円満が一番、というお話。
【主車旋焚玖こそが最強。2人に武威を示してやる】
【修復するなら今しかない。かねてから隠しておいたあの手を使うッ!】
【上】なんて選べる訳ねぇだろバカ!
武威を示すってアレだろ!? 篠ノ之の時みたいな感じなんだろ!? 無理に決まってんだろ、相手見ろバカ! 鈴の親父さんとお袋さんだぞバカ! 2人に手ェ出せる訳ねぇだろクソバカ!
じゃあもう【下】しかねぇじゃねぇか!
でもあの手って何だよ!? すっげぇ怖いよ! 【修復するなら今しかない】ってのには賛同できても、後半がまるで賛同出来ねぇよ! ホントに色々怖いんだけど!? なんで一番重要な部分をボカすの!? 【かねてから隠しておいた】ってなに!? なんで勿体ぶるの!?
行動するのは俺なんだぞオイ! 分かってんのかオイ! 俺が勿体ぶるのは分かるよ! 俺が主体なんだからな! でも俺に勿体ぶるのが分かんねぇって言ってんの! どうして動作主が分かってないんだよ、おかしいだろ!
この15年間、今みたいに幾度となく不条理な選択肢っぷりにプリプリしてきたが……いや、してきたからこそ俺は知っている、知ってしまっているんだ。そんな誰しもが思う当たり前な事をどれだけ声高に謳っても、まるで意味がないという事をな…………ちくせぅ。
………………よし、来いやオラァッ!! 俺が学んだ事はそれだけじゃねぇぞ! なにより切り替えが大事なんだよオラァッ!! ウダウダ言っても始まんねぇんだよ、ドンと掛かって来いこのヤロウッ!!
旋焚玖は【下】を選んだ!
む……ッ、この感じ……連続選択か!?
【劇的に鈴を人質に取って参戦する】
【劇的に乱を人質に取って参戦する】
なんでぇ?
ちょっと何言ってるか分かんない。
誰が誰を人質にすんの?
俺が? 鈴か乱を?
劇的ってなに?
【劇的】……劇を見ているような強い緊張や感動を覚えたり、変化に富んだりしているさま。ドラマチック(広辞苑参照)
…………………なんでぇ? 劇的に参戦ってなんでぇ? 武威を示すのが嫌だから【下】を選んだのに、どうして狡い手段が上乗せされてるんです?
くぅぅぅ……シンプルに武威ってた方が良かったのかよ、くそぅ…! 鈴か乱を人質に取って2人の前に出るとか……んぁ? ちょっと待て。鈴は分かるけど、乱は全く関係ないよな。
『乱は俺のモンだ!』
『『 は?(疑問) 』』
ってなる事は容易に想像できる。しかし、その効果は……ふむぅ。親父さんとお袋さんが放ってるバチバチな雰囲気を緩められる可能性がある、か。それもあり…か?
ああ、やっぱダメだ。
それじゃあ、冷戦状態に戻るだけで根本的な解決になってない。長期的な目で見るなら全然ありだと思うが、そんな猶予は俺にはない。土地的な意味で。っていうか、この状況でおフザけなんてしたら、また乱に怒られちゃうよ。それはいかん。
いや、でもなぁ……だってさぁ…。
『鈴は俺のモンだ!』
『『『 は?(威圧) 』』』
うわぁ………想像しただけでやだなぁ…キレる子1人増えるしなぁ……鈴を人質に取って3人に勝てるのか、俺…? いや違う違う、勝つ負けるの方向で考えちゃダメなんだ。テーマはアレだ、その状況を利用して『家族の絆を取り戻す』だ。うん、これでいこう。これで……いけるのか…?
くっ、弱気になるな、旋焚玖…!
やるぞ、やるぞ、やるぞ…!
俺は……やれるッ!!
◇
「はぁ……なにしてんだろ、あたし…」
気まずい雰囲気にはならないって決めていたのに、あたしの方から部屋に逃げちゃうなんて。これじゃあアイツの事、意識してますって言ってるようなモンじゃない。
でも、どうしよう。
これからまた1階に行くの…?
それこそ気まずいんだけど。
やぁやぁ、どうもどうも。みたいなノリで行けって言うの? こういう時の旋焚玖なら、何も言わないでスルーしてくれるでしょうけど、乱も居るのよねぇ。
『ねぇねぇ鈴姉! どうして2階に行っちゃったの~? あ、なんか顔赤いよ!? どうしてどうして?』
くっ……あの子なら素で言ってきそうだわ。あたしだって正直、旋焚玖の前でそんな事を指摘されて、平然で居られる自信はない。いやいや、ホントにそうなったらどうすんのよ? また2階に逃げるの? それでまた頃合いを見て1階に戻って、乱にツッコまれて……って、ループしてるじゃない! 羞恥のループとか嫌よ!
