選択肢に抗えない   作:さいしん

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大人しく観戦、というお話。



第50話 一夏v.s.セシリア 前半戦

 

 

 

「行ってくる!」

 

 俺たちに見送られる形で、一夏はゲートから勢い良く飛び出して行った。バビューンってな感じで行った。アリーナに入ってからも、地上に着地するのではなく普通に空を飛んでいる。

 

 一夏しゅごい……。

 

 

【俺も乱入するぜ!】

【今の心情を篠ノ之に打ち明ける】

 

 

 右腕しか動かないんだよなぁ。

 マジレスすると、俺がこの試合に加わろうって思ったら、まず最初にえっちらおっちら【たけし】を運ぶことから始めなきゃいけないもんなぁ。

 

「篠ノ之」

 

「む、どうした?」

 

「一夏しゅごい」

 

 せめて凄いと言わせてくれ。

 

「は?」(な、なにを急に…? まだアリーナに出て行っただけだぞ)

 

「一夏ってしゅごい」

 

 2回言わなくていいから。

 言ってもいいけど凄いと言わせてくれ。篠ノ之にキモいとか思われたら泣いちゃう自信あるんだけど? そこんとこ、アホの選択肢はどう思ってんの?

 

「……ハッ…」(違う…! 旋焚玖にとって、動かせた時点で凄いんだ…! 旋焚玖はまだ右腕しか動かせられないって言ってたし……もしや一夏と自分を比較して…? そういえば、心なしかしょんぼりした顔になっている……ここは励ましてやれば好感度が上がるのでは!?)

 

「だ、大丈夫だ主車! 焦る必要なんてないぞ!」

 

 いや焦るだろ。

 俺の恋愛脳的には割と瀬戸際だぞ。

 

「別に一夏と自分を比べなくていいじゃないか。お前はお前の速度で動かしていけばいんだ」

 

 あ、身体動く。

 

「……篠ノ之」

 

 フッ……なるほどな。

 

 俺は自ら勝手に『しゅごい』という言葉に、囚われていただけだった。篠ノ之は俺の言動なんかより、俺の気持ち(IS的な)を汲み取って、そして元気づけてくれているんだ。

 

 そんな優しさ魅せられたら惚れるに決まってんだろ! 童貞ナメんなこの美人! 短い髪型でも似合う大和撫子め! この正統派ヒロインが! 

 

「ちなみに俺の『しゅごい』はどう思った?」

 

 確認ッ…!

 せざるを得ない…!

 

 これで『かわいい♥』的な返答が来たら告白チャンスだ!

 

「ん? ああ、それは気色悪いから控えておいた方がいいぞ」(好きな男でもキショいのはキショいからな。それに他の女が聞いたら、旋焚玖を気持ち悪いと思うかもしれないし。旋焚玖が嫌われるのは私だって嫌だ)

 

「アッハイ」

 

 これは罰ですね、分かります。

 

 分かります? 

 罰なんだよ、これはな。

 友の試合にまるで関係ない、しかもアホほど邪な期待を抱いてしまった俺への罰なんだよ! すまねぇ、一夏。俺が悪かったよ。篠ノ之に言われて目が覚めたぜ。今からは集中してお前を応援するよ!

 

 モニターに目を向けると、ちょうど一夏もオルコットと対峙していた。

 

「来ましたわね、織斑さん」

 

「ああ、来たぜ」

 

 オルコットの手には、映像で観たレーザーライフルが握られている。

 

「本日はいい試合をしましょう」(今日のわたくしは、相手が誰であれ油断しませんわよ。勝つのはわたくしですわ…!)

 

「おう。でも、その前に一つ聞かせてくれ。俺とオルコットさんって、何で試合するんだっけ?」

 

 本人に聞けとは言っていない。

 

 いや確かにさっき『答えはアリーナの中にある』的なことは言ったけどさ。まさか決闘を吹っ掛けてきた張本人に聞くとは思わんかった。流石は一夏だぜ、俺に出来ねぇ事を平然とやってのけやがる。

 

「それは……」(織斑さん自身も忘れてしまうほど、わたくし達の間にあった確執が解消されているのは喜ばしい事だと言っていいのでしょう。ですがソレはソレ。コレはコレです)

 

 む……困惑するかと思いきや、妙に落ち着いているな。というか、今日のオルコットは何だろう……映像で観たのと、どこか雰囲気が違うような…?

 

「……知りたければわたくしに勝つ事ですわ」

 

「その言い方だと、オルコットさんは知っているみたいだな?」

 

「勿論ですわ。ですが…! わたくしに負けた時点でアナタの求める答えを闇に葬りますわ!」(ちゃんと説明して謝りますけどね! さぁ、いきますわよ織斑さん…! ハンデ無し手加減無し。勝負ですわ…!)

