選択肢に抗えない   作:さいしん

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原作の主人公は誰だ言ってみろよ、というお話。



第31話 旋焚玖、試されるってよ

 

 

 

「1年1組……ここか…」

 

 長く険しい道のりだった。

 乱ママと鈴のエールを受けてなお、厳しい道中だったと言わざるを得ない過酷さだった。

 

 クラスの案内掲示板に辿り着いた時。掲示板の前にはめちゃくちゃ女子生徒で溢れ返っていた。これは中々見えんなぁ…とか思っていたのに、俺の存在に気付くと一斉に散っていく女子生徒たち。

 おかげで、難なく俺の名前がくっきりはっきり見れたんだぜ。見えすぎて逆に涙が滲んできたくらいさ。だが、それが頬を伝う事は無かった。何故なら俺の名前が載ってあるクラス(1組)に篠ノ之の名前もあったんだ! 

 

 やったよぅ! 一夏だけじゃなく篠ノ之も居るんだよぅ! 俺がボッチにならない確率が2倍にアップしたんだよぅ! ひゃっほい! 乱ママと鈴の優しさに救われ、一夏と篠ノ之の安心感に救われ、俺は辿り着けたんだ…!

 

「…………ふぅぅ~…」

 

 1組の扉は軽く隙間が開いている。そのせいかキャッキャキャッキャと、女子の楽しそうな声が外まで漏れている。よ、よし…! 入るぞ…! 勢い良く入るのはダメだ、かと言ってこっそり入るのもダメだと思う。

 

 自然だ。

 自然体で行こう。

 まるで自分の部屋に入るが如く、だ。何より、教室に入ってしまえば一夏が居る! 篠ノ之も居る! 俺の青春はここからだ!

 

 気合を入れた旋焚玖。入れ込みすぎたか3秒前の事を忘れ、けっこう豪快な音を立てて扉を開いてしまう失態。

 

「「「!!?」」」

 

「………………」

 

 や、やらかした……和やかにおしゃべりを楽しんでいたっぽいのに、一瞬で音が消えた。先程まで在ったであろう賑やかな雰囲気が無と化し……ふぇぇ…みんなが俺を見てくるよぅ……知らない子たちが見てくるよぅ……くっ、負けるな…! 

 

 そ、そうだ一夏! 

 一夏はどこだ!?

 篠ノ之は!? 篠ノ之は何処に!?

 

「………………」

 

「「「………………」」」

 

 一夏がいにゃい……なんでぇ…?

 なんで一夏居ないの? なんでぇ?

 

 篠ノ之、どこぉ?

 やべぇ、女が全部同じ顔に見えてわがんね。

 

 自然と顔が下を向き……そうになったところでグッと堪らえる! 顔を上げろ、俺! 1人でも負けるな、まずは自分の席を………ん?

 

 なんか……全員、下向いてね…? さっきまでガン見されてたのに。あ、いや、違う。ほとんどが下向いてるけど、2人だけは俺をジッと見てる。

 

 1人はクルクル金髪の……金髪!? 外国人も居るのか!? ああ、いや、それもそうか。此処は世界一な人気を誇る学園だったな。

 流石はグローバルなコミュニケーション学園だけあるぜ。しかし美人だなぁ……めちゃくちゃこっち見てるけど…っていうか、軽くガンくれてきてね? 別にいいけど。美人だし、超美人だし。

 んで、もう1人俺を見ているショートヘアの……むぁ? あれ、篠ノ之……か…? 髪が短くなってないか…? いや、もしかしたら他人の空似……む…携帯が震える。また誰かからメールが送られてきたらしい……あ、一夏からだ!

