選択肢に抗えない   作:さいしん

70 / 158
精を出すのはリハーサル、というお話。



第70話 敵情視察(仮)

 

「う~むむ…」

 

 祭りだドンちゃん!な夜も明けて次の日の朝。

 教室に着いた俺は席にて、とある事で頭を悩ませていた。

 

「どうした、旋焚玖? 何やら難しい顔をしているな」

 

 前の席な箒が話し掛けてくる。

 うむ、箒も無関係ではないし聞いてもらおうか。

 

「今日からの放課後の過ごし方について少しな」

 

「む…」

 

 今までなら放課後は、セシリアと箒による座学的なお勉強の時間だったのだが、昨日セシリア達が言っていたように、今日からはクラス対抗戦に向けて、ISを使った実践的な訓練に切り替わるのだ。

 

 指導役のセシリアも鈴も、専用機を与えられる程の実力者なので、一夏にとって為になる時間と言えよう。それに関しては一部の反論もない。

 

 ただ、そうなったら、参加できない俺と箒がな。

 ぶっちゃけ、アイツらの訓練を見学しても、そこまで身になるとは思えん。ISの技術を鍛えるなら、それこそ使ってナンボだろ。

 

 ぼんやり眺めているくらいなら、他に有効的な過ごし方もあるんじゃないかと思う今日この頃なのである。

 

「なるほどな。確かにお前の言う事も一理ある。だが、それならどう過ごすつもりだ?」

 

 

【デートしようぜデート!】

【一夏のために敵情視察だ】

 

 

 これは【上】ですね、間違いない。

 二人で過ごして仲を深めると。なんて有効的な過ごし方か!

 

「一夏のために敵情視察だ」

 

 まぁ【下】を選ぶんですけどね。

 【下】がアホな【選択肢】だったら【上】を選んでいたんですけどね。【下】を見せられて【上】を選んだらイカンでしょ。つまり俺は悪くないし、ヘタレでもない。あえて言うならば【選択肢】が悪いですね。

 

「ふむ……そう言えば昨日、黛先輩に聞いていたな」

 

「ああ」

 

 まぁ、そういう事よ。

 【選択肢】が出てこなくても、最初から俺は他のクラス代表の情報を集める予定だったっての。

 逆に【デート】とか言われて、ちょっと後ろ髪引っ張られてるんですけど? どうしてくれるん、このやるせない気持ち。やっぱ【選択肢】ってクソだわ。

 

「確か2組のクラス代表は何て名だったか。覚えているか、旋焚玖?」

 

 えーっと……ギャラクシー・エンジェルみたいな名前だったと思う。あれだ、タイの代表候補生で専用機持ちだっけか。

 んで、3組はアメリカ人のティナ・ハミルトン。専用機は持っておらず、候補生の候補生的な感じらしい。

 4組が日本の代表候補生で、名前は確か更識簪。更識ってどっかで聞いたような気がするんだけど……まぁいいか。専用機はあるらしいが、使える状態じゃないとか。詳しくはよく分からんけど、少なくとも今回の試合では訓練機での出場らしい。

 

「となると、この中で一番の要注意は2組になりそうだな。あと、思い出したがソイツの名前はヴィシュヌ・イサ・ギャラクシーだぞ」

 

 長い(小並感)

 

 クラス対抗戦までそんなに日もない。全員を調べる余裕はないだろう。ならもう、ターゲットをギャラクシーな女に絞った方が吉だな。どんな戦術を使うのか、どんな性格をしているのか……会って話すのが一番か。

 

 

【お前行ってこいよ】

【まずは一人で行く】

 

 

 2人で行かせてよぉ!

 せっかく箒と一緒に居られるチャンスなんだぞバカ! 考えろよバカ! さっきのこと根に持ってんのか!?

 

「最初は俺が接してみようと思う。2人で行って警戒されてもアレだしな」

 

 俺一人だったら、余計に警戒されると思うんですが(名推理)

 

「む……一人で大丈夫か?」(できれば私も一緒に行きたいのだが……旋焚玖の言う通り、違うクラスの人間が2人して、いきなり押し掛けるのもアレか。しかし……むぅ…)

 

 

【ならお前が行ってこいよ】

【大丈夫だ、問題ない】

 

 

 辛辣ゥ!!

 

 【上】のノリやめろや!

