選択肢に抗えない   作:さいしん

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クラス代表の行方、というお話。




第35話 矛先

 

 

「……―――ご清聴ありがとうございました」

 

 やりきったぜぇ……えぇ、オイ? 2分近くもドゥドゥドゥペーイったぜぇ……アホらしすぎて途中から泣きそうになったが、そこは漢の意地よな。唖然としていたクラスの連中が、途中から生暖かい目に変わった時は違う意味で挫けそうになったが、そこも漢の意地よな。

 

 俺の俺によるオルコットのためのドゥドゥドゥペーイ…! ここに完遂を宣言するッ! だからもうお前は爆弾発言しなくていいから(切実)

 

「す、すげぇぜ旋焚玖! お前、そんな特技まで隠し持ってたのかよ!?」

 

 一夏の純粋な反応が、羞恥に耐えきった俺の心を癒してくれる。ドン引きされるより褒められた方がまだ救われるわ。

 おい、マジで空気読めよオルコット。何の為に俺が2分もドゥドゥったのかをよ? 恥を忍んでちゃんと(´3`)ぬっとぅる~♪もしてみせたのかをよぉ…!

 

 

 パチパチパチパチ…。

 

 

 一夏の言葉に続いて、拍手の音が教室に響く。手を叩いてみせたのは、まさかの千冬さんだった。

 

「……ふむ、いいパフォーマンスだったな」(本来ならゲンコツの1つでも落とすところだが、旋焚玖のアレには意味があった。咄嗟に奇抜な行動を取る事で、代表候補生としてあるまじき発言を唱えようとしたオルコットを守ってみせたか……今回は目を瞑ってやるとしよう)

 

 パチパチパチパチ!

 

「見事なドゥドゥドゥペーイでしたよ、主車くん!」

 

 お、おう……そういや山田先生はFF7好きだっけな。「青春を思い出しました~」とか言ってるし。千冬さん以上に力強い拍手を送ってくれてるし。

 

「ち、千冬様や山田先生が拍手してるよ…?」

 

「もしかして主車くんって怖い人じゃないのかな?」

 

「違う意味で怖いけどね」

 

 それは言わんでくれ。

 だが1人、また1人と拍手の数が増えていく。いや、何の拍手なの!? ちょ、もういいだろ!? その謎の拍手はいいって! 恥ずかしさが込み上げてくるだろぉ!

 

 

しかし、一番この空気に困っていたのは旋焚玖ではなくセシリアだった。クラスの皆が旋焚玖に拍手を送る中、その後ろで彼女は立ったままなのだ。途中で意味不明なノリで自分の発言を遮られ、さらには座る機会まで見失ってしまった。

 

旋焚玖がドゥドゥドゥペーイっている時も、セシリアだけが立ったまま拝聴する形になってしまった。傍から見れば、熱烈なファンである。とても意味不明である。自分はクラス代表の推薦に異議を申していただけなのに、どうしてこんな状況になっているのかと。自分はいつイスに座れば不自然じゃなくなるのかと。

 

(……って、誰が座るもんですか! わたくしはまだ、何も言えていませんわ! それも全部この男のせい…! この男が余計な茶々を入れてくるせいで…!)

 

 む……オルコットから熱い視線を感じる。

 そうか、分かってくれたのか。それなら俺のアホ行動も、無駄にならなくて済んだってなもんだ。

 

 まったく……犠牲なくして勝利なし、とはよく言ったもんだぜ。決して代償は小さくなかったが、それでもオルコットがボッチにならずに済んだのなら安いもんさ。

 そう思え、俺。そう強く思うんだ。今までずっとそうやって俺はメンタルを守ってきたんだからな。へへ、IS学園でもそれは変わらないんだぜ……くぅぅ…。

 

 役目を終えた俺はクールに座るぜ。

 

「お待ちなさいな! なに満足気な顔して座ろうとしてますの!?」

 

 うぇいッ!?

 座ろうと思ったら、オルコットからちょっと待ったコールが掛かったでござる。

 

「あなたって人は、先程から本当に何ですの!? わたくしを脅かすような返事をして! 挙句の果てにはわたくしの邪魔まで! 言いたい事があるなら堂々と言えばよろしいでしょう!? それすら出来ない癖に横やりを入れてくるだなんて、恥を知りなさいな!」

 

 ふぇぇ……全然これっぽっちも分かってもらえてなかったよぅ。世知辛いなぁ。しかも矛先が俺だけに向いちゃったよぅ。世知辛いなぁ。

 

「大体、偉そうに喧嘩が趣味だと言い切るその神経もおかしいですわ! あなたに分かりますか!? IS技術の修練のために来ていますのに、あなたみたいな勘違いした男と同じクラスに編入させられたわたくしの気持ちが!」

 

 勘違いしてないもん。

 勘違いさせてる側だもん。

 

「どうせ邪な気持ちで此処に居るのでしょう!? あなたみたいな野蛮人が崇高な思いでISを学びに来るとは思えませんわ!」

 

 耳がいたーい!

 

 邪な気持ち120%で入学した俺の耳が壊れちゃうぅッ! フツメンの俺でもこれでモテモテに!とか思っちゃってすいませぬぅぅぅ!!

 

 そこまで言っても俺が反論しない事で味を占めたか、オルコットは猛る気持ちを抑えようとせず、っていうかますますエンジンが暖まってきたのだろうか、怒涛の剣幕で言葉を荒げる。

 

 オルコットのオルコットによる俺のための言葉が、ダイヤモンドダストの如く俺の心をグサグサしてくる。うぅ……ごめんよぅ、ISが反応しただけのただのキチガイが入学しちゃってごめんよぅ…。

 

「いいですか!? あなたのような―――」

 

「誰にも推薦されてない奴がなに必死になってんだよ。旋焚玖に当たってカッコ悪ィ」

 

 い、一夏…!

