家族は無問題、というお話。
織斑一夏に続き、2人目の男性IS起動者が日本国内に現る。一夏の報道が全世界に流されてから数日、またもや世界に衝撃のニュースが走った。
今回に関しては、一夏の時のような仰々しい記者会見は開かれなかった。その代わり貴重な2人目が誕生した奇跡の瞬間を、臨場感溢れる映像で大々的に報じられたのだった。
「昨日の午後3時過ぎ。国内でまた新たに、男性起動者が発見されたとの事です。まずは映像をご覧ください」
『3人に勝てる訳ないだろ!』(顔にモザイク)
『馬鹿野郎お前俺は勝つぞお前!』
「何かを感じ取ったのでしょうか。この少年はISに触れる事を頑なに拒絶しています」
『離せやピー!(モザイク音) お前男の腕触って喜んでんじゃねぇよお前!』
『何言ってんだお前!? すいませんお姉さん方! コイツたまにこんな感じになるんです! もうお前ッ、マジで触れって!』(顔にモザイク)
『やめろォ! ナイ……あ…』
「友人らしい男子の説得もあってか、ようやく少年もISに触れ……そして見事に起動させたのです。ですがこの少年はこの後、驚くべき行動に出ます」
次の映像に切り替わる。
それは、黒服を纏う屈強な男達の前で勇ましく吠える旋焚玖のシーンだった。
『ケガしてェ奴からかかって来いッ!!』
以下、黒服達を相手取る旋焚玖の無双シーンが流れ続ける。
「このように少年は保護を打診する日本政府を一蹴しています。一体、何が彼をここまでさせるのでしょうか」
以下、黒服達を相手取る旋焚玖の無双シーンが流れ続ける。
「2人の男性IS起動者が誕生したという事実を踏まえ、かつて世界に旋風を巻き起こしたブリュンヒルデ…織斑千冬さんから、そして記者会見を行う予定のない2人目のIS起動者本人から、声明文が届いていますので読み上げさせていただきます」
『2人目の起動者とは家族同然の付き合いをしている。私の弟はもちろん、2人目の両親に少しでも手を出してみろ。生まれてきた事を後悔させてやる』
『俺が気に入らねェ奴はいつでもかかって来い。叩き潰してやるよ』
「……い、以上になります」
といった内容がニュース番組として、日本だけに留まらず、全世界に放送されるのであった。
◇
『……い、以上になります』
うわぁ……これはひどい。
ひどいっていうか、ひどぅい……。
昨日の検査が終わってから改めて次の日。まぁ今日なんだけど、主車家が全員集合しているのだ。つっても俺と父さんと母さんの3人だけなんだけどね。あと千冬さんが、IS学園から入学の説明という名目で来ている。
色々と経緯だとか、これからの事だとかを千冬さんから説明を受けている途中で、このニュースが流れた訳だ。俺もとうとう全国……いや世界デビューを果たしちまったよ、ハハハ。
「凄いわぁ……旋焚玖、とってもカッコいいわぁ……」
お、おい、何巻き戻してんだ母さん。っていうか、録画してたのかよ…! え、なんだよ、もう1回観るの!? あ、途中で止まった…?
『ケガしてェ奴からかかって来いッ!!』
そこがお気にか!?
「やぁぁん! 息子が威風堂々すぎて母さん鼻が高いわぁ! 千冬ちゃんもそう思うでしょう!?」
「はい!」
「ぶほっ」
はい!じゃねぇよ! ちょっと笑っちまったじゃねぇか! なんだその小気味いい返事、体育会系か! 千冬さんそういうキャラだっけ!? っていうか、改めて映像で振り返られてる俺の気持ちも考えろよ!
分かるだろ!? こういうのって冷めてから観せられたらキツいんだよぉ! と、父さんからも何か言ってくれよ! そもそも俺は大変なモンに巻き込まれちまったんだぜ!?
「ヒューッ! 旋焚玖、ヒューッ!!」
ダメだこのバカ親父!
母さんと同じ思考回路してやがる!
「……しかし良かったのかい、千冬ちゃん。私と母さんを守る為とはいえ、ブリュンヒルデの君があんな声明文を公表してしまって」
いきなり真面目に戻るのヤメてくれませんかね…。いや、いいんだけど。そのままのノリでいってくださいな父さん。
「気にしないでください、お義父さん」
ん?
「私が勝手にした事です。お義母さんもお義父さんも、傷付けさせやしませんよ」
漢字がちょっと違う気がするんですけど、私の気のせいでしょうか。読み方は同じなので確認のしようが御座いません。ここは全力でスルーするのが吉ですね。
「うふふ、千冬ちゃんは優しいのね。本当にありがとう」
「そ、そんな! こちらこそ、ありがとうございます!」
ありがとうの意味が良く分かんないっす、千冬さん。アンタほんとテンション高いな、何かいい事でもあったんか。
「で、旋焚玖はどうしてあんな声明文を出したんだ?」
「指が勝手に動いた」
「お義父さん、旋焚玖の気持ちを汲んでやってください。旋焚玖もアナタ達を守る為、わざと煽って自分にヘイトを向けさせたんです。私にはバレバレだ、そうなんだろう?」
「旋焚玖……あなたって子は…」
「指が勝手に動いた」
「照れんでもいいさ。お前は父さん達の自慢の息子だよ」
うん、まぁ……もうそれでいいかな。
何も言うまい。自慢の息子な俺でいよう。
へへ……声明文なんて美味しい場面で【選択肢】が大人しくしてくれる筈なかったんだぜ。
【俺は必ず未来を勝ち取る。これは世界への宣戦布告だ…!】
【声明文:いつもの浮浪者のおっさん(60歳)と先日メールくれた汚れ好きの土方のにいちゃん(45歳)とわし(53歳)の3人で―――以下全文略】
一体ナニを全世界に垂れ流すつもりなのかと。世界中から変態糞土方呼ばわりされるくらいなら俺は世界に喧嘩売ってやるわ。あ? やんのか? かかって来いよ。
まぁでも、これで母さん達に被害が出ないならそれで良し。俺はしゃーない、切り替えていこう。どうせ俺強いから平気だもん。
そんなこんなで、千冬さんからの説明は続く。
.
