選択肢に抗えない   作:さいしん

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行ってくるぜ、というお話。



第30話 いってらっしゃい!

 

 

 

「じゃ、行ってきます」

 

 まぁ、あっという間よ。

 一夏がISを起動させ、俺も起動させ、政府の人間に検査され、千冬さんから説明を受けて、一夏と一緒にゲームして、参考書を読んで。気付いたらもう入学式だ。時間が経つのがホント早い。ここ1カ月はマジで早かった。

 

 今朝は新しい門出。

 今日からは俺も家に帰って来ず、寮に住む事は知っている。わざわざ母さんと父さんも玄関まで見送りにきてくれた。

 

「行ってらっしゃい、旋焚玖。ツラくなったらいつでも帰っておいで」

 

「元気でやるんだぞ。100人くらい彼女作って歴史に名を刻んでこい」

 

 100人?

 フッ……桁が1つ少ないんじゃないか、父さんよぉ?(夢見る少年) 

 まぁいい。今日から俺は華の高校生だ。行ってくるぜ母さん、父さんッ!

 

 勢い良く扉を開く。

 春の心地よい風が、俺の頬を優しく撫でてくる。

 

 そして……響き渡る野太い声。

 声。声。声。漢。漢。漢。見渡す限り漢ばっかり。厳つい顔した野郎ばっかり。

 あのね、僕ね、ここ1カ月でたくさんのお友達が増えたの。そんでね、みんなね、今日は早朝にもかかわらず、僕の門出を見送りに、わざわざおウチまで来てくれていました。わーいやったー。

 

 

「「「 ご苦労様ですッ!! 」」」

 

 

 ドアの前にはズラリと屈強なお兄様たち。腕を後ろ手に組み、足は肩幅程度に開き、俺の目は見ないようにドスの利いた声で元気よく挨拶だ…………出所かな?

 

「……ああ」

 

 自宅から出てきただけなんですけど。別に服役喰らってた訳じゃないんですけど……ああ、今日から通うIS学園が監獄だって事かね? うまく風刺がきいてるなぁ。

 

「旋焚玖の兄貴! いよいよッスね!」

 

「ああ」

 

 早朝から族のマトイ羽織ってらっしゃる……うん、とても気合いが入ってますね。うん、いいと思いますよ。喧嘩上等の刺繍、カッコいいと思いますよ、うん……うん…………どうしてこうなった…。

 

 

 

 

 

 

 あのニュースが流れてから、俺はソッコー身バレした。元々ISに関係なく、地元じゃ変態的修行僧的な意味で、俺の存在は知れ渡っていたのだ。それが余計に拍車をかける事になってなぁ……くすん…。

 

 あのニュースの次の日だ。

 黒服の監視付ではあったものの、道場に行く途中で絡まれてしまいました。ヤンキーよろしくな格好をした兄ちゃんたち数人に囲まれてしまったのです。

 

「テメェIS起動させたくらいで調子コイてんじゃねぇぞ」

 

 えぇ……怖ぁぁ~……。

 

「気に入らねェ奴はいつでもかかって来い、ツったよなァ? オラ、来てやったぜ、ツラ貸せや」

 

 ホントに来いとは言っていない。

 マジで来るとは思っていない。でも来ちゃった……どうしよう。あ、黒服の人たちがこっちに近づいてきて……―――。

 

 

【売られた喧嘩は買う。ボコボコにしてやる】

【平謝りして、有り金を全部渡して許してもらう】

 

 

 ハハッ!

 あははははッ!

 あーっはっはっは! 

 あはははは……はぁぁぁん!

 

「誰に口キイてんだコラァッ!!」

 

「ぐべらッ!?」

 

 熱い拳を喰らったヤンキー1が吹き飛ぶ。

 誰の拳? 俺のだよぉ……ふぇぇぇ…。

 

「コイツらは俺の客だ。手出し無用でお願いします」

 

 俺の言葉に黒服さん達が強く頷く。

 頷かないでぇ、納得しないでよぅ。

 

 ヤンキー君たちをペチッと追い払う。ペチペチしてたら全員気を失ってしまったので、普通にその日は道場へ行って鍛錬して帰りました。こんなバイオレンスイベントは今日だけだ。明日からはまた穏やかな日常が待っているさ。

 

 そう考えていた時期が

 

「おう、テメェ喧嘩上等なんだって?」

 

 俺にもありました。

 昨日の今日でまた、今度は別のお兄ちゃんたちに絡まれちゃいました。

 

「けひひ、見ろよこのガキ。ビビッて青ざめげぶぁッ!?」

 

 この時、僕の中で何かがプッツンしちゃいました。プッツンしないと精神が崩壊しそうな気配がしたのです。僕がここでプッツンを受け入れたのは英断だと思っています。

 

「……喧嘩しに来たんだろうが。ボケッとしてんじゃねぇぞ」

 

 んで、誰が青ざめただァ…?

 もういい、いちいち悩んで悔やんで、後のこと考えんのもアホらしくなってきた。現実はやっぱ甘くねぇんだ、もう覚悟キメてやる。これも俺が決めた道だ。変態糞土方より俺はコッチの道を選んだんだ。

 

 ぐっばい、平穏。

 ようこそ、バイオレンス…!

 

「テメェら全員俺の経験値にしてやる」

 

「上等だコラァッ!!」

 

「やっちまえッ!!」

 

 うるせぇ!

 怖い顔しても怖くねぇぞ!

