旋焚玖のことを旋ちゃんって呼んでるのが気になるけど)

 

「ん~……なんかね、怒る気分じゃなくなったっていうか。思ってた感じと違うっていうか」(変態っていうか、旋ちゃんって超絶バカなだけな気がするんだもん。意気込んでた分、余計に拍子抜けしちゃったよ)

 

 呆れられてるんですね、分かりますよ。

 年上の男が泣いた上に、年下の女の子にママと呼ぶ。普通ならドン引き案件ですわ。それでも許してくれた乱さん。

 

 総評、この子はとてもいい子である。

 そんな子に対して、これから【定期的に】……両親をママパパ呼びが週1スパンだから、多分同じ週1だと思うが、それでもなぁ…。

 

 この子を【乱ママ】と呼ばなきゃいけないのがツライです、とってもいい子だから…。

 

「それなら良かったわ。でもごめんね、旋焚玖。あたしがアンタの話を考えなしで乱に話しちゃってさ」

 

「気にするな」

 

 この感じじゃ俺をフッた話まではしてなさそうだし。パンツな挨拶に関しては完全に俺に落ち度があるし、わざわざ謝ってくれた鈴に申し訳ない気持ちすら湧いてくるわ。

 

 

【俺をフッた話はしてないか?】

【あの日の事は話してないか?】

 

 

 自分で蒸し返していくスタイル。

 好きじゃないし嫌いだよ。

 

「あの日の事は話してないか?」

 

 明確に示さない事で、【上】とは違うやつを思い出してもらえる可能性…! 俺はそれに賭けるッ!

 

「…ッ、ば、バカ! 言う訳ないじゃない!」(な、何でアンタから言ってくるのよ!? ずっと意識しないようにしてたのに!)

 

 鈴の頬に薄っすらと赤らみが浮かぶ。可愛い。

 うん、知ってた。だって鈴って頭いいし空気読める子だもん。あの日とかボカしても正直意味ないかなって思ってたさ。ああ、分かってたさ。

 

 だから、これだけは言わせてくれ。

 

「すまん」

 

「あ、謝るなら言わないでよぉ…!」(んもぉぉッ! どうしてあたしがアタフタしなくちゃいけないのよぉ! で、でもこんなの意識するなって方が無理でしょ!?)

 

「むむっ! また鈴姉を困らせたな!?」

 

「ご、ごめんなさい」

 

「むー……でも、反省してるみたいだし、許してあげる!」

 

「……ホッ…」

 

 いや待て俺。何でそこでホッとしてんの? 

 まるで母さんに怒られずに済んだ的な、そんな感情が芽生えてきてないか? いやいや……えぇ…? それがマジなら、非常にマズいのではないでしょうか。

 年下にママを感じる……いや、ママを感じるってなんだよ。母性だ母性。そう、母性を感じてしまう病に罹ってしまった…?

 

「……何かさ、アンタの乱への態度…おかしくない?」(なんていうか……上手く言えないけど、あたしと話す時と違うような気がする……正直、もやもやする…)

 

 き、気付かれた!?

 いやだ、こんな訳分かんねぇ感情だけはバレたくねぇッ!

 

「……おかしくない」

 

「今、間があったわよ? いつものアンタなら即答してる筈よねぇ?」

 

 さ、流石鈴…! 

 相変わらずキレてやがる…! だがこればっかりは、俺だって簡単に引くわけにはいかねぇ…!

 

「そんな事はない」

 

「……ふーん…」

 

 じ、ジロジロ見られてます。

 明らかに疑いの目で見られてます。でも、いくら疑われようが頭の中までは覗けまい…! 何が何でも誤魔化し押し切ってやる…!

 

「聞くつもりはなかったけど気が変わったわ。アンタと乱、此処に来る前なにしてたの?」

 

 泣きベソかいて、年下の乱に慰められて、彼女をママと呼びました。

 なーんて……ぜっっっったいに、言わねぇぇぇッ!! 言っちゃならねぇッ! 改めてみりゃ、ドン引きどころか軽く犯罪案件やんけ! 

 鈴は数少ない俺の親友なんだぞ!? 俺はコイツとこれからも仲良くやっていきたいんだよぉ! こんなの話したら嫌われちゃうよぉ! もう絶交レベルだよぉ!

 

「……あたしに言えないの?」

 

「言えない」

 

「ッ……あぁ、そうッ!」(なによ! いつもだったら聞かなくても話してくる癖に! どうしてコレに限っては話してくれないのよ!)

 

「乱……!」

 

「な、なぁに?」(うわわ……鈴姉が怖いよぅ)

 

 マズい…!

