選択肢に抗えない   作:さいしん

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メールっていいな、というお話。



第25話 旋焚玖の献身

 

 

 

「……これくらいにしておくか」

 

 英語の参考書を閉じ、一息つく。

 あれだけ暑かった夏も過ぎ、あっという間に2月を迎えた。寒い夜は母さんが淹れてくれるココアが、また一段と美味い。

 

「明日の準備もしておこう」

 

 明日は高校の入試日だ。

 受けるのは結局、一夏と同じ私立の藍越学園にした。絶対そこに進学したいという訳でもないけど、一夏が居るならそれが俺の進学理由でいい。将来何の職業に就きたいかはまだ決めかねてるし。

 

 そのまま藍越大学に上がって、就職先も世話してもらうのもありだと思う。学費が安くて、就職ケアもしっかり。これが藍越の売りだし。

 それか父さんの陶芸を本格的に継ぐのも一興だと思う。陶芸家を隠れ蓑にしている達人は多いからな。比古清十郎とか……あと………比古清十郎とか。

 

 

 ピロリン♪

 

 

「ん……メールか…?」

 

 携帯がメールの受信を知らせてくる。

 どうやら誰からか送られてきたらしい。

 

『明日は受験だね! 旋ちゃん٩(ˊᗜˋ*)وガンバレガンバレ♥ P.S. 会場で迷子にならないようにね( ̄m ̄〃)ぷぷっ!』

 

 メールの送り主は乱だった。

 夏、中国から日本に帰る直前、俺たちは互いの連絡先を交換した。それ以来、乱とはちょこちょこメールのやり取りをするようになったのだ。

 しかしアレだな、迷子の心配をするあたり、やっぱり乱はおかん気質なんだな。

 

「ありがとう、乱ママ……っと、送信」

 

 うし、これでママ呼びのノルマも達成。

 寝る前に入試会場の確認だけしておこうかな。1人で行く予定だし、乱の言う通り本番で迷子になるなんてシャレにならんからな。

 

 

【1人じゃ心細いし、やっぱり一夏を誘って一緒に行く】

【子供じゃあるまいし、試験会場でどうせ会うだろ】

 

 

 ふむぅ……別に【上】でも【下】でもいいけど……まぁ普通に【下】かな。今から電話してあれこれ話すのも面倒だし。

 

 うし、場所もチェック完了。

 受験票、筆記用具、その他諸々もちゃんとカバンに入れたな。あとは明日に備えて寝るだけだ!

 

『旋ちゃんの変態!o(`ω´*)oプンスカプンスカ!!』

 

 ふひひ、遠距離じゃ正座は強要できんよなぁ?

 メールで怒られても怖くないもんね。

 

 今夜もいい夢が見れそうだ。

 おやすみなさい。

 

 

.

...

......

 

 

「試験時間になりました。それでは開始してください」

 

 試験官の合図で会場の皆がテスト用紙に手を付ける。俺もその中の一人なのだが……。俺の前の席は、とうとう空席のまま試験が始まってしまった。俺と一夏は受験番号が続く形で一桁だけが違っている。

 

 つまり、この空席は一夏の席なのだ。

 何やってんだ、アイツ…? まさか体調不良…? それとも何かしらの事件にでも巻き込まれた、とか…?

 

 ダメだ、今は試験に集中しねぇと…!

 いまだに姿を見せない一夏は心配だが、とりあえず俺も切り替えて英語の問題にとりかかった。

 

 

 

「…………繋がらない、か」

 

 1教科目が終わり休憩時間になってから、廊下に出て一夏に電話を掛けてみるも出ない。流石に今回ばかりは千冬さんにも電話してみたが、千冬さんも仕事中なのだろう、やはり出てはくれなかった。

 

 俺もすぐまた2教科目の試験が始まってしまう。それでもメールだけは入れておこう。それくらいしか、今の俺に出来る事はないし。あとは帰りに一夏の家に寄ってみるか。

 

 

.

...

......

