選択肢に抗えない   作:さいしん

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見学する側、というお話。



第62話 初めての実習授業

 

 

 

「わたくしの完敗ですわ!」

 

 透き通った声で大いに嘯くセシリアさん。エルィィィトかつ淑女にのみ許された、腰に手を当てるポーズが本日も爛々と輝いて眩しい。

 

「はぇ~、しゅごいねちょいす~!」

 

 布仏の賛辞を皮切りに、教室内がにわかにざわつく。

 

 クラスメイトとの仲が極めて良好であるセシリアの発言なのだ。実際に試合ったセシリアがそう言うのならそうなのだろう、と誰も信じて疑っていない様子だった。

 

 嘘です!

 全部嘘です!(トランクス)

 

 って俺が言ったところで、もう覆せる雰囲気ではない。むしろ「空気読めよ」とか思われかねん感じが出来上がってんじゃねぇか。

 俺自身は空気の読める男だからな。こういう時は何も言わず、ニヒルな笑みを浮かべておくに限る。お前らは勝手に勘違いを加速させておくがいい!(諦めの境地)

 

「では、クラス代表は織斑一夏で異存はないな」(敢えて茨の道を往くか旋焚玖。私も影ながら支えてやらんとな)

 

 

【異議ありッ!!】

【異議なしッ!!】

 

 

 異議ないよ!

 なんだコラ、力強い肯定をご所望か!?

 

「異議なしッ!!」

 

旋焚玖は力強い肯定を行った!

 

「……そうだな、主車と織斑は学園でたった2人だけの男子だ。ある意味、一蓮托生と言っても良いだろう。互いにサポートしていく事が肝要だ」(そんなこと皆まで言わずとも、旋焚玖と一夏なら分かっているだろうがな)

 

 当たり前だよなぁ?

 ISについては俺の方がうんち過ぎて力にはなれねぇけど、雑務とかだったら大いに手を貸すぜ! だからお前はさっさと強くなって、俺にIS操縦のご教授を頼むわ。

 

「へへっ、これからもよろしくな相棒!」

 

「任せろ」

 

 むぁーかせろ!

 

「そういう事でしたら、このセシリア・オルコットもご協力しますわ! 一夏さんも旋焚玖さんも、まだまだISの操縦に関しては不安な面も多い筈。これからは共に切磋琢磨していきましょう」(そして、いずれお二方と再戦を…! 負けっぱなしは趣味ではありませんからね!) 

 

 これはイギリスの誇れるエリート。

 代表候補生で専用機持ち。ISに関する知識も俺たちの100倍は優にあるだろう。そう考えると、めちゃくちゃ頼もしい奴が仲間になったな!

 

強敵が味方になった途端に弱体化してしまうという風潮を、見事に打ち破ってみせたセシリア・オルコット。笑顔で旋焚玖たちと話す彼女の影で、静かに下唇を噛み、悔しさを滲ませる少女が居た。

 

(私も旋焚玖と一緒に居たい。けど、私はセシリアほどISの知識も無ければ技量もない。何より、専用機を持っていない身で、どうやって旋焚玖たちに教えられるというのだ…!)

 

 ん…?

 何か篠ノ之の背中が震えてるぞ、トイレかな?

 

 

【トイレか?】

【お前も一緒に強くなるんだよ!】

 

 

 女子にトイレ事情を聞くとか死刑待ったなし。異性が相手だと、思っても言ってはいけない事ってあるよねぇ。結構あるよねぇ。

 

「お前も一緒に強くなるんだよ!」

 

「うわビックリした!? な、なんだ、私に言ってるのか!?」

 

 ビビクンッてなったなコイツ!

 

 驚きモモンガーな感じで俺の方を振り向く篠ノ之。真後ろの席だからね。この近さでそんなに大きな声を掛ける必要もなかったか。

 いやはやしかし…今更ながら、前に篠ノ之後ろにセシリアってすごく恵まれた座席なんじゃないか? 両手に華の亜種・いわば前門の大和撫子、後門の貴族淑女。これを無敵と言わずして何と言う!