「でも戻らないと……ん?」
何かドタドタ聞こえてくる。足音?
乱か旋焚玖か? そんな疑問を抱いたのと同時に部屋のドアが勢い良く開かれた。
「鈴ッ!」
「せ、旋焚玖? どうしたのよ、っていうかレディの部屋にノックもなしで「来いお前!」はぁッ!? ちょっ、なに、何でそんなに迫っ…きゃぁッ! どこ触って「つべこべ言わずに来いホイ!」にゃぁぁぁッ!?」
意味分かんない!
何であたし、旋焚玖にお姫様だっこされてんのよぉ!? あ、あたし、最近よく乱とケーキ食べて、もしかしたらちょっと体重が……って違うわよぉ! そうじゃないでしょうがぁッ!
「いきなり何してんのよアンタぁッ!? この変態ッ! おろしなさいよ、おーろーせー!」
ジタバタしてみせるが、まるで解けない。変なとこ……は触られてないけど、それでもダメでしょ!? なになになに!? 全然展開についていけてないってば! どこ行くの!? ちょっ、そっちは1階じゃ…!
ママとパパの声が微かに聞こえてくる!? や、やだっ、こんなのパパ達に見られたら恥ずかしくて死んじゃう! まさか、さっき『バカ』って言った報復のつもり!?
◇
「まだまだジタバタっぷりが甘いな鈴!」
変に煽んなよバカ!
万が一落としちまったら鈴にケガさせちゃうだろぉ! ただでさえこっちは慣れねぇ姫さん抱っこに注意向けてんだから、これ以上余計な負担掛けさせんなバカ!
このまま階段を降りて……へぁ?
「しっかり掴まってろよ」
おいバカやめろ。どうして階段の前で立ち止まる必要がある? おいホントにやめろ。どうして足に力を入れる必要がある? お姫様抱っこで【劇的】は成立しただろ? もう劇的はクリアしたんだろ!?
「は? ちょっ、嘘!? うにゃぁぁぁ~~ッ!!」
ぬわぁぁぁぁぁッ!?
と、飛んだぁぁぁぁッ!?
劇的に俺が飛んだぁぁぁぁああぁぁぁあぁぁあ!!?
「うにゃんッ!!」
「……ッ!」
足が……足がジーンだ。ジーンで済んでくれた身体に感謝…! 腰が……腰がズーンだ。ズーンで済んでくれた身体に感謝…! 腕が……腕がぼぅぅぅんだ。ぼぅぅぅんで済んでくれた鈴の体重に感謝を…!
「あんたァ……今、変なこと考えなかった…?」
「…………………」
気のせいだって言わせろ、そこで無言はやめろ。っていうかそろそろ俺を解放しろ……あ、いや、さっきのはやっぱ無しで。まだ対策できてないから、もうちょっと勝手してて。
ともかく、着地成功也。
今にも取っ組み合いを始めようとしていた親父さんとお袋さんの動きも、俺たちの劇的すぎる登場で止まった。目を点にしてこっちを見ている。乱は……うむ、ポカーンだな。驚きすぎで目の焦点が……お、戻ってきたか…?
「せ、旋焚玖くん…? どうしたんだいきなり…! 今、2階からジャンプしてきたのか…!?」
「やだわ、旋焚玖くん…! なんか凄い感じね!? 鈴をお姫様抱っこして登場するなんて……なんていうか、凄いわね!」
お、おぉ…?
親父さんとお袋さんには意外と好評っぽいぞ…? やはり数々のアクションスターを輩出してきた国だけあって、どうやら今のスタントっぷりが2人にはウケたらしい……フッ……。
「なにドヤ顔してんのよ! さっさとおろしなさい、よッ!!」
「……ッ!」
危ねッ!?
顔面に向かってくる鈴のパンチを、咄嗟に首をいなして無効化させる。おぉ、今の達人っぽいな! 今度俺もしてみたい!(現実逃避)
「ぐぬっ…中々やるじゃない…! でもいいの!? こんな事したら乱に怒られるわよ!? また正座させられたいの!?」
そういう言い方はやめろって!(現実帰還)
なんか変に誤解されちゃうだろぉ!
俺だって下ろしたいの! でも下ろさせてくれないの! 俺に出来る事と言えば、乱が怒りだす前に目で訴える事くらいか……。
(後でちゃんと鈴に謝るから許して)
(危険な真似した事は後で叱るとして、旋ちゃんには何か意図があるんだね?)
