選択肢に抗えない   作:さいしん

89 / 158

ランアンドガン、というお話。



第89話 蘭&弾

 

 

 一夏と熱い一夜を過ごした次の日。

 というか日付変わってねぇし、もう今日だな。俺たちは中学からの友達、弾の家に遊びに来ていた。コイツと会うのも高校入学以来になるが、元気そうで何よりである。

 

「で?」

 

「で?って何がだよ?」

 

 俺は2人の会話を聞くに徹しておこう。

 

「だーかーらー! エデンの園の話だよ、こんチクショウ! 何だよお前らだけ女子校に通いやがって! いい思いしてんのか!? してるんだろ!? してるに決まってる!」

 

 ほう……中々に見事な三段活用だ。

 しかしテンション高いなコイツ。なるほど、中学のダチが一番いい説は弾の中では正解と見える。

 

「してねえっつの。メールで知ってるだろ?」

 

「お前旋焚玖の話しか送ってこねぇじゃん! 杜撰な隠蔽工作してんじゃねぇよ! ハーレムな日常を隠してるのがバレバレなんだよ!」

 

 あ?

 一夏、俺の事しか送ってねぇの?

 

 そんなんじゃ甘いよ。

 

「何したり顔してんだ旋焚玖コラァッ!! お前のメールの登場人物もだいたい一夏じゃねぇか! あとたまに出てくるたけしって誰だよ! 3人目か!? また男性起動者が増えたのか!?」

 

 あー、確かに弾の言う通り、男性起動者がこれから出てくる可能性もあるのか。もしそんな未来がきたら、その時は俺と一夏でフォローしてやらないとな。

 

「で、何人オトしたんだよ? お兄さん、怒らないから言ってみ」

 

「な、何で俺だけに凄むんだよ」

 

「安心と信頼の実績」

 

 ニッコリスマイルで親指立ててんじゃねぇよ、このヤロウ。俺たち3人の悲しい立ち位置を思い出すだろうが。

 

 モテモテ役な一夏(なお変わってない模様)奇行に走りまくる役な俺(なお変わってない模様)俺たちのフォローに奮闘する役な弾(なお解放された模様)。

 

「女関係だと旋焚玖は四天王の中でも最弱」

 

 3人なのに四天王なのか(困惑)

 

 しかし言ってくれるじゃないか。

 中学の俺と今の俺を一緒と思うなよ? あの頃の俺は確かに人生に何の目的も無く、ただただ選択肢の奴隷として生きているのみだった。

 

 男性でありながらISを起動させた者と化した今は違う。今の俺はな、平凡な未来を失くしたかわりに、桃色パラダイスな未来を目指す者なのよ。

 

 沈黙を破る刻は今か。

 

「フッ……硬派で鳴らし続けた中学時代の俺と思うなよ?」

 

 そろそろ混ぜろよ(池田ァァッ!!)

 

「は? 硬派?……いや、それよりも、何だその含んだ言い方は…!」

 

「弾、お前はどうやら俺の可能性を見くびっていたようだな」

 

「ま、まさか…! いや、旋焚玖に限って、そんな筈が…」(いや、でも、どうだ? コイツのこの表情……今のコイツの顔は自信に満ち溢れている。いや、満ち満ち溢れている!(とても満ち溢れているの意))

 

 フッ…畳み掛けるは今か。

 

「5人」

 

「えっ」

 

「少なくとも5人だ」

 

「な……ご、5人もオトしたのか…!?」(俺は見誤っていたのか…! 真のハーレム王は旋焚玖だった…!?)

 

「俺が惚れた数だ」

 

「お前が惚れたのかよ!」

 

「ヒューッ!!」

 

「そこでソレはおかしいだろ!」

 

 い~いテンポだリズムもいい(恍惚)

 やはり気兼ねの無い男3人で集まると最高やで。……ん? 何やら扉の向こうからドタドタ足音が聞こえてくる。

 

 そして、豪快にドアが蹴り開けられた。

 

「お兄! さっきからお昼出来たって言ってんじゃん! さっさと食べに……みゅ?」

 

「あ、久しぶり。邪魔してる」

 

「いっ、一夏……さん!? あれっ、あのっ、き、来てたんですか…? 全寮制の学園に通っているって聞いてましたけど……」

 

「ああ、うん。今はゴールデンウィークだしな。家の様子見に来たついでに寄ってみた」

 

「そ、そうなんですか……みゅ?」

 

 お、目が合った。

 俺も適当に挨拶しておくか。

 

「やぁ」

 

「ゲェーッ!! せ、旋焚玖さん!?」

 

 キン肉マンかな?

