選択肢に抗えない   作:さいしん

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敵情視察、というお話。



第54話 セシリアは名探偵

 

 

 

「で、参考になった?」

 

「……なると思いますか?」

 

「ですよねー」

 

 先程までわたくしは、清香さんと共にジャパニーズアニメを鑑賞していました。何でもそのアニメに登場するキャラクターの1人が、主車さんの強さと同等であるとピットで話に挙がりましたので、3日後の試合の参考にと思っていたのですが。

 

「主車さんは手からビームを撃ちますの?」

 

「いや、無理っしょ」

 

 ですわよねー。

 

「主車さんはIS無しで空を飛べますの?」

 

「いや、無理っしょ」

 

 ですわよねー。

 

 そもそも100億倍の強さとか、桁がおかしすぎて正直わたくしには想像もつきませんわ。ここはもうシンプルに、主車さんは織斑さん以上の強さ、とだけ考えた方が良いかもしれませんわね。

 

「んもう……それもこれも織斑さんが100億倍とか仰るからですわ」

 

「それを普通に信じちゃうセシリアは可愛いなぁ」(誰がどう聞いてもアレは冗談っしょ。確かに誰もツっこみはしなかったけど。んでも、主車くんは『なに言ってだコイツ』みたいな顔で織斑くんを見てたしね)

 

「そ、そうでしょうか。まぁわたくしも、美容には気を使っていますからね!」

 

「あっはっは~……そういうとこだぞ~!」

 

「きゃっ!? な、何ですの清香さん!? 急に抱きつかないでくださいまし~!」

 

 んもう!

 清香さんにも困ったものですわ!

 

 このわたくしに、こうまで無遠慮な接し方をしてくるなんて。遠慮の無さで言えば、まぁ主車さんが断然トップなのですが、女子じゃこの清香さんが一番ですわね。 

 このエルィィィトに断りもなく抱きつくだなんて、イギリスでは考えられない、畏れ多い行為ですのよ? 分かってますの?

 

 とはいえ、イギリスの学園では経験する事のなかった、対等なコミュニケーションに、少なからず心地良さを感じているのも事実です。ここは特別に不問にしてあげましょう。仕方なく、ええ、仕方なくですわ、オホホホ!

 

「なぁにニヤニヤしてんの~?」

 

「なぁっ!? ニヤニヤなどしていませんわ!」

 

 言っておきますが、わたくしがアナタを乱雑に振りほどかないのも仕方なく、ですからね! 大人しくされっぱなしと思わない事ですわよ! わたくしのベアハッグを喰らいなさい!(照れ隠し)

 

 

 

 

 

 

「実際、主車さんはどれくらい強いのでしょう…」

 

「どうだろね。まだ試合してるとこ見た事ないし……あ、でも、ニュースで報道されてたじゃん! ほら、めちゃくちゃ暴れてたやつ! セシリアも観た事あるっしょ?」

 

「実はわたくし、観ていませんの」

 

「えぇ!? ウッソだぁ! だってあんなに毎日報道されてたんだよ? 日本だけじゃなくて世界中でって聞いてるよ?」

 

 織斑さんの記者会見は確かに観ましたわ。世界初の男性起動者という事で、わたくしもかなり衝撃を受けましたから。

 ですが、終始(´・ω・`)な顔でインタビューに受け答えする織斑さんを観て、やはり男性はISを起動させても弱い存在なのだと、あの頃のわたくしは思ってしまいましたわ。

 殿方には期待できない。それは2人目も同じという思いから、あえて観ないようにしていましたわね。

 

「じゃあ、セシリアも今から観る? 絶対このサイトにもアップされてるだろうし」

 

「そうですわね。政府の人間を相手に派手に立ち回った、というのは聞いていますし。その映像を元に検証しましょうか」

 

 主車さんの名前で検索をかける。

 すると一番上に、主車さんの姿が写っているサムネイルが出てきましわ。これが例のニュース映像なのでしょうか。

 

「えっと、タイトルは……大乱闘スマッシュブラザーズX…?」

 

「あっ」(察し)

 

「え?」

 

「何でもないよ~」

 

「そ、そうですか? ではさっそく開いて……えっ、な、何ですのこの再生数!? 1,145,148,101,919回も視聴されてますの!?」

 

 桁がおかしいですわよ!?

 これって1兆回以上も再生されてるという事ですわよね!? 世界でたったの2人しかいない男性起動者とはいえ、この視聴回数は異常ではなくて!? 

 

 いえ、どうなのでしょう……世界に対するISの影響力を考慮すれば、これくらい視聴されていてもおかしくはない……?

