選択肢に抗えない   作:さいしん

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進路修正、というお話。



第65話 鈴と乱の面舵いっぱい

 

 

 中学生最後の夏も終わり、あっという間に冬を迎えたっていうか、寒いからさっさと春が来なさいよね!

 

 ひょんな事からISの勉強を始めたあたしだったけど、意外にも性が合ってたみたいだ。スポーツは元々嫌いじゃなかったし、その延長線上でISを動かすのも普通に楽しい。まぁそれは、あたしが『A』だからっていうのもあるんだろうけどね。

 

 座学はまぁ……大っ嫌いだけど。1ミリたりとも面白いと感じた事ないけど。講義中も基本的に眉がへの字になっちゃって、あたしの可愛い顔が普通になっちゃってるレベルで面白くないんだけど。

 

 それでも疎かにする訳にはいかない。アホの旋焚玖に笑われたくないからだ。

 アイツったら普段はアホアホマンの癖に、学校の成績は普通に良かったからね。いつだったか、日本に居た時に言った事がある。「アンタって勉強は真面目にするのね」って。あたしは勉強が苦手だったし、もしかしたら悔しいって気持ちもあったのかもしれない。

 

『してなくても凄い奴はいるが、最後はしている奴が勝つ』

 

 あっけらかんと、そう言い放ってみせたアイツ。その時、何故だか少しだけカッコイイと思ってしまったのは内緒だ。

 

『してなくても凄い奴はいるが、最後はしている奴が勝つ』

 

『何で二回言うのよ!』

 

『ヒューッ! 旋焚玖、ヒューッ!!』

 

『うっさいわよアホ一夏!』

 

 その後は弾も交じって、いつものバカ騒ぎになったんだっけ。ふふっ……思い出しただけで、何だか笑えてきちゃうじゃないの。

 またあんな時間を旋焚玖たちと過ごしたい。だから、あたしも逃げずに頑張れるんだ。

 

 

 

 

「寒いわ」

 

「寒いねぇ」

 

「コタツから出たくないわ」

 

「出たくないねぇ」

 

 年も明けて2月になった。

 2月になっても寒い。というか2月は超寒い。流石は冬将軍と言われるだけある。代表候補生の中でも既に1、2位を争う実力でブイブイ言わせている鈴さんでも、寒いのは苦手なのよ。

 

 そんな訳であたしと乱は、まったりコタツでミカンな時間を堪能していた。特に興味もないテレビから流れてくるニュースをぼんやり観ている……と?

 

 

『たった今、日本から緊急速報が入りました』

 

 

「むぐむぐ…?」

 

「もぐもぐ…?」

 

 日本で何かあったらしい。

 そんな事よりミカンが美味い。

 

『ISに初の男性起動者が現れたとの事です』

 

 は?

 え、それって文字通り前代未聞じゃないの?

 

『ISを起動させたのは、あのブリュンヒルデの親族でもある―――』

 

「むぐ?」

 

 千冬さんの親族って…?

 

『織斑一夏さんとの事です』

 

「ぶぅぅぅぅぅ―――ッ!!」

 

「にゃぁ!? り、鈴姉がミカン吹き出したぁぁぁッ!?」

 

「ゲホッゲホッ…! な、何してんのよアイツ!?」

 

 どんな仰天ニュースよ!? 美味しいミカン吐いちゃったじゃない! いやいやホント何しちゃってんのよあのバカ!

 

『では、記者会見の映像をご覧下さい』

 

 映像が切り替わる。

 どうやらリアルタイム映像ではなく、録画されたモノみたいね。

 

 

『織斑さん! あなたは世界で初めて、男性でありながらISを起動させた訳ですが、今の率直なお気持ちをお聞かせください!』

 

『(´・ω・`)』

 

 

「おおぅ……不安がってるのがテレビ越しでも伝わってくるわ」

 

「トンデモない事しちゃったもんね。流石のアタシでも多分こんな感じになっちゃうと思うな」

 

 しっかし、何をどうしたらIS起動させちゃうのよ。これは流石に電話せざるを得ないわ。携帯取り出しポパイはほうれん草…っと。

 

『―――お掛けになった電話は、現在IS初の男性起動者になったばかりなのでお繋ぎできません』

 

「意味不明すぎんのよ!」

 

「そういう事もあるよねぇ」

 

 あるの!?

 いや、無いでしょ!?