 

「まずは、挨拶代わりですわ!」

 

 それまで銃口を下に向けていたライフルを慣れた動作で構えたオルコットは、一拍すら置かずにレーザーをブッ放した。

 

「ぐおっ!?」

 

 当たる寸前、両腕を前に出すことで直撃を防いでみせた一夏だが、威力に押される形で吹き飛ばされてしまった。それよりも気になるのは、一夏の痛みを堪えた表情だ。

 

「織斑先生、ISを纏っていても痛みは感じるんですか?」

 

「当然だ。神経情報として脳に伝わるからな」

 

 痛覚が生きてるのなら、他の感覚も遮断されているって事はないだろう。むふふ、これは良い事を聞いてしまったぜよ。

 

「しかし、何をしているんだ一夏の奴…! 何故オルコットのように最初から武器を出さない!? 出していたら、さっきの攻撃だって防げたかもしれないのに…!」

 

 オルコットは一夏と対峙した時から、既にライフルを握っていたんだ。それなのに、一夏はそこでも武器を出さなかった。

 仮定の話をしたところで仕方ないが、武器を出していれば、篠ノ之の言うように防げた可能性はあった。

 

「装備、装備は!?」

 

 ちょうどモニターに、慌てて装備を確認している一夏の姿が映る。

 いやはや、これは一夏くんの怠慢ですよ怠慢! 今になってようやく武器を探すとかありえないですよ! 隣りに立つ篠ノ之さんもプンプンですよ!

 

「あの馬鹿者! そういうのはピットに居る時に確認するものだろう!」

 

 そうだそうだ!

 お前ピットで何してたんだ!

 

「織斑くんはその……飛び跳ねたり、踊ってたりしてましたからね」

 

 緊張感無さすぎィ!!

 

 試合前に飛んで跳ねて踊ってただァ!? 

 バカヤロウ! それってぜんぶ…………俺のせいじゃねぇか!! 

 

 うわぁぁぁッ、ごめん一夏! 俺の心配性っぷりが逆に足引っ張っちまったって事か!? あとフォロー気味に言ってくれてありがとう山田先生! その言葉が無かったらドヤ顔で「慢心、環境の違い…」とか言っちゃうところだった…!

 

 心の中で平謝りしてたら、一夏の右腕から片刃のブレードが顕現した。どうやら、アレが一夏の武器らしい。

 

 そして、その武器を目にしたオルコットは、眉をこれでもかというくらいに顰めて指を指した。あれだけ撃ち続けていた射撃を中断してまで、主張したい事があるらしい。というか、何だかんだで避けてた一夏……やっぱりしゅごい。

 

「織斑さんッ! あなたッ、遠距離射撃型のわたくしに、近距離格闘装備で挑むおつもりですか!?」(全ギレ)

 

「これしか武器が無かったんだよ!」(全ギレ)

 

「そうですか!」(納得)

 

「そうだよ!」(全ギレ)

 

 非常に勢いがあって、非常に楽しそうである。俺もあの愉快な掛け合いに交ざりたいなぁ。なんとか俺も【たけし】と仲良くならんとなぁ。今夜から違うアプローチしてみようかな。

 

 

【一緒に映画を観よう】

【恋バナをしよう】

 

 

 ISに恋バナをしゃべりかける男とか、普通に怖すぎるんだよなぁ。

 誰も居ないアリーナのど真ん中で? 夜中の11時過ぎに? ISに? 『俺さぁ、実は惚れっぽくてさ~、デヘヘ……どう思う、たけすィ?』とか言うの? 

 

 それもう怪談だぞ。

 まぁでも、【上】の選択肢は悪くない。映画鑑賞は感性を高める効果があるからな。強情な【たけし】もこれを機に、色んな感情を育んでもらいたいもんだ。『日本統一』シリーズでも今度持っていくか。

 

「いいですわ、わたくしも出し惜しみはしません! さぁ、踊りなさい。わたくし、セシリア・オルコットと【ブルー・ティアーズ】の奏でる円舞曲で! 凄絶に!」

 

 おっ、元親か?

 

「おっ、なんか今の、旋焚玖っぽかったな!」(第43話参照)

 

「なっ…!?」(わたくし風にアレンジしたのにどうしてバレますの!? い、いけませんわ、パクったとか思われるのは嫌ですわ! 恥ずかしいですわ! 指摘される前に墜としますッ!)

 

 ライフルを構えるオルコットから、映像でも観たファンネル的なヤツが4機、解き放たれた。見て分かる通り、単純にオルコットの攻め手の数が1から5に増えた。いきなり5倍とか、普通に絶望するレベルだな。

 

 しかしこれはマズい。オルコットがこんなに早くファンネルを出してくるなんて、一夏も想定してなかった筈だ。映像では佳境に入ってから出してたし。一夏も見るからに焦りの表情が浮かんでいる。

 

「くっ……! や、やべぇッ…!」(【白式】の反応に俺が追いつけていないッ…! その上さらに攻撃の手を増やされたら、いよいよマズいぞ…!)