 まずいまずいまずいッ! 俺が幾ら拒否ったところで乱が話しちまったら最後だ…! 最後っていうか最期だ…! 

 

 た、頼む乱様神様仏様!

 言わないでくださいぃぃぃッ!!

 

「旋焚玖と何があったの? 乱はいい子だから教えてくれるわよねぇ?」

 

「ヒェッ……う、う~んとね……ん…?」

 

 お、お願いです乱様ぁぁぁッ!!

 

「……ッ!!?」(こ、子犬ぅぅぅぅッ!? 雨に濡れた子犬の目ェェェ!! 耳を垂らして子犬がくぅーんくぅーんって泣いてるぅぅぅッ!!)

 

「……旋ちゃんが言わないなら、アタシも言わない」

 

 うおおおおぉぉぉぉッ!!

 アンタ、やっぱりいい人だ!

 

「はぁッ!? アンタまであたしに隠す気!? そんなに言えない事してたの!?」

 

 し、してました。

 反省してるんで、ホント、すいません。だから乱に突っかかるのはヤメていただけないでしょうか? 私をボコッていいですから。

 

「……ッ、鈴姉こそ、さっきから何なの?」(そこまでキレられるとアタシもイラッてしてきたんだけど…!)

 

 あ、あかん…!

 乱までヒートアップしてきてる!? このまま傍観してるのはマズい気がする、何とか割って入れるか…!?

 

「何がよ?」

 

「旋ちゃんは鈴姉にとって3なんでしょ? じゃあ別にアタシと旋ちゃんが何してようがいいじゃん!」

 

 2人の間に入り込もうとしていた足が止まる。いや、止まるだろ。

 3ってなに…? 何で唐突に数字? めちゃくちゃ気になるんだけど。俺って数字でいう3なの? どういう意味で?

 

「そ、それは……べ、別に今はそれと関係ないでしょ!」(せ、旋焚玖の前でそれはしないでよ!)

 

 なんだ、関係ないのか。

 

「関係あるじゃん! だからそんなにイライラしてるんでしょ!?」

 

 関係あるの!? 

 いや、そもそも2人してさっきから何の話してんの!? まだ俺の話だよな!? 何でそれで俺がついていけなくなってんの!?

 

 っていうか、今こそお前の出番だろ【選択肢】ィッ!! なんでこういう時はウンともスンとも言ってくれないの!? お前ならこの空気をブチ壊せるだろォ!?

 

「うるさいわねぇ! アンタが勝手に3って決めてんじゃないわよ! もしかしたら4かもしれないでしょ!?」

 

 4!?

 3じゃなくて4の可能性もあるの!? 

 え、ま、まだ俺の話だよな? 俺が3か4って表現されてる、で間違いないよな? え、合ってんの? ほんとに俺の話で合ってる…?

 

「4……? って事は4:6になったって認めるんだね、鈴姉!」

 

 4:6!?

 ここにきて割合!? なんのだよ!? 

 クソッ、なんの比率なんだよ、流石に気になりすぎるぞオイ! 気になるし不安だぞ!? お前ら俺の話してるんだよな!? 日本語で話してくれてるのにまるで分かんねぇよ!

 

「どうなの、鈴姉!? ハッキリしないと旋ちゃんに言っちゃうよ!?」

 

 やっぱり俺の話か!?

 

「あたしにだって分かんないのよ! 5:5になるかもしれない…! もしかしたら6:4になるかもしれない…!」

 

 確率変動!?

 お前らもう俺の話してねぇだろ!?

 

「でも……分かんないの! こんなに旋焚玖と早く会うなんて思わなかったんだもん!」

 

 やっぱり俺の話!?

 

「……そうだね、鈴姉。でも、いつかは0か10にしなきゃいけない日がくると思う。でないと鈴姉が苦しいままだもん」

 

「ええ、分かってるわ……ありがと、乱」

 

「えへへっ! アタシは鈴姉の妹分だからね!」

 

「んもう、調子いいんだから」

 

 

 俺、途中から何もしゃべってねぇや。

 完全に2人の意識からも消えちまってんじゃねぇかな。楽しそうにキャッキャおしゃべりしてるし。別にいいけど。2人が険悪なままより全然いいや。

 

 俺はこのまま空気になってりゃいいんだ。俺の存在なんて、やっぱ所詮こんなモンよ。

 

 

【叫んで存在をアピールする】

【静かに控えておく】

 

 

 俺は……。

 

 

「ウ゛ェェェェェーーーイッ!!」

 

「「!!?」」

 

 この後、2人に怒られました。

 でも気付いてもらえて嬉しかったです。

 

 





中国編の主役は乱ちゃんだったのか…(困惑)


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。