選択肢に抗えない   作:さいしん

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良識ある大人はお優しい、というお話。



第28話 旋焚玖、成り上がるってよ

 

 

 

「主車旋焚玖くん。好奇心で聞く事を許してくれ。率直に今、君はどんな気分なんだ?」

 

 どんな気分……?

 見るからに権力の上に立ってます的なおっちゃんと今、対面しているこの状況についてか? そもそもISを起動させてしまった事にか? いかにも研究員してますって白衣着た連中に、検査と称して身体中を隅々までアレコレされた事にか? 注射がちょっとチクッとしたわ! 千冬さんが見てたし何でもない風を装ったけどな!

 

「気分はまぁ……正直、まだ実感がないと言えばいいですかね。自分も聞かせてください、これから俺はどうなるんすか? おためごかしは要りません。誤魔化し無しでお願いします」

 

 おっちゃんが俺の後ろに控える千冬さんに視線をやった。おそらく、色々と話してしまって良いのか、の確認だろう。

 

「ふむ……どうやら思っていたより聡い子らしい。分かった、それも含めて説明させてもらおう。男性である君がISを起動させた事で、君の将来にレールが敷かれたのだ」

 

 何の?

 決まっている、ISに携わるモノ全てだ。俺の高校も大学も、就職先も全てIS関連である事が決まったんだ。ただそれでも理想図だと思う。

 

「それは分かっています。俺が聞きたいのはそんな曖昧な部分じゃないんです」

 

 俺はそんな確認がしたくて、大人しくしているのではない。一般人の俺が、今後どんな扱いを世界から受けるのかを聞いているんだ。

 

「千冬さんが居る前で聞くのもアレですけど……俺と一夏は違うんですよね?」

 

「旋焚玖……」

 

 あらやだ、千冬さんらしからぬ悲し気な呟き。でもごめん、そこだけは今のうちにはっきりさせておいてほしい。今聞いておくのと、IS学園に入学してから、アレやコレやと待遇の違いとかを見せられるのとでは、俺のメンタルへの影響の仕方が変わってくるんだ。

 

「言いにくい事をズバッと聞いてくれる。だが、問われたらこちらも答えるしかあるまい」

 

 そうそうズバッと言ってくれ。

 変に気を遣われるより、そっちの方が俺もありがたいわ。

 

「男性でISを唯一起動させた2人。だが……君が察する通り、君達の立場はまるで違うモノになる事が予想されている。何故なら……」

 

「俺は平凡な家庭の人間で、一夏はブリュンヒルデの弟だから……でしょう?」

 

「……ッ」

 

 千冬さんが背後で身体を強張らせた気配がする。だから俺もちゃんと言っておく。

 

「安心してください、千冬さん。俺と一夏は親友です。これからも。何があっても。それだけは絶対に変わりませんよ、俺たちは」

 

「……旋焚玖」

 

 あらやだ、千冬さんらしからぬ嬉しそうな呟き。だがこれは俺の本心だ。俺の言葉に嘘はない。立場が変わろうが周りの反応が変わろうが、俺と一夏はダチなんだ。俺たちの関係は誰にも壊させねぇよ。

 

「ふむ……ある程度、覚悟は出来ているみたいだな。なら、ざっと羅列していこう。君と織斑君の置かれた環境の違いを―――」

 

 おう、ドンと来いッ!

 

 

.

...

......

 

 

「……―――とまぁ、だいたいこんなところか」

 

「……なるほどざわーるど…」

 

 そんなに羅列しろとは言っていない。

 いやまぁ分かってたけどさ、改めて第三者から言葉にされるとヘコんじゃうね。メンタルの強さに定評のある俺でも結構Oh…ってなっちゃった。主に世間の視線的な部分で。ま、別にいいけど。だいたい想像ついてたし。

 

「とりあえずアレですか? モルモッターになりたくなければ、しっかりISの技量を身に付けろ、と。要約すればこんなところですか」

 

「だいぶ端折っているが、概ねその通りだな。ああ、あと刺客にも気を付けるように」

 

 それはついでみたいなノリで言っちゃダメな案件だろ!? 身の危険的な意味でいくと、それってすごい重要な話だろぉ!