 相変わらず面白なリアクションしてんなお前な。

 

 さっきまでのお淑やかな雰囲気を一気に爆散させた愉快な少女の名は五反田蘭。名前の通り、弾の妹さんだ。歳は俺たちより一個下だから、今は中3だな。

 俺たちが通っていた中学ではなく、有名な私立の女子校に通われている優等生さんだ。違う中学でも、放課後やら休日はこの面子に鈴を加えた5人で、よく遊んでいたもんだ。

 

「えーっと……おほほほほ」(し、しまったぁ~~…! 私ったら一夏さんの前で、なんてはしたない声を……しかもこんなラフな格好だし…! くぬぬぅ、ここは一旦退却!)

 

 お、セシリアか?

 しかし蘭はその素質を十二分に兼ね備えていると言えるだろう。弾から聞いたが、さっき言った有名なお嬢様学校で、なんと蘭は生徒会長を務めてるらしいのだ。……ん? 生徒会長? 

 

 変態生徒会長……うっ、頭が…。

 

「お、お兄! ちょっと来て!」

 

「何で行く必要なんかあるんですか?」

 

「い・い・か・ら!」

 

「いてててて! お兄ちゃんの耳をそんなに引っ張っちゃイカンでしょ! ダンボになったらどうすんだ!」

 

「そんな大きくなる訳ないでしょ! あくしてよ!」

 

 弾を引っ張って部屋から出て行く際に、またもや俺の方をチラ見する蘭。チラ見っていうか、軽くガンくれたなアイツ。

 

「……!」(主車旋焚玖……私の倒すべき相手だ!)

 

閉められた扉の向こうでは、五反田兄妹による緊急こしょこしょ会議が開かれるのであった。

 

「お兄! 何で教えてくれなかったの!? 一夏さんにハレンチな格好見られちゃったじゃんかぁ!」

 

「あ、あれ、言ってなかったか?」

 

「きーいーてーなーいー! しかも旋焚玖さんまで居るし!」

 

「お前なぁ、まだ旋焚玖を目の敵にしてんの?」

 

「だって旋焚玖さんは恋敵だもん」

 

恋敵:恋の競争相手(広辞苑参照)

 

五反田蘭。

成績優秀で責任感も強く人当りも良い。学年を問わず、彼女を慕う生徒が数多く存在している。花も恥じらう乙女と評される美少女が恋心を抱いている相手こそ、何を隠そう一夏である。

 

一夏といい関係になりたいと、恋する乙女は一夏まわりを観察し続け、熟慮に熟慮を重ねた結果、最大のライバルは、当時まだ一夏に想いを寄せていた鈴……ではなく、旋焚玖であると結論付けられたのであった。

 

前々から兄の弾もその話は既に本人から聞かされている。聞いてはいるし、可愛い妹の恋路は兄として応援したいとも思ってはいるのだが。

 

「そこで、どうして旋焚玖がライバルになるのか。コレガワカラナイ」

 

「じゃあ逆にお兄に聞くよ? 『一緒に居て楽しいのはどっち?』鈴さんor私。一夏さんなら何て答えると思う?」

 

「え…!? ん、んん~……そうだなぁ、一夏だったら何て答えるかなぁ」

 

「チッチッチッ。まだまだ甘いね、お兄。きっと一夏さんだったら、鈴さんと私の良いところを丁寧に羅列っていうか、言葉に出しつつ、それでもやっぱり『うーん、うーん…』って唸って、結局決められないと思うの」

 

「あー、何かすっげぇその光景が浮かんでくるわ。確かに一夏ならそんな感じだ。え、でも、待てよ。お前の話でいくと、ライバルは鈴って事になるんじゃないか?」

 

弾の指摘は至極正論である。

 

しかし恋する乙女には通用しなかった!

 

論より証拠を見せてやる、と蘭はこしょこしょ会議を中断し、扉をバーンと開き、中で旋焚玖とババ抜きを楽しんでいる一夏に言霊を投げつける。

 

「私と旋焚玖さんで! 一夏さん的に一緒に居て楽しいのはどっちですか!?」

 

「旋焚玖かな」(キリッ)

 

「あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ッ!!」

 

再び閉められる扉。

こしょこしょ会議、継続!

 

「……なんだったんだ、今の?」

 

「わがんね」(汚い咆哮だったなぁ)

 

暇を持て余す2人、ババ抜きタイム継続!

