選択肢に抗えない   作:さいしん

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敵を知るには何とやら、というお話。



第45話 傾向と対策

 

 

 

「これで見えるか?」

 

「ああ」

 

「大丈夫だ」

 

 一夏と篠ノ之にも見えるよう、テーブルの上にノートパソコンを置く。このパソコンはシュプールに元から備え付けられているモンだが……これはいただけない。いずれ俺のパソコンを持って来なきゃならんな(オカズ的な意味で)

 

 オルコットの試合の映像……探すとすれば世界的に有名なサイトが有効だな。世界で一番利用されてる動画サイトって言えば『あなたちゅ~ぶ』だろう。一夏の家でISの試合を観たのもこのサイトを利用してだった。

 

「えーっと……セシリア、オルコット…と。これでヒットするか?」

 

 オルコットの名前をタタタターンと打ち込む。テンポ良いタイピング音って何か好き……お、一番上にイギリス公式チャンネルが出てきた。さっそくページを開いてみると『イギリス代表候補生 模擬戦』なタイトルの動画を発見した。

 

「お、これじゃないか旋焚玖!?」

 

「ふむ……案外、容易に見つかるモノなんだな」

 

 俺も一夏も篠ノ之もISに疎いから、こういう考えに至らなかったってだけで、別に驚く事でもないのかもしれない。

 よくよく考えればISツったら、世界で最も熱く有名なスポーツだもんな。同じスポーツ枠にあるサッカーやら野球やらの映像がバンバン上がってて、ISの映像が無い訳がないってな。

 

 

【本当にこの動画を開いていいのか? ここはじっくり考えた方が得策だ】

【観る前にコーラとポップコーンを用意しよう!】

 

 

 いや開けよ。

 ワンクリックで済むじゃねぇか。ここで吟味する意味が1ミリ足りとも分かんねぇよ。

 

 アレだな。

 これは思いつき系選択肢ってヤツだな。特にあってもなくても展開に困らんヤツだ。いやまぁ、ぶっちゃけこういう選択肢は結構好きだったりするけど(デレ期)

 

「その前に……コーラとポップコーンだな」

 

「……どういう事だ、主車。お前、まさか映画気分で観るつもりか?」

 

 あらやだ、篠ノ之さんがちょっとムッとしてる。プチおこ、プチぷんってヤツだな。真面目な篠ノ之からしたら、いい加減だと思われても仕方ないわな。

 

 だぁが、俺を誰だと思っている。口八丁で今まで生き抜いてきた男だぜ? 既に切り抜ける論策は出来ておるわ!

 

「今から気を張り詰めてどうする? 闘う前に疲れちまうだけだ」

 

「む……」

 

「ふーん……そういうモンなんか?」

 

「そういうモンさ。張り詰めた空気を纏うのは、オルコットとの試合だけでいい」

 

 どやぁ……すげぇそれっぽい事言ってるぜぇ? 思わず納得しちゃうだろ? 何よりこの俺が言ってんだぜ? 俺はどういう男だ? 

 普段の奇行っぷりでつい忘れられがちだが、俺クソ強ェから。みんなも忘れないでくれよな、マジで。

 

「ふむ……なるほど。私をいとも簡単に負かしてみせた主車が言うくらいだからな。きっとそうなのだろう」

 

 信頼と実績による相乗効果。

 やっぱ強ェって正義だわ。

 

 と、いう訳で。

 

「一夏ァッ!!」

 

「お、おう!?」

 

「冷蔵庫に入ったコーラは俺が取ってくる。一夏はこの部屋のどこかにあるポップコーンを持ってこい」

 

「分かったぜ!」

 

「???」(いや、どこかって……でも一夏は当たり前のように頷いている。それなら私もツっこむ訳にはいかん)

 

「かねてから隠しておいたポップコーンを持ってこい」

 

「?????」(いや隠す必要ないだろ! なんだその言い回しは!? ポップコーンを隠してどうするというのだ!? カロリー気にする女子か! さ、流石の一夏もこれには―――)

 

「おう!」

 

「!?」(えぇぇぇ……小気味よい返事…だと…? くっ……ならば私も平然としているぞ! きっといちいち驚いていたらダメなのだ! どっしり構えてこそ旋焚玖の彼女になれるのだ!)