 

「き、清香さんはどう思い―――」

 

「良いよ!来いよ!」

 

「え、何がですか?」

 

「何でもない」(迫真)

 

「そ、そうですか? えっと……では、再生しますわね」

 

 こうも無表情で言い切られると聞くに聞けないですわ。

 清香さんの反応から推測するに、おそらくこれは、日本特有の文化なのでしょう。イギリス育ちのわたくしには難しいと判断しての、清香さんの返答と捉えるのが自然ですわね。

 

 

『昨日の午後3時過ぎ。国内でまた新たに、男性起動者が発見されたとの事です。まずは映像をご覧ください』

 

 

 ふむ……これが主車さんがISを起動させた時に流れたニュースですか。織斑さんと違って、主車さんは記者会見を開いていないとの事ですが、さて……?

 

 

『3人に勝てる訳ないだろ!』(顔にモザイク)

 

『馬鹿野郎お前俺は勝つぞお前!』

 

 

「ブフッ…! た、確かに暴れてますわね。わたくしとした事が、少し吹いてしまいましたわ、うふふ」

 

 笑ってしまってすみません、主車さん。

 でもわたくし、アナタがこんなに焦っているのを観たのって初めてなんですもの。知り合ってまだ10日足らずではありますが、主車さんはいつもどこか余裕めいた雰囲気…というか、不敵な笑みばかり浮かべてられますもの。

 

 うふふ、こんな普通の学生っぽい表情もされますのね。

 

「いやいや、凄いのはこっからだって。ほら……くるよ!」

 

 

『ケガしてェ奴からかかって来いッ!!』

 

 

 な、なんと…!

 主車さんと対峙している相手は、20人すら超えているように見えます。それなのに、主車さんはまるで臆することなく吠えてみせますか…! むむぅ……この動じない心胆は賞賛に値しますわね。

 

「ぶっちゃけ、このシーンだけはカッコいいと思う」(素)

 

「そ、そうですわね。優雅ではありませんが、凛々しいお姿と言えるでしょう」

 

 普段の主車さんも、これくらいキリッと真摯な佇まいで居てくれましたら、わたくしだって悪態など吐きませんのに。

 

 それにしても、本当に大暴れしてますわね。

 

 自分から渦中に飛び込んでいったのにも驚きますが、主車さんはただの喧嘩好きな御人ではなかった……? 何かしらの武を心得ているのでしょうか。そして、この乱戦でどうしてそこまで冷静に対処できますの…?

 

「……って感じで、織斑くんの記者会見よりもインパクトあったからさぁ。何かもう一時はテレビでずっと流れまくってたんだよね」

 

「確かにインパクトはあるでしょうね。それにしても……ふむぅ…」

 

 本人自身の強さとISの強さは、また話が変わってきますわ。それでも彼のメンタルの強さは、IS技術に関係ないとはいえ十二分に脅威と言えましょう。わたくしも試合の時は気を付けなければいけませんわね。

 

「さて、動画も見終わりましたし……あら? この下はコメント欄でしょうか」

 

 何気なしにスクロールしては、軽く目を通していく。

 

 

143,000件のコメント

 

 

『いいカラダしてんねぇ!』

 

『身体もいいし顔もいい』

 

『フツメンだな!(掘られ顔)』

 

『フツメンだな!(掘り顔)』

 

『両刀なのか……(興奮)』

 

『(IS起動させて)もう許せるぞオイ!』

 

 

「な、なんですのこれは……」

 

「たまげたなぁ」(恍惚)

 

「え?」

 

「何でもない」(迫真)

 

 先程から所々でおかしくなる清香さんの言動ですが、深く指摘してはいけないと第六感がわたくしに囁きますわ。

 

 気を取り直して、もう少しだけ見てみましょう。

 

 

『正直この子買いたい。買いたくない?』

 

『ええやん、なんぼなん?』

 

『こちら、14万3千円になっております』

 

『安すぎィ!!』

 

『これは買う(断言)』

 

『旋ちゃんを変な目で見んな!ヽ( `皿´ )ノ』

 

『36回払いでオナシャス!』

 

『バイトしなきゃ(使命感)』

 

 

「……えっと…主車さんって人気ですのね」

 

 まだまだ日本語の拙いわたくしでは、深い部分までは読み取れませんが、きっと良い印象を持たれているという事だけは分かりましたわ。

 

「おっ、そうだな」(優しい嘘)

 

 清香さんは相変わらず変な感じですし、もうここらへんで動画は閉じてしまいましょう。

 

 しかし、流石は世界でたった2人だけの男性起動者なだけあって、わたくしが想像していた以上に、彼の認知は凄まじいものになっていましたのね。

 悔しいですが、知名度だけでいえば、今のわたくしはきっと織斑さんにも主車さんにも負けているのでしょう。

 