扉の向こうでは蘭が弾に現実を突き付けていた。

 

「ほら聞いたでしょ!? こんなにも物理的証拠があるのにまだお兄は反論するの!?」

 

物理的ではないんだよなぁ。

兄の弾はそう思ったが、指摘したら10倍になって意味不明な言葉が返ってくる事を予想し、ここはスルーする事に。

 

「分かった分かった。それで、蘭はどうしたいんだ?」

 

「旋焚玖さんに勝って一夏さんを振り向かせる!」

 

女の時点でもう勝っていると思うんですが(名推理)

との言葉をグッと堪える弾。言ったら最後、またもや意味不明な言葉が100倍にもなって返ってくる気がしたからだ。

 

(何処に出しても恥ずかしくない自慢の妹なんだけどなぁ。一夏…っていうか、旋焚玖が絡んだ時だけ絶妙にアホになるのがなぁ。お兄ちゃん悲しいなぁ)

 

「まぁでも、確かに一夏と一番距離感が近いのは旋焚玖だわな」

 

「ほら、やっぱり!」

 

「それじゃあさ、もういっそのこと蘭も旋焚玖みたいになったらどうだ?」

 

「例えば?」

 

「そうだな。ずっと静かだったのに、いきなり奇声を上げるとか?」

 

「変人じゃん!」

 

(旋焚玖なんだよなぁ)

 

「商店街を逆立ちで練り歩くとか?」

 

「変人じゃん!」

 

(旋焚玖なんだよなぁ)

 

「今じゃ小指一本でいけるらしいぞ?」

 

「それはしゅごいね!」

 

(しゅごいよなぁ。それも旋焚玖なんだよなぁ)

 

正直、割と対応するのにメンドくさくなってきた弾は、抑えていた正論をあえてブツけてみる事に。

 

「なぁ、蘭。よく聞いてくれ。一夏は男で、旋焚玖も男なんだぞ? 2人がどれだけ仲良くなっても、それは友情の枠を超えないさ」(2人とも普通にノンケだしな。流石に妹にそういう直接的な言葉は言えないけど)

 

弾の弾による蘭のための正論。

 

「友情の枠を超えない、ですって? ホントにお兄は断言できるの? 胸を張って、名誉と命にかけて、法的実行力を伴った誓約書にサインと拇印を押したものにかけて、そう断言できるの?」

 

やはり恋する乙女には通用しなかった!

 

「神にかけて、天と地にかけて、インディアンの掟にかけて、ハンムラビ法典にかけて、主君の名にかけて、誓う事が出来るの? お兄の言うところの『友情』が、何ら邪心のない穢れ無き心から生まれ出た完全で一分の隙も無い徹底的絶対的かつ完璧で純粋な究極人間に基づく『友情』のままで居られると……本当に言えるの?」

 

「ごめんなさい、お兄ちゃんの負けです」(すまん、一夏、旋焚玖。恋する乙女には勝てなかったよ)

 

一般人が秀才に舌戦で勝てるはずもなく、弾は無条件降伏せざるを得なかった。『敗者は勝者にひれ伏すのみ』を弾が体現していると、扉が開かれ、中から一夏が出てきた。

 

「おーい、弾、トイレ借りても…ん? 何で土下座してんだ?」

 

「ポツダム宣言受諾」

 

「何言ってだお前」(ン抜き言葉)

 

「うるせぇ! 借りたきゃ借りろ! 今ならうんこもサービスでさせてやふぶぅッ!?」

 

「下品禁止!」

 

兄の鳩尾に鉄拳を喰らわす妹の図をしりめに、一夏はいそいそとトイレへと向かう。

 

(今のは弾が悪いし。ぅ~…ポンポン痛ェ…)

 

不当な暴力でもないと判断しての事だった。

 

 

 

 

「――という訳で、俺の手には負えん。旋焚玖、何とかしてくれ」

 

 一夏と入れ替わりで五反田兄妹が入って来た。弾の話と蘭の様子を見る限り、どうやらいつもの症状が出たようだ。しかし、何とかしてくれって言われてもな。

 

 目線を蘭へチラり。

 

「がるるるるる…!」

 

 すっげぇ威嚇してる、はっきり分かんだね。

 

 

【犬が相手なら手懐けてやる。ヨシヨシしてやる!】

【なんか犬っぽくねぇなぁ? 俺が見本見せてやる】

 

 

 ヨシヨシしたい(願望)

 しかし相手は蘭である。俺をライバル視している謎思考はもう諦めたけど(3年間の積み重ね)一夏に恋する少女にヨシヨシしたらイカンでしょ。というか、恋してなくてもイカンでしょ。セクハラ的な意味で。

 

 しかし……友達と友達の妹の前で犬の真似をするのか(げっそり)

 犬の真似かぁ……はぁぁ~、とりあえず四つん這いになるか(ヤケ)

 

「お、おい、どうしたんだ旋焚玖、急にヨツンヴァインになって」

 

 ヨツンヴァインって言うなよ。

 

「ワン! ワン! ワン!」(迫真)

