「クマッ、クマー!」
「ど、どうしたの主車くん!?」
「ふむ……」
これはクマった。
クマったしコマった(極上のダジャレ)
クマしか言えねぇや。
いつもの奇行的選択肢だったか……俺もまだまだ読みが甘めぇな。だが焦る必要は全くない。だって千冬さんが居るからな!
「……なるほど。お前は更識すら庇ってみせるんだな」
「え?」
約束された勝利。
「分らんか、更識よ? 主車はな、お前の件を不問にすると言っている」
「全く分からないんですけど……」(だってクマしか言ってないじゃない。これが噂に名高い主車くんの突発的奇行ってヤツよね? どうして織斑先生はそう判断したのかしら…?)
俺からは何も言うまい。
言ってもどうせクマしか出てこねぇし。
俺は沈黙を選ぶ代わりに全てを千冬さんに託した。
「私に助けを求めておきながら、犯人であるお前を許したくなった。だが、それを言うには私を呼んだ手前、どうしても抵抗がある」
「……だから、代わりにクマーって叫んだ…ですか?」(確かに辻褄は合っているわ……でも、本当にそうなの? 織斑先生は主車くんを良い目で見すぎなんじゃないかしら。私はただの奇行だと思うんだけど……)
「根拠もある。現にコイツは昨日もコレ(奇行)で、オルコットと篠ノ之を救っている。行動は奇怪であれ、もしそれがなかったらオルコットも篠ノ之もクラスで浮いた存在になっていただろう」
「それは……」(確かに本音ちゃんも同じような事を言ってたわ……そういう事なの…? 主車くんの行動には意味がある、と?)
「今すぐ理解しろとは言わん。だが、コイツはこういう男だ」(篠ノ之とは違って、オルコットも更識も他人同然だというのに、コイツには関係ないのだろう。まったく……旋焚玖の優しさは天井知らずだな)
「織斑先生……」
「クマァ……」
「フッ……さて、では帰るぞ更識。コイツもオルコットとの決闘を来週に控えた身だ。チョッカイを掛けたければ、その後にしろ」
パーフェクト。(クエスター)
伊達に母さんをお義母さんと呼んでない。千冬さんは一夏と並んで、一番付き合いが長いからな。色々と分かってくれてホントに助かるぜ。千冬さんが居てくれるおかげで、俺も安心してクマクマできるんだ!
……クマクマってなんだよ(哲学)
◇
「……たく……旋焚玖…!」
「む……」
「どうしたんだ、ボーッとして」
「いや、少しクマった思い出に浸っていただけだ」
「ふーん、そか」
一夏の呼びかけで意識が現実に戻ってくる。
謎のビキニ女襲撃から約1週間が経った。今日は待ちに待っていない、一夏とオルコットとの対決の日である。
俺と一夏と篠ノ之は今、第3アリーナのAピットで待機しているところなんだが……アレが来ないんだよ、アレが。今からオルコットとの試合だってのに、まぁぁぁだ一夏の専用機が届いてない状況なのだ。
「お、織斑くん織斑くん織斑くんっ!」
3回だよ3回。
Aピットに駆け足でやって来たのは、1組の副担任やーまだ先生(ドカベン)
【どうしてそこで一夏の名前しか呼ばないのか問い詰める】
【俺の名をいってみろ!】
一夏の専用機が届いたからなんだよなぁ(名推理)
「俺の名をいってみろ!」
「ふぇっ!? え、えーっと……ジャギ様?」
やりますねぇ!
IS検査の時も思ったが、やーまだ先生の隠れ男の子な趣味っぷりが意外にハンパねぇ。FF7やら北斗の拳やらいい趣味してんねぇ、道理でねぇ! 伊達にメガネはしてねぇな、きっと視力低下の原因はゲームとマンガだ。
「織斑、お前の専用機が届いた。すぐ準備に取り掛かれ。アリーナの使用時間は限られているんでな」
千冬さんも入ってきた。
教室で見せるキリッとした表情ではあるが、何やら違和感が……なんだろう。
「こちらが織斑くんの専用IS【白式】です!」
やーまだ先生に案内された場所にソレが居た。
名前の通り真っ白なISだ。しかし、誰が名付けたかは知らねぇが、白いから【白式】って安直すぎだろ。俺の【たけし】の方がよっぽどオシャレだぜ。
「これが……俺の専用機……」
装甲を解放して待ち構えている【白式】へと、一夏が歩を進める。
「すぐに装着しろ。時間がないから初期化と最適化は実戦でやれ。出来なければ負けるだけだ、分かったな?」
「あ、ああ、分かった」
いや分かってないだろ。
聞き逃せない単語が出てきたっての。千冬さんの言葉でいくと、今の【白式】はまだ初期化と最適化が済んでない状態って事でいいんだよな?
それってアレだろ、訓練機と同じ状態って事だよな?