 オルコットの口撃に立ち上がったのは、俺ではなく我が友一夏だった!

 

「あっ、あっ、あなたねぇ! わたくしを侮辱しますの!?」

 

 痛い処を突かれた自覚があるのか、まるで怒髪天をつくと言わんばかりに、オルコットが顔を真っ赤にして怒りを示している。

 

「そっちが先に旋焚玖を侮辱したんだろ!」

 

 しかし一夏も引かずに応戦だ!

 

 や、やめて!

 俺のために争わないで! 

 

「~~~ッ、決闘ですわ!」

 

「おう、いいぜ。四の五の言うより分かりやすい。俺が勝ったら旋焚玖に謝ってもらうからな」

 

 一夏がいい奴すぎて涙がで、出ますよ…。

 

「ふん。そんな事ありえませんがいいでしょう。あなたもいいですわね?」

 

「……?」

 

 え、何でそこで俺に振るの?

 

「わたくしはクラス代表に立候補しますわ。ついでにあなたを推薦してあげます。3人のうち、勝ったものがクラス代表ですわ!」

 

 ふっっっっっざけんなぁぁぁッ!!

 

 何トチ狂ってた事ホザいてやがんだこのクソコロネが! 俺がお前らに勝てる訳ねぇだろ! 分かる!? ボロ雑巾な未来しか見えねぇだろうが! お前代表候補生なんだろ!? そんな奴が素人イジめて何が楽しいんだよぉ! みんなの前で無様な姿を披露しろってのかよぅ!

 

「あー、言い忘れていたが。主車は政府の命令により、既にクラス代表者から除外されている」

 

「なっ…! 政府の命令で…!? ど、どうしてですか!?」

 

「主車の技量は1年の貴様らとでは差がありすぎるからな。政府の上層部が危険と判断した」

 

 おぉ……おぉぉ…!

 政府の優しさに感謝を…! 超感謝を…!

 っていうか、多分そう采配してくれたのって、あの人だよな。俺を取り調べしたしたあのおっちゃんだ。あの日も何かえらく心配してくれたし。

 

「……という訳だ、すまんなオルコット」

 

「そんな……」(差がありすぎる…ですって…!? そんなバカな…! 代表候補生のわたくしでも勝てないと…!? 嘘ですわ、そんな事ありえませんわ! ですが…もしも本当だとすれば…?)

 

 え、何でそんな顔してんの……あ、コイツ、もしかして千冬さんの言葉を逆の意味で捉えてるんじゃ…! あ、あかん! それはそれでめんどくせぇって! バレた時に色々めんどくさい事になりそうだって!

 

「織斑先生」

 

「む……なんだ、主車」

 

「観衆なし、結果も問わない。非公式として扱ってくれるのなら、オルコットと闘ってもいいですよ」

 

 とりあえず、今はまだみんなにバレなきゃいいかなぁって。それに俺をフルボッコにすりゃあ、オルコットの溜飲も下がってくれるだろう。

 

「なんですって!?」(わ、わたくしを気遣っているとでも言うつもりですか!? わたくしが負けるところを皆さんに見せはしないと!? なんたる傲慢…! なんたる不遜…!)

 

 ひぇっ……すっごい睨んでくるよぅ。

 勘違いが加速してるよぅ。

 

「言っておきますけど、わざと負けたりしたらわたくしの小間使い……いえ、奴隷にしますからね!」

 

 

【え、性奴隷?】

【奴隷になったら、どんな事をしてくれるのか聞いてみる】

 

 

 なに言ってんのお前!?

 バカじゃないのお前!?

 なんでそんな事を聞く必要があるんですか!

 

 

「………ちなみに、奴隷になったらお前は俺に何をさせる気だ」

 

「え!? そ、そうですわね……え、えっと……そうですわね…」

 

 困らせてんじゃねぇかバカ!

 オルコットも勢いで言っちゃっただけだろぉ! お前知ってて出したろ! 何でわざわざ掘り下げたんだよぉ!

 

「と、とにかく! わたくしに負けた時に「実は手を抜いていた」などと、言い訳は通じませんからね! 織斑さんも、そのおつもりで!」

 

「分かった」

 

「……ああ」

 

 観衆なしの俺と違って、ギャラリーの前で決闘するのが決まった一夏も、決意を漲らせた表情で頷く。俺は問題外として、一夏は実際どうなんだろうか。教官を倒したって言ってたくらいだし、自信ありってところか?

 

 ただ、俺も一夏もISの試合とかはネットで観たからな。正直、あの映像を観ちまったら、女尊男卑な風潮が蔓延していても仕方ないと思う。

 それだけ圧倒的なんだ。ISを使える女は強い、ISを使えない男は弱い。あんなモン観ちまったら、その論調が間違いだとは強く言えないだろう。

 

 ISを使っていたら…の話だがな。今回の決闘もあくまでISを使った模擬せ……模擬戦、とは言っていない…? 純粋な決闘なら……あー、やめやめ、変な事を考えるのはヤメよう。

 

「さて、話はまとまったな。それでは織斑とオルコットは1週間後、第三アリーナで。主車とオルコットは10日後、私と山田君が立ち会う。詳細はまた後日伝えよう。それぞれしっかり用意しておくように。それでは授業を始める」

 

(1週間あれば基礎くらいは学べる筈だ、入試の時も1発で動いたし、何とかなる…!)

 

(10日か……手ェ抜くなって言われちまったし、やれる事はやっておこうか…!)

 

(お2人とも覚悟してなさい…! 特に主車旋焚玖…! あなただけは必ずフルボッコにして差し上げますわ…!)

 

 

 三者三様、想いを胸に授業に臨むのだった。

 

 





観衆なし(意味深)

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