選択肢に抗えない   作:さいしん

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座席は大事、というお話。





第92話 フランスからの転校生

 

 

 

「やっぱりハヅキ社製のがいいなぁ」

 

「えー、そう? ハヅキのってデザインだけな気がする。しない?」

 

「私はミューレイのがいいかなぁ、性能的に見てね」

 

「性能がいいのは高いからなぁ」

 

 ゴールデンウィークも明けた月曜日の朝。

 クラスの女子連中はISスーツのカタログを手に、あれやこれやと意見交換に花咲かせている。この世はオシャレ=女子力な図式が成り立っているらしいからな。それはISスーツも例外ではないんだろう。

 

 男の俺には…というか、元からISスーツを拒否っている俺には、とてつもなくどうでもいい話である。何故なら、俺には千冬さんが縫い縫いしてくれたジャージがあるからな。あえてモデルを言うのであれば、俺のISスーツは千冬製である!(体操服)

 

 まぁISスーツも着用利点はちゃんとあるらしいけどな。着ているとISへの反応速度が優れるやら、耐久性が普通の服に比べても優れているやら。そんな事を授業で聞いた覚えがある……が。

 

 しょせん俺ほどの男になるとISスーツの性能の違いが、戦力の決定的差になる事などないのだよ(両脚不動)

 

「諸君、おはよう」

 

「おはようございまーす」

 

 そうこうしてると、千冬さんと山田先生のご到着である。千冬さんが入って来た事で、思い思いの場所で話していた生徒たちはシュババッと着席。こういうところは流石、千冬さんだな。威厳って大事である。

 

「山田先生、ホームルームをお願いします」

 

「は、はいっ。ええとですね、今日はなんと! 1組にまたまた転校生が来ましたよ~!」

 

「「「 ええええええっ!? 」」」

 

 いきなりの転校生紹介にクラス中がいっきにざわつく。そりゃそうだ。鈴の時は事前に俺たちが迎えてたしな。

 つまり初見的な意味でいくと今回が初めてという訳だ。1組の面々がフレッシュなリアクションになるのも当然である。

 

 そんな事を考えてたら、教室のドアが開いた。

 

「失礼します」

 

 教室に入って来た転校生を見て、ざわめきがぴたりと止まった。いや、これは止まるわ。むしろ呆気に取られるわ。

 

 俺を含め、他の皆も女子が来るモンだと思い込んでた筈。しかし、教室に入って来たのは俺たちの前に現れたのは――。

 

「シャルル・デュノアです。フランスから来ました。この国では不慣れな事も多いかと思いますが、みなさんよろしくお願いします」

 

 まさかまさかの男だったのだから。

 

「だ、男子…?」

 

「はい。こちらに僕と同じ境遇の方がいると聞いて本国より転入を――」

 

「きゃ……」

 

 あ、アカン(第六感)

 

 さっきまでの静寂はむしろ急な引き潮だったのか…! 

 って事は当然…………来る…ッ!

 

 

【箒の両耳を塞ぐ】

【セシリアの両耳を塞ぐ】

 

 

 俺の耳はどうなってもいい…!

 でもコイツの耳だけは……ってバカぁ!! 

 

 そんな緊迫した状況じゃねぇよアホか! 

 

 くそっ、くそっ!

 こんなモンお前、箒一択だろうが!(座席的な意味で)

 セシリアは後ろの席なの! 振り向いて両耳塞ぐとか、見つめ合う事になるだろうが! 気まずさMAXじゃねぇか!

 

 という訳で、すまん箒!

 別に穴に指をツっこむ訳じゃないから!(意味深)

 

 手のひら! 手のひらでいくから! 押さえる感じでいくから、ぎりぎりセクハラじゃない筈なんだ! お願いだから嫌いにならないでね!

 

「……せいっ!」

 

 手のひらで箒の両耳を左右からペタペタン!

 

「わひゃっ…!?」(せ、旋焚玖、なにを…!?)

 

 箒の可愛らしい反応と同時にソレは巻き起こった。

 

「「「 きゃああああああ――ッ!! 」」」

 

 第一波到来!

 すぐさま第二波に備えよ!

