ドゥドゥドゥペーイがさらに惹き起こしたもの、というお話。
一夏が旋焚玖たちに自慢のDaisukeを披露している頃、反対側のピットでは、一夏との試合を控えるセシリアが静かに佇んでいた。彼女の専用機【ブルー・ティアーズ】は、まだ纏っていない。セシリアは瞳を閉じ、ただただ集中力を高めている。
セシリアの応援のため、観客席ではなくピットまで駆けつけてきたルームメイトの清香と、同じく親しくなった静寐も、どこか優雅にさえ思えてしまうセシリアの様子に目を丸くさせるのだった。
「セシリア……すっごい集中してるね」
「うん。私たちが入ってきた事も、きっと気付いていないよ」
目を瞑っていても、誰かが入ってきたら流石に気付きますわ。この声は清香さんと静寐さんですわね。
どうしましょう、目を開けるタイミングを逃してしまいましたわ。まぁ適当なところで目を開けましょうか。集中していて今気付きましたわ~とか言えば、お二人も納得するでしょうし。
「どうする、清香? 邪魔しちゃ悪いし、やっぱり観客席に戻る?」
「んー……そうですなぁ…」
むむぅ、と悩んでみせる快活少女な相川清香。
そう、清香は快活なのである。元気っ子でありノリが良いとも言える。更に言うと、セシリアと旋焚玖のじゃんけん勝負に立ち合って以来、旋焚玖ともよく話すようになった数少ない1人である。
「……頬っぺたプニプニしたら気付くと思う?」
気付きますわ。
というか気付いてますわ。
ですがここは、清香さんか静寐さんにプニプニされてから、目を開けるのが自然な流れと言えるでしょうね。
「いやぁ、流石に気付くでしょ」
いいアシストですわ、静寐さん。
あとは流れに沿って、目を開けましょう。
「甘い! 甘いよ、静寐! セシリアくらいの凄さになると、そんな程度じゃ集中力は途切れないね! ルームメイトの私には分かる!」
途切れます(断言)
ですが……正直うむむぅ、ですわ。
本当に目を開けてしまって良いものか、少し悩みますわね。清香さんの期待をあっさり裏切ってしまうのも……うむむぅ…ですわ。
「私は気付くと思うけどなぁ……それじゃあ、プニプニしてみる?」
「ツンツンからしてみようよ!」
プニプニとツンツンの違いが分かりませんわ。強弱の違い、と捉えてよろしいのでしょうか。
「つんつん……つんつん…」
「………………」
つ、ツンツンされてますわね。
確かにこれはツンツンですわ。右の頬がくすぐったいですわ。今、わたくしの頬をツンツンしているのは静寐さんですわね。
「ホントに目を開けないね。清香の言った通り、すっごく集中してるよ」
「でしょ? じゃあ、今度は私がプニプニしてみよう!」
つ、次は清香さんの番ですか。
静寐さんのツンツンは、指というより爪の先で軽く突っつくという感じでしたわ。そこから予測するに、きっとプニプニは指で軽く突っついてくるという感じに違いありませんわね。
「プニプニ! プニプニ!」
「ふもももも!?」
強すぎィ!!
ちょっ、ちょっとぉ!?
全然プニプニしてませんわよ!?
「おぉ~、セシリアの頬っぺた超やわ~い。もっとプニプニしてやる~!」
「んもうっ、清香さん! 趣旨が変わってましてよ!」
「あははは! ぷんぷんセシリアが目を開けたよ~!」
薄々そんな気はしていましたわ!
きっと清香さんは、わたくしがタイミングを見計らっている事に気付いていたのですわ。それでも最初から指摘しないところが彼女らしいですわ、まったく…!
ですが、わざわざピットにまでお二人が来てくれた事に関しましては、素直に嬉しいですわ。織斑さんのピットにも、主車さんと篠ノ之さんが行っていると聞いてますし。これで3対3のイーブンですわ!(意味不明)
「でもさ、私たちが入ってきた時のセシリア、すっごい真剣な表情だったよね」
「あ、静寐も? 私もそう見えた。なになに、実は少し緊張してたりしちゃってたり~?」
このこのっ、と清香さんが私の頬をプニプニしてくる。なるほど、これが本当のプニプニなのですわね…って、今はそんな事どうでもいいですわ!
