運命に抗えってな!というお話。
「よぉ! 緊張するな旋焚玖ぅ! YO! YO!」
「テンション爆上がりだな、弾」
弾。
五反田弾。
一夏達とは違って、弾は中学からの友達だ。気付いたらよくツルんでた。俺(の選択肢)のアホにも笑って付き合ってくれるいい奴だ。
弾と俺が今、向かってるのは……ああ、あの建物か…?
そう。この間、一夏が言っていたアレだ。
一夏がISを起動した事で、全国的に調査が行われるっていうアレだ。他の男もISを起動させられる可能性を探るってヤツ。主催は当然、世界の頂点っぽいポジションに立っちゃった日本政府。
んでもって、俺たちの地元は比較的IS学園にも近いという事で、IS学園の教師も何人か、この調査に派遣されてるとかなんとか。すんげぇどうでもいい。パパパッとやって、ハイ終わりって感じでさっさと済ませたい。この後、一夏の家でゲームする約束してるし。
「よぉよぉ! IS起動させちまったらどうする!? ヤバくね!? 可愛い子ちゃんだらけの学園にひゃっほいだぜ!?」
テンションたけー。
可愛い子ちゃんとか久々に聞いたわ。まぁ弾は一夏に一緒に会いに行った時も、めちゃくちゃ羨ましがってたもんな。
『とうとうハーレム王になるつもりかこのヤロウ!』
『とうとうってなんだよ!? 全く意味分かんねぇぞ、弾』
漢泣きする弾に詰め寄られて、一夏の奴は困惑してたなぁ。俺は何も言わんかったけど。中学の俺たち3人にはそれぞれ役割があったからな。
一夏が女にモテまくる役。俺が奇行に走りまくる役。弾が俺たちのフォローに奮戦しまくる役。うーんこの……弾には足を向けて寝れねぇやなぁ。
まぁでも、それとこれとは話が別だ。ダチだからこそ、現実と幻想の区別はつけてもらおう。
「無理無理、俺らが触っても反応なんてしねぇよ」
「馬鹿野郎お前俺は反応させるぞお前!」
.
...
......
「はい、終わりー。次のひとー」
ウェーイ!ってな感じでISに弾が触るも、やっぱりというか何というか、無反応だった。受付の人も機械的になってるし。まぁ退屈な作業ではあるわな、気分的にはベルトコンベアでバイトしてるようなモンかね。
「知ってた……へへっ、正直分かってたさ。俺みたいなモブが栄光を掴める筈なんてないってな……へへへ…」
弾…………泣くなよ。
お前のそんな姿を見ちまうと、なんだか俺までもらい泣き……する訳ねぇだろ、どけオラ、さっさと一夏の家に遊びに行こうぜ。
「旋焚玖……あとはお前に託したぜ…!」
何言ってだコイツ。
何故かハイタッチを求められたので、自分も合わせました。受付の人が「はやくしろよ」と視線で訴えてきてます。すいません、すぐ触って退散しますんで……―――んぁ?
【触ったらマズい気がする。ここは触れたフリして済ませよう】
【覚悟は出来た。俺はISに……触れるッ…!】
え?
ちょっと待って。
え? ちょっと待ってよ。
え、触ったらマズいの?
反応させちゃうの…?
どうして【上】も【下】も意味深なの? 待って待って待ってよ。なんかおかしくない? 【上】も【下】も俺が触ったら反応する、みたいな感じになってない? え、そうなの? そういう未来が待ってるの?
俺の脳裏に一夏との会話が横切る。
『尋問とかはされなかったのか?』
『ああ……初めはそんな雰囲気だったんだけど、俺の名前を確認してからは態度が一変してさ』
……よし、触ったらダメだ。いつもの選択肢のおフザけとも考えられるが、念には念を…ってヤツだ。下手に触れてマジで反応させちまったら、一般人の俺に待ってるのは地獄だ。
「…………………」
ISの前に立って、受付の人の顔を密かに窺う。その表情からは「どうせ反応なんてする訳ない」といった感情がありありと見えた。こちらを視界に収めてはいるが、見てはいない。だって反応しないと思っているから。
それが俺にはありがたい…!
ISに触れるか触れないかのところで、俺はさっと手を引っ込めた。恐ろしく速い貫手、オレでなきゃ見逃しちゃうね(ただ腕を伸ばして引っ込めただけ)
「はい、次のひとー」
やったぜ。
さぁ帰ろ帰ろ。
「ま、待ってください」
へぁ?
受付の人とは違う女の人から、ちょっと待ったコールだ。
「……なんですか?」
「あ、あの、ちゃんと触らないとダメですよぅ」
む……メガネ掛けてるし、真面目な人なんだな。ちゃんとチェックされてたとは……この人がもしかしたらIS学園の教師なのかな。
【触るのはマズい。触れたフリに徹する】
【もう諦めて触る】
ちょっと待て!