 

 

『(´つω・)ポンポン痛い。ギリギリに着きそう』

 

 

 死ねウンコたれ。

 

 なにがポンポンだバカ! 甘えんなバカ! 正露丸飲んでオムツ履いて来いバカ! 俺の苦しみを分かるのはおま……ん…? また何か視線を感じる……この感じ、2人どころじゃねぇ、もっと大勢に見られている気がする。

 

「「「「(じぃぃぃ~~~)」」」」

 

 携帯を閉じて再び顔を上げてみる。

 

「「「「(サッ…!)」」」」

 

 えぇ……?

 全員…じゃなくて金髪と篠ノ之(仮)以外、さっきと同じように顔を伏せている。いやいや、お前ら絶対今、俺のこと見てただろ。なんだよ、何で俺が顔を上げると顔を伏せるんだよ。

 

 気のせい……なのか…? 

 俺が気を張りすぎているだけなのかもしれねぇ。もっと言えば、単に俺の自意識過剰って事も考えられるし……ううむ。と、とりあえず自分の席を探すか。どうやら黒板に貼ってある紙に記されてあるっぽいし。

 

 それを見ようと思ったら、必然的にクラスの連中から背を向ける事になる訳で。背を向けた瞬間、またもや一気に視線を感じる訳で。

 

「「「「(じぃぃぃ~~~)」」」

 

「……………………」

 

 いやだから…!

 絶対見られてるって…!

 なんか凄いプレッシャー感じるもん、明らかに視線が俺の背に集中してるって。っていうかサイレント・フィールドをまずやめろや! 

 お前らさっきまでアホほど騒いでただろぉ! 30人くらい居て何で誰も再開しないの!? 授業中でもこんな静寂ねぇわ! こんなシーンとしてる中で、席番探さねぇといけない俺の気持ちも考えろよ!

 

「「「「(じぃぃぃ~~~)」」」

 

「……~~~~ッ!!(バッ!)」

 

「「「「(サッ…!)」」」」

 

 ぐぬぬ……振り向いた瞬間、またコイツら顔を下げやがった…! 絶対だ、今度は気のせいじゃない! コイツら一体なんなんだ…! 一体何がしたいんだ、俺に何をどうしてほしいんだ…!

 

 

【クラスの視線なんか知った事ではない。大人しく自分の席に着こう】

【俺は今、試されている。ここで引いたら漢が廃る…!】

 

 

 え、試されてんの俺!?

 何を試されてるんですか、全然分かりません。アレですか、反射神経でも見極めようとしてるんですか? 

 それとも反骨心ですか? 主車旋焚玖という存在は、巨大な波(女の子たちからの視線)を前にしてどう立ち回るのか……それを試しているって事なのか…!? おぉ、何か自分で言っててそれっぽい感じがするな。中らずと雖も遠からずってところだろう。

 

……いいぜ、乗ってやる。俺はもう昔の俺じゃない。流されたまま生きていた前世の俺は既にいない。ただただ平穏だけを望んでいた幼年期の俺も既にいない。今の俺がそう簡単に障害から逃げると思うなよ…!

 

 もう一度、黒板の方を向く。

 その瞬間、やはり背に感じるのは無数の視線。まるで視線の弾丸だ。だが俺はのまれねぇぞ、今度は振り向くスピードを少し上げてやる…!

 

「(バッ!!)」

 

「「「「(サッ…!)」」」」(篠ノ之っぽい子と金髪は除く)

 

……中々やるじゃない(アイン)

 だが今のは、ほんの肩慣らしってところだ。

 

 今度の俺はもっと疾いぜ…!

 

 再び顔を伏せたクラスメイト達から背を向けていく。だが先程とは違い、ゆったりとした捻転だ。それは次への予備動作。己の正面が黒板へ向くまでの、謂わば加速準備である。

 

 自分の眼が黒板を正面で捉える。すなわち完全に少女たちから背を向けたのだ。刹那、軸足の親指にあらん限り力を込めて…!

 

「……ッ!」

 

 重心は既に乗せ終わっている。後は止まらず廻転させるだけだッ! 猛れ、己が肉体を暴風と化せ―――ッ!!

