選択肢に抗えない   作:さいしん

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それでもメインはピット、というお話。



第52話 一夏v.s.セシリア 決着の刻

 

 

 

「帰ってきたか、主車」

 

「ああ」

 

 一仕事を終えて、ピットに戻ってきた俺を篠ノ之が迎えてくれた。千冬さんと山田先生がモニターから目を離さないでいるって事は、まだ一夏が墜とされていない事でもある。

 

 いやはや、ホッと一安心ってところだ。

 俺が観てないところで試合が終わってりゃ、応援しに行った手前、格好が付かんもんね。

 

「試合はどんな感じになっている?」

 

 改めて、篠ノ之と並んで俺も試合の行方を……む…? オルコットのファンネルが減っている…?

 

「はぁぁ……すごいですねぇ、織斑くん。オルコットさんのビットを半分も撃墜しちゃいましたよ~!」

 

 山田先生が俺にも分かるように説明してくれた。

 マジでか一夏よ。一矢報いるどころか、反撃までしちゃってんのか。観れば確かに、やたら軽快な動きになっているし、まさかまさかの、こっから大逆転勝利も狙えたりするのか?

 

「それは難しいな」

 

「「 え? 」」

 

 ナチュラルに俺の心を読んだ挙句、普通に答えないでください千冬さん。文脈をぶった切る返事めいた唐突な呟きとか、意味不明すぎて篠ノ之と山田先生もポカンとしてますよって。

 

 2人に説明するのも面倒だし、俺もこのまま進めちゃうんだけどね。

 

 

【お前も見習わにゃいかんのとちゃうんか? なぁ、篠ノ之よ】

【お前も見習わにゃいかんのとちゃうんか? なぁ、張遼よ】

 

 

 このまま進めさせてくれよぉ!

 見習わなくていいよぉ!

 

 俺の心を読んでくれ、とかフツメンには許されない気持ち悪いアピールですよ! 

 しかも山田先生に張遼って言っても通じないだろ。いや、通じるか…? 割とオタッキーな山田先生なら三國無双も知ってる可能性……まぁタメ口な時点で【上】選ぶんだけどね。

 

「お前も見習わにゃいかんのとちゃうんか? なぁ、篠ノ之よ」

 

「む……?」(見習う…? 一体、何を……ハッ…!)

 

 篠ノ之箒の考察タイム突入。

 

(千冬さんの不自然な言動、それに続く旋焚玖の言葉。ここから推測するに、きっと千冬さんは旋焚玖の心を読んだのだ。それを見習えと…? つまり、旋焚玖は私に言っている。『お前も千冬さんのように俺の心を読んでくれ』と。日本には以心伝心という言葉がある。それを元に更なる考察を深めていくと、旋焚玖は私と心を通わせたいと思っている可能性が導き出されるじゃないか…! これにより、少なくとも旋焚玖は私を嫌っていない事も証明された! 嫌いな奴と心を通わせたいとは思うまい! 思うまいて! むしろ私への気持ちメーター(好きor嫌い)は確実に、確実に好きに傾いていると言えよう! ふふっ、すまんな一夏よ。お前の居ないところで、また私の方が一歩リードしてしまったらしい…!)  

 

 うわぁ……また篠ノ之が百面相ってる。

 

 だが、ここで変にアレやコレや言い訳しても泥沼化しそうだし、俺も触れないでおこう。なんか「ふふっ」とか言ってニヤニヤしてるし、ドン引きされた訳じゃなさそうだしね。スルースルー。

 

「ンンッ……んで、織斑先生は一夏が勝てないと?」

 

「断言はしないが望みは薄い。あの馬鹿の左手を見てみろ」

 

「……あっ」(察し)

 

 モニターに映る一夏は、先程からしきりに左手をグーパーグーパー閉じたり開いたりしていた。あれは一夏が調子コイてる時、たまに無意識でしているやつだ。

 

「浮かれている時のアイツのクセでな。しかも、あれが出ると大抵何かで失敗するオマケ付きときている」

 

 一夏の負けフラグ動作を、篠ノ之たちにも分かるように千冬さんが軽く説明する。別に調子コくのは全然良いと思うんだけどな。

 ただ、あれが出たらマジでダメなんだって。一夏のアレが出たら最後、千冬さんの言う通り、上手く事を運べた試しがないってレベルなんだよ。

 

「はぇ~……さすがご姉弟ですねー。そんな細かい事まで分かるなんて」

 

「む……ま、まぁ、なんだ。アイツは私の家族だしな。これくらいはな」

 

 おやおや、毅然とした態度が少し崩れてまっせ? 