 

「いやいや、鈴姉は甘く見すぎだよ。男がISを起動させたんだよ? 政府から保護されてても全然おかしくないし」

 

「むぅ……言われてみればそうね」

 

 それと電話のコール対応まで変わるのは、いまいち納得できないけど。まぁいいわ。旋焚玖に聞いてみましょ。

 

「……あ、もしもし、旋焚玖? うん、久しぶりね」

 

 ちなみに夏に会って以来の電話だったりする。乱は毎日メールしてるみたいだけど、あたしはそのメールのやり取りを見ないようにしている。だって普通に妬いちゃうもん。

 

「こっちでも一夏のニュースが流れてね? うん、そうそう。それで、アイツは大丈夫なの?」

 

『割と大丈夫じゃないが、まぁこればっかりはな』

 

「そうよねぇ……で、何でアイツはISを起動させちゃったのよ?」

 

 まず男がISに触れる機会自体が珍しい事だと思うんだけど。っていうか、そんな場面なくない?

 

『その日は高校の入試だったんだが、一夏は受験会場を間違えたらしくてな』

 

「はぁ? 何で間違えるのよ?」

 

『藍越学園とIS学園。何となく似てるだろ?』

 

「似てないわよ! アホか!」

 

 ウッソでしょ!?

 それで間違えるとか天然にも程があるでしょ!

 

『……実は一夏渾身のボケだった可能性も』

 

「渾身すぎるでしょうが!」

 

 アンタじゃあるまいし、人生賭けたボケはカマさないでしょ! これはアレね、あたしがIS学園に入ったらフォローしてやんないとね。

 

 むしろ、この電話で言っちゃおうかな? あたしもIS学園に行く予定な事を。何だったらもう次に会う日も決めちゃう? 

 

 とか思ったけど、流石に一夏の状態がアレだし、ここでそっち方面な話をするのは不謹慎かもしれないわね。

 

「はぁ…まぁいいわ。それで、アンタは元気にやってんの?」

 

 結局その後は、当たり障りのない話をして終わった。久しぶりに旋焚玖の声を聞けて、何だかんだ頬が緩んでしまったのは内緒だ。

 

「あ」

 

 電話を切った瞬間に思い出した。

 ニュースでも言ってたアレだ。

 近々、男性のIS起動調査を世界規模で行うってヤツだ。当然、日本でも行われる筈だし、旋焚玖がアホをやらかさないように言っておこうと思ってたんだけど。電話も切っちゃったし、メールにしようかな。

 

「えっと……『アンタまで起動させるんじゃないわよ(・∀・)』…っと。これでいいかな」

 

 ほい、送信。

 旋焚玖からの返信は。

 

 

『(ヾノ・∀・`)ナイナイ』

 

 

 そりゃそうだ。

 ある訳ないわよねー、あははー。

 

 

 

 

 

 

『3人に勝てる訳ないだろ!』(顔にモザイク)

 

『馬鹿野郎お前俺は勝つぞお前!』

 

 

「はぁぁぁぁッ!?」

 

「旋ちゃぁぁッ!?」

 

 あのメールから1週間後。

 お茶の間に2人目の男性起動者発見のニュースが流れた。顔にモザイクはかかっているが、間違いないコイツは弾だ。

 

 そして―――。

 

 

『ケガしてェ奴からかかって来いッ!!』

 

 

 ノーモザイクで大暴れしてるのは、あたしのアホすぎる想い人。どっからどう見ても旋焚玖だった。

 

 開いた口がまだ塞がらない。

 まさかあのメールがフラグになった可能性…? いやいや、あたしは悪くない!筈よね…? さ、流石に「うふふ、これで旋焚玖と同じ高校ね!」とか思えないわよ!……いや、ごめん、多分明日くらいには思うわ。正直、テンション爆上げになってると思う。

 

 

『俺が気に入らねェ奴はいつでもかかって来い。叩き潰してやるよ』

 

 

「ちょっ…!?」

 

「バカ旋ちゃん! どうして挑発するのさー!?」

 

 あの究極バカ!

 

 なんて声明文出しちゃってんのよ!? 記者会見した一夏よりインパクト残してんじゃないわよ! しかも悪い方向に! 全力で世界を敵に回してんじゃないわよぉ! そこは媚び諂ってなさいよぉ!

 

「鈴姉! 電話して電話!」

 

「そ、そうね! あのアホ一体どういうつもりで…!」

 

『―――お掛けになった電話は、現在2人目のIS男性起動者になったばかりなのでお繋ぎできません』

 

 あぁ~~~~ッ!!

