旋焚玖のターン、というお話。
目を切ったな、俺から――ッ!!
だが、自分を責める必要はない。
誰だってそうする。
俺だってそうする。
「……ハッ…!?」(しまっ…!)
もう遅い…!
既に俺の間合いだ!
【首を掴む(なおセシリアとクロエからランダムとする)】
【おっぱいを掴む(なおセシリアとクロエからランダムとする)】
【ナイフを掴む(なおナイフ)】
ヤメロォ!(本音)ナイフゥ!(建前)
「旋焚玖さん!?」
「なっ…!?」(クロエに攻撃するより、そちらを優先させますか…!)
痛ひ。
超痛ひ。
高級品じゃねぇか!
握っただけなのに切れ味抜群か!
だがこれで、イギリス一美人なセシリアの顔が傷付けられる事はなくなったぜ! 美人を守る傷は男の勲章!(自己奮起)
「せ、旋焚玖さん、手から血が…! ダメです、お放しになってください!」(この刺客を突き飛ばすなり何なり、旋焚玖さんなら出来た筈ですわ! なのにどうして!?)
放したら変な【選択肢】が出るかもしれないだろぉ!(恐怖心)
一瞬待て、今、高速で展開考えてるから!
【キモいセリフで場をつなぐ】
【キザいセリフで場をつなぐ】
お前は考えなくていいよ!
俺に考えさせてくれよぉ! 何だよキモいセリフって! 痛い上にイタいとかやめてよ! 意味が違ェんだよこのヤロウ!
「美の女神アフロディーテよりも美しいセシリアを守護できるのなら、俺はいくら傷ついてもかまわない」
おかしくないですか?
【キザいセリフ】を選んだ筈なのに、キモいんですけど。自分で言ってて背筋がヌァァンってなったんですけど。
おかしくないですか?
いや、おかしくもないか(自己解決)
俺の顔で言ってもイカンわ。要は表現する者が誰なのか、よな。それによってキモくもキザにもなれるのだ。
へへ、若くして嬉しくない真理に到達したな。
「……旋焚玖さん」(キュゥゥゥゥン…♥ こ、この胸の高鳴りは、まさか…! 前々から旋焚玖さんがわたくしを好いているのは存じ上げていましたが、ここまではっきりと言われてしまうなんて…! その身を犠牲にしてまで言われてしまうなんて…! そのような事をされてしまったら、わたくし……わたくし…!)
「……いいんですか? このままだと指が斬り落とされてしまいますよ?」(当然、痛みは感じている筈です。それでも顔を歪ませませんか…! 翳りもなければ歪みもない、依然として瞳には強い光を感じさせています…!)
「モノの価値を知らねぇ奴だな。俺の指とセシリアの顔なら後者を選ぶに決まってんだろ」
「!!!!」(惚れてしまいますわぁぁぁぁッ!! いえ! もう! 既に! 惚れてしまいましたわぁぁぁぁッ!! こんなの惚れるなって言う方が無理ですわぁぁぁぁッ!! 前から見ても横から見ても斜めから見てもフツメンにしか見えなかった旋焚玖さんが今ではイケメンに見えてしまっていますわぁぁぁぁッ!! 堕とされた証拠ですわぁぁぁぁッ!!)
国宝級に端麗な顔が、るろうに剣心みたいになったら可哀相だろ! お前も美人なんだからそれくらい分かるだろ! ちょっとは考えろよ!
「……呆れた茶番ですね。お望み通り、このまま斬り落として差し上げます」(何にせよ、クロエの意識が逸れた時点で、あなたはクロエを攻撃するべきだった。束様なら間違いなくそうしている筈です。千載一遇のチャンスを自ら棒に振り、ナイフを掴む行為はあまりに下策、あまりに愚策…! あなたの行動は美談にはならず醜聞になるのです!)
甘すぎるな、クロエ・クロニクル。
斬るなら音もなく斬ればいいものの。ホントに斬ったら怒るけど。
今も俺の間合いなんだぜ?
わざわざそんな宣言されて、無抵抗でいるバカがいるかよ。悪いがお前の首を……―――。
【首を掴む(クロエかなぁ…)】
【おっぱいを掴む(クロエかもぉ…)】
あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ッ!!
邪魔しないでよぉ!
いやいや、お前なら分かるだろ!? 俺今クロニクルの首掴もうとしてたじゃん! 隙間を縫ってまで対象を曖昧にしてくんのか! 全力すぎんぞコラァッ!!
【上】一択なのに超怖ェよ!
無駄にビビらせてくるのヤメてくれよ!
……ままよ!
「……ッ…カ…ハッ…」(しまっ…た…! 変な空気に充てられて警戒を怠った…! 甘い男ではないって束様から聞いていたのに!)
やったぜ。
アホの【選択肢】のせいで無駄な遅れは生じたが、まぁ誤差の範囲だ。予定通りクロニクルの首も掴めたし、あとは仕上げを御覧じろってな。
「ナイフから手を放して、セシリアを解放しろ。でないと――」
「……ッ!?」(あ…ああ……凄まじい殺気がクロエを…! まるで猛獣…! いえ、猛獣の方がまだ可愛いです! た、束様ぁ…!)
要は出しどころだ。
ずーっと殺気を抑えていたのが功を成したな。おかげで効果は倍の倍だ。
アホの【選択肢】のせいで普段からビビり慣れてる俺だぜ? 人間が相手ならビビらせるなんざ訳ねぇよ。
「縊り殺すぞ」
どうだオラ!
び・び・れ! びーびーれ!
「……ッ!!」
クロニクルから身体から力が抜けていくのを感じる。
ビビッてくれたなコイツ!
◇
「旋焚玖さん!」
要らん紆余曲折はあったが、結果良ければ全て良し。セシリアも無事助けられたしな。
「助けていただき、その……」
「気にするな」
気にしろ。
気にして惚れろ。
「……まだです」(そう……まだ、クロエたちは終わっていません…!)
ん?
「襲撃は此処だけではありません…! お忘れですか、アリーナの現状を…!」
いちいちディスプレイを目の前で立ち上げんでも、忘れる訳ねぇだろアホか! 一夏が心配で仕方ねぇわ!
「セシリア」
「は、はい!」
「アリーナに直行してくれ。一夏たちを助けられるのはお前しかいねェ」
「分かりましたわ!」(そうですわね。今は惚れた好いたで頭にお花畑を咲かせている場合ではありませんわ!)
まだクロニクルを放っておく訳にはいかん。
適材適所で考えるなら、専用機持ちなセシリアを援軍として向かわせた方が良いだろう。
あ、そうだ。
「あと、一夏に伝えてくれ。―――ってな」
「……ええ、必ず」
セシリアが出口へと走っていく。
よし、俺はコイツに改めて敗北でも――。
「旋焚玖さん!」
ん?
「想いが生まれてもわたくしはわたくし! 毅然なる淑女、セシリア・オルコットですからね! いいですこと!?」
「……ああ」
何言ってだアイツ(ン抜き言葉)
「ふふん。では行って参りますわ!」(これはある種の宣戦布告! 心を奪われたとは言え、淑女なわたくしがそう簡単にデレデレするとは思わない事ですわ! 言ったら最後、意識しているのがバレバレなので言いませんけど!)
何かドヤ顔して出て行った。
旋焚玖:さぁ、刺客人解体ショーの始まりや
クロエ:冗談はよしてくれ(タメ口)