さっきより語意が強くなってんぞ!? もう反応すんの確定みたいな感じじゃねぇか! そうなの!? ホントにそうなんか!?
どうする…! 冷静に判断しろよ、俺。仮にだ。仮に俺がISを起動させた場合のメリットは何だ? よく考えろ、判断するのはメリットとデメリットを照らし合わせてからでも遅くない。
メリット。
一夏と同じ高校に行ける。
篠ノ之と同じ高校に行ける。
ISを起動させた男って事で、もしかしたらフツメンの俺でも彼女がいっぱいできるかもしれない。
デメリット。
政府から尋問される。
政府から監視される。
両親にも迷惑が掛かる。
ほぼ女子高に放り込まれる。
今後、IS関連のナニかに必ず属する事になる。
後ろ盾のない俺は下手したらモルモットになる可能性。
一瞬でもこれだけ浮かんだ。
もっと時間を掛けりゃメリットデメリットも、まだまだ多く浮かんでくるだろうけど……それでもメリットの数がデメリットを上回る気がしない。
……絶対に触れてなるものか…!
「すいません、ちゃんと触ります」
「はい、お願いします」
今度はガチだ。
恐ろしく速い貫手ッ!
オレでなきゃッ!
「触ります」
見逃しちゃうねぇぇぇッ!!
「ッ……!」
「なっ…!?」(み、見えませんでしたぁ…! 残像が陽炎のように残ってるような……そんな気さえしますぅ…!)
ハッハッハァーッ!
どうだオイ、伊達に達人してねぇぜ!
「触りましたよ? 反応しないんで帰りますね」
「ちょ、ちょっと待ってくださいぃ~っ!」
メガネな人から腕にむぎゅっと纏わりつかれた。
やべぇ。乳がやわい。やべぇ。
「……なんですか?」
「ちゃ、ちゃんと触ってくださいよぅ!」(この子、何か知ってます…! そうでないと、あんなにISの前で警戒なんてしません! それに、あの速さ……只者じゃないですぅ!)
「俺が触ってないのが見えたんですか?」
見えたの?
見えてないよな?
見えてないから、そんな言い方してるんだよな?
「い、いえ……見えませんでしたけど、でも…」
勝機ッ!
タメ口になるけど、許してね!
「見えてないなら言うなよ。俺を否定していいのは見えた奴だけだ」
「う、うぅ~~……でもぉ…」
うおぉぉ……目がウルウルしてらっしゃるぅ……くっそ、罪悪感がやべぇ…! 腕に当たる乳の感触もやべぇ…! 襲い掛かる良心の呵責…! でもこればっかりはダメなんだ、許してくださいメガネの人。
後は腕を解いて―――。
「いや、見えるようにゆっくり触ればいいだけだろ。フザけてないでさっさとしろよ旋焚玖」
あ、そっかぁ……って、弾ンンン!?
何て正論吐きやがる!? 俺がどうして威圧感めいたキャラってたのか分かってんのか!? その正論からメガネさんの意識を遠ざけるためだろが!
「そ、そうですよぅ! ゆっくり! ゆっくり私にも見えるように触ってくださいぃぃ~っ!!」
「ちょっ、待って! 一旦待って! ちょっとだけでいいですから!」
あ、アカン!
完全に流れが変わった! しょぼんってたメガネの人も俄然やる気になっちゃったしぃぃぃッ! ぬあぁぁぁッ、乳の感触がやべぇぇぇッ!
「はやくしろよ旋焚玖! お姉さんに迷惑かけんなよ!」
だ、弾まで加わりやがった!?
でもお前ら2人なんかに負ける訳ねぇだろ!
「あ、貴女も手伝ってくださいっ!」
「は、はぁ…」
やる気のない受付の人まで!?
「3人に勝てる訳ないだろ!」
「馬鹿野郎お前俺は勝つぞお前!」
とはいえ今ここで強引に振り払ったら、常識的な行動を取ってる弾までケガさせちまう。メガネの人たちも巻き込まれるだろう。それがまた俺の良心を責めてきやがる…!
「ちょっ、やめ、どこ触ってんでぃ!? どこ触ってんでぇ!?」
「お前の腕だよ! 旋焚玖どうしたんだ!? いつものアレ(奇行)か!?」
うるせぇ!
ぶっちゃけ普段の奇行よりひどいのも自覚してるわ! だがそれくらい俺は人生の岐路ってんだよぉ!
