選択肢に抗えない   作:さいしん

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プラス清香さん、というお話。



第91話 乙女式日中英同盟締結日

 

 

 

ゴールデンウィーク最終日の夜。

学生寮の生徒たちは思い思いに過ごしていた。

 

明日に備えて早めに眠る者、連休前に出された宿題とようやく向き合う者、ポコ生でアニメの一挙放送を鑑賞する者、それぞれである。

 

1人部屋の一夏は教科書を開き、軽く明日の予習を。

同じく1人暮らしの旋焚玖は――。

 

 

【連休最終日なので今宵は呂布(三國無双)と死合う】

【連休最終日なので今宵は忠勝(戦国無双)と死合う】

 

 

「いやだぁぁぁぁ!! 死にたくない! 死にたくなぁぁぁい!」

 

毎夜恒例、選択肢による熱い特訓に勤しんでいた。

そんな日常の中で、一人の少女が行動を起こす。

 

「お邪魔する」

 

「邪魔するわよー」

 

「うふふ、いらっしゃいまし」

 

その名もセシリア・オルコット。

イギリス代表候補生にして専用機持ち。淑女を自負するだけあって気品と自信に満ち溢れる才色兼備な少女は、先日旋焚玖にハートを盗まれまくった。

 

故に、セシリアは2人の少女を自室へと招き入れるに至る。

 

「話とは何だ? 本音の宿題を手伝っていたのだが…」

 

「あたしもルームメイトとタートルズ観てたんだけど~?」(1組の子じゃないし名前は言わないでもいいかしらね)

 

自分と同じ想いを抱いている箒と鈴を。

別に暇を持て余していた訳ではない箒と鈴は、急な御呼ばれに若干プリプリしているようだ。

 

「まぁまぁ、いいじゃん。ポッキーもあるよ? 美味しいよ?」

 

そんな2人を宥めながら席に着かせるのが、セシリアのルームメイトであり、もはや親友とも呼べる間柄となった清香である。

 

「いや、何でポッキーで釣れると思ったのよ」

 

「なんだ、清香は実家には帰らなかったのか?」

 

椅子に腰を掛けながら、箒は尋ねてみる。

今年の連休は例年に比べても少し長めだ。セシリアや鈴といった留学生組や箒のような特殊な事情がない限り、ほとんどの生徒が帰郷しているのだが。

 

「あー、うん。帰る予定だったんだけどねぇ。ほら、初日の夜ってさ、雷が凄かったじゃん」

 

「あー、あったあった。確かにゴロゴロうるさかったわ」

 

「セシリアがね、雷が鳴る度に『ぴっ』とか『ぴゃっ』とかって怯えるんだもん」

 

「なにそれ可愛い」

 

「ふむ、セシリアは雷が苦手なのか」

 

客人をもてなすため紅茶を淹れに、当人がその場から離れている時を見計らって、あっさりバラされるのであった。

 

「皆さ~ん、イギリス本場の美味なるお紅茶様のご登場ですわよ~♪」

 

なんだかんだ、祖国自慢の紅茶を振舞いたいルンルン気分なセシリアが戻って来た頃には、時既に遅しである。

 

「しまいには電話を取って『チェルスィィィィ!! 今すぐ雷を止めなさいチェェェェルスィィィィ!!』って泣きついてたもん。ほっとけないよねー」

 

「ぴぃっ!? き、清香さん!? あなた何を仰ってますの!?」

 

「事実」(どやぁ)

 

事実なら仕方ない。

 

「まぁまぁ、いいじゃないセシリア」(にやにや)

 

「誰しも苦手なモノの一つや二つあるさ」(にやにや)

 

「ぐぬぬ…!」(何ですのそのニヤついたお顔は! ですが、ここでアタフタしては、それこそ箒さん達の思う壺ですわ! ここは淑女らしく、何事もなかったように振舞うのがベストですわ! そうです、優雅に紅茶を口に運びましょう!)

 

明らかに頬をピクつかせながらも、淑女スタイルを何とか保たせるセシリアは紅茶を一口。

 

「アッツイ!?」

 

しかしセシリアは猫舌だった!

 

「ちょっ!? 何やってんのよ! ちゃんとフーフーしなさいよ!」

 

「水だ清香! 氷も頼む!」

 

「う、うん!」

 

いじわるしてもやっぱり良い子な3人による素晴らしいテキパキ連携の甲斐あって、セシリアは何とか事なきを得るのであった。

 

 

 

 

「オホン…ッ。では、改めまして」

 

「……この子、何事も無かったかのようにしてるわよ?」

 

「言ってやるな、鈴。ここはスルーしてやるのが優しさだ」

 

「きぃぃぃぃッ!! 聞こえてましてよお二方!」

 

そんな3人の様子を眺める清香の瞳は慈愛に満ちていたとか。

 

「(そんな余裕もここまでですわ! この言葉を聞きなさい!)女ならな、奪うくらいの気持ちでいかなくてどうする。自分を磨けよ、ガキ共……でしたか」

 

「「 !? 」」

 

それまで謎の勝利感を得ていた2人だったが、セシリアの一言で表情が一辺する。何故ならそれは、かつて2人の想い人から告げられた言葉なのだから(第69話参照)

 

「意中の殿方を射止める乙女の舞踏会。このセシリア・オルコットもここに参戦を宣言させていただきますわ!」

 