 

「男ォ! 3人目の男ォ!」

 

「きたわよオラァァンッ!! 1組の時代がァァァン!!」

 

「いけめぇぇぇぇん! ごっつイケメぇぇぇぇん!」

 

 いけめぇん(哀愁)

 

 髪はセシリアとはまた違った濃い金色。見ただけでサラサラティーっぽい金髪を首の後ろで丁寧に束ねている。そして、中性的に整った顔立ち。いけめぇん(2回目)

 

 一夏がワイルド的なイケメンなら、コイツは何て言うか、何だろう。美形は美形でも気品があるっていうか。セシリアが淑女ならコイツは貴公子だな。

 

 やっぱりイケメンじゃないか!(帰結)

 

「じゃん! ぴえーる! ぽるなれふぅぅぅぅ!!」

 

「おふらんすの美形ってしゅごいっひぃぃぃん!」

 

 お、男は別に顔が全てじゃないし(強がり)

 また俺の存在意義が減っちゃうよォんとか思ってねぇし(強がりがり)

 

「あー、騒ぎたい気持ちは分かるが、それくらいにしておけ」(フッ……旋焚玖め、自分のダメージを顧みず箒の耳を守ってみせたか。まったく……アイツの心には優しさライセンスが常備されているな)

 

 狂乱舞踏も収まり、俺もお役目御免だ。箒のイヤーガード的な意味で。

 

「あっ…」(むぅ……もう終わってしまったのか。旋焚玖から触れられる機会など、滅多にないのだが……まぁいいだろう。むふふ、この席である以上、これからも旋焚玖とのときめきイベント待ったなしだからな!)

 

「さて、デュノアの席だが……名前でいくと篠ノ之と主車の間になるな。ちょうど一番前の席も空いているし、篠ノ之まで1つずつ前にズレていけ」

 

「(^p^)」

 

「!??!?!」(え、な、何あの顔!? 形容しがたい顔してる子がいるよぅ!?)

 

幸か不幸か。

箒の形容しがたい顔を視界にとらえたのは、この教室内では転校生のシャルル・デュノアのみだった。

同じく教壇に立ち、箒たちの方を眺めていた筈の千冬と真耶だったが、謎の危機管理能力が働き、瞬間的に目を逸らしたのである。

 

(そんなヴぁカな…! 私がこの席を離れてしまったら、旋焚玖とのドキドキコミュニケーションが失われてしまうではないか! プリントを配られる時のちょっとした一言二言も! さっきみたいなお耳ペタペタンも! この席だからこそ、休み時間も自然な形で旋焚玖とおしゃべり出来ていたのに! それが無くなるだとぅ!?)

 

 箒以外が前の席へと移動した。

 いや、箒さんは? 動かないの?

 

「……おい、篠ノ之。聞こえなかったのか?」

 

「旋焚玖が耳を塞いでいるので聞こえません」

 

 もう塞いでねぇし、おもいきり千冬さんに返事してんじゃねぇか。

 しかし真面目な箒にしては、かなり珍しい事が起こっているな。どうした、もしかして第二次反抗期がきたのか?

 

「篠ノ之、私は移動しろと言ったぞ」

 

「お尻がイスとくっついてるので無理です」(シャルルだかシャネルだか知るか! 私は抗うぞ! 相手が千冬さんであっても、だ! 私の倖時間(ハッピータイム)をそう簡単に奪われてたまるか!)

 

「ほう」(ピキッ)

 

 マズいですよ箒さん!

 屁理屈こねるにも相手がヤバすぎではありませんか!? 世界もビビる千冬さんですよ!?

 

「……凰、オルコット」

 

「「 は、はい(ですわ)! 」」

 

「どうやら篠ノ之は自力で立ち上がれんらしい。お前らで引っぺがせ」(ワガママを言うだけなら誰でも出来る。お前がどこまで本気か、見せてもらおうか…!)