 なんだお前デート出来なくて拗ねてんのか!?

 

「大丈夫だ、問題ない」

 

 話は纏まったな。

 さっそく今日の放課後からミッション開始だ。

 

 

【思い立ったが吉日、今から行くぞ!】

【焦りは禁物、クラス対抗戦が終わってからにしよう】

 

 

 あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ッ!!

 

 

「ど、どうした、急に立ち上がって」

 

「……今から行ってくる」

 

「今から!? いや、確かにまだホームルームまで時間はあるが…」

 

 そんなにないよ!

 5分あるかないかだよ! 切羽詰まって行く必要ないだろぉ! むしろ、ちょっと話した程度で何が分かるってんだよ!

 

「思い立ったが吉日だ」

 

「声が震えてないか?」

 

「気のせいだ」

 

 気のせいじゃない、気のせいじゃないよぉ! 今から行ってもそんなに意味ないって! 無駄な事させんなよ! 

 

 と、止めてくれ箒! 

 今こそ正論を吐いて俺を止めるんだ!

 

「ふむ……なら何も言うまい」(他の誰でもない、一夏のために時間は惜しまないという事か。ふふっ、友達想いなところは全然変わってないな)

 

「……ああ」

 

 ああ……(無常)

 

「旋焚玖さん!」

 

 席を立つ俺に声を掛けてきたのはセシリアだった。

 そうか、後ろの席だし話は聞いていてもおかしくはない。

 

 そして、セシリアはバリバリの理論派である。論理的に考えて、今行ってもそんなに成果は上げられないとセシリアなら判断するだろう。

 

 だからお前が止めるんだよ!

 

「いってらっしゃいまし!」(友情に誠実なところはポイント高いですわよ、旋焚玖さん♪)

 

「……ああ」

 

 ああ……(無常)

 

 行けばいいんだろ、行けば! 行ってやるよ、チクショウ! もう3分くらいしかねぇよ、チクショウ!

 

 1組を出た俺が向かうは、話題のギャラクシーな女が牛耳っているであろう2組である! 隣りの教室である! 隣りだから着くのも早いのである! もう扉の前である!

 

 

【ここが2組とは限らない、一つ奥の教室に行くべきだ】

【ここが2組とは限らない、一番奥の教室に行くべきだ】

 

 

 ここが2組だよッッ!(魂の叫び)

 

 1組の隣りが実は3組とかねぇよ! 誰も得しねぇ罠じゃねぇか! 思いっきり2組って書いてるわ! はっきりくっきり2組だよ! 完全なる2組だよ!

 

 あぁもう! んなモンどっち選んでも一緒じゃい! どうせ2組に行けないのは変わりないんだからな! んじゃらば近い方の一つ奥でいいわもう、3組行こ3組(割とヤケ)

 

 

【元気よく挨拶すればいいじゃない】

【インパクトが大事。扉を蹴飛ばして入ろう】

 

 

 俺自身がもうインパクトだから(名言)

 それ以上、何を求めると言うのか。ただでさえビビられてんのに、余計に怖がらせてどうする。女の子を怖がらせて悦ぶ趣味はないです。

 

 俺だって爽やかに挨拶できるってとこを見せてやろうじゃないか。これを機に、もしかしたら1組以外でも交友関係を広げられる可能性……あると思います。

 

 ガラッと扉を開いてこんにちは!

 

「おはようございまーす!」

 

「「「 ひゃああああッ!? 」」」

 

 ないよねー。

 可能性なんて最初からある筈が無かったんだよねー。

 

「こ、殺し屋が入って来たわ!」

 

「壊し屋よ壊し屋!」

 

「誰か男の人を呼んでぇ~~!! 男の人呼んでぇ~~!!」

 

 Oh………………Oh…。

 扉開けて挨拶しただけでこの反響……クルよねー。まだ俺、教室内に足踏み入れてすらないよー。ただの顔見せだけで、その反応はないよー。

 

 まぁ別にいいんだけどね、全然気にしてねぇし、だって俺強いもん。

 

「はいはい、お前のクラスはそこじゃないぞー」

 

 後ろから俺の首をムンズと掴む者あり! まさに無遠慮、まさに無警戒! 女子校でブイブイ言わせている旋焚玖さんに、そんな大それた事を仕掛けられる奴と言えば…!