 

 なんか篠ノ之が百面相してる。

 まぁいいや。俺もコーラ取ってこよーっと。

 

 

 

 

「持ってきたぞ~」

 

「……オイ、一夏。どうして、あの棚に入っているって分かったんだ?」(一夏は迷わず真ん中の棚を開けた。迷わず開けた。最初からそこにポップコーンが置いてある事を聞いていたのか?)

 

「え、そんなの、旋焚玖の顔見りゃ分かるだろ」

 

「んなっ…!」(わ、分かって当然だと言うのか!(言ってる)自分の方が私より旋焚玖を理解していると言っているのか!(言ってない)その誇らしげな顔は、先ほどハッタリを見抜いた私への当て付けか!(いたって普通の顔))

 

 キンキンに冷えたコーラ瓶3本持ってきたら、なんか篠ノ之がまた百面相してる。コイツ表情豊かになったなぁ。小学校の時は、基本プンスカしてる篠ノ之しか見てなかったし、とても新鮮である!

 

「お、瓶コーラじゃん! 珍しいな!」

 

 そこは流石、天下のIS学園ってところだな。

 売店の品揃えっぷりでも、しっかり世界一を誇っているらしい。

 

「しかし栓抜きがないようだが…?」

 

「ああ、探してみたんだけど、どうやら栓抜きは備え付けられてないみたいでな」

 

「むぅ……では飲めないじゃないか」

 

「へへっ、何言ってんだ箒。旋焚玖がいるから問題ないって! な、旋焚玖!」

 

「……さて、な」

 

 い~い信頼だ。ノリもいい。

 一夏の言葉通り、俺の握力は既に花山の域に達しているからな。瓶の栓をちぎり開ける事など造作もない事よ(どやぁ)

 

「あ、そうだ! 久しぶりにアレやって見せてくれよ! こう、シュパッて切るやつ!」

 

 身振り手振りでおねだりとはテンション高いな。一夏も男の子だし、そういうのに燃えるタチなんだろう。篠ノ之も無言ではあるが、何やら期待をした目で俺を見てきている。

 

 だぁがだがだが、そういうリクエストは俺も嫌いじゃないぜ? むしろドンドン来いってなもんだ。

 

 ふふふ、ここで変に待ってました的な雰囲気を出してはいけない。あくまで一夏の頼みだから仕方なくってな感じでいくのだ。そっちの方が大物っぽいよな!

 

「めんどくせぇが……まぁ他ならぬ一夏の頼みだしな。まったく……本来なら見せびらかすモンでもないんだが……ンまったく…しょうがねぇなぁ」

 

「おう!」(なんか嬉しそうだなぁ)

 

「………………」(これは私にも分かる。まんざらでもない感が隠しきれてない……だが、それがいい)

 

 手刀で瓶の頭をスパパッとな!

 

「ヒューッ! 旋焚玖、ヒューッ!!」

 

「す、すごいな主車…! こうも見事に切れるモノなのか…!」

 

 一夏のアホっぽいリアクションは毎度お馴染みだから置いておくとして。あの篠ノ之からキラキラした瞳で見られるのは悪くない気分だ。

 

 どや? 俺ってすげぇだろ? 

 ただアホアホしてるだけじゃねぇってな!

 

「んじゃオルコットの映像を観ようか」

 

「おう!」

 

「うむ!」

 

 お、おう……?

 そんなに元気モリモリなお返事しなくてもいいぞ? ううむ、どうやら先ほどのスパパッぷりが、ロマンを解する2人の心を燃え上がらせたらしい。

 

 しかし、これは悪くない傾向だと言えよう。何がきっかけであれ、モチベーションが上がるのは良いことだしな。

 

「俺も旋焚玖に負けてらんねぇ! オルコットさんに勝ってみせる! さぁ、早く観せてくれ!」

 

 いい気迫だぜ、一夏よ。

 

 

 

 

 

 

「これ無理だゾ」

 

「お、おい一夏!? おまえ顔が死んでるぞ!?」

 

「ブフッ」

 

 いや笑うだろ。

 さっきまでの威勢の良さが跡形もなく吹き飛んでんじゃねぇか。いやまぁ、一夏の気持ちも全然分かるけどさ。

 

 代表候補生の候補生って言葉のせいか、少し……いや、かなり俺も一夏も侮っていたフシがあった。なんか候補生って言われたら、まだまだアマチュアな感じがするだろ? 