「ええ、緊張していますわ」
「え!?」
驚いたように声を上げる静寐さんの隣りで、清香さんも両目をパチクリさせてわたくしを見てきます。他の人ならいざ知らず、このお二人に本心を隠すつもりはありませんわ。
「い、意外だね。セシリアの事だから『わたくしが緊張!? このエルィィィトかつエルェェェガントゥ!ヘァー!なわたくしになんと無礼な!』って言うと思っ…ふににっ、なにふるの~!?」
うるさいですわ!
何がトゥ!ヘァー!ですか!
まったく似ていない物真似ほど、イラッとくるモノはありませんわ! そんな事をする清香さんの頬っぺたなど、むにむに引っ張って差し上げますわ!
「(割と似てたと思うけど黙っておこう)まぁまぁ、セシリア。それくらいにしてあげてよ。でもさ、どうして緊張してるの? だって相手は織斑くんだよ? いや、織斑くんをバカにしてる訳じゃなくてね」
静寐さんが何を言いたいのかは分かりますわ。そしてきっと、清香さんも同じ事を思っているのでしょう。代表候補生であり、さらには専用機まで持っているわたくしが一素人を警戒するなんて、そっちの方がおかしいと普通ならそう思いますわよね。
「あなた達はわたくしと織斑さんのどちらが勝つと思っていますか?」
「え、セシリアっしょ」
「普通にセシリアだよね」
勝って当たり前だと言わんばかりに即答されましたわ。ですが、これはこの2人だけの意見ではない筈です。IS学園に通っている者でしたら、きっと皆が清香さんたちと同じ反応をするのでしょう。
「わたくしが勝っても誰も驚きませんし、称賛もされませんわ。だって当然だと思われていますもの」
わたくしが織斑さんを圧倒してみせたところで、それでも観衆からの反応は当然の一言で片づけられてしまうでしょう。専用機持ちの代表候補生と、かたや1カ月前に起動させただけの初心者の試合ですものね。
「逆に言ってしまえば、わたくしに苦戦は許されないのです。ましてや負ける事など絶対にあってはならない…! 少なからず不安と……プレッシャーは掛かっていますわ」
いいえ、違いますわね。
わたくしは油断しないように、気を引き締めているのですわ!
ここで無駄に弱気になるのは愚の骨頂!
華麗に勝ってみせると奮起してこそエリートなのですから!
「あー、何となく分かるかも。野球とかサッカーとかでもさ、強豪校が無名の高校に負ける事ってよくあるもん」
「伊達にスポーツ観戦してないね、清香。でもさ、不安だったら別に試合しなくて良いんじゃない? っていうか、何で織斑くん達とセシリアは試合する事になったんだっけ?」
「それは……その、わたくしが……むぅ…」
入学初日に主車さんを悪く言って、それに織斑さんが怒って、わたくしも熱くなってしまい、つい決闘を申し出て……あれよあれよと今に至ってしまいましたとさ、ですわ。
「それはね静寐、セシリアが主車くんをバカにして織斑くんをキレさせたからだよ! 原因はセシリアなのだ!」
「うぐっ……はっきりと言わないでくださいまし」
それが他の男であれば、わたくしも悪びれる気など一切起こらないのですが、主車さんと織斑さんは何というか……どうしても今までとは違う感じになってしまいますの!
それもこれも絶対にアレのせいですわ!
入学式の次の日のアレです!
昼食を食堂で無理やり一緒させられた時に、ハーミットモグリ先輩をわたくしが華麗に退治したあの一件以来、何故か織斑さんや篠ノ之さんとも普通に話すようになってしまいまして。
主車さんはその前から変わらず、ずっとわたくしに話し掛けてきてましたし。あの人の積極性というかブレなさだけは正直凄いと思いますわ。
「あー……あったね、そんな事も。セシリアと主車くん達…っていうか、おもに主車くんと仲良いから忘れちゃってたわ」
「な、仲良くなんてありませんわ!」
「えー? 休み時間のたびにおしゃべりしてるし、お昼だって毎日一緒に食べてるじゃん」
「それは織斑さんや篠ノ之さん達もでしょう!? それにあなた達だって最近は一緒ではありませんか!」
まったく!