 ぬふふ、家族愛を指摘されては、流石のクールビューティーも頬を赤らめよるか。

 

 まぁ言葉には絶対にしないけどね。言ったら最期、千冬さんからありがたい照れ隠し(武威)を頂く事になる可能性大だからね。

 

 死地だと分かって飛び込むバカが居るかよ。

 

 

【ヒュ~ゥ! 千冬さんが照れてるぜ、ウヒョー!】

【俺の方が一夏を分かってるけどな!】

 

 

 あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ッ!!

 

 なにがウヒョーだバカ!  

 言える訳ねぇだろバカ!

 

 千冬さんは揶揄われる事を嫌う人だ。それが家族絡みの事なら尚更で、なんと嫌がるレベルも倍率ドン、お怒りレベルなんてもう倍々ゲームである。

 

 人の嫌がることをしてはいけない(良い子)

 

「俺の方が一夏を分かってるけどな!」

 

 この台詞も割と意味不明だけどな!

 それでも【上】よりはマシなんだい!

 

「……ほう」(フッ……確かにその通りだ。仕事で家を空ける事の多かった私より、旋焚玖の方が一夏と居る時間は長いかもしれん。私が一夏の姉なら、旋焚玖は一夏にとって友でもあり兄のような存在なのかもな)

 

「……むぅ」(ぐぬぬ…! やはり一夏は強敵だった! くそっ、私の方が旋焚玖に想われているというのは、ただの願望に過ぎなかったのか…! やってくれるじゃないか一夏…! それでこそ私のライバル、私の幼馴染だ!)

 

「はぇ~……美しい友情ですねー」

 

「ま、親友ですから……おっ…?」

 

 そんな事を言ってたら、一夏が近接ブレードを振り下ろし、さらにもう1機ビットを撃墜。反動を利用した回し蹴りで最後のビットまで吹き飛ばす。

 

 オイオイ、勝てるわアイツ。

 さっきまでの苦戦は何だったんだっていうレベルまで来ちゃってないか?

 

「凄いじゃないか一夏の奴! ビットは全部破壊したし、本当に勝てるかもしれないぞ!?」

 

 篠ノ之みたいに勝ちを確信してひとっ風呂浴びに行きてぇなぁ、俺もなぁ。あの左手ニギニギな動作さえなければなぁ。

 

「どうやら一夏の癖とやらは、杞憂に終わりそうだな!」

 

「さて、どうなるこ…むっ…! あっ、マズい、行くな一夏!」

 

「ど、どうした主車!?」

 

 むしろこの状況、行かない手はない。ウザったいファンネルを全機墜として、残るはオルコットが手に持つライフルのみ。銃口を向けられる前に接近戦を仕掛ければ、それこそ勝機になる。

 

 このチャンスを見逃す奴なんて居ないだろう。

 それなのに嫌な予感がしてしまった。

 

 しかしピットで叫んだところで、一夏に声が届く筈も無し。ブレードを構えた一夏は、勢いに乗ってオルコットへと迫っていく。

 

 眼前に迫られているのにもかかわらず、オルコットはにやりと口角を上げる。だけでは満足いかないようで……?

 

 

 

 

 

 

「うぉぉぉッ!!」(いけるッ! 確実に一撃を入れられるタイミングだぁぁぁッ!)

 

「オホホホホ! オーッホッホッホッホッ!!」

 

「うわっ!? な、何か急に笑い出した!?」(怖ッ!? オルコットさんが怖いぞ! い、一旦下がった方が良いんじゃないか!?)

