選択肢に抗えない   作:さいしん

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まずは前菜から、というお話。



第98話 オードブル

 

 

 楽しい楽しい昼食タイム。

 俺たちはいつもの食堂ではなく、今日は青空の下な屋上へと来ていた。面子は俺、一夏、シャルル男子組に、箒、鈴、セシリア女子組の6人である。

 

 午前の授業が終わったところで、箒たちに声を掛けられたんだ。今日は弁当を作ってきたから、たまには屋上で食べないかってな。しかも俺たちの分まで考えて、多めに作ってきてるって言うし。それで断る理由がどこにあろうか。

 

「……いい天気だ」

 

 しかし初めてだな。

 こういう普通の高校生っぽいイベントはよ。そうだよ、俺はこういう学園生活を送りたかったんだよ。待ってたよ、こういうの!

 

 ああ、やっと……バイオレンスが終わったんやなって。

 待望のラブコメのスタートなんやなって。

 

 とまぁ、そんな感じで屋上にやって来たのである!

 世界三大美女の作ったお弁当! もう待ちきれないよ、早く出してくれ! 

 

「その前に作戦タイムを要求するわ!」

 

 何言ってだコイツ(ン抜き言葉)

 

「お、おい鈴?」

 

「何ですの、鈴さん。あ、ちょっ、腕を引っ張らないでくださいまし!」

 

「い・い・か・ら! 大事な内緒話があるのよ!」

 

 内緒話を堂々と宣言していくのか。俺が言えた事じゃないけど、鈴も割と唐突なタイプだよな。切り替えが早いっていうか。

 

 しかし、どうしようか。

 残された俺と一夏は、もちろん弁当なんか作ってきてないし、シャルルも今日は学食か売店で何か買う予定だったらしい。つまりアイツらが戻って来ない限り、俺たちに飯はないのだ!

 

 まぁ俺たちは食わせてもらう身だし、アイツらを急かすよりも、ここは適当に話でもして場を繋いでおくのが妥当かな。

 

「ええと、本当に僕も同席して良かったのかな?」

 

 む?

 俺と一夏の間に座るシャルルがそんな事を言った。まだまだ俺たち……というか、俺を含めた周り奴らのノリに付いて行けず、引け目を感じているのかもしれない。

 

 

【気にすんなよ。……ホモダチ、だろ?】

【お前もその仲間に入れてやるってんだよォ!!】

 

 

 ザックスはそんな事言わない(憤怒)

 

「お前もその仲間に入れてやるってんだよォ!!」

 

「うわビックリした!? う、嬉しいけどいきなり大きな声はビックリするからダメだよ!」

 

「HAHAHA! 許してやってくれシャルル! 数少ない超少ない男子が来てくれたからさ! 旋焚玖もついはしゃいじゃってな! HAHAHA!」

 

 (はしゃいでんの)お前じゃい!

 

 しかしビックリするからダメなのか。

 それはスマン事をしたな。

 

 それでもちゃんと嬉しいって言ってくれるあたり、シャルルの性格の良さがにじみ出ている気がする。ここに来る前も、お昼を誘いに来た女子共に対し、丁重&丁寧にお引き取り願ってたもんな。

 

 

 

 

「デュノア君! お昼ですよお昼!」

 

「学食にする? 売店にする? それともわ・た・し?」

 

「アーンしてあげるYO!!」

 

 女子校に通いだして、分かった事がある。

 女のバイタリティってすげぇ。初対面とか関係なしにガンガン行くもんな。そういう意味ではアホの【選択肢】と通じるとこがある。

 

 そして、シャルルの顔を窺ってみると、案の定苦笑いしていた。コイツいつも苦笑いしてんな。いや、させられてんな。

 

 悲しいかな、俺もその原因の一人なんだし、ここはシャルルへの禊タイムといこう。軽く威嚇でもしてやれば、コイツらもスタコラサッサだろ。

 へへ、怖がられるのには慣れてるから、そんなに気にしないんだぜ!……と、踏み出す前にシャルルの方が前に出て、口を開いた。

 

「僕のような者のために、咲き誇る花の一時を奪う事はできません。こうして甘い芳香に包まれているだけで、もうすでに酔ってしまいそうなのですから」

 

 何言ってだコイツ(ン抜き言葉)

 

 いやいや、これはキモいですよ!