 

 だが、映像内のオルコットは、全くそんな事はなかった。対戦相手を全く寄せ付けていない。相手が訓練機とはいえ、ここまで圧倒しちまうモンなのか。これは俺も改めて認識を変えねぇとダメだな、マジで。

 

「オルコットさん…すっげぇ撃ってるゾ……ビーム…」

 

「うわはははは! お前その感じで言うの笑うからヤメろ!」

 

 倒置してしまうほど、一夏の目にもオルコットが脅威的に映ったらしい。

 

「ま、まぁ、なんだ、早めにオルコットの戦術が分かって良かったじゃないか! 今からなら対策だって練られるし! そうだろ、主車!」

 

「おっ、そうだな」

 

 篠ノ之からの熱い気遣い。

 これで立ち上がらないと男じゃねぇぜ。

 

「そ、そうだよな! そのための映像…あとそのためのシークバー…?」

 

 なに言ってだコイツ(ン抜き言葉)

 しかし、自らもう1度オルコットの試合映像を再生させるあたり、オルコットの凄さを目にしても、完全にヘコたれたって訳じゃなさそうだ。

 

 フッ……そうでなきゃな。

 

「対策…………まるで思いつかないゾ」

 

「うわはははは!」

 

 だからその顔でその口調やめろツってんだろ!

 

「主車、お前もコイツと戦うんだぞ? 笑っている余裕なんてないだろう。ISに疎い私でもオルコットの強さは分かる。遠距離からのレーザー狙撃に、四方から飛んでくるビーム兵器。正直、私も一夏と同じでどう対処すべきか……何か弱点でもあれば…」

 

「弱点ならもう見つけた」

 

「「 なに!? 」」

 

 

【うそだよ】

【もう1度言う】

 

 

 嘘じゃねぇよ!

 ここで嘘つくほど空気読めねぇ男じゃねぇわ!

 

「弱点ならもう見つけた」

 

「す、すげぇぜ旋焚玖!」

 

「フッ……流石だな、主車」

 

 

【でも教えない】

【もう1度言う】

 

 

 このバカぁ!!

 

 2回言ったらもういいだろ!

 こういうのは2回言うから面白いんだよ! 3回4回は辟易させちまうだけなんだよぉ! っていうか一夏たちに「どれだけ見つけた自慢したがってんだってコイツ」とか思われちゃうだろぉ! そういう勘違いされるの普通に嫌なんだけど!? 【上】なんてただの意地悪じゃねぇか! そっちの方が嫌だよぉ!

 

「弱点ならもう見つけた」

 

 ツっこめ!

 お前らのツっこみがこの連鎖を止めるんだ!

 

「イエーッ! 旋焚玖、イエーッ!!」

 

 ダメだ!

 一夏の懐がデカすぎる! 

 頼れるのはやはり篠ノ之だけということか…!

 

「……そろそろ怒るぞ」

 

 篠ノ之…!

 やっぱり俺はお前が居なきゃダメなんだよぉ!(告白)

 

 

【プンプンしてくれたら話してやる】

【もう1度言う】

 

 

 プンプンだ!

 プンプン言ってくれるだけで終わる簡単なお仕事だぜ!

 

「プンプンしてくれたら話してやる」

 

「な、なんだと!?」(それほど私のプンプンを気に入ってくれたのか!? よ、よし、恥ずかしいがオルコットの弱点を知るためには仕方ないな! うむ、仕方ないからまた耳元で囁いてやろうではないか!)

 

「ん? 分かったぜ、プンプン!」

 

「!?」

 

「よっしゃぁッ! サンキュー一夏! いいプンプンだったぜ!」

 

「!!?」(なっ……高評価だと!? 私のプンプンと全然反応が違うではないか!)

 

 いい仕事してくれますねぇ一夏くん! なにより早い!

 出来れば篠ノ之にまた甘ぁぁぁ~~~く囁いてほしかったが、高望みしちゃいけねぇよなぁ、いけねぇよ。

 

「……………………」(そうか……一夏よ…お前はあくまで私の恋路に立ち塞がるつもりなんだな……やはり強敵だ…!)