 

 またコレか!

 いちいちアナウンスを変える必要ある!? ないでしょ!? そういうモンなの!? 男がISを起動させたら、そんなトコまで影響が出ちゃうの!?

 

「ぐぬぬ…! アタシもメールを送っておくよぅ」

 

「そうね、そうしてちょうだい」

 

 掛からないなら仕方ない。

 

 ふー……少し落ち着きましょ。

 落ち着いて、冷静に考えてみるのよ。

 

 正直、一夏がIS学園に行っても、そこまで滅茶苦茶な問題もそうそう起こらないと思う。男は男でも、アイツはブリュンヒルデな千冬さんの弟だし、イケメンだし、性格だって悪くない。最初は他の女子連中も戸惑うだろうけど、徐々に慣れ親しんでいくと思うのよね。

 

 問題は旋焚玖だ。

 

 一夏が居るとはいえ、イカンでしょ。普通にアウトでしょ。アイツが女子校に放り込まれる? 中学では男子からイエーッ!女子にうわぁ…な評価だったアイツが? 

 ダメだって! しかもIS学園でしょ!? 男を見下す大巣窟じゃないの! そんなところに歩く核弾頭を放っちゃダメだってばぁ!

 

「……ただのモブ的代表候補生じゃ居られない理由がまた出来ちゃったわね」

 

 旋焚玖の奇行のフォローもそうだけど、女共からの悪意から守ろうと思ったら、それこそ色々な権限が与えられる専用機持ちでないとダメだ。

 

 ちょうど良いタイミングだわ。専用機が誰に与えられるかを決める模擬戦は明日。相手に恨みはないけど、あたしの邪魔をする奴は全員フルボッコにしてやるわ…!

 

「むむむぅ……」(旋ちゃん、大丈夫かなぁ……心配だよぅ…でも、アタシはまだ中2だし……ぐぬぬ…!)

 

旋焚玖のニュースを聞いて青い炎を瞳に宿す鈴音と、心配する事しか出来ない自分の立場を歯がゆく思う乱音。それでも時は立ち夜は明ける。

 

次の日、鬼神と化した鈴音が猛威を振るい、あまりの強さに中国では長く語り草になったとか。

 

 

 

 

 旋焚玖の仰天世界デビューなニュースから3日後。何やら乱がドタドタ走ってきた。

 

「鈴姉鈴姉鈴姉~~~ッ!!」

 

「どうしたのよ、そんなに慌てて」

 

「旋ちゃんからメールが返ってきたよぅ!」

 

 んっ!と携帯を見せてくる。

 えっと、なになに…?

 

『(´つω・`)行きたくないでござる』

 

 これは……正直、意外だわ。

 あの旋焚玖がメールとはいえ、弱音を吐くなんて。あたしの知ってる旋焚玖は、いつでも不敵だった。どんな苦境でも笑ってみせる奴だった筈なのに…? 流石の旋焚玖でも女子校はキツいって事なのかしら。

 

 それとも実はずっと強がっていた、とか……?

 

「……アタシ、決めたよ…!」

 

「え、なにを?」

 

「アタシもIS学園に行く!」

 

 この感じ、来年の話をしている訳じゃなさそうね。

 

「いつから?」

 

「出来るだけ早く!」

 

 へぇ……熱くなっても、ちゃんと現実は見えているみたいね。2か月後(4月)とか無理無謀を安易に言わないあたり、乱の本気が窺えるわ。

 

「ISの世界は実力社会。優秀であれば飛び級だって可能な筈よ」

 

「だよねだよね! よぉし、明日からアタシも頑張るぞ~! 旋ちゃんを守るんだぁ!」

 

 あたしも晴れて専用機を貰える事が確定したし、4月の半ばにはIS学園にも行ける。なら、それまであたしのすべき事は何? 

 

 当然、乱のサポートに決まっている!

 

「思ったが吉日よ、乱。今からでも座学なら始められるわ。ISの知識も完璧になったあたしが直々に教えてあげる!」

 

「うんっ! よろしくお願いします!」

 

 一夏も居るとはいえ、あたし一人じゃやっぱり心細い。あたしとしても乱が早めに来てくれたら、これほどありがたい事はないもんね。

 

 さぁ、スパルタでビシバシいくわよ!

 しっかり付いてきなさい、乱!

 

 






乱:ああああもうやだあああああ!!!!

鈴:誰が大声出していいツったおいオラァ!!


次話からIS学園編に戻るゾ。

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