 

「「…………………」」

 

 兄妹揃って憐れんだ目で見てんじゃねぇよ! 何見下してんだこのヤロウ、生類憐みの令か! 犬だけに!(激うまギャグ)

 

「……な、蘭。これが旋焚玖だ。基本的に常識人のお前がコイツに勝てんのか?」

 

「ぐぬぬ」

 

 無理に決まってんじゃん。

 むしろ素で犬の真似とかされたらビビるわ。強制力(選択肢)無しに俺の極地まで昇って来られると思うなよ。

 

「こんな強烈な人が隣りに居たら、私なんてただの後輩にしか見られないですよね」

 

 変人とか言われなくて良かった。

 

「まぁ確かになぁ。お兄ちゃん自慢の妹もライジングインパクトには勝てねぇよなぁ」

 

 ゴルフ上手そうな二つ名してんな俺な。

 

「うーん。私も旋焚玖さんに負けないような個性でもあったらなぁ」

 

「……ふむ」

 

 

【語尾に『おっぱい』を付けたらどうだ?】

【語尾に『ンゴ』を付けたらどうだ?】

 

 

 これはひどぅい。

 

「……語尾に『ンゴ』を付けてみたらいいんじゃないか?」

 

 こんなモン即却下してくれていいよ。

 せっかくの美少女が台無しじゃねぇか。おっぱいよりマシってだけだ。

 

「お! それいいじゃないか! 個性あるぜ!」

 

 個性(プラスイメージとは言ってない)

 何故賛同してしまうのか。

 

「え、えぇ~? マジで?」

 

 何故少し乗り気なのか。

 

「マジだって! ほら、物は試しだ、言ってみろって!」

 

 ちょ、待て待て、マジで言う流れなんか!?

 待って、腹筋固めるからちょっと待って!

 

「……一夏さん遅いンゴ。お腹すいたンゴ」

 

「ぶははははは!」

 

「うわはははは!」

 

 やるじゃねぇか、蘭。

 俺の腹筋を貫いてみせるとは、見事…!

 

「(ピキッ)ンゴォォォォ!!」

 

「へぶぶぶぶぶっ!?」

 

 蘭のビビビンタが弾の頬をペチペチる。

 

 3、4、5往復半か。

 中々のスピードだ。手首の返しもいい。お嬢様学校に通わせてんのがもったいないねぇや。

 

 あ、こっち見てる。

 俺も笑っちゃったし、同罪だよなぁ。

 

 しゃーない。

 ここは甘んじて受けよう。

 

 

【一夏に助けを求める。トイレのカギはピッキングで】

【拳で来るなら武威で応戦するのみ】

 

 

 僕は罰を受けるつもりでした。

 これだけははっきりと真実を伝えたかった。

 

「……ッ!」

 

「みゅいっ!?」

 

 時が動き出した瞬間、殺気を蘭に叩き込む。

 すまんな、手は出さないから許してくれ。

 

「あ、あれ…? 私、何してたんだっけ…?」

 

 理性を失っていたのか。

 恐るべし、ンゴンゴ。

 

「気にするな。そろそろ一夏も戻ってくるだろう。そしたら飯でも食いに行こう。久々に会ったんだし、一夏と積もる話もあるだろう?」

 

「は、はい! あ、その前に私、着替えてきますね!」

 

 食いに行くって言っても、下でやってる五反田食堂だけどな。弾たちのじいちゃんが大将でやってるんだが、これまたンまい飯を作ってくれるんだ。

 

 しかし蘭と一夏が戻ってくるまでどうしようか。

 

 

【蘭の部屋のドアの前で待つのがベストでぇーすッ! その間…鍵穴に目を近づけるのはいけないことでしょうか~!】

【トイレのドアの前で待つのがベストでぇーすッ! その間…鍵穴に目を近づけるのはいけないことでしょうか~!】

 

 

 どっちもいけない事なんだよなぁ。

 

 でもなぁ。

 ダチの妹の着替えを覗き見るのはイカンでしょ。見たいけどなぁ俺もなぁ。でもバレたらシャレにならないんだよなぁ。

 

 でもなぁ。

 一夏のトイレシーンを覗き見るのもイカンでしょ。見たくないからなぁ俺はなぁ。でもバレてもシャレで済ませられるんだよなぁ。

 

「はぁぁぁ~……テンション下がるわー。久々にテンション下がってるわー」

 

 グラビガな足取りで部屋から出ようと、ドアノブに手を伸ばす。よりも早く勝手に扉が開かれる。扉を開いた者、それは――。

 

 

「待たせたな!」

 

 

 腹痛を乗り越えた一夏だった!

 

 





ヒューッ!

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。