 

 

 

 

 

 

 とまぁ、それから毎日ですよ。ホント毎日ね。いやいや、どれだけ湧いてくんだってよ。お前ら一体、今まで日本のどこに生息してたんだよってね。少なくとも地元じゃバリバリのツッパリ君なんて、全然見てなかったわい。

 

 女が強くなって男が弱くなった時代? そんな事は全くなかった。むしろ、女尊男卑な風潮のせいで燻っている、ヤンチャな人種がわんさか潜んでいたのだ。

 

 このまま女尊男卑に飲まれるのか……そう落ち込んでいた彼らの前に、無双な映像と挑発的な声明文の登場だ。女優遇社会への憤りを、やりきれない想いをブツけられる相手が俺って訳だったらしい。

 

 俺も俺で来る奴拒まず、片っ端からボッコボッコしてたら……いつの間にか慕われてしまいました……なんでぇ? 

 

「フッ……」

 

「どうしたんですかい、兄貴…?」

 

「気にするな」

 

 そう考えたら、この1か月間の俺ってリア充だったなぁ。鍛錬して喧嘩して勉強して鍛錬して喧嘩してゲームして鍛錬して喧嘩して勉強して。とっても充実した毎日を過ごせたよぉ……うへへぇぁ。

 

 強面な方々から「兄貴ー! 兄貴ー!」とモテモテな毎日だった……ちっとも嬉しくねぇよぉ。

 

「さ、流石は旋焚玖の兄貴だ……これから男にとっちゃ最悪の地獄に行くってのに、堂々としてるぜ…!」

 

 地獄とか言うなよ怖いだろぉ!

 ただの女子校だ! それ以下でもそれ以上でもないの! それに一夏も居るし篠ノ之も居るから、俺がボッチになる心配はないの!

 

 すたすた駅まで歩いていく。

 その後ろをゾロゾロとオールスターヤンキーズが付いて来る。大名行列かな?

 

「……見送りは此処まででいい」

 

「「「 押忍ッ!! 」」」

 

「兄貴! 俺ら、兄貴の武運を祈ってますぜ! あと健康と幸運も祈ってますぜ!」

 

 そこまで祈ってくれるのか。

 へへっ、俺もこの人達の心意気には応えねぇとな。

 

「女もISも関係ねェ。一番強ェのは……俺だ」(ドヤぁ)

 

「「「「 ヒューーーッ!! 」」」」(ものごっつ低音)

 

 野太い声を背に、俺は電車に乗り込む。

 短くも濃密なバイオレンスよ、さようなら。アンタ達のおかげでまた1つ、俺は成長できた。あえてもう一度言おう、さようなら。今一度、念を押しておこう。マジでさようなら暴力な日々よ。

 

 そしてウェルカム……うぇぇぇぇるかむ、ラブコメ…!

 

 電車に乗った、今この瞬間から!

 ホントのホントに俺は華の高校生になったのだ! IS学園での俺は、一夏とキャッキャして篠ノ之とウフフして、可愛い女の子たちにキャーキャー言われて! クソ理不尽だった15年間をバラ色に変えてやるんだ! 

 

 

.

...

......

 

 

「きゃぁぁぁぁッ!!」

 

「ひゃぁぁぁぁッ!!」

 

 IS学園に着いた俺。

 今日から俺は、ここで3年間お世話になるって訳だ。同じIS学園の生徒から、早くも悲鳴が巻き起こる。黄色い悲鳴が巻き起こっている(自己暗示)

 

「ひいッ!? こっちに来るー!?」

 

 俺が進めば進むほど道が出来る。人混みが苦手な俺にはありがたい。だって、とってもスムーズに登校できるんだもん。俺が視線を向けるだけで道が開くんだもん。

 

 えへへ…………おウチ帰りたいなぁ。

 

 

【早急にメンタルケアが必要だ。職員室に行って千冬さんに泣きつこう】

【耐えるのだ。耐えたる先にこそ光が見えるのだ】

 

 

………職員室、行こうかなぁ…。

 

 む、ダメだぞ俺。

 弱気になるな。逃げないって決めたじゃないか。むしろこんなのは予想の範疇だ。それに教室に行ったら一夏も居る筈だ。千冬さんが言ってたもんな、俺と一夏は同じクラスだって。もしかしたら篠ノ之も居るかもしれないし。

 

 旋焚玖、男の意地で【下】を選ぶ。

 

「………………」

 

 それはそうと、一旦立ち止まってポケットをまさぐる。

 

(な、何か出そうとしてるわ……!)

(ナイフよ! ナイフで私達を切り刻むつもりよ!)

 

 んな訳ねぇだろ、切り裂きジャックかよ。余裕で聞こえてくるヒソヒソ話に心の中でツっこみつつ、取り出した携帯でポチポチっとな。

 

『今日入学式なんだけどさ、やっていける自信ないかも』

 

 そんなメールを送らせてもらう。

 んじゃ、ソッコー返ってきた。

 

『( >ω<)ヾ('∀`♡)ヨチヨチ。大丈夫だよ、旋ちゃん! がんばれ♥ がんばれ♥』

 

 うん。

 すげぇ回復した。

 ラストエリクサーすぎる。

 日頃はったりを強いられる俺が唯一、気兼ねなく弱音を吐ける相手。遠い異国の地であろうとも、乱ママの偉大っぷりは健在なのだ。

 

 よし、行こ……んぁ? 

 何かまたメール着た。乱ママからの追伸かな?

 

『乱にばっかメールしてんじゃないわよバカ! ツラい時はあたしにも送ってきなさいよアホ! いまさら遠慮してんじゃないわよバカアホ!』

 

 ふおぉぉ……ふおぉぉぉぉぉッ!!

 

 サンキュー鈴…!

 お前の熱い優しさは、いつも俺を奮い立たせてくれるぜ! そうだ! 女の反応が何だ! 視線が何だ! ヒソヒソが何だ! そんなもん怖くないやい! 

 

 

 その後、旋焚玖は堂々と自分の教室まで突き進むのであった。

 

 





ほんとのほんとに原作突入だ!

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