 

 本能的に危険を感じて距離を置こうとする一夏……というか、誰だって急にオホホ高笑いされたらビビるわ。誰だってそうする、俺だってそうする。

 

 だが、それでも間に合わない。

 オルコットの腰部から広がるスカート状のアーマーが外れて、ミサイルポッド的なモノが射出されてしまった。

 

「【ブルー・ティアーズ】は4機だけじゃありませんわよ!」(んん~~~ッ! 仕掛けておいた罠に相手が嵌ったこの瞬間…! たまりませんわぁ! 何度味わっても気持ちがいいですわ~~~ッ!)

 

「し、しまっ…!?」

 

 回避が間に合っていない。

 後方へ下がるもミサイルの直撃を喰らい、一夏を中心に爆発が起こった。

 

 

 

 

 

 

 うむむ……やはりあのニギニギは負けフラグだったか。

 いやでも、大健闘だろ。つい忘れそうになるけど、アイツこの試合がほぼ初戦闘なんだぜ? それでここまでオルコットに迫ったんだ、それだけでも超すげぇよ。

 

 爆発の黒煙が晴れていく。

 きっとその中心に居る【白式】を纏った一夏はボロボロだろう。

 

「フッ……機体に救われたな、馬鹿者め」

 

 何か嬉しそうな千冬さんの声が聞こえた。

 

「お、おい主車! 一夏の機体が!」

 

「……む」

 

 すっげえ白くなってる。はっきりわかんだね。

 それだけじゃない、さっきまであった傷も消えてるし、なにより【白式】全身が光っているように見える。

 

「このタイミングで『初期化』と『最適化』を済ますとはな。まったく……我が弟ながら悪運の強い奴め」

 

 またもや嬉しそうな千冬さんの声が聞こえた。

 でも直接聞いたら、照れて拳が飛んでくるかもしれない。

 

 そんな時はメールを送るに限るんだ!

 

 

『何やら嬉しそうですな?』

 

 

 ほい、送信。

 

「む……」

 

 いつもの仏頂面で携帯をポチポチしている千冬さん。

 そんな彼女からの返信は。

 

 

『うむ!(≧∇≦*)』

 

 

 どうやら、とても嬉しいらしい。

 むふふ、心の中で小躍りしている千冬さんが見えますなぁ。

 

 

【よろしければ、わたしが喜びのダンスを踊りましょうか!(ギニュー)】

【Shall we ダンス?(邦画)】

 

 

 あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ッ!!

 

 

 

 

 

 

「ま、まさか……一次移行(ファースト・シフト)!? あ、あなた、今まで初期設定だけの機体で戦っていたって言いますの!?」

 

 さっきのオホホ笑いなオルコットは何処へ。打って変わって驚きももんがーなオルコットが、声を荒らげて一夏に問い掛ける。俺は喜びのダンスってるけどな。

 だが彼女以上に目を丸くさせているのは、ファースト・シフト的なヤツを完了させたらしい一夏本人だった。俺は喜びのダンスってるけどな!

 

 【白式】というより、形状を変えたブレードを見つめている。俺はry。

 

「これは……千冬姉が使ってた武器…?」(そうだ。確か名前は【雪片】だった筈。そして俺が手にしているこの武器の名は……雪片弐型…!)

 

 ブレードの刀身に光が纏う。

 

「俺は世界で最高の姉さんを持ったよ」(思えば俺は、いつだって守られてきたんじゃないか。千冬姉に……そして、旋焚玖に…!)

 

 何か急に語りだしたぞアイツ。

 どうした一夏、ここにきてまた負けフラグを建設してるのか? 負ける事を諦めていないのか? 

 

「この試合も俺は既に一度負けている。それでもここまで粘れたのは、旋焚玖のおかげさ!」

 

 テメェのおかげで俺ァ踊らされてっけどな! さっさと勝って帰ってこいやァ!!

 

 一夏がブレード(雪片弐型)を構える。

 

「……アナタは主車さんを高く評価していますのね」(織斑さんといい、篠ノ之さんといい……一体、あの変人のどこにそんな魅力がありますの…?)