 

 で、何の話だっけ。

 ああ、そうだ、篠ノ之も一緒にセシリアに指導してもらおうって話だったか。

 

「当然だ」

 

 当たり前だよなぁ?

 織斑ブランドと篠ノ之ブランド。狙われる危険度でいけば、確実に後者だと俺は思う。現に篠ノ之は、去年の夏に拉致られるとこだったしな。

 強くならないといけないのは、一夏だけじゃない篠ノ之もだ。生身での強さはもちろん、相手がISだった場合を想定したら、ISの技量も上達させた方が良いに決まっている。

 

「お前も一緒にセシリアの指導を受けるぞ。拒否はさせねェ」

 

 一人でも強くなれるって言うんなら話は別だがな。孤独な修行は辛いぞ? みんなで楽しく強くなれるのなら、それに越したことはないだろう。

 

「う、うむ! そうだな、私も教えを請わねばな! よろしく頼む、セシリア!」(ふぉぉぉぉッ! だから私はお前が大好きなんだぁぁぁぁッ!!)

 

 おうおう、やる気が漲った良い返事だぜ!

 

「ええ、いいですわよ」(箒さんが旋焚玖さんを見るあの表情……なるほど、今なら分かりますわ。この人は旋焚玖さんに恋してますのね。つまりわたくしが旋焚玖さんに本気で惚れた場合、ライバルになるという事ですか…! ふふっ、恋のライバルというのも、また青春ですわね!)

 

「フッ……励めよ、ひよっこ共。では授業を始めようか」

 

 今日も一日が始まるな。

 

 

 

 

「これよりISの基本的な飛行操縦を実践してもらう」

 

 IS学園では、座学だけでなくISの実習授業も組み込まれている。昼休みも終わった5限目。今日がその一発目の授業だ。

 

 既に整列は済ませ、俺たちの前には千冬さんと山田先生が立っている。俺以外の全員がISスーツを着用している。そのせいで、とても目のやり場に困るのである! バレないようにチラチラ見るのである!

 

 ちなみに俺は千冬さんから渡されたジャージな体操服だ。何でも千冬さんが夜なべして縫ってくれたらしい(ブリュンヒルデジョーク)

 一人だけ浮いているが、男な時点で今更だし特に気にもしない。まぁ男用のISスーツが一夏の分しかないからね、しょうがないね。あっても着ないけどね。着てほしけりゃせめてポケットくらい付けろや(七色の道具的な意味で)

 

「織斑、オルコット。まずはISを展開しろ」

 

 専用機持ちは基本的に、自分のISをアクセサリーの形状で体に待機させているんだとか。セシリアは左耳のイヤーカフス。一夏は右腕のガントレットってな具合だ。

 

 【たけし】は俺が勝手に専用機だと決めつけただけで、基本的に訓練機なポジションだからな。今は当然、格納庫で眠っている。

 

「はい!」

 

 千冬さんに言われてから1秒と掛からず、セシリアが【ブルー・ティアーズ】をその身に纏う。千冬さんが言うには、1秒以内に展開してこそのIS熟練者らしい。

 

 んで、一方の一夏は……何やら苦戦してるみたいだな。「うーん、うーん」と唸ってはいるが【白式】が顕現される気配はない。どうした? 待機状態からの展開は初めてか? 力抜けよ。

 

「……展開できないゾ」

 

「うわははははは! あでっ!?」

 

「授業中だ、馬鹿者」

 

 千冬さんにゲンコツ喰らっちまった。

 

「すいません」

 

 お前のせいだぞ一夏コラァッ!! 

 お前その感じで呟くのマジでやめろや! 次笑ったら殴るぞって言われても笑える自信あるわ!

 

「どうした、織斑。昨日は一瞬で展開してただろうが」

 

 昨日?