 

 天下のブリュンヒルデに眉をぐぐっと顰めて言われたら、そりゃあセシリアも鈴も動かざるを得ないよなぁ。

 しかし長年の付き合いで俺には分かる。あと一夏も。あの明らかに不機嫌ですって顔を千冬さんがした時は、意外と怒ってなかったりする。しかし、ここでその表情って事は怒ってないのか……何でだろ。

 

「……箒さん、申し訳ありませんが」

 

 セシリアが右腕を。

 

「アンタの気持ちも分かるけど、決まり事は仕方ないわ」

 

 鈴が左腕を。

 

 せーのってな感じで、箒を左右から引っ張り上げる。……が。

 

「~~~~~ッ…!!」

 

篠ノ之箒、まさかの不屈ッ!

イスの両端を掴んで2人の引っ張りを拒絶!

 

「ちょっ、イスから手を放しなさいよ!? 何やってんのアンタ!?」

 

「ほ、箒さん! 皆さんも見てますから! ね? ほら、良い子ですから放しましょう、ね!?」

 

「女には恥辱に塗れても引いてはいけない時がある…! 今がその時なんだ…!」

 

 何やってんだコイツら…(困惑)

 

 箒もカッコよさげな事言ってるのに、絵面が可愛いすぎてカッコ良くないんだよなぁ。いやホント、何がここまで箒にそうさせているのか。……ん? あ、千冬さんからのアイコンタクトだ。 

 

(旋焚玖、何とかしろ)

 

 ま、マジっすか。

 

 いやまぁ、流石にこのままじゃアレなのは分かるけど。本日の主役な筈のデュノアも、明らかに困ってるし。自分の席決めが原因でドタバタされたりゃ、どうしていいか分からんよな。ただでさえ転校生なのに。

 

 とは言え、箒をどう鎮めれば良いものか。

 

 

【お前俺の事が好きなのか?】

【お前この席が好きなのか?】

 

 

 皆の前で【上】発言はやヴぁいですよ!

 自意識過剰を公言するようなモンじゃないか、なにその自殺行為。1組公認の勘違い男(笑)とかって指差される未来は流石に俺でも嫌すぎる!

 

「お前この席が好きなのか?」

 

「う、うむ! そうなのだ! 私はこの席がとても気に入ってるからデュノア…君には悪いが「言質取ったぞ」……はっ…!?」

 

 ニヤリと口角を上げる千冬さん。

 悪い顔してますねぇ! まるで策が上手くいった時の俺を見ているようですよ!

 

「篠ノ之はその席がいいらしい。なら、主車から1つずつ後ろの席へ下がっていけ。デュノアが座るのは主車がどいた席だ」

 

「お、織斑先生! 待ってください、今のは「黙れ。女に二言は許さん」……ふぐっ…」(あぁっ…! これ幸いと、何も考えず旋焚玖に乗ってしまったのは完全に私の浅慮だった…! 千冬さんに付け入る隙を与えてしまったのも同義じゃないか!)

 

 お、女に二言は許さないのか。

 絶対的強者な千冬さんにしか吐けない台詞である。

 

「デュノアの席も決まったし、これにてホームルームは終わりだ」(あそこは『この席』ではなく『旋焚玖の前の席』だと返すべきだったな。これはお前が恥に伏した結果だ)

 

「1時間目は第二グラウンドでISの実技授業です。織斑くんと主車くんはデュノアくんの案内もしてあげてくださいね」

 

 実技授業って事は、これからお着替えしなくてはいけない。女子連中は教室で。男子は更衣室である。俺たちはもう慣れたが、転校してきたばかりのデュノアが場所を知ってる筈も無し。

 

 弾の家に遊びに行った時にも思ったばかりじゃないか。もし男性起動者が入ってきたら、その時はしっかりフォローしてやろうってな。

 

 イケメンだからどうした!

 そんなモンで俺が冷たく接すると思うなよ!

 

「えっと、君が主車君だよね? 初めまして、僕は――」

 

 

【パンツくれ】

【おちんちん触らせてくれ】

 

 

 

( ゚д゚) ・・・

 

 

 

 

(つд⊂)ゴシゴシ

 

 

 

 

(;゚д゚) ・・・

 

 

 

 

(つд⊂)ゴシゴシゴシ

 

 

 

 

  _, ._

 

(;゚ Д゚) …!?

 

  

 

 あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ッ!!

 

 






パンツくれ:ただいま!

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