 

「へっ、最高のダチだ…!」(幼い頃から俺を育てる為に、仕事で家を空ける事の多かった千冬姉……でも、俺はちっとも寂しくなんてなかった)

 

 

『遊びに行くぞオイ!』

 

『たまにはゲームするぞオイ!』

 

『バイトだァ!? 見送ってやるぞオイ!』

 

 

 いつだって旋焚玖は俺の家に顔を出しに来てくれた。騒がしくない日なんて無かったくらいだ。千冬姉がドイツに出張するってなった時だってそうだ。

 

『馬鹿野郎お前飯食いに来いお前!』

 

 旋焚玖と旋焚玖の両親は、俺を温かく歓迎してくれた。何より、俺が勝手にISに触ってしまったせいで旋焚玖を巻き込んじまったのに。

 

『気にすんなよ。トモダチ、だろ?』(ザックス)

 

 アイツはザックスだった(意味不明)

 

「いつまでも旋焚玖の優しさに甘えてられねぇ…! 俺の実力じゃあ、まだまだアイツの隣りには立てねぇけど…! せめて背中は守らせてもらうぜ、この【雪片弐型】と共になッ!」

 

 決意の籠った熱い言葉に呼応するかのように、刀身の光も強く瞬く。

 

「……いいでしょう、このセシリア・オルコット…! あなたの覚悟を前に、逃げも隠れもしませんわッ! いきなさい、ブルー・ティアーズッ!」

 

 再びミサイルが一夏に向かって放たれる。

 だが……!

 

「視えるッ…!」

 

 横一閃。

 迫り来るミサイルを【雪片弐型】で真っ二つ、まさに一刀両断してみせる。それだけじゃない、両断されたミサイルが爆発し、その衝撃が一夏の背中に届くよりも速く、一夏は動き出していた。

 

 目標はもちろん、セシリア・オルコット…!

 

 

 

 

 

 

「……凄ェ…」

 

 あれが『初期化』と『最適化』を終えた、本当の意味で一夏の専用となった機体なのか。動作の一つ一つがまるで違う。

 それは馴染んでいるなんてモンじゃない、もはや一夏と【白式】が一心同体化していると言っても過言じゃない動きだ。そりゃあ俺のダンスも止まるわ。

 

 左手ニギニギも無し。

 これは本当に大金星を期待してもいいのか…? 

 

「オルコットに勝てるぞ、押しきれ一夏!」

 

 篠ノ之の応援も熱が入る。

 ああ、そうだ!

 

 勝てる……勝てるんだ…!

 

「体が軽いぜ!」

 

 ん?

 

「こんな熱い気持ちで戦えるなんてな!」

 

「「 あっ 」」(察し)

 

 最初に気付いたのは俺と山田先生だった。

 2人同時に気付いてしまったのである。やっぱり山田先生はオタッキーなのである。

 

 俺たちの気持ちを知ってか知らずか、オルコットの懐に飛び込んでいく一夏。下段から上段へ逆袈裟払いを放つッ! 

 

 あの台詞と共にッ!

 

「もう何も怖くないッ!」(当たるッ! この距離じゃ外さねぇッ!)

 

「くぅっ!?」(ま、負ける!? このわたくしがッ…! 負けてしまいますの!?)

 

 敗北を覚悟したオルコットの機体へ、勝利を確信した一夏の斬撃が当たる直前に……決着を告げるブザーが鳴り響いた。

 

 

『試合終了。勝者……セシリア・オルコット』

 

 

 知ってた。

 理由は知らんが原因は知っている!

 

 

【一夏の仇!! 今すぐアリーナへ乱入するッ!】

【敗者な一夏を例のテーマでお出迎えする】

 

 

 あ、【下】で。

 例のテーマってきっとアレだろ。

 

 いいぜ、熱唱してやんよ。

 俺の美声で傷心を癒されな。

 

 






旋焚玖:サールティー ロイヤーリー♪

一夏:(´・ω・`)?

真耶:タマリーエ パースティアラーヤー レースティングァー♪

旋焚玖:Σ(゜□゜*)!?



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