「織斑くんも主車くんも、下手な有名人よりよっぽど有名人な立ち位置にいるもんね。もしかしてもうwikikipediaとかあったりしてね!」

 

 確かにあってもおかしくないですわね。

 他の方が主車さんをどう評価しているのかも気になりますし、事のついでですわ、もう少しだけ調べてみるのも一興でしょうか。

 

 ヤホーで主車さんの名前を検索してみる。

 やはりと言いますか、何と言いますか。ありましたわ。一番上にヒットしましたわ。

 

「ありますねぇ!」

 

「テンション高いですわね、清香さん」

 

 まぁ、陰鬱な気分で見る必要も無し。好奇心を突つかれた程度なノリで見るのが良いのでしょう。さっそく主車さんの記事をポチッとクリックしてみますわ。

 

 

『世界で2人目のIS男性起動者。最狂、最悪、最強の男。主車旋焚玖。』

 

 

「……は?」

 

「うわ」

 

 

『主車の声を聞くところ、すべて血の色で染まる。女、子供、老人……すべてに平等に暴力を持って制する。残忍、凶暴、悪辣、卑怯、およそ悪の形容すべて当たる男。

 

 血の滴る音の中を生き、骨の折れる音を好み、血の叫びの中で微笑む。この者に勝って助かった者は無し。今までの死者は零。しかし行方不明者多数。日本で、否、世界で最も危険な男……それが主車旋焚玖…!』

 

 

「…………………」

 

「…………………」

 

 

『今が全盛期の主車旋焚玖伝説』

 

・3ペチ5殺は当たり前、3ペチ8殺も

・微笑むだけで女は死ぬ

・格下相手には手は出さず、自分の奥歯を折るのみ

・折れた奥歯は次の日には元通り

・下戸なのに酔拳の達人

・夫婦の離婚問題も3分で解決

・世にある武器全てをマスターしている

・武器造りにも興味あり。現在、金剛暗器を開発中か

・童貞

・百獣の王すぎてライオンにナンパされる

・チーターと浮気中、黒豹に見つかってしまうが事なきを得る

・絶世の美女が裸エプロンで現れても興味無し

・日本のヤンキー100億人を小指だけで倒してのける

・雷を素手で切り裂いた経験あり

・それ以来、雷の方から挨拶にやって来る

・竜巻が発生したと思ったら、真ん中で扇子を持って踊っていた

 

 

「……主車さんって凄い人なのですね」

 

「……そうだね、凄いんだね主車くんって」

 

「この記事、信じられますか?」

 

「信じれないよう」

 

 ですよねー。

 ですわよねー。

 

 ですが、こんなバカげた逸話を語られてしまう程の人物……そんな人とわたくしは3日後に試合を行う…!

 

「くっ…! こんな事なら見なければ良かったですわ! 余計に頭が混乱してきましたもの…!」

 

「あー、まぁそうだよねぇ」

 

 一体、主車さんは何者なのですの!

 こんな途方もない記事を見てしまった以上、もうあの人に対して、たまたまISを起動させてしまった、少し強いだけの男の子…! という印象は捨てた方が良さそうですわね。 

 

 わたくしは既に織斑さんとの試合で、【ブルー・ティアーズ】の戦術を披露してしまっている。きっと何らかの対策をしてくるに違いありませんわ。

 対して主車さんが強さを示しているのは、例のニュースで流れている短い映像のみ。わたくしが対策を練るには、あまりに心許ない材料と言えるでしょう。

 

 どうしましょう……ここは主車さんをよく知る人物に、話を聞いた方が良いのでは…? となると、必然的に相手は限られてきますわね。IS学園でいくと織斑さんか篠ノ之さんになるでしょう。

 ですが、あの2人は明らかに主車さんを好いてますからね。主観的な意見ばかり言ってきそうな予感がプンプンですわ。あ、ちなみに今のプンプンはプンプン!ではなくプンプンしますわ的なプンプンですので、あしからず。

 

「主車くんと知り合いかぁ……織斑くんと篠ノ之さん以外だったら……あ、織斑先生が居るじゃん!」

 

「その手がありましたか! 流石は清香さんですわね!」

 

「えへへ! でしょでしょ!」

 

 そうですわ、織斑先生が居るではありませんか! 

 あの人なら主観的ではなく客観的なお話をしていただける事でしょう。なんてったって大人ですし? そもそも教師ですもの。その上、かの伝説のブリュンヒルデときていますからね!

 

「善は急げ、ですわ! さっそく主車さんのお話を聞きに、職員室まで行ってきますわ!」

 

「いってらっしゃい!」

 

 

 






(悲報)その後彼女の姿を見た者はいない。
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