...
......
「私からの説明は以上です。IS学園の入学まであまり時間はありません。旋焚玖は昨日渡した参考書をしっかり読んでおくように」
参考書……?
ああ、あのアホみたいに太い、太ぉい本ね。あの太さが読む気失くさせるんですが。自由自在の方がまた薄いってレベルだぞ。
「なんなら一夏と一緒に勉強すればいいんじゃないか?」
おお、それは名案だ。
嫌な事でも2人ならってヤツだな!
「ちなみに一夏には話したんですか?」
俺がIS起動させた事だったり。
千冬さんがIS学園で教師やってる事だったり。
「ああ。どちらもどうせすぐ知る事になるからな。昨日のうちに話しておいた。案の定、たまげていたがな」
そりゃそうだ。
俺がアイツの立場だったら死ぬほど嬉しいもん。たった1人で女子高に放り込まれるのと、2人で一緒にってのは全然違うもんな。
「それじゃあ一夏の家にお邪魔します。千冬さんは?」
「私はこれから学園に戻らねばならん」
という訳で俺と千冬さんは一緒に家から出た。千冬さんはそのままIS学園に。俺は一夏の家まで……真っ黒なリムジンで、黒服の人に送られてしまいました。やべぇ、今の俺……超VIPだぁ……ちょっとだけ気分が良くなりました!
んで、一夏の家に到着。
チャイムを鳴らすと、中からドタドタ走ってくる音が外まで聞こえてくる。うわぁ……テンション上がってそうな気配がビンビンだぁ…。
「イエーッ! 旋焚玖、イエーッ!」
喜色満面な一夏くんがお出迎え。
「お、おう。一夏……テンション高いなお前」
「フゥーッ! 当たり前だよなぁッ! フゥゥゥーッ!」
うわぁ……これはウザいテンションですよ。爽やかなイケメンスマイルがまたウザさを際立たせてやがるぜ。
「いやいや! 俺、マジで心細かったんだって! 女子高に男子1人とか何の拷問だよってな!」
「まぁな」
「だろ!? でも旋焚玖が居てくれりゃあ百人力だぜ!」
「フッ……そうかい」
女だらけの高校に男子2人だもんな。
ある意味一蓮托生みたいなモンだ。だからこそ、1人じゃ全く勉強する気になれんコイツも一緒に倒そうや。
一夏の部屋に入って、さっそくカバンの中から、千冬さんに渡されたISの参考書を取り出す。
「ほれ、一夏。1人じゃ流石にダルくてよ。一緒に勉強すっぞ」
「ん? なんだそれ?」
「あ? ISの参考書だろ。お前も貰ってるって千冬さんから聞いたぞ」
「あ………ああ、それな!」
おい、何で目が泳ぐ?
もう読み終わったとかいうオチか?
「古い電話帳と間違えて捨てちまった」
何言ってだコイツ。
「……読み終わったのか?」
「読み終わってない」
「どれくらい読んだんだ?」
「ひ、必読って文字だけ」
「死ねコラァッ!! 面白くねぇんだよコラァッ!!」
一夏の頬に手を伸ばし、少し強めに引っ張る。当たり前だよなぁ? むしろ捩じ切らねぇだけありがたいだろぉ?
「いへぇっ!? ほっぺたツネるなよ!? いへぇぇって!」
「うるせぇこのバカ! お前千冬さんにチクってやるからな! 覚悟しろお前!」
むしろ鞭打くらい喰らわせてもいいレベルなんだからな! 頬っぺたツネツネと千冬さんのお説教だけとか、それでも軽いくらいなんだからな!
「や、やめてくれ旋焚玖! 千冬姉にバレたら殺されちまうよ!」
「分かってんじゃねぇかバカ! なら土下座しろバカ! 再発行してもらえバカ! 叫んだら喉渇いたぞバカ! コーラいれてこいバカ!」
「お、おう!」
一夏をパシらせている間に、千冬さんにメールを打つ。
「えっと……一夏が参考書をエロ本と間違えて捨てたらしいですよ……っと、送信」
嘘は言ってない。
間違えて捨てたのは本当だからな。帰ってきた大魔神に今夜はたっぷり灸を据えてもらうがいい。
ピロリン♪
お、返ってきた。
『∑(#`皿´ノ)ノ』
顔文字だけで返ってきた。
それだけ千冬さんもビックリってんだろう。
ま、無いモンはしゃーない。
今日のところは一緒に読むとするか。
「おまたせ! アイスティーしかなかったんだけどいいかな?」
「……まぁいいか。ほれ、読むぞ。最低限の知識くらい入れておかねぇと、入学したらバカにされるだろうが」
「それもそうか……俺が軽率だった」
簡単に納得するなら捨てんなよ。言わんけど。
「んじゃボチボチ読んでいくぞー」
「おーう」
「交互に音読なー」
「おーう」
「飽きたらゲームすんぞー」
「おう!」
俺たちの春は、すぐそこまで来ている。
《 第一部・完 》
ああ、やっと…原作前が終わったんやなって……。