 HAHAHA! シャルルさんやってしまいましたなぁ! そんな少女漫画みたいなセリフ、3次元の男が言っちゃイカンでしょ(嘲笑)

 

 これは女共もドン引きですね間違いない。

 

「キュン♥」

 

「キュンキュン♥」

 

「キュンキュンキュン♥」

 

 やだ、すっごいキュンキュン♥してる。

 ドン引きどころか、ときめきメモリアルじゃねぇか。

 

「すげぇな、シャルル。全然イヤミくさくねぇし、キラキラ輝いてすら見えるぜ」

 

 同じイケメン枠な一夏もこれには唖然としている。

 確かに、あれだけの言動なのにシャルルからは全くもって不自然さを感じさせないのだ。なるほどな、ブロンド貴公子の実力を垣間見たぜ。……いけめぇん。

 

 

【同じ言葉を乱にメールしてみる】

【同じ言葉をクロエにメールしてみる】

【二人にメールしてみる(欲張りセット)】

 

 

「……(ぽちぽち)」

 

 よし、送信。

 さて、返答は如何に?

 

 まさに信頼と実績が詰まった言葉だからな。いいモンはパクッてナンボよ。……お、返信がきたでござる。

 

 

『キモいよ旋ちゃん!(*`3´)』

 

 

 やっぱりキモいじゃないか!(納得)

 しかしこの罵倒が癒しに感じる今日この頃。

 

 

『†悔い改めて†』

 

 

 お前はいったい何を言ってるんだ(困惑)

 

「どうした、旋焚玖? 難しい顔してんぞ?」

 

「……気にするな」

 

 俺も気にしない。

 クロエはこういう子なのだ。

 そう思う事が両者にとっての最善なのだ。

 

 

 

 

そして今に至る。

ちなみに乙女の会議はまだ終わっていない。

 

「それで、どうしましたの鈴さん? こんなフェンス際までわたくし達を引っ張って」

 

「早めに頼む。私達が戻らなければ、アイツらも昼食にありつけんぞ」

 

「その昼食の事でアンタ達を引っ張ってきたのよ」

 

「「……??」」

 

二人はいまいち鈴の意図が掴めないようだ。

 

「今回のあたし達の目的はなに?」

 

「旋焚玖さんに料理のできる女子力をアピールする、ですわ」(恋愛的な意味で)

 

「それに加えて、デュノアに私達の存在をアピールする、だな」(恋敵的な意味で)

 

つまり2つの目的を持って、箒たちはこの昼食タイムに臨んでいるのである。さらに言えば、料理の鉄人一夏にアドバイスを頂きたい、という思いも含んでいたりする。

 

「そうよ。今回は別に味の優劣を競う訳じゃないわ。あたし達はあくまでアピールが目的なんだからね。でも、男子連中はどうかしら?」

 

「……どういう意味だ?」

 

「3人にそれぞれ違う料理を出されるのよ? 無意識に『誰が一番美味しかったか』って思っちゃうのは自然よね?」

 

「むぅ……それは確かに」

 

「一理あるな」

 

鈴の言葉には一理あった!

 

「さて、ここからが一番の問題よ。……順番、どうする?」

 

「「 はっ…!? 」」

 

ここに来て、二人は鈴の言いたい事をようやく理解した。鈴は言っているのだ。「誰から弁当を出すのか」と。

自分たちに競うつもりはなくとも、食する相手が優劣を決める可能性があるのなら、話は別である。

 

「……順番、ですか」(わたくし、箒さん、鈴さん。つまり1番手、2番手、3番手。シンプルに見えて、実にディープな問いですわ…!)