 

 

 結局、試験が終わるまで一夏が現れる事はなく、電話も掛かってくる事はなかった。それは千冬さんも同じだった。まさかの寝坊とかないよな? 流石に人生かけた試験日に渾身のボケを披露する奴ではない……と思いたい。

 

 まぁ何にせよ、一夏の家に行こう。

 荷物をまとめて会場の出口に移動する。それが地味に面倒なんだよ。めちゃくちゃ広いからな、ここの会場。

 今日も藍越学園だけの貸し切りじゃないし。違う高校もこの会場内の別場所で試験を実施していたりする。ほら……出口に近くなるほど、だんだん男子より女子の方が増えてきただろ。

 

 違う高校ってのは女子高なんだ。多分世界一有名な女子高で、篠ノ之が通う事になっているアレだ、IS学園だな。

 

「まさか一夏の奴……」

 

 

 藍越学園とIS学園って名前が似てるぜ! でも俺が間違う訳ないんだぜ! こっちが藍越学園だぜ! とか思ってたらIS学園の方だったぜ! やっちゃったぜ!

 

 

 みたいな事になってたりするんじゃ…! 

 あ、アイツならありえ……ねぇよ。ボケるにしても捨て身すぎるわ、渾身の上いってんじゃねぇか。ないない、むしろそれだったらステーキ奢ってやるわ、松坂牛たらふく食わせてやんよ、HAHAHA!

 

 

 ピロリン♪

 

 

 む……千冬さんからのメールだ…! 

 ようやく連絡が取れたか!?

 

『一夏は少しトラブルに巻き込まれてしまって、入試を受けられる状況ではなくなった(´・ω・`) しかし別にケガなどはしていないから安心しろ(`・ω・´)ノ 数日中には家にも帰れるが、それまで連絡はつかないと思ってくれ(・ω・;)スマヌ…』

 

 相変わらずメールだと可愛い千冬さんである。

 ま、そこは今は置いておくとして。やっぱり一夏はトラブルに巻き込まれていたのか……ケガがないってのは安心材料だが、家にも帰って来れないってのが心配だ……うむむ、千冬さんのメールからして内容までは教えてくれなさそうだし。

 

 何も分からん状態で唸ってても仕方ない。

 アイツが帰ってきた時に聞けばいいか。

 

 

.

...

......

 

 

「旋焚玖~! ご飯よ~!」

 

「はーい!」

 

 それは入試が終わった次の日の事だった。

 母さんも父さんも一夏の事を心配していたが、それでも今は連絡を待つしかない。

 

「母さん、お茶ちょうだい」

 

「はぁい」

 

 食卓についた俺は、ぼんやりテレビに流れるニュースを見ながら、母さんから受け取ったコップに口をつける。

 

『たった今、緊急速報が入りました。ISに初の男性起動者が現れたとの事です』

 

「んぐんぐ……んぐ…?」

 

 男性起動者とな?

 すんなり言葉が頭に入ってこない。あんま興味ないってのもあるけど。

 

「へぇ~……男性起動者ですって」

 

「おぉ、それは良い事なんじゃないか?」

 

 母さんは普段通りのんびりした反応だ。だが父さんは少し嬉しそうだった。気持ちは何となく分かるけどな。この世界はいわゆるアレだもん、ISが使える女スゲーな世界だもんな。当然、IS使えない男ヨエーな世界でもある訳で。

 

「これで少しは女尊男卑な風潮も治まってくれるといいな」

 

「そうねぇ」

 

 その風潮とやらは大人の方が割を食っているらしい。子供の間じゃ、そんなに関係あるモノでもないからな。好きな奴は好き、嫌いな奴は嫌い。そこには女尊も男尊も関係ない。

 

 高校になったら……どうなんだろうか。俺? 元から変人扱いされてるので大丈夫。特に変わんねぇよ。

 

「しかし母さんの淹れたお茶はンまいな、んぐんぐ…」

 

『ISを起動させたのは、あのブリュンヒルデの親族でもある―――』

 

「んぐ…?」

 

『織斑一夏さんとの事です』

 

「ぶぅぅぅぅぅ―――ッ!!」

 

 ンまいお茶、吐いちゃった。

 いやいや、何やってんのアイツ!?

 

 

 ピロリン♪

 

 

 誰だよこんな時に……あ、一夏から!?

 

『会場間違えてIS起動させちまった(。´Д⊂)モウダメダァ…』

 

 うわはははッ!

 す、すまん一夏、笑っちゃダメなんだろうけど……いや、笑っちまうだろ流石に! マジで渾身ったのかよ!? だははは! や、やりやがるぜ一夏のヤロウ! 選択肢にも出来ねぇ事を平然とやってのけやがって、いひひひひッ!