 

「まぁ君ならそちらの方面に関しては、さほど心配してはいないがね」

 

「む……」

 

「いやはや、君の身体検査の結果は私も目を通させてもらったが……一流の科学者たちが目を丸くしていたよ。ハハッ、彼らの言葉を借りれば、君の筋密度は常軌を逸しているらしいぞ?」

 

 え、えへへ……あざーっす(恍惚)

 褒められるのは素直に嬉しいです。

 

「先程もSP達を相手取り、大立ち回りを披露したそうじゃないか。君に投げられた者が言っていたぞ? 何をされたかまるで分からなかった、とな。普段、どんな鍛え方をしているんだい?」

 

 言っても信じてもらえないもん。

 でも、強いて言うなら。

 

「うまい食事と適度な運動」

 

「ほう」

 

「ふむ」

 

 後は―――。

 

「想像上のカマキリとかと闘わされる事……ですかね」

 

「…………………」

 

「…………………」

 

 微妙な静寂が部屋を包み込む。

 嘘じゃないもん、ホントだもん。

 

「ハッハッハ! なるほどなるほど、企業秘密ってヤツか。強くなる秘訣なんてそうそう簡単に明かしたくないよなぁ!」

 

 ホントの事だもん。

 嘘なんてついてないもん。

 

「ふふ……私は信じているぞ。旋焚玖は頑張り屋さんだもんな」

 

 生温かい目して言ってんじゃねぇよ! 頑張り屋さんとか言うなよ! 幼児扱いかコラァッ!! いやオイ、なに手ェ伸ばして……あ、引っ込めた。

 

「………………チッ」(すぐにバレる嘘をつく見栄っぱりな旋焚玖の頭をナデてやりたい……が、人前では出来んのが口惜しい…)

 

 ヒェッ……急に不機嫌になるのヤメてくれませんかね…。

 

「さて……説明も一段落済んだ事だし、移動しよう。君のIS適性を測定して、今日は終わりだ」

 

「適性……? 筆記試験的なヤツですか?」

 

 当然だが、ISの知識を俺に求められても何も答えられる自信ねぇぞ。

 ISとは何か? とか聞かれても、なんかスゴいヤツとしか書けねぇぞ? 風刺きかせていいなら女尊男卑の根源って書くけど。いや書かないけど。

 

 ただでさえ女子高への入学が決まってんのに、そんな事まで書いちまった日には余計フルボッコにされるわ。

 

「試験用のISで慣らし運転をしてから、簡単な実技試験だ。分かりやすく言うと模擬戦だな」

 

 千冬さんが教えてくれた。

 え、模擬戦って、誰かと戦う的なアレですか? 私、素人ですよ?

 

「あくまで適正値を出すためだ。別に勝ち負けを競うものではないさ」

 

 気負う必要はないと、肩をポンッと叩いてくれた。あらやだ、今日の千冬さん、とっても優しい。んでもって、2人に連れられる形で地下まで降りて、何やら広い空間に到着と。どうやら此処で模擬戦とやらを行うらしい。

 

「む……」

 

 既に誰か居るぞ……あ、乳メガネだ。

 

「紹介しよう。山田真耶くんだ。私と同じIS学園の教員だ」

 

 さらっと言ったけど、千冬さんも教師ってたんですね。一夏はまだ知らんのかな。後でアイツにも聞いてみよう。

 

「主車旋焚玖です……えっと……主車旋焚玖です」

 

 いきなり紹介されても知らんわい。

 何話していいか分かんねぇよ。教師って事はこれから学園でもお世話になる可能性が高いんだし、乳は見ないでおこう。せめて自発的なセクハラは控えておかないとだ。

 

「先程もお会いしてますし、そう緊張しないで大丈夫ですよー」

 

