vs.選択肢、というお話。
「いきなり大きな声はビックリするからダメだって、イギリスの代表候補生が言ってたゾ」
「そ、そうですわね。すみませんですわ」
(言ってたの)お前じゃい!
アリーナに着いたら、オルコットが何やら篠ノ之みたいに百面相してたから、俺も控えめに声掛けたのに。怒髪天的反応は流石に想定してなかったばい。思わず可愛い声が出ちまったぜ、へへへ。
「ンンッ……来ましたわね、主車さん!」
あ、コイツ無かった事にしようとしてるな。まぁここで掘り下げる必要も無し。オルコットの対応は正しいものと言えよう。
【超ビックリしたんですけドゥー? 心臓止まるかと思ったんですけドゥー?】
【許してほしいならブタの真似をしてみろ】
うぜぇぇぇぇッ!!
ここでチマチマチクチクする意味ねぇだろ! そういうとこやぞオイコラ! 展開が進まねぇんだよお前のせいでよぉ!
なにがブタの真似だお前ルカ・ブライトか!
「許してほしいならブタの真似をしてみろ」
でも言っちゃう。
オルコットがどんな返しをしてくるのか気になる今日この頃。オルコットだから言える今日この頃。
いい関係築けてますよ、俺たち!
「……怒りますわよ?」
【怒ってみろよオラァァン!】
【プンプン言ってみろよオラァァン!】
あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ッ!!
今夜のメインは決闘だろぉ!
まだ前哨戦すら始まってねぇよ! 何でここでグダグダさせるんだよぉ!
「プンプン言ってみろよオラァァン!」
「な、なんですの!? 今日のアナタ、やけに好戦的ですわよ!?」
「それだけ気合が入っているという事だ」
「そうですか」
「そうだよ。だからプンプン言ってくれ」
「……いいですわ。ただし、わたくしに勝てたらですわ!」
フッ……負けられない理由がまた増えちまったな(やる気アップ)
「さぁ、主車さん! 時は有限です! さっそく試合を始めましょう!」
オルコットは俺に見えるように、自身の左耳で青く輝くイヤーカフスをピンと指で弾いてみせた。はぐれ外堂の召喚かな?
「む……」
お外堂さんは召喚されず、かわりに【ブルー・ティアーズ】を纏ってみせるオルコット。なるほど【ブルー・ティアーズ】の待機形態はイヤーカフスなのか。
しかし、早くもやる気満々ですねぇ!
「わたくしの準備は出来ましたわ! 主車さんも早く纏いられまし。【打鉄】ですか、それとも【リヴァイヴ】でしょうか?」
「分かった」
【1人で準備する】
【オルコットにも手伝ってもらう】
「まずは格納庫に行こう。ついて来てくれオルコット」
「は、はぁ……」
トテトテ歩く俺とガショガショ鳴らして続くオルコットは格納庫にやって来た。当然、お目当ては一番前に設置されてある【打鉄】通称【たけし】だ。
「俺は右の方を持つからオルコットは反対側を持ってくれ。一緒に運ぼう」
「は、はぁ……は? いえいえ、ちょっとお待ちくださいな。わたくしはISを纏ってますから問題ありませんが、アナタは生身ではありませんか」
「何の問題ですか?」(レ)
ひょいっと持ち上げる。
重いけど持てる。
だって俺、力持ちだもん(ドヤぁ)
「……やりますわね」(なるほど……垣間見せましたわね、肉体的強度を…! ですが驚きませんわ、驚いてやりませんわ! 身体能力とIS技量は別物ですから!)
オルコットも持ち上げたところで、俺たちは【たけし】を運びながら格納庫を出る。
「わっしょい、わっしょい」
「…………………」
「わっしょい、わっしょい」
「…………………」
【一旦、止まる】
【このまま進む】
はい、ストップ。
一旦、止まろうじゃないか。
「主車さん…? どうして動きませんの?」
「わっしょい」
「はぁ?」
「わっしょいだろ!」
「な、なんですの!? もしや、わたくしにもそれを言えと仰るのですか!?」(普通に嫌ですわ! だって何やら恥ずかしいですもん!)
「当たり前だよなァ?」
うわぁ……明らかに眉を顰めてらっしゃる。
なんだよ、恥ずかしがってんじゃねぇよ。こういうのは掛け声が大事なんだよ。共同作業ナメんな!
