選択肢に抗えない   作:さいしん

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終始マウント、というお話。



第59話 駆け引きと主導権

 

 

 引き続きマウントなポジションよろしくの体勢で駆け引きを続ける。だが、少しさっきまでとは状況が変わっている。【たけし】の元に居たファンネル達が、今は馬乗りになっている俺を囲んでいるのだ。

 

「織斑先生の許可も出た。お前もファンネル的なモンを呼び寄せている。あとは続行の火蓋はお前が切るだけだな」

 

 お願いだから切らないで。

 切ったら怒る。

 というか、普通に死ぬわ。

 

 だが、ビビッてる心情は1ミリ足りとも表に出すな。出したら最後、俺の方へ傾きかけている主導権も、一瞬でオルコットに移ってしまうだろう。

 そうなったら【たけし】を解除した意味がなくなってしまう。むしろ敗北への近道になっちまうからな。解除しちまった以上、もうこのまま突っ走るしかない。

 

「なにやら難しい顔をしているな」

 

「あ、当たり前ですわ!」

 

 当たり前だよなぁ?

 

 だが安心しろ、オルコット。

 それが正常だ。ここで葛藤するのは当然である! この状況でもし何の躊躇いも無しに、ライフルでバンバン、ファンネルでビュンビュン撃ってこられたら俺が困るわ。

 

「何を悩む事がある。俺が良いツってんだから撃ってこい。篠ノ之流柔術唯一皆伝者な俺を信じろ」

 

 信じてはいけない。

 

 そして、お前は絶対に信じれない。

 これは確信ではなく予告だ。俺とお前はまだ知り合って10日しか経っていない。俺の強さを盲信するに足る年月をまだ共に歩んではいないんだからな!

 

「うぅ~~~……! む、無理ですわぁッ! そんな自信満々に言われても無理なものは無理ですわ! 万が一の事が起きたらどうしますの!?」(主車さんがどれだけ大丈夫だと言っても、生身の方に撃つなど出来る訳がありませんわ!)

 

「……そうか」

 

 やったぜ!

 成し遂げてやったぜ!

 

「そんな非情な選択、わたくしには選べませんわ……」

 

 このレベルな内容を俺は取捨選択させられてる毎日だけどな。

 主車旋焚玖なだけに(極上の自虐)

 

 しかし相手がオルコットで良かった。

 仮にこれが一夏だったら、お前それはもうアレだ。

 

『おう、分かったぜ!』

 

 躊躇いなく撃ってきただろう。

 アイツが一番俺の事を信頼しているからな。

 

 仮にこれが篠ノ之だったら…?

 

『……なるほど。お前が言うのだから大丈夫なのだろう』

 

 ある意味、武に関しては一夏以上に俺を信頼しているフシがあるしなぁ。きっと少し躊躇しつつも、やっぱり撃ってくるんだろうなぁ。

 

 千冬さんだったら…?

 

『フッ……どう対処するか見ものだな…!』

 

 やっぱり撃ってくるじゃないか!

 

 キチガイ兎だったら…?

 

『避けたら殺しちゃう♪』

 

 やっぱりキチガイじゃないか!

 

 結論、織斑家と篠ノ之家は魔物家族。

 まぁなんだ、俺が言いたいのは、だ。

 

 たまには俺も選択させる側に立たせろい!

 

「さて、オルコット。俺が撃てないのなら、あとはもう俺を振り落とすしかないな?」

 

「ぐっ…! そんなこと言われなくても分かってますわ!」(むしろ、先ほどから撥ね除けようとしてますわ! なのにッ…! この人の体幹はどうなっていますの!?)

 

 うわははは!

 バランスのいい山本選手より俺はバランスいいからな! IS着けてようが、下でちょいとジタバタしたくらいで崩れるような体幹してねぇぜ!

 

 やはりマウントポジションは最強だったか…! まぁオルコットが俺の身体を気遣っている部分もかなり影響してるんだろうけどな。やっぱお前はいい奴だ!

 

「くぬぬぅ…! あっ…!」(そうですわ! 上空に上がるのです! そうすれば、流石の主車さんも退けざるを得ない筈ですわよね! やりましたわ! わたくしったらナイス閃きですわ!)

 

 何か思いついたって顔だなぁ。

 それも予想済みだがな!

 

 先に阻ませてもらうぜ、オルコット!

 

「言っておくがお前が空に上がろうとした瞬間、俺は迷わずお前に抱きつくぞ」

 

「な、なんですってぇ…!」(だ、抱きつく!? 抱きつきますの!? そこは普通退くのではなくて!?)

 

 出す前に防ぐ。

 出される前に防ぐ。

 

 これも迎撃。

 これもカウンターだ。

 

「抱き着くっていうか、空に上がられると俺の足が着かないんだから、必然的にしがみつく形になるな、うん」

 

「んなっ!?」

 

 そうだ、その反応だ。花も恥じらう乙女が、フツメンに抱きつかれるのは普通に嫌だろう? しがみつかれるのはもっと嫌だろう?