 ああ、そうだった。

 途中からこの人、空気になってたっけな。っていうか、よくよく考えたらこの乳メガネが諸悪の権化じゃね? 俺でなきゃ見逃しちゃう貫手を、この人が見破ったのがきっかけだし。いや別に怒ってないですよ、ハハハ。

 

「山田先生がお前の模擬戦の相手をする。の前に、まずはコレに乗らないとだな」

 

 千冬さんたちに誘われるがまま、置かれてあるISに俺も近寄る。しかし改めて近くで見るとデカいな……中々に圧倒されるサイズだ。前世にはこんな乗り物無かったし、実際マジで乗るとなるとドキドキしちまうな。

 

「このISは訓練用でIS学園にも配備されてある通称【打鉄】です」

 

 黙れ乳メガネ。

 

「まずは乗ってみろ。初期化も最適化も必要ない」

 

 専門用語はヤメてください。

 とりあえず、言われた通りに足を突っ込んでみる……おぉッ…!?

 

 カシュンカシュンと小気味の良い音で俺に纏わりついてきた…! 中々に鬱陶しいな!?

 

「ククッ、違和感などすぐに無くなるさ」

 

 ま、マジっすか?

 買ったばかりの靴みたいな感じなんですけど、いずれ馴染むモンなんか?

 

「よし、では好きに動いてみろ」

 

「はい…………む?………むむ…?」

 

 動かない。

 

「えっと……主車くん?」

 

 黙れ乳メガネ。

 動かねぇんだよ乳メガネ。見りゃ分かんだろ乳メガネ。

 

「……おい、どうした?」

 

「むむむぅ…………むんッ!」

 

 あ、動いた。

 人差し指がクイッて動いた。

 

「……お、織斑先生…」

 

「ふむ……これはアレだな…」

 

 

 

 

 この光景は当然モニター室でも通して見られている訳で。その部屋には先程、旋焚玖に説明を行った者や研究員を始め、他にも政府関係者が揃っている。

 

「……動かんな」

 

「人差し指は動いたらしいですよ?」

 

「それは動いたと言っていいのかしら」

 

 それぞれが何と言っていいのか分からない、といった空気である。当然、この中には女性も多く居るのだが、そんな彼女達ですら「これだから男はダメなんだ」とバカにするのも気が引ける程だったらしい。

 

「て、適正値が出ました!」

 

 そんな空気を壊すように、1人の研究員が声を張った。

 

「いや、それはいくらなんでも早くないか? まだ主車くんはクイクイしてるだけなんだぞ?」

 

「ですが、その……実際、出ちゃいましたし……結果は、見ての通りです…」

 

 旋焚玖の適正値が表示されているディスプレイに皆が集まる。

 

「……これは…」

 

「なんてことだ……」

 

「あの子……IS学園でやっていけるの…?」

 

 政府の人間であれば、誰しもが理解している。ISを起動させてしまった男性に、これから降り掛かるであろう理想と現実を。故にこの時ばかりは、此処に居る皆が旋焚玖に同情したという。

 

 

 

 

『あー、主車くん。適正値が出たが……どうする?』

 

 マイクを通して、さっきのおっちゃんの声が聞こえてきた。どうするって何が? 俺まだ何もしてないんだけど。

 

「結果は?」

 

 俺の代わりに千冬さんが聞いてくれた。

 

『……「E」だそうだ』

 

 Eって言われても分かんないんだけど。

 IS素人の俺には目安が知りたいところだ。

 

 

【車で言えばどのくらいだ?】

【パワプロで言えばどのくらいだ?】

 

 

 お前その聞き方好きだよな。

 ま、いいけど。パワプロのメーターで言ってくれたら俺も理解しやすい。ここは千冬さんに聞いてみよう。

 

「パワプロで言えばどのくらいだ?」

 

「……Gだな」

 

 ウンコじゃねぇか! それって最低レベルって事だろぉ!? え、そんな感じなの!? 嘘つけよ! あ、でも、そんな感じで合ってるのか。全然動かせてねぇもん、俺。

 

 

【車で言えばどのくらいだ?】

【クラウドで言えばどのくらいだ?】

 

 

 何でまた聞き直すんだよ。もう俺はウンコって分かったから聞かなくていいじゃん……結構テンション下がってんだぜ、俺…? いいもん、今度は乳メガネに聞いてやるもん。

 

 オラ、アホな質問に戸惑いやがれ! 

