旧友団欒、というお話。
「お、お待たせしました!」
やけに気合いの入った服装で、一夏から少し遅れて合流した蘭。下の五反田食堂で飯食うだけなのに凄い徹底してるな。一夏にアピールするためならエンヤコラな精神が伝わって来るぜ。
俺の横でスッキリした顔をしている一夏も指摘する。
「あれ? 凄いオシャレしてるけど、どっか出かけるの?」
「あっ、いえ、これは、その、ですねっ」
一夏と恋仲になりたきゃ、そのキョドってちゃイカンよ。ここで堂々と『お前の事が好きだったんだよ!』って言えるくらいでないと。
一夏を相手に『急がば回れ』はむしろ悪手まであるからな。全速前進DA!くらいの気概で攻めないと、あらん方向に勘違いしだすぞ。
「あ、分かったぜ!」
ダウト1億。
「デートだな!」
「違いますっ!」
「(´・ω・`)」
これは一夏が悪い。
という訳でもない。
2人は別に初対面同士じゃないからな。むしろ知り合って3年も経ってるのに、一夏取説の通りに行動を起こさない蘭が悪いまである。まぁ思春期な女子がスーパー肉食系になれっていうのも酷な話だろうが。
【恋のキューピットになる】
【まだ時ではない(○○ルート継続)】
まだ時ではないッ!!(即答)
これで何回目だ、この【選択肢】が出たのは。何度聞かれても俺の答えは変わらん! まだ変わらんよ!
すまんな一夏。
刎頚の友であるお前の為ならエンヤコラな精神を持つ俺でも、一つだけ譲れないモノがあるのだ。
矮小な男と蔑むがいい。
それは分かっている。
だが、それでも…!
まだお前には童貞であってほしい…!(建前)
俺より早く卒業してほしくない…!(本音)
『キス? 別に普通だったな』
あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ッ!!
『セックス? 別に普通だったな』
あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ッ!!
だめだめ、想像しただけであ゛ぁ゛っちゃう。
現実で言われたら、きっと弾の顔にうんこブツけちゃう。
一夏であっても、素直に祝福できる自信がない俺のうんちさを許してくれ。俺よりも先に卒業なんてされたら、きっと嫉心に次ぐ嫉心でおかしくなっちゃう。その果てに待つのは失神だ(激うまギャグ)
という訳で。
「……腹減ったなぁ」
誰に向かって言う訳でも無し。
しかし、このタイミングで2人の会話をブッた斬る呟き。俺の狙いを解する者は、果たしてこの中に居るのだろうか、いや居る。
我と共に生きるは冷厳なる勇者(童貞)、出でよ!
「この辺にぃ、美味い五反田食堂、来てるらしいっすよ」
弾の熱い実家推し。
いいゾ~これ。
「あっ…そっかぁ…」
「行きませんか?」
「あっ、行きてぇなぁ」
「行きましょうよ。じゃけん今から行きましょうね~」(すまんな、蘭。俺も気持ちはだいたい旋焚玖と一緒なんだ。お兄ちゃんが本気でお前の恋を応援するのは、お兄ちゃんがお兄ちゃん!になった時なんだ)
「おっ、そうだな」
ほい、弾と俺による話題誘導作戦完了。
して、その効果の程は?
「……(ウズウズ)」
一夏が仲間になりたそうにこちらを見ている! お前さっきから俺らの事チラチラ見てただろ(事実)
「やったぜ」
「成し遂げたぜ」
隠れ同盟を組む俺と弾、心の中でハイタッチ。
して、蘭は?
「むむむ」
なんか馬超ってた。
「ぶははは! 何がむむむだ「ンゴォ!」ぶへぁ!?」
今のは弾が悪い。
まぁ、ツっこまずには居られない気持ちは分かるが。それでも今は我慢すべきだったな。
天然ツっこみ気質がアダになったか、色んな意味でプンスカプンな蘭から鉄拳制裁を喰らった弾は崩れ落ちるのでした、と。
話も有耶無耶になって、いい感じにオチもついたし、五反田食堂へイクゾー。
◇
「ンまい」
久々に食う五反田食堂鉄板メニュー『業火野菜炒め』は、俺の期待を裏切る事なく、存分に舌鼓を打たせてくれるぜ。
齢八十も何のその。老いてはますます壮なるべしな大将、厳さんは今日も元気に中華鍋を振るっている。鉢巻きに肩捲りが渋いぜ。そしてンまいぜ。一夏が食べてるシューマイも美味そうだ。
「うーまいしゅーまい」
「「 は? 」」
「(´・ω・`)」
今のは一夏が悪い。
しかし、語呂も良く韻も踏んでいる。俺は割りと有りだと思う。ダジャレを何でもかんでも悪と見なす現代の風潮に風穴開けてやんよ。
「うーまいしゅーまい、か。なるほど、思わず口に出したくなる言葉遊びだな」
「せんたく…!!!!!」
ま、たまにはね?