 

 しかも顔文字送ってくるくらいだから、割と余裕あんじゃねぇか。あー……いや、これはまだ実感してない可能性もあるな。

 

「今、家に居るのか?……っと、送信」

 

『家だよ(。´Д⊂) 千冬姉も居ないし孤独だよ(。´Д⊂)クゥゥ…』

 

 おお、もう……これは相当キテるかもしれんな。仕方ない、今からでも顔見に行ってやるか。まだ飯食ってないけど。あ、飯でも誘ってやればいいか。

 

 

【賭けは賭けだ。傷心の一夏に松坂牛をたらふく奢ってやる】

【そんな大金は持ってない! 仕方ないから身体で支払ってやる】

 

 

 あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ッ!!

 

 これはきっと罰なんだぁ!

 一夏を笑った罰が当たったんだぁ! 苦しむ友を笑った罰に違いないんだぁ! 早すぎる因果応報なんだぁ!

 

「お母様ァッ!! 唐突ですがお金を貸してくださいぃぃッ!!」

 

 刮目せよッ!

 これが主車旋焚玖の土下座っぷりよぉッ!! 

 誰が【下】なんざ選ぶかバカ! 絶対そういう意味だろ!? 俺知ってんだぜ!? 実は肉体労働的な意味でした、みたいな期待してたまるか! 【下】選ぶくらいなら俺は土下座るわ! 当たり前だろぉッ!

 

「おおっ! 見事な土下座っぷりだな旋焚玖!」

 

「あ、あらあら……急にどうしたの旋焚玖?」

 

「傷ついた一夏に肉を奢ってやりたいんです! 松坂牛をたらふく食わせてやりたいんですッ!!」

 

「確かに一夏くんは今、とても心細いだろうしなぁ。家にもう居るんだろ? いいんじゃないか、ママ」

 

 父さんの熱い援護が光る。

 

「ええ、そうね。それじゃあ、いっぱい食べてきなさい」

 

 おぉ……ウチの両親の優しさはホンマ……五大陸に響き渡るでぇ。いやホント、すいません、俺が勝手に賭けちゃったせいで……いや、俺のせい…か? 心の中で思っただけで別に俺のせいじゃないような……いや、やっぱ俺のせいか……ごめんなさい。

 

「い、行ってきます」

 

 くそっ!

 今から行くぞ一夏ぁッ!! 

 腹ペコのまま待ってろやぁッ!!

 

 

.

...

......

 

 

 ダッシュで一夏の家に着いたはいいが……うわぁ……いかにもSPって感じの人が何人も家の前に居るよぅ……やっぱり映画とかみたいに黒服にサングラスなんだな。夜でもサングラスなんだな。

 

 どうしよう……このまま普通に家に入れさせてもらえんのかな。悩んでも仕方ないし……と、とりあえず近づいてみよう。

 

「……なにか?」

 

「えっと……一夏の友人なんですけど、入っていいですか?」

 

「身元の確認が取れないと許可できません」

 

 Oh……やべぇ……一夏の立場、マジやべぇ……。これは笑えねぇわ……どうなっちまうんだよアイツこれから。

 しかし身元の確認なら余裕だ。一夏に電話すりゃ済むだけの話だし。

 

 携帯取り出しコールっと。

 

「……あ、一夏? うん、俺だけど。今お前の家の前まで来てんだ……うん、そうそう……んで、俺がお前のダチって事を証明できないと入っちゃいけないんだってよ」

 

 そんな事話してたら家の扉が開かれた。

 

「よっ、一夏。元気そう……じゃないな、うん」

 

「き、来てくれたのか……すまねぇ……すまねぇ……」

 

 うおぉぉ……消沈っぷりがハンパねぇ……やっぱ笑えねぇわ。

 

「飯でも食いに行こうぜ。今夜は俺の奢りだ。ンまい肉でも食ったら元気も出るさ」

 

「い、いいのかよ? 奢りなんて」

 

「気にするな。そら、行こう」

 

「お、おう!」

 

 一夏と家から出ようとしたところで、SPっぽい人達に立ち塞がれる。え、なんで? 

 

「無用な外出は許可できません」

 

「む?」

 

「織斑一夏様は世界初のIS男性起動者です。万が一の事を考え、外出はお控えください」

 

 ま、マジか…?