「はぁぁぁぁッ!?」

 

「うそだゾ絶対うそだゾ!」

 

「あはははは!ってこんな時に笑わすんじゃないわよ、アホかアンタ! なに一夏の真似してんのよ!」

 

「す、すまんつい錯乱して」

 

先程までの余裕が完全に消え失せる。

それほどまでに、セシリアの言葉は2人を動揺させるモノだったらしい。

 

「ちょ、ちょっと作戦タイム!」

 

「少し内緒話をさせてくれ!」

 

清香は思った。

内緒話なのにわざわざ宣言するのかぁ、と。

 

「ええ、よろしくてよ」

 

客観的に見ても、主導権はセシリアに握られた。

それはセシリア自身も実感しているのだろう。ちゃんとフーフーして、程よく冷ました紅茶を楽しみながら、2人の要求を承諾してみせた。

 

 

(聞いてないわよそんな話ィ!!)

(私にキレるなよ! 私だって初めて聞いたわ!)

(だっておかしいでしょ!? アイツ、あたしの(恋の)スカウターに反応しなかったのよ!?)

(……気を消す術を心得ているのかもしれないな。金髪だし)

(あんた、ネタ知ってたのね)

(わ、私だってドラゴンボールくらい知っている!)

 

 

2人の内緒話に聞き耳を立てている清香は思った。

論点から遠ざかってますよ~、と。

 

 

(で、どうすんの?)

(まずは詳しく話を聞くべきではなかろうか)

(そうね、そうしましょう。聞くからには直球勝負よ!)

 

 

冷静さも取り戻し、作戦タイム終了。

改めて2人はセシリアと向かい合う。

 

「ねぇ、セシリア」

 

「なんでしょう?」

 

「あんた、旋焚玖のどこに惚れたのよ?」

 

「うふふ、では明かしましょう。あの日の事を!」

 

あの日の事とは勿論、クラス対抗戦にあった屋上での出来事である。セシリアにとっては思い出の、いわばときめきメモリアルなのである。

 

「そう……あれはクラス対抗戦が始まる直前でしたわ。何を隠そうこのわたくし、セシリア・オルコットは――」

 

立ち上がり、意気揚々と歌劇だすセシリア。

 

彼女の寸劇チックな回想シーンを初めて目の当たりにする2人とは違い、割と結構な頻度で付き合わされている清香は思った。

耳に出来たタコがそろそろはっちゃんになっちゃうヤバイヤバイ、と。

 

 

 

 

「―――以上が事の顛末ですわ!」

 

一人三役を見事こなしたセシリア劇場。

ゲストの鈴と箒は食い入るように鑑賞し、清香はポッキーを平らげた。

 

さて、2人の感想は如何に。

 

「それは惚れる」

 

「うむ、正直うらやましい」

 

「でしょう!? あの一件以来、旋焚玖さんがイケメンに見えて仕方ありませんわ!」

 

あの一件以来、セシリアには旋焚玖がイケメンに見えて仕方なかった!

 

「それは気のせいでしょ」

 

「それは気のせいだろ」

 

しかしそれは気のせいだった!

 

「そう言えばそうですわね」

 

やはり気のせいだった!

 

(えぇ……なにこの会話)

 

清香は最初、ツっこもうとしたのだが、何やら嫌な予感がしたので沈黙を貫く事に。そして目の前の3人が共鳴させている謎感覚がホントに謎なので、そのうち清香は考えるのをやめた。

 

「で、どうしてわざわざ話してくれたのよ?」

 

「私も理由が気になるな」

 

2人の疑問は最もである。

セシリアの立場からすれば、箒と鈴は恋敵の筈。そんな相手に自ら想いをバラしても、それこそ百害あって一利なしなのだが。

 

「性分ですの。こそこそ出し抜く画策なんてセシリア・オルコットには似合いませんわ!」

 

「……あーあ、甘っちょろいわねぇ」

 

「フッ……私達が言える事ではないがな」

 

強く否定出来ず苦笑いの2人。

鈴と箒も旋焚玖への想いをきっかけとして、絆を深めた者同士なのだから。

 

「ま、いいわ。歓迎する…って言い方はおかしいわね。なんだろ、何て言ったらいいか分かんないけど、アンタとはこれからもっと仲良くなれそうだわ」

 

「そうだな。これ以上ライバルが増えるのは御免被りたいところだが、それ以上にアイツを理解してくれる者が増えたのは素直に嬉しい」

 

「鈴さん…箒さん…! ええ、これからよろしくお願いしますわ!」

 

この日をもって3人の少女達の間で、乙女式日中英同盟が結成される。そんな歴史的瞬間の、栄えある唯一の立会人な清香は、途中からキャプテン翼を読んでいた。

 

 

 

 

日本から遠く離れたとある場所。

2つの影と対面している1つの影。

 

「お前に下された命は何だ」

 

「……3人目の男性起動者として織斑一夏に接近し、【白式】のデータを盗む…です」

 

「下手打ってこれ以上泥を塗らない事ね、泥棒猫」

 

「……はい」

 

小さく頷いた少女は、実父と義母から背を向け、力なく歩き出す。

孤独に抱える不安と恐怖から、出来るだけ目を背けながら。

 

 






シャル:男装スパイとか絶対バレるよね

アルベール:大丈夫だって!

ロゼンダ:いけるいける! いけるって!




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