根拠もなく、わたくしと主車さんが一番仲良しみたいな言い方はヤメていただきたいですわ! プンプンしちゃいますわね!
「えー? だってセシリアと主車くん、授業中に手紙交換してるじゃん。仲良しじゃん」
うぐっ…!
そ、それは…!
「結構頻繁にやり取りしてるよね。仲良しだよね」
「ま、待ってくださいお二人方! 違います、違いますの! それは主車さんが渡してくるから、仕方なくわたくしも返しているだけであって! そう! 仕方なくですわ! あくまで淑女の嗜みなのです! 殿方からのお手紙は、ちゃんと返事をしないと淑女とは言えないのです! 本当に主車さんも困ったお人ですわ!」(けっこう早口)
「ふーん。それで、主車くんと手紙でどんなお話してるの?」
「別に話題とかはないですわ。そうですわね、しりとり勝負をしたりお絵描き勝負をしたり、たまに主車さんが書いた迷路をわたくしが解いたりで……あ、そうそう、最近はわたくしがクイズを出したりもしてますわね!」
「仲良しじゃん!」
「そうだよ! 最後の方とか、ちょっと嬉しそうに語ったよね! そうそう、とか言って聞いてない事まで言い出したよこの子ったら!」
「ま、まぁ……新鮮ではあるかもしれませんわね、おほほほ…」
織斑さんはともかく、主車さんにどんな感情を抱いていいのか、正直分かりませんもの。織斑さんのような友達想いな人はイギリスにも居ましたが、主車さんのような変人はイギリスには居ませんでしたもの。
このわたくしが、まるで距離感が掴めない……いやな人ですわ!
「あれ? ちょっと待って。今思ったんだけどさ。もう織斑くん達と試合する必要なくない? だって、セシリアも主車くんに謝ってるんでしょ?」
「………謝ってませんわ」
そうなのです。
実はわたくしはまだ、正式に主車さんに謝罪が出来ていなかったりするのです。
「えぇ!? なんで!? あんなにしゃべってるのに!?」
だからですわ!
かえってタイミングを逃したと言いますか、あの人と居ると謝る雰囲気が作れないと言いますか……よく分かりませんけれど、わたくしはきっかけが欲しいんです! そう! 謝っても不自然ではないきっかけが!
そして、それがようやく訪れたのです!
待ちに待った試合ですわ!
「試合の後なら、ちゃんと謝罪できると思いますの。ですから、まずはこの試合の後、織斑さんに。そして3日後の試合で主車さんに謝罪しますわ」
「だいじょーぶ? ちゃんと謝れる? その時は私と静寐も一緒に付いて行ってあげよっか?」
「子供ですか! 1人でもちゃんと謝れますわ!」
まったく、わたくしを何歳だと思っていますのかしら! というか、わたくしを誰だと思ってますの! イギリス代表候補生にして、世界でも限られた存在である専用機持ち! IS学園入学試験主席のセシリア・オルコットですわよ!
わたくしがどれだけ凄いか、この試合でお2人にも見せて差し上げますわ!
「清香さんも静寐さんも目に焼き付けておきなさい!」
「え、謝るところを?」
「あ、やっぱり付いて来てほしいんだ?」
「ちーがーいーまーすー! 今から戦うわたくしの勇姿ですわ!」
んもうっ!
清香さん達のせいで、せっかく張り詰めていた空気が台無しですわ!
ですが、独り静かにピットで待機しているより、実のある時間を過ごせたと言えるでしょう。いい意味でリラックス出来ましたわ…!
「……では、行ってきますわね」
わたくしは【ブルー・ティアーズ】を纏い、ピット・ゲートに進む。
「うん! ファイトだよ、セシリア!」
「がんばれ~!」
ゲートが開放されると同時に、勢い良くアリーナへと向かう。
「セシリア・オルコット……出ますッ!」
織斑さん、覚悟してくださいな。
今日のわたくしは……少し強いですわよ!
選択肢:話が進んでねぇんだよなぁ? そういうとこやぞ作者。