 

 

 

 

 

 

 不安が的中してしまった。

 何とか回避し、ブレードで防御し続けていられたさっきまでとは違い、ファンネルが追加されてから明らかに一夏の被弾が多くなってきている。

 

 ファンネルから放たれるレーザーを避けても、そこにオルコットのライフルがズドンだ。ライフルのレーザーを避けてもまた然り。今の一夏は完全にドツボに嵌っている状態か。

 

 実際、オルコットの技術も戦術もかなり厄介だ。俺ならとっくの前に墜とされてた自信あるわ。素人の俺から見て、一夏はだいぶ健闘してると思うんだが、それでもこのままじゃいずれ…。

 

「しゅ、主車…! このままじゃ一夏は…」

 

「……そうだな」

 

 何より今の一夏は、完全にオルコットの強い意思に飲まれている。

 ど素人の俺たちが、技術面で代表候補生のオルコットに対抗するなんて不可能だ。だからこそ、せめてハートだけは負けないようにしようって言ってたんだが……テンパってて、それを見失っちまっているようだ。

 

 

【今こそ乱入する時である!】

【臆病者はアドバイスに徹する】

 

 

 おい、この出たがり! というか出したがり! 動かねぇツってんのに、頑なに俺を乱入させようとするのヤメろって! なんだ【下】は挑発のつもりか? 甘ェぜ、俺は余裕で下を選べる男なんだよ! 

 

 それともなにか? もしかして生身で行けってか? それはもう行けじゃなくて逝けだからな? レーザーとか当たったら多分死んじゃうから。そこまで人間やめてないからな、マジで。

 

「織斑先生」

 

「なんだ?」

 

「一夏にアドバイスしてやりたいんですけど」

 

 確かISには通信機能が付いていた筈だ。

 俺の俺による一夏のための熱いアドバイスを届けてやるぜ。

 

「……ダメだ」

 

「む……何故です?」

 

「2人の試合が公平さに欠ける事になる。教師として許可は出来ん」

 

 なるほど、確かに公平さに欠ける。それに千冬さんはIS学園の教師だ。どうしても一夏絡みになれば、身内贔屓と揶揄されてしまう恐れがある難しい立場にある人だ。表立って許可出来る訳がないか。

 

 だからこそ、俺が居る。

 今こそ、俺の存在理由を発揮する時である! 

 

「おかしな事を言うものだな、織斑先生。この試合は既に公平さなど皆無だろう? バリバリ代表候補生で専用機持ちのオルコットと、ズブの素人の一夏だぞ」

 

 そこはまぁ、オルコットの決闘申し出をソッコー許諾した一夏の責任だ、と言われてしまえばそれまでだが。本命はこっちだ。

 

「しかも一夏のISは初期設定のままときている! 公平さを謳うなら、時間が掛かろうが無理にでも『最適化』を済ませるべきだった筈! 違いますか!」

 

「むむむ」

 

 

【千冬さんを困らせるのは偲びない。ここは大人しく乱入しよう】

【なにがむむむだ!】

 

 

「なにがむむむだ!」(即選択)

 

「むっ…! 主車! 今の私とお前は教師と生徒だ! その生意気な発言は流石に見過ごせんぞ!」

 

「ごめんなさい!」

 

「えっ、あ、うむ……分かればいいんだ」(そんなに早く頭を下げるとは思ってなかった。まだまだ私も旋焚玖を理解しきれていないという事か)

 

 ソッコー【下】を選んだけど、アホの選択肢の言うことも一理ある。いや、乱入の部分じゃなくてね。

 俺が言ったのは超がつくほどの正論だと自負しているが、それでもダメなものはダメなんだ。これ以上、俺が一夏の機体云々を主張したところで、千冬さんを困らせるだけである。きっと、やりきれない想いをしているのは、千冬さんも同じだろうし。

 

 ってな訳でプランBだ!

 

「観客席に行ってきます」

 

「……行ってどうする?」

 

「一夏の応援です」

 

 今もアリーナの観客席では、キャーキャー多くの生徒が応援している。そこに俺も交ざってキャーキャー応援するだけだ。

 

 何の問題もあるまい?

 

「……はぁ………あまり露骨な行動は取るなよ?」

 

「おまかせあれ!」(玄)

 

 うし、千冬さんの許可は得られた。

 

「本当に大丈夫なのか?」

 

「なぁに、篠ノ之も見てな。浮き足立ってる一夏に活を入れてやるだけさ」

 

「う、うむ……そうだな。ハートだけは負けないようにしようって修行の時に言い合っていたものな」

 

 そういう事だ。

 俺の狙いはそれだけじゃないがね…!

 

 待ってろ、一夏。

 もうしばらく耐えてくれ…!

 

 






旋焚玖:男なら……男なら、そのくらいの敵に勝てなくてなんとする!

箒:....φ(・д・。*)メモメモ…。





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