 

「ほれ、1組に戻るぞー」

 

 ち、千冬さんだぁ!

 

「はい」

 

 首根っこを掴まれた俺はニャンコ将軍と化し、そのまま自分のクラスまで千冬さんに運ばれるのだった。

 いやはや、ナイスなタイミングだったな千冬さん。3組の教室に入らなくて正解といったところか…! おかげで千冬さんに見つかったんだし。しかし、俺は3組に何しに行ったのだろうか……いや、気にしてはいけない。

 

 

 

 

「はい、では1時間目の授業は終わりですよー」

 

 ISを学ぶ高校だからと言って、他の科目を疎かにしている訳ではない。1時間目の英語が終わって、2時間目は数学である。しかし、教え方上手いな山田先生。やっぱり伊達に眼鏡は掛けてねぇぜ。

 

 えーっと、数学の教科書出しておこ~……---ぁ?

 

 

【リベンジの刻! 3組に行くぞ!】

【3組はさっき行った。次は4組だ!】

 

 

 あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ッ!!

 

 2組に行かせろコラァッ!!

 ギャラクシー・エンジェルに会わせろコラァッ!!

 

 いや違う違う違う、そうじゃない。危ねぇ、俺までなんか変な感じになりかけてたわ! 俺は最初から行きたくないの! 休み時間くらいゆっくりさせてくれって言ってんの! 箒とセシリアとキャッキャウフフな会話を満喫させてくれツってんの!

 

 ほぉら、見ろ!

 俺が席を立つや、箒とセシリアが何か言いたげな顔して俺を見てるぜ! 何かおしゃべりしようぜ! 話題提供なら任せろー(バリバリー)

 

「旋焚玖!」

 

「旋焚玖さん!」

 

 Foo↑↑ これは止めてくれる予感…! 後は会話に華咲かせるだけだ、昨日【たけし】と一緒に観たバトロワの話でもしようか?

 

「「 いってらっしゃい! 」」

 

「いってきます!」(半ギレ)

 

 廊下に出たらバッタリ布仏と鉢合わせ。なんだお前、トイレでも行ってたんか?

 

「あれ~、ちょいす~どこ行くの~?」

 

 

【なんだお前、トイレでも行ってたんか?】

【お前も付いて来るんだよ!】

 

 

 心の声を採用するのヤメろ。

 言えないから心の声なんだよ、分かってんだろこのヤロウ!

 

 だが【下】は中々いいじゃねぇかこのヤロウ。お供な選択肢ってところか。布仏ってのが若干頼りなさを醸し出しているが、少なくとも俺は一人で行かなくて済む。俺は独りじゃないんだ…!

 

「お前も付いて来るんだよ!」

 

「ほぇ~? どこへ~?」

 

「つべこべ言わずに来いホイ!」

 

 4組だ4組!

 

「ほーい」

 

 イクゾー。

 

 

 

 

「「「 ひゃああああッ!? 」」」

 

「こ、殺し屋が入って来たわ!」

 

「壊し屋よ壊し屋!」

 

「誰か男の人を呼んでぇ~~!! 男の人呼んでぇ~~!!」

 

 お前らそればっかじゃねぇか!

 何のテンプレだコラァッ!!

 

 

【まずは教壇に立つ】

【更識簪ってヤツはどいつだ!?】

 

 

 ケンカ売りに来たんじゃねぇよ! やめたげてよ! その更識って奴が悪目立ちして可哀相だろぉ! もし大人しい子だったらどうすんだバカ! 【上】だバカ! 付いて来い布仏!

 

 

「「「………………」」」

 

 

 Oh……何とも形容しがたい表情で見られていますよ。俺ってホントにそういう目で見られてんだな(再認識)

 いやはやすまんね、ホント。何かテキトーに話してソッコー帰るから安心してくれ。だが更識簪って奴の顔だけは一応見ておきたい。ソイツが4組の代表らしいし。

 

 

【今日は皆さんに、ちょっと殺し合いをしてもらいます】

【やはり大勢で糞まみれになると最高やで。こんな、変態親父と糞あそびしないか】

 

 

 どっちも怖すぎィ!!

 

 【上】も【下】も怖すぎィ!!

 意味は違くても怖すぎィ!!

 

 




2組どこ・・・? ここ・・・?

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。