 

「クラウドで言えばどのくらいだ?」

 

「……バスターソードですね」

 

 割とあっさり答えやがった…!

 

「でも、それも初期武器レベルって事ですよね…?」

 

 言葉が違うだけで最低能力値って事には変わらないんだよな、ふへ……ふへへ……ふへへへへ……ふぇぇぇぇぇ……ッ。

 

 うへぇぁ……やっぱ俺ってそんなモンだよなぁ……勘違いしちゃいかんよ、俺は俺だもんなぁ……でもさ、こんなんだけどさ? 何だかんだ言ってさ? IS起動させちゃった訳じゃん? 世界でたった2人な訳じゃん? そんなのさ……期待っていうか、妄想しちゃうじゃん、男だったらやっぱさ?

 

 学園でさ? クールなやれやれ系気取っちゃってさ? でもってカッコ良くIS乗り回してさ、ブイブイ言わせてさ、女たちにキャーキャー言われちゃうとかさ? ちょっとだけ……ほんのちょっぴり……じゃない。

 

 ホントはめちゃくちゃ期待してたのにぃぃぃぃッ!! なんなんだよもぉぉぉぉッ!! もう嫌だぁ! IS学園なんか行きたくないよぉ! こんなんで言っても笑われちゃうよぉぉぉぉ!

 

「だ、大丈夫ですよ、主車くん!」

 

 へぁぁ……?

 

「バスターソードは確かに初期装備の武器ですし、パワプロのGも初期能力です」

 

 そら見たことか!

 やっぱりダメダメなんじゃねぇか!

 

「主車くんは大きな勘違いをしています。ここから上がれないとは言っていませんよ。私も織斑先生も…!」

 

「む……」

 

「山田先生の言う通りだ。むしろ私はこの結果も予想出来ていた」(篠ノ之道場で初めてコイツの武を見た時の事を思い出す。まるで才能の欠片も見当たらなかった……だが、旋焚玖はそこから這い上がれる男なのだ。私はそれを知っている…!)

 

 そ、そうなの?

 

「たった1人でここまで強くなれたお前だ。それはISでも変わらん。私はそう確信している」

 

「千冬さん…!」

 

「そうです! 私も精一杯サポートしますから! 一緒に頑張りましょう!」

 

「ち……山田先生…!」

 

 これは紛れもない教育者の鑑。本気でそう言ってくれているのが、熱い教師魂がジンジンに伝わってくる…! もうこの人を悪く思ってはいけない。むしろ今まで貶してすいませんでした。

 

「俺……頑張ります…!」

 

 そうだ。

 俺にはそれしかねぇんだ。

 頑張って道を切り拓くしかねぇんだ…! バスターソードがなんだ! 俺はアルテマウェポンになるぞオイ!

 

「ちなみに一夏の適正はどれくらいだったんですか?」

 

「ん? アイツはBだったな」

 

「……クラウドのリミット技で言うと?」

 

「メテオレインですね!」

 

 一夏しゅごい……。

 

「さぁ、気合も入っただろう? 慣らし運転の続きだ。まずは歩けるようになれ」

 

「ういっす! なんかコツとか教えてくださいよ!」

 

 俺も負けてらんねぇからな!

 いつまでもウダウダしてるのは性に合わねぇってよ!

 

「そうだな……こう…ガションガションって感じでだな」

 

「…………………」

 

「…………………」

 

「山田先生! お願いしますッ!」

 

「は、はい! お任せあれですッ!」

 

「あ、お、おい……冗談で言ったんだが……」

 

  

 

 旋焚玖の成り上がり物語が今、始まる予感。

 

 

 





【悲報】千冬姉渾身のギャグ、スベる。


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