(こういうトコだぞ、蘭。一夏をオトしたいなら旋焚玖を倣うんだな)
(むむむ)
(ぶはははは! なにがむむむだ(ンゴォ!)ぼへぁ!?)
対面に座る弾と蘭が何やらわちゃわちゃしてる。仲が良さそうで何よりである。やっぱ兄妹は仲良くてナンボよな。
「そ、そうだ。お前ら何処から通ってんの? 自宅通いじゃないんだろ?」
場の空気を変える事に定評のある弾が、何気ない質問を俺たちに投げかける。しかし、ピクっと反応するところを見ると、どうやら蘭にとっては何気なくはないようだ。やっぱ気になるんすねぇ。
俺と一夏で答えは違うがよろしいか?
「学生寮」
「が、学生寮!?」
驚きモモンガな蘭。
まぁ学校が学校なだけに、その反応は正しい。話のメインではなさそうだが、一応俺も言っておこうかな。
「俺の城」
「修羅の力が漲るぜ?」
それは鬼の城。
しかし弾、お前中々コアなとこ突いてくるじゃねぇか。
「ちょ、ちょっと待ってください! 学生寮って女子寮じゃないんですか!?」
ババーンと立ち上がる蘭。
結構な勢いのせいか、ワンテンポ遅れて椅子も後ろに倒れ掛かる。
【これを機に俺が蘭の椅子になる】
【椅子を傷つけさせる訳にはいかない】
あ、【下】で。
時が動き出した瞬間、シュババッと。
椅子が床に転がる前にワンハンドキャッチ。
此処には他のお客さんも居るからね。大きな音立てて不快にさせたらいけないからね。いい仕事してますよ~、俺。
「ひゅ~……相変わらず、えげつない身体能力してやがんなぁ」
「へへっ、だろ? まぁ旋焚玖なら朝飯前だけどな!」
ふふふん。
もっと我を讃えよ!
勘違いを伴わない称賛ほど嬉しいものはないのである!
「あ……す、すいません、旋焚玖さん」
「気にするな」
気にしろ。
気にして俺に彼女が出来てから一夏をオトせ。
「えっと……ンンッ…! 話を戻しますけど、一夏さんは女子寮に住んでるんですか?」
「うん、まぁ……あ、でも、部屋は俺1人だぞ」
「いや、それもおかしいだろ。女子校で男子2人だったら、同居させるんじゃねぇの?」
当然の疑問だな。
だが、俺に『当然』の枠は小さすぎるのさ(強がり)
しかし真っ当に説明してしまえば、女子寮に住んでる一夏が変に自分の境遇を責めるかもしれん。ここはいつものノリで流すに限るぜ!
「……俺ほどの男になるとな、女子寮から離れたところに一軒家が建てられるのさ」
「「 あっ 」」
察してくれてありがとう。五反田兄妹が聡くて嬉しいです。そして何も言わないでくれてありがとう。こういう時のフォローは、むしろ心に刺さる刃と化す可能性の方が高いからな。
(……ねぇ、お兄。旋焚玖さんが女子寮に住めないのって…)
(言ってやるな、妹よ。男の虚勢は見逃すのが礼儀だ)
「えっと、えっと……あ、そうだ! 私、来年IS学園を受験します!」
場の空気を変える事に定評のある弾の妹である蘭が、唐突にそんな事を言った。いや、ホントに唐突だな。
「はぁぁぁぁぁッ!? お兄ちゃんは聞いてませんよ、そんなアデッ!?」
蘭の受験宣言に驚きモモンガな弾だったが、厳さんからのおたまアタックが見事デコにヒット。料理人だけあって、食事のマナーを重んじる人だからなぁ。なお、蘭にはすこぶる甘い模様。蘭は可愛いからね、しょうがないね。
「今言ったからね」
今言ったならしょうがないね。
「いやいや、ちょっと待ってくれ、妹よ。お前の学校はエスカレーター式で大学まで行けるじゃん! ネームバリューだって凄いし!」
ふんふむ。
将来の事を考えたら、ネームバリューは大事だな。それだけで就職もかなり有利になる。弾の言葉はイチャモンではなく、確かな正論に基づいている。これを切り返すのは中々に難しいんじゃないか?
「IS学園の方がネームバリューあるよ?」
「ふぐっ…! そ、それはそうだけどよぉ…」
流石は賢才なる蘭よ。
正論にあえて正論をブツける事で優位に立ってみせたか。困った時に曲論を使いがちな俺も参考にしないとな。
「筆記試験も私なら余裕だし」
「そりゃあ、お兄ちゃんと違って蘭は賢いからな!…って違うわ! 自慢の妹を褒めてどうする俺!」
テンション高いなぁ。
勢い余って椅子から立ち上がる弾。これはまたもやおたまアタックが飛んでくる予感。して、厳さんの判定は?