 そんなレベルなのか……一夏がやったのって、それ程やべぇ事なんか…? こっそり一夏の顔を窺ってみる。

 

「(^p^)」

 

「うわっはははははは!」

 

 あ、笑っちまった。

 いやでもその顔は笑うだろ。なんだよその顔、イケメンが台無しじゃねぇか。SPっぽい人らは……あ、露骨に違うトコ見てやがる。察するの早いな、流石はSPっぽい人達。

 

 でもマイッたぞ。

 外出が出来ねぇなら食いに行けねぇじゃん。ま、でも俺は選択肢な行動を取った訳だし、結果的に無理ならアホの選択肢も納得してくれんだろ。異議も無さそうだしな。

 

 

【邪魔する黒服どもをハッ倒して食いに行く】

【精肉店まで自分で買いに走る】

 

 

 異議申し立て、出ちゃった。

 やっぱりダチの不幸を笑っちゃいけねぇよ。【下】だ【下】。精肉店なら商店街にあるだろ。

 

「一夏、お前料理は得意だったよな?」

 

「んぁ? あ、ああ、まぁな」

 

「肉焼けるな?」

 

「おう、焼けるぜ」

 

「白米はあるな?」

 

「おう、あるぜ」

 

 うし、それだけ聞けば十分だ。

 

「松阪牛を買ってきてやる。お前は焼き焼きセットを準備しとけ!」

 

「お、おう! 分かったぜ!」

 

 これなら文句ねぇだろ!?

 どけオラ! 俺はンまい肉を買いに行くんだよぉ!

 

 

【逆立ち歩きで買いに行く(片道)】

【バク転で買いに行く(往復)】

 

 

 あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ッ!!

 

 

.

...

......

 

 

「オラァッ!! 味わって食えこのヤロウ!」

 

「俺が焼いてるんだよなぁ」

 

 うるせぇ!

 こちとらバク転しまくりーので、まだ視界がぐわんぐわんってんだよ! 身体は平気です! 日々強い身体に鍛えられてますよ、私!

 

「んで、実際何がどうなったんだ?」

 

 まだ一夏がISを起動させちまったって事しか聞いてないからな。一体何がどうなってそうなったんだよ?

 

「ああ、それがな……(色々説明中)……って事なんだ」

 

「なんてことだ……」

 

 俺があの時(入試の日)想像したのと、ほとんど同じ行動取ってやがったコイツ…! いや、なんで置かれてるISを勝手に触るんだよ? あ、いや、でも触るかな……触ってみたくなる気持ちは分からないでもないか。男の俺らからしたら無縁な物だもんな。

 

 で、好奇心で触れたら起動しちゃって。

 政府の人間にそのまま連れて行かれた、と。

 

「ああ。経緯を説明させられて、男の俺がISを起動させた事の凄さをめちゃくちゃ説明されて、もうめちゃくちゃ説明されて」

 

 そ、そんなに説明されたのか。

 

「それでまぁ、『君を保護するにはこれしかない』って政府の人に言われて、IS学園の入学書を渡されたんだ」

 

 保護する(女子高へ強制ご招待)って事か。

 それはキツいな。

 

「尋問とかはされなかったのか?」

 

「ああ……初めはそんな雰囲気だったんだけど、俺の名前を確認してからは態度が一変してさ」

 

 千冬さんの影響か?

 ISのトップに君臨してる人の弟だもんな、そりゃあ下手な扱いも出来んわな。それに関してはラッキーだったんじゃないか?

 冷静に考えりゃ、これが一般人ならやべぇところだったろ。唯一の男性起動者って事で、モルモット的なアレやコレやを実行されてもおかしくないよな? 

 だってそれくらい凄いんだろ? ISを起動させたってのは。実際、黒服が家の周りに常備されるくらいなんだし。

 

「あと俺が起動させたからって事で、全国的に実施するって言ってたな」

 

「なにを?」

 

「他の男もISが反応するかどうかの調査だってさ。俺らの中学でも調査するってよ」

 

「ふーん」

 

 そりゃそうか。

 アレだな、意外とボコボコ起動させられる男が続出したりしてな。そうなったら、あっという間に共学の出来上がりだ。ついでに女尊な世間も終わって良い事尽くしだな。

 

「せめて旋焚玖も起動させてくれたらなぁ。心強いのになぁ」

 

「おっ、そうだな」

 

 ハハハ、ないわー。

 

 

 

 

.

...

......

 

 

 

 

「は、反応しました! か、確保してください~~~っ!!」

 

 

 へぁぁぁあああああッ!?

 

 





当たり前だよなぁ?
なお原作にはまだ突入しない模様。


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