(流石にここで正座は勘弁してほしいかなって)
(旋ちゃんに頼んだのはアタシだもんね。アタシに手伝える事は?)
(親父さんとお袋さんの前で乱に怒られるのは羞恥がヤバいかなって)
(分かった。手伝ってほしい時はサイン送るんだね? しっかり見てるよ!)
よし、伝わったな!(伝わってない)
「アンタ達に鈴は渡さねぇ!」(言い終わった瞬間、身体に自由が戻る)
捨て台詞やめろや!
デカすぎる置き土産残して行くんじゃねぇよ!
あぁッ、親父さんとお袋さんの目が点々に進化してる! ら、乱は……え、なんで『そうきたかぁ』みたいな顔してんの?
「はあああぁぁぁッ!?」
うぇい!?
鈴のキーンな声が俺の鼓膜に襲い掛かった。
み、耳元で叫ぶなよぉ……いや、そりゃ叫ぶか。だが言っちまったモンは仕方ねぇ、いまさら誤魔化しに走っても、この場を困惑させて終わるに過ぎない…! それじゃ本当に、俺はただフザけただけになっちまうだろが…!
こっからもう強引にいくっきゃねぇ…!
「い、いきなり何言い出すのよ旋焚玖!? あと下ろしなさいってばぁ!」
鈴を下ろしたら流れが変わってしまいそうな気がする…! すまん、鈴…! もうちょい辛抱してくれ!
「今は気にするな。あとお前は下ろさない」
「気にするに決まってんでしょうが! おーろーせー! パパとママが見てるってば!」
ちょっ、ジタバタすんなコラァッ!!
変なとこ触っちまうだろがコラァッ!! そんな事したら乱に怒られるだろコラァツ!!
「ダメだ、絶対に下ろさない」
「なんでよ!?」
「鈴を悲しませる2人に渡す訳にはいかない」
「「「!?」」」
どうだオラァッ!!
端的だが的確に突っついたぞコラァッ!! お姫様だっこな状態にも理由がある感じで言えたぞいやっふぅッ!!
このまま畳み掛けてやるッ!
「親父さんもお袋さんも立派な大人なんだ。今の俺の言葉の意味が分からないとは言わせない」
「それは……しかし…」
「旋焚玖くん……でもね、私達はもう…」
反応はいまいち…か。
チッ……これで上手く収まってくれたら儲けモンだったが、やっぱり簡単にはいかねぇか。これくらいで収まるなら苦労しないもんな。きっと乱も同じような事、2人に言ってきただろうし。
「旋焚玖……アンタ……」
鈴も俺の意図が伝わったようで、大人しくなってくれた……が、こっからどうする…? どういう切り口で攻めれば2人を説得させられ……あ、なんか乱と目が合った。
(むむっ! 旋ちゃんからのサインだ! アタシも乗っ掛かればいいんだね!)
「旋ちゃんの言う通りだよ! おじさんとおばさんが離婚しちゃったら、一番ツラいのは鈴姉なんだよ!? どうしてそれを分かってくれないの!? どうして鈴姉を悲しませるの!?」
「ら、乱……」(アンタが旋焚玖に話したのね……あたしのために…)
いいぞ、もっと言え乱!
ナイスすぎる援護射撃だ!
親父さん達の反応は……?
「い、いや……鈴の事はおじさん達もだね…」
「そ、そうよ。おばさん達も鈴の事は大好きで…」
まだダメか…!
だが、さっきよりかは確実に効いてるぞ! もっとだ、乱! 熱い言葉で2人をK.O.しちまえ! 俺よりもお前の方が適任だ!
俺の出番はもう終わりなんだ!(願望)
「喧嘩ばかりしてるおばさん達の言葉なんて信じらんないもん!」
「「 うっ……」」
そうだそうだ!
もっと言ってやれ!
「アタシも旋ちゃんの味方だからね!」
ん?
「2人が離婚するなら鈴姉は旋ちゃんが日本に連れて帰るって言ってたもん!」
そこまで言えとは言ってない。
「せ、旋焚玖!? アンタ本気なの!?」
言ってない。
「旋焚玖くん!? 君、正気か!? ウチの娘を誘拐する気なのか!?」
言ってない。
「そ、そんなのダメよ旋焚玖くん! いくら旋焚玖くんでもおばさん怒るわよ!?」
言ってないツってんだろコラァァァッ!! なんでお前ら全員、乱の言葉信じてんの!? アレか!? 今までの奇行のツケか!? 俺ならマジでしかねないとか思われちゃってんのか!?