「可愛い蘭を褒めたからセーフ」
お前の判定ガバガバじゃねぇかよ!
ぜったい言わんけど。怒ったら厳さんも怖いからね。
「いや、でも……あ、そうだ、適性試験! それに受かんないとIS学園は無理なんじゃないのか!?」
適性試験かぁ。
懐かしいな、弾と一緒に受けに行ったんだよなぁ。
あれからもう3か月も経ってるのか。……まだ3か月しか経ってないのか(唖然)
毎日が充実している証拠だな!(自己解決)
そして、無言でポケットをまさぐる蘭。
この時点でもう既にドヤ顔である。蘭が取り出しましたるは~……紙? それを受け取って開く弾。
「……なんという事だ」
弾の手のひらから零れ落ちる紙をキャッチ。
んで、なになに……IS簡易適性試験、判定A?
「障壁は! 既にッ! 飛び越えているんですよ!」
ドヤ顔だけじゃ飽き足らず劇画調まで使いおるか。
しかし、これはしゅごい。
適性『A』って事はセシリアや鈴達クラスって事だろ? これは未来の代表候補生ですね、間違いない。今から試合っても、俺なら負ける自信があるね。
という訳で。
「……すごいな」
素直に拍手。
「おぉ~、Aってかなり稀少だって鈴も言ってたし。いやぁ、蘭すげぇな!」
一夏も拍手。
「え、えへへ……だからですね、私がIS学園に入学しても問題ないんです!」
お、そうだな。
俺が2年に上がっても、どうせ下の連中にはビビられる運命だし、そんな中で1人でも知ってる後輩が入ってきてくれるのは心強い。
「そのですね、一夏さんにはぜひ先輩としてご指導を……」
【だめだい】
【いいよ】
俺に答えさせるのか(困惑)
頼まれてもない俺に答えさせるのか。
『うわ、聞いてないのになんか割ってきた』とか年下の女の子に思われちゃうのかぁ……やだなぁ(哀愁)
「だめだい」
「な、なんで旋焚玖さんが答えるんですか!」
俺が言いたいわ!
何で俺に答えさせるんですか!(憤怒)
「しかもだめって、どういう事ですか!」
だって安直に【いいよ】は選べんでしょうが! 請われてんのは俺じゃなくて一夏なんだし! 勝手に肯定するのは、経験上めんどくさい方に転がりやすいんだよ! こういう場合はいったん否定的なモンを選んだ方がリカバリーも利くんだい!
「落ち着け、蘭。まずは聞け」
フッ……今日もそれっぽい話を構築する作業が始まるぜ。これじゃあ、普段と変わってないんだぜ。ゴールデンウィークって何かね。
ゴールデンウィーク:毎年4月末から5月初めにかけての休日が多い期間のこと。大型連休、黄金週間ともいう(広辞苑参照)
「一夏もまだ人に教わっている身だ。まだまだ知識もつけなきゃいけないし、授業に付いて行くので精一杯な状態だ。お前たちが思ってる以上に、今が一番キツい時期なんだよ」
安息を求めにせっかく地元へ帰ってきたのに、俺の精神的疲労度が変わってないんだぜ。これじゃあIS学園に居るのと一緒なんだぜ。休日って何かね!
休日:休みの日のこと(広辞苑参照)
「そこに後輩から『指導してほしい』なんてお願いの上乗せだ。これは負担か否か?」
「うっ……そ、それは…」
休めてないんだよぉ!
アレコレ考えすぎて頭パンクしちゃうよぉ!
それなのに国は休め休めと言っている! 黄金のような1週間を過ごせと言っている! 黄金って何かね!
黄金:金のように輝くもの。また、貴重で価値のあることの例え(広辞苑参照)
「しかし、『来年、蘭に教えられるよう頑張る』という目標にはなるな」
貴重も何も日課(選択肢)なんだよなぁ(結論)
脳内結論も出たし、こっちもまとめに入るぞー。
「えっ…?」
「どうだ、一夏? クラス対抗戦も終わったし、これを新しいモチベーションにするのも俺は一興だと思うが」
「うーん……確かに、何か理由があった方が練習とかも身が入るしな。いいぜ、蘭。受かったら俺が教えてやるよ」
「ほ、本当ですか!?」
【ウソだよ】
【ホントだよ】
あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ッ!!
綺麗に纏められたと思ったのにぃぃぃぃ!! なんでお前はいつもスッキリ終わらせてくれないの!? ゴールデンウィークだぞコラァッ!!
お前もたまには休暇取ってベガスにでも行ってこいよぉ! 年中無休とか俺は何だブラック企業か! このバカ! 社畜! 労基行け労基!
旋焚玖、15歳。
今日も頬を膨らませ、逞しく生きてゆく。
次話から転校生編突入です。