「……意味も知らない掛け声など遠慮しますわ」(ふふん! わたくしがいつもいつもお付き合いすると思わない事ですわ! わたくしに言わせたければ明確な意味を仰ってみなさいませ! ふふっ、どうせ掛け声に意味などないでしょうけど! うふふのふ!)
おやおや、何やら妙に勝ち誇った顔をしてますなぁ。
意味など無いとお思いか? それとも俺が説明できないと? うひひ、俺を誰だと思ってんだ? 困った時は雑学でその場を凌いでみせるで有名な雑学王旋焚玖さんよ!
「和上同慶」
「は?」
「『わっしょい』には和の心を持って平和を担ぐという意味が込められている」
「和の心、ですか…?」
「ああ、そうだ。イギリスでは騎士道精神があるように、日本にも和を尊ぶ心が宿っているんだ」
「な、なるほど……そんな意味が込められていますのね」(ぐぬぬ……そういえば、主車さんは意外に物知りなお方でしたわね。わたくしの名前と同じ惑星だとかも知っていましたし)
「ほれ、説明したからオルコットも言え」
完全勝利、完全論破とはまさにこれ。
ふふふ、敗北が知りたいぜ。
「わ、分かりましたわ……わ、わっしょい、わっしょい」
あらやだ、照れながら言うオルコット超可愛い。俺も俄然テンション上がってきたぜ! 元気よくいこう!
【えっさ! ほいさ!】
【せいや! そいや!】
言い方を変えるとは言ってない。
「えっさ! ほいさ!」
「んもうっ! どうして変えるのですか!」
「俺に聞くなよ!」
「アナタ以外に誰が居るというのですか!」
選択肢(解答)
「なんだよ、大きな声出すなよ!」
「出しますわ! わたくしのわっしょいを蔑ろにするなんてヒドイですわ!」
「それはすまんかった!」
ミ゛ャーミ゛ャー騒ぎながら【たけし】を運んでたら、いつのまにかアリーナの中央に到着したでござる。
「はぁ……主車さんのせいで試合前ですのに、なんだか疲れてしまいましたわ」
「おっ、棄権宣言か?」
「そんな訳ないでしょう! さぁ、主車さん! 今度こそISを纏いなさいな!」
ちっ……アホアホなやり取りに付き合わせて、オルコットのボルテージを削ぐ削ぐ作戦は失敗に終わっちまったか。どれだけ俺と闘りたがってんだコイツ。
試合前の小細工は確かに成功しなかったが、悔やんでいても仕方ない。表情には出さず心の中で舌打ちしながら【たけし】に身を預けた。
「あら…? 少しお待ちくださいな。主車さん、そういえばあなたISスーツはどうしましたの?」
「……ふむ」
なぁぁぁにがISスーツだ! なぁぁぁにがISを効率的に運用するための専用衣装だ! あんなピチピチしたモン着れるかアホ! ちんこのモッコリ具合がバレバレじゃねぇか!(巨根宣言)
「俺ほどの男になると制服で十分なのさ」
ぶっちゃけ、俺にはスポンサー付いてないしね。
一夏は立場上データ収集しなきゃいけないからって事で、強制的に男性用の試作品を着けないとダメらしいが。ぬふふ、初めて専用機持ちじゃなくて良かったと思えたぜ。
「まぁいいでしょう。では、今度の今度こそ試合を始めましょうか!」
【やっぱり一夏にISスーツを借りよう】
【まだ慌てる時間じゃない】
「あ、おい待てい」
「んもうっ! 何ですの!? 時は有限だと言ったでしょう!」
出来れば俺だって早いとこ闘りたいと思っているさ。これだけははっきりと真実を伝えたかった。
で、どうしよう。
ソッコー【下】を選んだは良いが、それらしい言い訳を考えないといけない。いやでもだってよ、【上】なんか選ばんだろ。一夏が着たISスーツを俺も着るの? 一夏の汗が染みついたピチピチスーツを俺も着るの? 着るかバカ!
「時は有限。いい言葉を使ってみせるじゃないか、オルコットよ。『時間』ではなく『時』と表現しているところに巧を感じるな」
「そ、そうですか? 実はわたくしも結構お気に入りの言葉でして……ハッ…! その手には乗りませんわよ! 褒めたらわたくしが舞い上がるとお思いでしょうが、そうはいきませんわ!」(ですが、言葉遊びが得意な主車さんからのお墨付きを頂けたのは自信が付きますわね!)