 

「いや、昨日は無我夢中だったし」

 

「……ふむ、そうだったな。いいか、ISの展開はイメージする事が大事だ。自分が【白式】を纏っている姿を思い描け」(友達思いな男に育ってくれたものだ。姉として誇らしいぞ)

 

 あ、俺がブレアってアヘってた時のアレか。

 一夏のコーラパスがもうちょい遅れてたら、割とマジでヤバかったもんな。もう少しでダブルピースまでしちまうところを、まさに間一髪のタイミングだった。後で改めて礼を言っておこう。でもその顔で呟いたのは絶対に許さんからな。

 

「な、なるほど。【白式】を纏っている俺の姿を……こうか?」

 

 一夏の身体から光の粒子が解放されるように溢れて、そして再集結するようにまとまり、IS本体として【白式】が形成される。俺の視てた感じでいくと、だいたい0.7秒ってところか。やりますねぇ!

 

「よし、その感じを忘れるな。では、2人とも飛んでみせろ」

 

「「 はい! 」」

 

 セシリアはバビューンって感じで。

 一夏も飛行は前の試合でモノにしたのか、少し不安定には見えるが、そこまで大きな問題もなくセシリアに続いていった。

 

「……空を自由に飛び回れるって、どんな気分なんだろうな」

 

 多分、一夏より俺の方が稼働時間は長いと思うんだが、俺の【たけし】は不動明王以上に不動ってるからなぁ。むしろ俺たちが不動大明王さ。

 

「そうだな。私もまだよく分からん。早く一緒に飛べたらいいな」

 

 隣りに立つ篠ノ之が小声でそう言ってくれた。

 飛ぶのもそうだが、俺はまず歩けるようにならんとな。 

 

「それで……えっと、少し気になる事があってな」

 

 俺もお前の乳が気になって仕方ない。

 断固たる思いで視界に入れないけど。

 

「私と主車も今日から放課後は、セシリアと一夏と一緒にISの鍛錬をする…で合ってるよな?」

 

「ああ」

 

 ビシバシしごいて貰わねぇとな!

 

「専用機を持っていない私達は、必然的に訓練機で…という事になると思うのだが」

 

「ああ」

 

 俺は【たけし】を使うぜ!

 

「えっと、放課後は貸出申請の許可を得られた生徒しか訓練機は使えなくてだな。多分、私とお前が使えるのって、まだ少し先になると思う」

 

「……………………ああ」

 

 完全に忘れてた。

 そういや、そうだったか。

 

 使い放題(アリーナ使用時間外限定)に慣れちまって、すっかりそのルールを見落としちまってたわ。あーっと……どうしよう。

 とりあえず、これからは俺と篠ノ之が同じ日に使えるよう、一緒に申請しに行くのが必須で……ん?

 

 セシリアが上空からスピードに乗って降りてきた。んで、地表ギリギリのところでピタっと止まってみせた。しゅごい。

 

「よし、では織斑も同じく急降下と完全停止をやって見せろ。目標は地表から30センチだ」

 

「は、はい!」(えっと、イメージするのが大事なんだよな? 集中して、背中の翼状の突起からロケットファイアーが噴出してる感じで……それを傾けて、一気に地上へ…!)

 

「うぉぉぉぉッ!!」

 

 おお、凄い雄叫びだ!

 グングン降りてきてるじゃねぇか!……うん、グングン降りてきてるな。え、ホントに大丈夫なのか? 何か不安になってきたぞ。

 

 目を細めて一夏の表情を見極める。どんだけ遠くても、アイツが威風堂々な雰囲気を醸し出してりゃ俺なら分かるし。

 

「はわわ…!」(ぬわぁぁぁッ!? 勢いがやべぇッ!! 無理無理死ぬ死ぬブツかるぅぅぅぅッ!!)

 

 はわわってんじゃねぇか!

 可愛くねぇぞコラァッ!!

 

 

【ISを解除するなら受け止めてやらん事もない】

【頭から落ちてきてる。仕掛けるならキン肉バスターかキン肉ドライバーか!】

 

 

 いきなり殺人技を推すなよビックリするだろぉ!

 

 ここは何もしなくて良いんじゃないの!? 絶対防御ついてんだろ!? ああ、でも、痛いのは痛いのか。

 

 くそっ、だったら【上】しかねぇか!