「待て待て、ちょっと待ってください織斑先生」
「む……」
それはイカンでしょ。
この1週間、毎日【たけし】と戯れている俺ですら、ようやく右腕を飼い馴らせたくらいだっての。
「【初期化】と【最適化】をしないと満足に動かせないんじゃないですか?」
「それはそうだが、それでもアリーナを使える時間は限られている。この後も既に予約でいっぱいだ。無理でも何でもやってもらう」
さらっと言いおってからに!
一夏はアンタの弟だろ! 一夏が無様に負けて、笑われても良いって言うのかよ! 冷徹に言い放つ千冬さんを俺は見損なった! 見損なったぜ!
と、付き合いの短い奴なら思うだろう。
だが、ガキの頃から千冬さんを知っている俺が見逃す筈はない。千冬さんの表情に僅かな陰りが見えた原因はこれだったか…!
言われるがまま【白式】に背中を預ける一夏を横目に、携帯を取り出しポチポチポチ……っと。
『ちなみに千冬さんの本音は?』
ほい、送信。
『(´つω・`)超心配だ。延期させてくれないIS学園きらいヽ(`Д´)ノ』
あらやだ、とっても弟想い。
ま、そんな事だろうとは思ってたけどな。
どうする、もう俺が無理やり止めるか?
一夏を気絶でもさせちまえば…!
「こいつ……動くぞ!」
おっ、現実逃避か?
アムロの真似しても動かないモンは動かないぞ。俺が優しく気絶させてやるから安心しな。
「ふむ……問題なく動くな? 気分は悪くないか?」
「大丈夫だ、千冬姉。いけるさ」
あれ?
何か普通に動かしてるんですけど。ISを纏った両腕を苦もなくガチョガチョさせてるんですけど。
「こいつ……動かしてるぞ!」
「ああ、動かしてるな」
篠ノ之が当たり前だと頷く。
あ、そうか。そうだった。つい忘れてたわ。ISには適性値があるんだったな。Eの俺と同じ目線で語っちゃいけねぇよ。
現にガチョってる一夏の表情も気負いなく、むしろ勇ましい。これはマジで動かせていると判断していいな。
いやいや、待て待て。
ここで楽観視するのは良くない。少し疑うくらいがちょうど良い筈だ。もしかしたらヤセ我慢している可能性だってある。一夏は変に勘が鋭いところがあるし。俺たちを心配させまいと、無理して動かしている可能性だって零じゃない。
「一夏、本当に動かせてんのか? 無理してないか?」
「ん? 大丈夫だって旋焚玖! ほら、この通りちゃんと動かせてんぜ」
一夏は俺たちに見せるよう、ブンブン手を振ってみる。だが、実は腕だけしか動かせないかもしれない。不安は取り除いておかないとな。
少しでも不自然だったら、俺はお前を行かせるつもりはない。
「ちょっと飛び跳ねてみろ」
「おう!」
あぁ^~一夏がぴょんぴょんしてるんじゃぁ^~(安堵)
しかし単純な動作には変わりない。
機敏な動きはどうだ?
「ちょっとDaisuke踊ってみろ」
「Daisuke☆ テレテレテッテーン、テレレレレッテーン」
「「「!!?」」」
(ち、千冬さん! 一夏がおかしくなりましたよ!?)
(まぁ……旋焚玖と居る時のコイツはだいたいこんなノリだな)
(織斑くん、凄いDaisukeです…!)
なんとキレのあるDaisukeを披露して魅せやがる…! これはマジでちゃんと動けるみたいだな!
「……本当に大丈夫そうだな」
「おう! 心配してくれてサンキューな!」
一夏の意識がアリーナへと向かっていくのが分かる。
俺たちは邪魔にならないよう後ろに下がった。
「旋焚玖、箒……俺、ずっと気になってた事があるんだ」
ピット・ゲートに進みながら、そんな事を一夏が呟いた。
もしかしたら、やっぱり一夏も不安なのかもしれない。これから代表候補生と試合う訳だからな。しかもぶっつけ本番で、観衆ありな状況で。俺だったら普通に逃げ出してるわ。
「言ってみな」
「オルコットさんと俺ってさ……なんで闘うんだっけ?」
「とうとう言ってしまったか、一夏よ」(私も言おう言おうとは思いつつ、言ってしまったら空気読めてない気がして、あえて今まで言わなかった事を。このタイミングで言ってしまったか)
「ふむ……」
オルコットが入学初日に、俺を侮辱したからだと思うんですけど(マジレス)
なお次の日から毎日、俺たちと一緒に昼食をとっている模様。割と笑顔で俺たちとも普通に話すようになっている模様。
俺はもちろんのこと、一夏だって完全にわだかまりも消えてるんだよなぁ。だが、それをそのまま言っても、モチベーションは上がらんだろ。むしろ下がる可能性すらあるわ。
「その答えはきっとアリーナの中にある。己で答えを見つけてこい」
「それもそうだな…! よし、行ってくる!」
何か意味深な感じで返答してみたら、気分良く出撃していきました。
頑張れ、一夏。
ズブのド素人が代表候補生に食らいついてみせな…!
なお試合は原作通りな模様(ガチ予告)