 

 だが、まだ甘い。追撃の手を緩めてはいけない。

 淑女を謳うオルコットだが、割とコイツって勢いに任せるタイプだからな。なんだかんだカッとなられて『望むところですわ! それでは我慢比べといきましょうか!』とか言われたら俺の負けである。

 

 だってそうなったら、普通に退くもん。

 いや、だって抱き着くとか余裕でセクハラじゃん。しがみつくとかそれもう極刑じゃん。しかも篠ノ之が観てるし。それで篠ノ之に嫌われたら俺マジで不登校になるからな。

 

「むしろもう、だいしゅきホールドする形になってしまうな、うん」

 

「だ、だいしゅきホールドですってぇ…!」(何ですのそのホールドは!? というか、やっぱりこの人はわたくしがだいしゅきなのではありませんか! 大胆な告白は殿方の特権という訳ですか主車さんんんんッ!)

 

 オイなんかコイツ勘違いしてる顔になってんぞ! 何をどう勘違いしてるかは分からんが、お前何かを勘違いしてるな!? 

 だが、ここで下手に掘り下げるとせっかくの流れが、またコイツの方へ傾きかけん…! 

 

 ここはこのまま押し通るッ!

 

 イギリス人のお前がだいしゅきホールドと言われても、いまいちピンと来ないのは百も承知! それは後で相川にでも聞いてくれ! 俺の見たところアイツは割とHENTAIだ!

 

「言葉で日本文化(HENTAI)を解さずとも、理解らぬまま感じ取れ…! 俺にセクハラをさせてくれるな…!」

 

 要約すると結局コレにつきる。

 

「セクハラ!? セクシャルハラスメントですか!? セクシャルなハラスメントはいけない事だと思います!」

 

「ああ、そうだ! だから空へゲインはやめた方がいいぞ!」

 

「確かにそうですわね……って、お待ちなさいな! どうしてアナタが提案している感じになってますの!?」

 

 ちっ、バレたか。

 まだ手綱を握り切れていないようだ。

 

 だが、俺もここで引く訳にはいかねぇ。

 今夜は俺が選択肢だ!

 

「なら選べ。俺にセクハラされるか、されないか! 前者を選んだ時点でお前はセクハラされたいエロエロって事になるがなァッ!!」

 

 【選択肢】流選択肢だオラァッ!!

 今夜は俺が選択肢になるんだよ!

 

「んなぁッ!? あなたはこの淑女たるわたくしにエロエロ願望があると言うのですか!」

 

 エロエロ願望とか素面で言えちゃうあたり、割と素質はあると思います(名推理)

 

「時は有限なんだろう? 長く悩んでる暇はないぜ?」

 

「ぐぬぬ…!」(なんという理不尽な選択肢を突き付けてくるのですか! 主車さんに勝つには上空へ逃げるのが最善の筈! ですが、それを選んでしまったら、わたくしはエロ認定されてしまいますわ! いーやーでーすーわー! 『美人だけどエロ淑女』とかって陰口を叩かれたくないですわ~~~ッ!!)

 

 『勝利』か『乙女』か。

 どちらを選んでみせるか。

 

 個人的にはオルコットがどっちを選択するか、このまま待ってみたいところではあるが、今は勝負が掛かってるんでな。

 

 前者を選ばれちまう前に、俺は俺で策を進ませてもらおうかッ!

 

「ずいぶん迷っているな、オルコットよ」

 

「当たり前ですわ!」

 

「そうだろう。俺だってセクハラはしたくない。これは偽りない本音だ(大嘘)。だから妥協点といこうじゃないか」

 

「むぅ……聞きましょう」

 

 よし…! まずは第一関門クリアだな。

 さぁ、こっからだ。

 

「なぁに、単純な話さ。俺は今からお前に何かしらの攻撃をする。それに耐えたらこの勝負、お前の勝ち。耐えられなかったらお俺の勝ち。これでどうだ?」

 

「……生身のアナタがISを纏うわたくしに攻撃してダメージを与えられると?」

 

 おやおや、ピキッときてるな?

 

「フッ……試してみるか?」

 

「ッ…! いいでしょう、受けて立ちますわッ!」(挑戦的な目! 挑戦的な物言い! 生身のアナタにそこまでされて引いては、代表候補生の名が泣きますわ!)

 

 策は成った…!

 主導権、握ったぜ…!

 

 後は仕上げを御覧じろ。

 勝負だ、オルコット…!

 

 





篠ノ之流柔術唯一皆伝者旋焚玖を信じろ。
なお作者は夜逃げの準備が出来た模様。

|彡サッ

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