 

 選択する前に大きく深呼吸。選択した瞬間、ディオってる世界も動き出すからな。そうなったらもう0コンマ秒すら迷っている暇はない。覚悟をキメろ。

 

「――ッ!!」

 

動き出した世界で一陣の風が舞った。

誰も旋焚玖がその場から消えた事に気付いていない。その疾さは隣りに立つ篠ノ之ですら、気付くまで数瞬を費やす程だった。

 

(……任せたぞ、旋焚玖…!)

 

旋焚玖が踏み出した1歩目で、大気の変化に気付いてみせた千冬だけが、ニヤリと笑みを浮かべるのであった。

 

「一夏ァッ!!」

 

「旋焚玖!?」

 

「【白式】解除したら受け止めてやらん事もねぇぞコラァッ!!」

 

「お、おう!」

 

 一夏の身体から光が放たれる。

 

 いい信頼だ。

 生身で落ちるかISを纏ったままで落ちるか。ここで躊躇いなく前者を選び取れる奴なんざそうは居ない。普通に考えたら、この状況でISの解除とかありえんだろ。

 

 だがお前の信頼に、俺も全力で応えさせてもらう。大地を強く踏め、腰を下ろせ。力を込めろ…!

 

「――ッ!!」

 

「どわっ!?」

 

「~~~~~ッ……お前中々いい衝撃してんじゃねぇか…!」

 

 一夏を受け止めた腕が……腕がジーンだ。

 というかもう全身がジーンだ。

 

 ジーンで済ましてくれる強靭な肉体に感謝を…! 

 

「さ、サンキュー旋焚玖。マジで助かったよ」

 

「気にするな」

 

 気にしろバカ!

 ド素人が全力スピードからいきなりピタっと停止出来る訳ないだろバカ! これでコーラの借りは返したからな! 後でコーラ奢れバカ! 

 

「大丈夫か!?」

 

「大丈夫ですの!?」

 

 一夏を下ろしたところで、篠ノ之とセシリアが駆け寄ってくる。その後ろから千冬さんを先頭に、ゾロゾロとクラスメイト達もやって来た。

 

「馬鹿者。急降下しろとは言ったが、トップスピードで駆け落ちろとは言ってないぞ」(一夏も旋焚玖もケガはないようだな……良かった)

 

「(´・ω・`)」

 

 千冬さんにプチ怒られて、見るからにしょんぼりな一夏。千冬さんがブラコンなら一夏も普通にシスコンだからな。他の人に言われるよりも堪えるモンがあるんだろう。

 

「まぁそんなに気にすんなよ。俺たちはこれからだろ?」

 

 後でコーラ奢ってやるか。

 

「そ、そうですわ一夏さん! むしろ一夏さんも旋焚玖さんも伸び代しかありませんわ!」

 

「そうだぞ一夏! いきなり何もかもが上手くいく筈も無し! 私たちはこれからだこれから!」

 

 何かを察したのか、セシリアと篠ノ之も後に続く形で励ましに入ってくれた。いい3連携だぜ!

 

「そ、そうだよな! よし、頑張るぞ!」

 

 バッチバチと自分の両頬を張って、気合を入れ直す一夏。

 そうそう。駄々こねて強くなれりゃ世の中超人だらけだ。上へ行くなら、結局は頑張るしかないってな。お前なら余裕だろ。

 

「上昇・飛行・下降はISにおいて基礎動作になる。織斑もそうだが、ここに居る諸君らにもしっかり出来るようになってもらうからな」

 

「「「 はい! 」」」

 

「よし。では授業の続きだ」

 

 しかし、あの一夏ですら苦戦するレベルか。適性うんちっちな俺が自由自在に動かせるってなると、一体どれくらい掛かるのやら。正直、考えただけでも目眩がする。

 

 だが、決して下は向かない。

 

 だってよ……俺はようやく登り始めたばかりだからな。この果てしなく遠いIS坂をよ…。

 

 






ご愛読ありがとうございました!
次話から追想の刻(鈴&乱編)に突入だ!

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