「離せや弾! お前男の腕触って喜んでんじゃねぇよお前!」
「何言ってんだお前!? すいませんお姉さん方! コイツたまにこんな感じになるんです! もうお前ッ、マジで触れって!」
「やめろォ! ナイ……あ…」
指先が触れちゃった。
瞬間、キンッと金属音が頭に響く。
無機質だったISに光が灯った。灯ってしまった。
「やっぱり…! は、反応しました! か、確保してください~~~っ!!」
へぁぁぁあああああッ!?
か、か、確保ォ!?
『尋問とかはされなかったのか?』
『ああ……初めはそんな雰囲気だったんだけど、俺の名前を確認してからは態度が一変してさ』
尋問……政府からの尋問…!
絶対痛いコトされる…!
【フザけるな! 俺は抗うぞオイ!】
【触れてしまったモンは仕方ない。俺はこの結果を受け入れるよ】
【上】だコラァッ!!
簡単に受け入れてたまっかよ!
叛逆上等だオラァッ!!
「……お、おい旋焚玖、お前、マジか!? 反応してんじゃんIS!」
託されちまったよ、お前によぉ!
後で弾は顔面にウンコぶつけるとして。今はこっちだ。
「メガネの人」
「わ、私ですか…?」
「俺は……ISを起動させたんですか?」
「はいっ、起動させました!」(これで千冬先輩の弟さんも心細くなくなりますね!)
うむむ……嬉しそうだ。
女の立場からしたら、ヨエー男が起動させない方が都合いいだろって勝手に思っていたが……なるほど、この人はいい人だ。
それとこれとは話が別だけどな。
「俺はこれからどうなりますか?」
「えっと、それは……」(き、機密事項にあたるので、ここでは言えません…)
言い淀んだ。
淀みやがった…!
つまり淀んだ事をするつもりなんだな!? 公に出来ねぇ事を俺にするつもりなんだな!? 一夏には出来なかった事をッ! 俺で存分に試すつもりなんだなァッ!?
「ん…? オイオイ……」
奥の部屋からドタドタ黒服連中が現れた。
どうやら本気で政府ってヤツらは、俺をモルモりたいらしい。
「お、大人しくしてください! 何もしませんから!」
この乳メガネ…!
一番信用しちゃならねぇ台詞じゃねぇか!
「ほら、こっちへ来なさい」
黒服の1人が近づいてきては、俺へと無造作に腕を伸ばしてくる。いやいや、ヤメてくださいって。穏便に済むならそれに越した事はない。けど捕まりたくもない。
「む…」
「すいません無理です」
とりあえずスッと横に避けた。
「いいから来なさい」
「すいません嫌です」
再び伸びてくる腕。
普通に嫌なので、やっぱり避ける。すいません、ほんと。
「……私達に手荒な真似をさせる気か?」
黒服の声が低くなる。
それに釣られたのか、後方に居た他の連中も前へと出てきた。いやもうする気ですよね? 臨戦態勢に入ってますよね? それに捕まったら、手荒いどころじゃないコトするんですよね?
「やだなぁ、もう。そんな訳ないじゃないですかぁ」
人懐っこい笑顔を浮かべて、今度は俺から黒服に腕を伸ばした。ビビッたと思ってくれたか、簡単に掴ませてくれた。ならお礼に……。
投げ飛ばすしかないだろう…ッ!
「ぐへッ!?」
「「「「!!?」」」」
「ちょっ、お、おい旋焚玖!? 何やってんだよ!?」
「離れてろ弾。これからちょいと荒っぽくなるからよ…!」
もう弾に構っている余裕はない。
俺が何も知らねぇ子供だったらさ、IS動かせりゃ当然ウキウキしちゃうだろうが。あいにく夢より先に現実が視えちまっててな…! おいそれと付いて行く訳にはいかねぇんだよッ!
「な、何をしているですか!? 大人しく「黙れ乳」ひ、ひどいですぅ…」
ごめん、マジでもう余裕ないの。
たかだか4人程度に負ける気はしねぇけどな…!
「仕事で来ているアンタ達に恨みはねェ…」
ようやく分かった。
俺が(強制)毎日毎日(強制)死に物狂いで(強制)修行(強制)し続けていた(強制)理由が。
「だがこっちも人生が懸かってんだ」
この日を抗う為だった…!
「ケガしてェ奴からかかって来いッ!!」
それは覚悟を決めた男の咆哮だった。
旋焚玖の鼓動に呼応するかのように、別の部屋からも黒服たちが集まりだした。パッと見ただけでも20は優に超えている。
圧倒的な数と対峙する旋焚玖。
彼の表情はどこまでも穏やかで、笑みすら浮かべていた。
「フッ……」
そんなに来いとは言っていない。
黒服:20人に勝てる訳ないだろ!
旋焚玖:馬鹿野郎お前俺は勝つぞお前!(反骨)