 

 何で篠ノ之は一夏を睨んでるんだろう。まぁ女からしたら、男のプンプンなんてキモいだけだしな。

 

「それで、オルコットさんの弱点って何なんだ?」

 

 弱点と言えるモノかどうかは分からんが、とりあえず俺が観ていて気になったのはコレだ。一夏たちにも分かるように、もう1度最初から、今度はオルコットがファンネル的なヤツも含め、レーザー的なモノを撃っているシーンだけを観ていく。

 

「あっ…! もしかしてオルコットさん、レーザーを撃ってる時はその場から動いてないんじゃないのか!?」

 

「……確かに、動いてないな。主車はオルコットが動かない理由を何だと推測する?」

 

「ただの横着か、はたまた余裕か……。或いは、動きながら射撃を行う技量がなくて棒立ちにならざるを得ない、か。後者は希望的観測だがな」

 

 何にせよ、だ。

 オルコットの戦術が遠距離射撃型って事が分かっただけで十分だ。これで少なくとも、イメージ無しに稽古する事もなくなった訳だし。

 

「オルコットがレーザーを放ってくる以上、それを如何に避けて接近戦に持ち込むか。そこが勝利の分かれ目になるだろうよ」

 

「え、でもさ、もし俺のISの武器が、オルコットさんと同じようなライフルとかだったらどうするんだ?」

 

「俺たちみてぇなド素人が撃って、代表候補生に当たると思うか?」

 

「……絶対無理だゾ」

 

「うわはははは! って笑わすなツってんだろ!」

 

 話が進まねぇだろが!

 

「もしも一夏のISが近距離型の武器じゃなかったら、この試合だけはその武器を捨てて肉弾戦で挑んだ方が俺は良いと思う」

 

「なるほどなぁ……じゃあ、旋焚玖もオルコットさんと戦う時は、接近戦狙いで行くつもりなのか?」

 

「そうだな、俺はそれよりも……まずは1歩くらい歩けるようになりたいな」

 

「「 あっ……」」

 

 2人揃って察してんじゃねぇぞ!

 いいもんいいもん、俺には俺の闘い方があるもん! 

 

「しかしあのレーザーを掻い潜るのは至難の業だぞ。私とただ手合わせしているだけじゃ厳しいんじゃないのか?」

 

「そうだな……んじゃ、俺と篠ノ之が同時に攻撃しようか」

 

「なにそれこわい」

 

「んで、一夏はそれをひたすら避けろ。外に出てさっそくやるぞ」

 

「絶対嫌だゾ」

 

「ブフフッ……このッ、つべこべ言わずに来いホイ! 篠ノ之、手伝ってくれ」

 

「ああ」

 

 この期に及んで俺をなおも笑わそうとする奴に慈悲はなし! っていうか、それくらいしねぇとマジでオルコットにフルボッコにされて終わっちまうだろうが! 篠ノ之も頷いてくれて、俺が一夏の肩を掴むと反対側の肩を掴んだ。

 

「オルコットの試合っぷりを観ちまったら、もう身体のキレを戻してから~、なんてウダウダやってる時間は無ェ。無様に負けてぇならヤメておくけどよ」

 

 専用機も届いてねぇ、訓練機も貸し出してくれねぇなら、これくらいしかねぇだろ。座学で伸びるタイプじゃねぇしな、俺も一夏も。

 

「……そうだな、それくらいやらないとダメだよな……よし、もう泣き言は言わねぇ! 旋焚玖、箒、頼むッ!」

 

「当然だ」

 

「うむ!」

 

 一夏は俺の無観客試合とは違うからな。ダチを笑い者にさせる趣味はない。笑われるのは俺だけで十分だ。

 お……なんか今の言葉、ちょっとカッコ良かったんじゃないか? いつか言ってみよう。

 

 

 

 

 

 

「ああああもうやだあああああ!!!!」

 

「聞こえねぇぜ一夏ァッ!!」

 

「私にも聞こえんッ!!」

 

 俺たちは日が暮れるまで稽古に励むのだった。

 

 





Q.稽古描写をどうして省いたの?

A.横道に逸れ過ぎて書く元気が残らなかった

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