 

「確かに問題だな」(食べてもらうからには、やはり自分の料理こそ印象に残ってほしい。それはきっとセシリアも鈴も同じだろう。どの順に出すのがベストか…)

 

三者三様、思いが定まる。

後は行動を移すのみだが。

 

果たして最初に動くのは――。

 

「なら、順番をじゃんけんで決めましょう。これだと公平でしょう?」

 

「む……そうだな、そうしよう」

 

「いいわ。勝ったモンから好きな順番を決めるって訳ね…!」

 

セシリアの提案は、箒と鈴に何ら不自然さを感じさせないものだった。しかし、2人は見くびっていた。セシリアの本気を。

 

「(……恋には全身全霊をかけて挑むべし! イギリス淑女が受け身に甘んじると思ったら大間違いですわよ!)では、音頭は不肖ながらわたくしが。ンンッ……さーいしょは――ッ!!」

 

「「!?」」

 

 

箒……『グー』

鈴……『グー』

 

セシリア……『パー』

 

 

「「!?」」

 

「やりましたわぁぁぁぁッ!! わたくしの勝ちですわぁぁぁぁッ!!」(うふふっ、旋焚玖さん直伝ですわ!)※ 第43話参照

 

堂々勝利を宣言するセシリア。

ガッツポーズ付きである。

 

「ちょちょちょ!? 無し無し、今のは無し! 無効よ!」

 

「そうだゾ! 今のはずるいゾ!」

 

「あはははは!って、だから笑わすんじゃないわよアホウキ!」

 

「アホウキ!?」

 

アホな箒。

略してアホウキが誕生した瞬間だった。

 

「あら、どうしてですか?」

 

「アンタ『最初は』って言ったじゃない!」

 

「り、鈴の言う通りだ! 今のは引っ掛けじゃないか!」

 

プリプリ顔で糾弾する2人に対し、セシリアはどこまでも涼しげな表情で返す。

 

「それは言われなき誹謗ですわね。わたくしは『最初は』しか言ってません。『最初はグー』と言って、わたくしが『パー』を出したら非難も受け入れましょう。で・す・が! わたくしは言っていません! 『グー』まで紡いではいませんわ!」

 

「ぐっ、ぐぬぬ…! で、でも『最初は』って言われたら『グー』を出しちゃうでしょうが!」

 

「そうだそうだ! 引っ掛ける気満々じゃないか! こんなの認められん!」

 

セシリアの言い分は屁理屈だと、依然プリプリな鈴と箒。

ここまでは、かつてセシリアが旋焚玖と交わしたやり取り通りである。あの時は、プンプンしてみせるセシリアに対し、旋焚玖は仕切り直しを提案したのだが。

 

(それだと旋焚玖さんの丸パクリですわ! しっかりわたくし風にアレンジさせてもらいますわよ!)

 

「確かにわたくしは策を用いました。そこは認めましょう」

 

「そうよ!」

 

「そうだそうだ!」

 

「ですが!」

 

「「(ビクッ)」」

 

「アナタ達は無闇に『グー』を出した! 策に気付かずとも、氣を身体中に行き渡していれば、手のひらを握ったまま出したりしませんわ! これを油断と言わず何と言いますか! 慢心と言わず何と言いますか!」

 

まごう事なき屁理屈である。

しかし今のセシリアには、それを屁理屈と思わせない迫力があった。故に箒と鈴は反論できないでいる。

 

「……旋焚玖さんなら、間違いなく『パー』に変えていたでしょう」(これで仕上げですわ!)

 

起承転結矛盾無。

これぞまさに会心の一撃である。

 

「……降参よ、あたしが間違ってたわ」

 

「私もだ。……慢心、環境の違いか」

 

箒、鈴という豪傑乙女を相手に。

見事セシリアは、順番を決める権利を勝ち取ってみせた。

 

 






セシリア:わたくしは勿論トリを務めさせていただきますわ!

選択肢:あっ(察し)

箒:ぐぬぬ

鈴:ぐぬぬ

旋焚玖:何やってんだアイツら…


次回、旋焚玖死す。

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