 

 

 旋焚玖は、とても疾く振り向いた!

 

 

「(シュババッ!!)」

 

「「「(ッ、ササッ…!)」」」

 

「はうっ…!?」

 

 一斉に少女たちが顔を伏せる中、1人だけタイミングが遅れた者が居た。それを見逃すほど、今の俺が優しいと思うなよ…ッ!

 

「お前ェェェェッ!!」

 

 ビシッと指差しこんにちは!

 

「ひうぅッ!?」

 

「お前だお前! 今更、顔下げても無駄無駄ァッ!!」

 

 お前呼びじゃダメだ、弱い。自分じゃないと逃げられる可能性がある。だが甘かったな、俺の背後にゃ座席表があるんだぜ? そこに座ってるお前の名前なんざ、これで確認出来るんだよぉッ! 苗字で呼んでやる、もう言い逃れできねぇからな!

 

 えっと、あそこの席だから…………むぁ?

 

 

『布仏本音』

 

 

 やべぇ……!

 よ、読めねぇ…!

 

 ぬ、ぬの…?

 ぬの、ほとけ…? そんなバカな。

 

 ふ、ふぶつ…?

 ふほとけ…? いや、絶対違うって。そんな言いにくい苗字があってたまるか。名前は読める。きっと『ほんね』だろ。

 クソが! 名前が読めても意味ねぇんだよ! 唐突な名前呼びが許されるのはイケメンまでだよねー!

 

 くそっ、名指し作戦は失敗だ!

 こうなったら…!

 

 ソイツが座る席の前まで歩み寄る。

 

「む…!」

 

 そこで驚愕の事実に俺は目を丸くせざるを得なかった。コイツ……制服を改造してやがる…! 不自然なまでに袖を伸ばして……学ランでいう長ランのつもりか、いやボンタンを意識してるのかもしれねぇ……。

 お嬢様学校だと思っていたがとんでもねぇ。こんな学校でも不良は居るんだな。まぁいい、不良の方が俺もやりやすい。

 

「おい」

 

「な、なぁにぃ?」

 

「お前さっき俺のことチラチラ見てただろ?」

 

「見てないもん」

 

「ウソつけ絶対見てたゾ」

 

「なんで見る必要なんかあるんですか?」(プチ強気)

 

「あ、そっかぁ……」

 

 そうだよ。

 そもそも何でコイツら俺の事見てたの? もっと言うと、何で俺が近付いただけで、みんな悲鳴あげて逃げたの? 俺、不審者じゃないよ? れっきとしたここの学生ですよ? 

 男っていうだけでこんな扱いはおかしいんじゃないですか? 物珍しさに見られるのは百歩譲るとして、逃げられる謂れはないぞ。男だからって怖がられる理由にはならんだろ。

 

 

【理由を篠ノ之に聞いてみる】

【理由を金髪に聞いてみる】

 

 

 篠ノ之……あ、やっぱあのショートヘアの子は篠ノ之だ。冷静にちゃんと見たら篠ノ之だった。髪型だけで随分印象ってのは変わるモンだなぁ。俺が知ってる篠ノ之は、ずっと長いポニーテールだったし、パッと見じゃ分かんねぇよ。

 

「篠ノ之、俺ってなんでこんな怖がられてんの?」

 

「ふぇっ!? わ、私か!?」(い、いきなりにも程があるぞ! まだ再会の挨拶すらしていないし、私にだって心の準備とか色々あるんだ…! しかもこの状況で私に振るか普通!? そんなの予測出来る訳ないだろう…!)

 

 あ、久しぶり。

 夏以来だけど元気してたか? あ、声に出してねぇや、ハハハ。まぁいいや、それはひとまず置いておいて、知ってるなら教えてくれねぇかな。コイツらってアレか? 一夏でも同じ反応すんのかな?