ちっ……この10日間で流石に学習しやがったか。
「確かに時は有限だが、言ってもまだ10時半ってとこだ。別に小学生じゃあるまいし、もうオネムって事はないんだろう? それとも他に急ぐ理由があるのか?」
「当然ですわ! 夜更かしは美容の大敵ですもの!」
「それはまずいな!」
一夏は俺の背中を守ると言ってくれた。なら俺はオルコットの超絶美人っぷりを守ろう。ISを起動させた男性と美女。当人の俺にとっちゃ、稀少価値は後者が勝るのだ。俺が守護らねば…!
【たけし】を纏った俺は両手を広げて構えてみせる。
「独特な構え方をしますのね」
「オーガだな」(刃牙的な意味で)
「オーガ……日本語で鬼という言葉ですわね」(なるほど……自分の強さは鬼をも超えると…! それほどまでに自信をお持ちになっていると…! そう仰っていますのね!)
オルコットから熱い勘違いの気配を感じるぜ。
だが、もう慣れたぜ(哀愁)
「さぁ、主車さん! 今度の今度の今度こそ! 試合開始ですわ!」
「あ、おい待てい」
一番大事なやり取りがまだだった。
決闘の前に言っておく必要があった
「んもうっ! 主車さんはわたくしの美貌が損なわれても良いのですか!」
なんかコイツ俺に似てきたなぁ。
やっぱり仲良しじゃないか!
【喜びのダンスを披露する】
【この想い、もう抑えきれない! 告白しちゃおう!】
あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ッ!!
「今夜は寝かさないよ~♪」(白目)
「は?」
いいから見ろ!
俺のキレのあるダンスを見ろ!
あ、腕以外動かない【たけし】は一旦解除で。
「Ready?………Gohhhhhhッ!!」
「なっ!? 何という激しいダンス…! ブレイクダンス以上にブレイクしてますわ…!」
3分くらいで終わるから!
怒らず目に焼き付けておいてね!
◇
「す、すごいキレですね…!」(あれは…!? まさかミーモ・ダンシング!?)
「ああ、そうだな」(まだ始めないのか旋焚玖、私の美貌が損なわれてしまうぞ)
ピットにてアリーナの様子を見守っている、この試合の審判を務める真耶と千冬の呟きだった。
「ヒューッ! 旋焚玖、ヒューッ!!」
「えぇ……いや、えぇ~……?」(いやいや、そこで手を振るのは違うだろ一夏よ…)
アリーナの観客席にて旋焚玖とセシリアのやり取りを見守っている、この試合で唯一の観客を務める一夏の喝采と箒の呟きだった。
◇
「改めて聞くが、俺たちはこれから決闘をするんだな?」
「え、ええ、そうですわ」(なぜ何事も無かったかのように話を進めるのでしょうか…)
スルーするのも一つの処世と知れ。
俺はもう慣れた。
一夏と千冬さんも、もう慣れた。
篠ノ之は……表情には出すものの、空気を読んでツっこまないようになってきているな。オルコットも、まずは篠ノ之を目指してがんばろう。そうする事で展開が少しは早くなるぞ。
「……見たか、箒」
「ん? ああ、すごいダンスだったな」
「何言ってんだよ、そっちじゃないだろ? ほら、旋焚玖のヤツ、あれだけ激しく踊ってたのに息一つ乱れてないんだぜ?」
「むっ……確かに言われてみれば…!」(恐ろしい心肺機能をしているって事か…! 一夏め、フザけて見ていたかと思えば、しっかり視ていたのか! 流石は私のライバルだな!)
観客席では、そんな会話が成されていたとか。
「つまり、だ。形はどうあれ、俺は勝利を目指して臨めばいいんだな?」
「当たり前ですわ! わざと負けたりしたら、奴隷……にはしませんが…! そうですわね、もう2度とアナタにはプンプンを言ってあげませんからね!」
!!!?!?!?!
「身命を賭して臨む事を約束しよう」
「えっ…あ、は、はい…お願いしますわ」
『では、主車さんとオルコットさん。試合を始めてください』
2人の教師と2人の生徒が見守る中、アリーナに試合開始を告げるブザーが鳴り響いた。
これで前半戦なのか(困惑)