【鈴だけじゃねぇ! 乱も連れて帰るッ!!】
【むしろ全員連れて帰るぞッ!!】
このバカぁッ!!
途中で消えた癖に、ここで出てくんなよバカ! 一家招待してどうすんだよアホか! 欲張りセットかこのヤロウ!!
「鈴だけじゃねぇ! 乱も連れて帰るッ!!」
「はぁぁぁぁッ!? ちょっ、乱まで巻き込む気!?」
全員よりマシだろ!!(届かぬ想い)
「そうだよ! アタシも鈴姉と一緒に行っちゃうんだからね! そうなったらアタシのママもパパもすっごい怒るんだから! それでもいいの!? おじさんとおばさんが離婚するせいで、いっぱい怒られちゃうんだから! それでもいいの!?」
マシンガン援護だ!
もうこの流れに乗っちまうしかねぇ! 絶対ここで決着つけてやる! そうでないと、マジで鈴と乱を拉致る事になっちまうんだよぉ!
「夫婦仲が悪くなる。そりゃあ何年も一緒に居ればそういう事もあるでしょう。そんな夫婦、世の中いくらでも存在しています。それでも離婚に踏み切らない夫婦は娘や息子を愛しているからです」
って前世で母さんが言ってた。
「鈴を本当に愛しているのなら、これ以上鈴をアナタ達の感情で傷付けないでください、お願いします…!」
んでもって俺のアドリブだ!
どうだオラァッ!!
前世の母さんと俺のツープラトンだぞオラァッ!! 時空を超えた合体技だ、効かねぇとは言わせねぇぞコラァッ!!
これでまだうんたら言ったら武威るぞ!? 武威っちゃうぞ!? 俺の奥歯が被害を被るんだぞ!? あの痛みをまた味わえって言うのかアンタ達はぁッ!!
「……ぐうの音も出んな……なぁ、ママ…」
「そう…ね……娘と同年代の子たちに、ここまで言葉をブツけられちゃうなんて、ね……」
き、きた?
きたの?
きたって思ってよろしいか!?
「ま、ママ……パパ…! あ、あたし、離婚してほしくない! あたしが好きなのは、仲のいいママとパパなんだもん!」
そうだな、鈴も遠慮する事なんてないんだ。思いの丈をブチ撒けちまえ。俺にお姫様抱っこされっぱなしのままだけど。
「……もう1度、ゆっくり話し合おうか…ママ」
「そうね。これからは私とパパと……そして鈴の3人で話し合いましょうか」
「ママ…! パパ…! うんッ!」
やっと鈴も笑顔を見せてくれた。
鈴の家に着いてから、ようやくだ。鈴の眩しい笑顔が見れただけでも、頑張った甲斐があったってなモンだな。
いやでも、もっとお礼くれてもいいのよ? そんな可愛い笑顔だけで満足できるほど、自分聖人じゃないですから。労力に見合ってないモノはプリプリしますよ? 心の中でだけど。
ま、でもアレだな。この場ですぐに離婚解消宣言は貰えなかったが、これで光明も見えたんじゃないか…? こっからはホントのホントに、他人の俺が立ち入っていい領域じゃない。
今後、どうなるかは鈴と……これからもこの家に居るであろう乱次第だろう。
「旋焚玖……」
「ん?」
「ありがとね……その、また助けてくれて……あたし、なんて言ったらいいか…」
「気にするな」
いや、気にしていいのよ?
何だったら俺に惚れちゃってもいいのよ? あ、俺? 全然OKです。遠距離でも大丈夫です。むしろそれくらいのご褒美あってもいいと思います。絶対に言わんけど。
「ふふっ……アンタはいつもそれね。あ、あと……そろそろ下ろしてもらってもいい? その……もう、ね? 話も終わったし、ね?」
照れた表情で上目遣いってくる鈴の破壊力がヤバいです。普通に可愛いです。あれ…? これって今告ったら、案外鈴も「しゅき♥」って言ってくれるんじゃね? それだけの事、俺したんじゃね? 絶対に言わんけど。
【嫌だ、まだ鈴を離したくない!】
【へいパス、乱ッ!】
最後にオチつけるのヤメてくれよぉ!
投げるけど! 優しく投げるから怒らないでね!
「にゃあッ!?」
「うにゃあッ!?」
このあと、めちゃくちゃ正座させられました。
これがご褒美なのですか……ちくせぅ。
これ以上は蛇足(断言)
なので中国編終了。
そろそろなぁ、原作に入らないとなぁ(使命感)