 

「……~~~ッ、わ、分かった。言う、言うから」(そんなに見つめるな…! 夏に会った時、私はコイツの名前を初めて呼んで……それ以来なんだぞ……く、か、顔が赤くなりそうだ…! ええい、心頭滅却! 自然に接するのだ、篠ノ之箒!)

 

「せ……主車(あぁ~…つい苗字で呼んでしまう弱い私…)、お前も自分が報道された時の映像は観ているだろう?」

 

「む…?」

 

 ニュース?

 もしかしてアレか、ISを起動させた時のニュースか? 1ヶ月前の事なのに、あんま覚えてねぇや。この1ヶ月間がアホほど濃すぎたせいかな。

 

「お前はな、その映像でたくさんの男たちを相手にだな、その……まぁ、なんだ、暴れていたよな?」

 

「……むぅ」

 

 そんなに暴れていないと思う。

 

「それに続いてお前が公表した声明文だ」

 

「声明文……ああ、アレか」

 

 俺、何て言ったんだっけ…?

 やったぜ。投稿者、変態糞土方…だっけ?

 

「覚えていないのか? 『俺が気に入らねェ奴はいつでもかかって来い。叩き潰してやるよ』と、お前は公式で言ってみせたんだぞ」

 

「……ああ、そんな感じのヤツだったか。しかし、よく覚えてるな篠ノ之」

 

「た、たまたまだ! 勘違いするなよ!? 何となく覚えていただけだからな!」(あぁぁ……素直に言えない私…)

 

 何も言ってねぇ。

 だが、篠ノ之の言葉でだいたい理解出来た。俺……怖がられて当然じゃね? 聞いてたらただの暴れん坊将軍じゃねぇか。ホントよく入学を許してくれたな此処も。PTA的な人達から反発とかなかったのか? 『由緒正しきIS学園に、あんな野蛮人の入学なんて許してはいけないザマス!』みたいなさ。

 

「それに加えて、だ」

 

「……む?」

 

 ま、まだあるの?

 

「お前、この1ヶ月何をしていた?」

 

「何をって言われてもだな」

 

 色々だぞ?

 そんな一言で説明出来ねぇだろ。

 

「外に出た時、お前は何をしていた?」

 

 家の外で…?

 それだったら、だいたい……。

 

「……喧嘩かな」

 

「「「(ビクッ!!)」」」

 

 売られたのを買っていただけです。

 僕から喧嘩をふっかけた事は一度もありません!

 

「はぁ……お前が喧嘩に明け暮れているって噂も既に流れているんだ。初日にもかかわらず、私も耳にしたくらいだ。黒服達に対し暴れ、世界に向けて挑発し、喧嘩三昧の日々を送っている。そんな男が女子高に来たらどう思う?」

 

「……すごく…怖いです」

 

「……うむ、そうだな。怖がるだろうし、何かされるのではないかって、やはり気になってジロジロ見てしまうだろうな」(ちゃんとお前を知っている私はそんな事ないけどな! 恥ずかしいから言えないけどな!)

 

 そうか。

 改めて客観的に説明されると、俺ってやべぇんだな。割とDQNじゃねぇか。ハハッ……乾いた笑いしか出ねぇよぅ。

 

「……俺、怖いか?」

 

 気付いたらみんな、伏せていた顔が上がっていた。俺を何とも言えない目で見ている。でも、そんな彼女達に問うた訳ではなかった。自然と……本当に無意識のウチに勝手に呟いてしまっただけなんだ。答えなど、期待していなかった。

 

 

「ダチを怖がるバカがいるかよッ!」

 

 

「「「!!?」」」

 

 俺を含め、全員が声のした方を振り向く。教室の扉は俺が開けたままだった。そして、そこに立っていたのは……――。

 

「待たせたな!」

 

 

 腹痛を乗り越えた一夏だった!

 

 





まるで意味が分からない(困惑)

あ、次話から原作冒頭に移ります。

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