選択肢に抗えない   作:さいしん

99 / 158

威力は焔螺子、というお話。



第99話 うんこ

 

 

「お待たせ」

 

 内緒話とやらも終わったらしく、箒たちが戻って来た。いい感じで腹も空いてきてるし、ある意味ナイスな小休憩だったかもしれんね。

 

「一番槍はあたしにお任せってね!」

 

 お、楽進か?

 無双OROCHI3の続編が出たら一緒にしような!

 

 んで、鈴がタッパーを開いてみせる。

 

 中身は――。

 

「……酢豚だな」

 

 俺たちがまだ小学生だった頃にも、ちょこちょこ鈴の作った料理を食べさせてもらった記憶がある。その時々に出されたモンと言えば酢豚と……酢豚と……酢豚と…。

 

 コイツいつも酢豚作ってんな(結論)

 

「そ。今朝作ったのよ。ちゃんとご飯も用意してるわよ?」

 

 やりますねぇ!

 肉も魚もやっぱ白飯と一緒に食ってナンボよ。

 

「ほら、一夏とデュノアの分もあるわよ」

 

「おぉ、懐かしいな!」

 

「わぁ、ありがとう」

 

 小皿セットを取り出して、俺たちの分をちょいちょいと装ってくれた。いい気遣いしてますねぇ! こういうさり気ないところは、さすが鈴って感じである。

 

 では、いただきます。

 

「パクッ……ングング…」

 

「……どう?」

 

「んぐっ……ンまい。最後に食ったヤツの軽く倍は美味い気がする」

 

 別に俺は食通じゃないからな。

 ンまいモンは美味い。それでいいだろ。

 

「ほんと!?……ンンッ…ま、まぁ当然よね! 鈴さんと言えば酢豚! 酢豚と言えば鈴さんだからね!」

 

 全然カッコよくねぇなそれ(辛辣)

 言ったらプンスコるから言わんけど。

 

 しかし鈴って酢豚以外作れるんだろうか。

 素朴な疑問である。

 

 

【酢豚を極めし者になるがいい!】

【日本食とか覚えてみたらどうだ?】

 

 

 いや極めてどうすんの?

 将来、酢豚専門店でも出す気なら、まだ分かるが。まぁいいや、それも含めて【下】を言って聞いてみよう。

 

「日本食とか覚えてみたらどうだ?」

 

「はぁ? 何でわざわざ中国人のあたしが日本の……はっ…!?」

 

 

その時鈴に電流走る――ッ!!

からの脳内超考察開始。

 

 

(ちょっと待って! これって酢豚しか作らないあたしへの不満と見せかけて、実は将来的な事を言ってるんじゃないの!? だってさだってさ! 酢豚以外ならまず他の中華料理を言ってくるでしょ!? だってあたしチャイニーズだし! なのにあえて! あえてよ!? 日本食を覚えろですって!? ですってよ!? 何で覚える必要なんかあるんですか! それはあたしが将来的に日本に住むからだと思います! なんで日本に住む必要なんかあるんですか! それはあたしが将来コイツの嫁になるからよ! ひゃっほい! 美味しい味噌汁作ってやるわよオラァン!)

 

 

 うわわ……箒とセシリアだけかと思っていたが、とうとう鈴まで百面相しだしたのか。しかし、機嫌は良さそうだ。なんかデヘヘ、とか言ってるし。

 

「しょうがないわねぇ、えへへ……日本の料理も覚えてあげるわよぉ。んもう、ホントにしょうがないんだから、えへへ…」

 

 めちゃくちゃご機嫌さんじゃないか。

 正直、俺は選択肢の【日本食】ってのに違和感あったんだが。だって普通、中華じゃね? 鈴の満漢全席とか絶対ンまいだろ。

 

 んでも、鈴の様子を見る感じ大丈夫っぽいし、ここは触れないでおくのが吉かな。

 

「次は私の番だな」

 

 箒が大きめの弁当を差し出してきた。

 なら、遠慮なく開けさせてもらおうか。……ぱかり。

 

 むおっ…!?

 

「これは凄いな!」

 

「ホントだ、とっても美味しそうだね!」

 

 一緒に見ていた一夏とシャルルが感嘆の声を上げる。いや、ホントにすげぇわ。

 鮭の塩焼きに鶏肉の唐揚げ、こんにゃくとゴボウの唐辛子炒め、ほうれん草のゴマ和え。何ともバランスの取れた献立の運動会じゃないか!

 

「……手間暇かかったんじゃないか?」

 

 素人目でも手が込んでるってのが一目で分かる。これだけのモンを作ろうとするなら、かなり時間が掛かったんじゃないだろうか。

 

「う、うむ。……まぁ、なんだ、どうせなら美味しく食べてほしかったからな!」(旋焚玖に! と、堂々とはまだ言えない私。し、しかし今はこれだけでいいのだ。今日は旋焚玖に料理の出来る女子っぷりを知ってもらうだけでいいのだ)

 

 では、いただきます。

 まずは多彩な弁当の中でも、一際俺の目を引いて離さない唐揚げだ!

 

「パクッ……むぁ…!?」

 

一流シェフが作る極上のスープは、ほんの一口啜っただけで大釜いっぱいに満載された材料をイメージしてしまうほど雄弁だと言う。

 

予想だにしていなかった。

旋焚玖が一口食した唐揚げでも同じ現象が起きたのだ。

 

「肉はもちろん、ショウガと醤油。おろしニンニクに胡椒、あとは大根おろしか…!」

 

「む……何故、分かった?」(隠し味の大根おろしまで言い当てられるとは……)

 

別に味を解析した訳じゃない。

イメージが浮かんだんだ。

 

「今言ったヤツらがまな板の上でダンスってる姿が見えた。鶏の歌声に乗って」

 

「お、俺にも見えたぜ。いやマジですげぇ美味いよ箒!」

 

「僕にも見えたよ…! 凄いよ篠ノ之さん! こんなの初めてだよ!」

 

 この美味さ、この衝撃、この驚愕。

 とても言葉で表せるモンじゃない。

 

 しかし俺は食レポ職人じゃないからな。

 陳腐な言葉で申し訳ないが一言。

 

「こんなにンまい唐揚げ、初めて食ったよ」

 

「そ、そうか!?……そうかぁ。ははっ、私も頑張った甲斐あったというものだな、ははは!」

 

 笑顔がとても眩しい。

 いや、本当に大したモンだ。

 

 『料理のさしすせそ』でポカンとなってた奴とはとても思えねぇ進歩……いや、これはもう進化だな。凄ぇ女だ、箒は。

 

「ほら、旋焚玖。唐揚げ以外も食べてみてくれ。一夏とデュノアの分もあるぞ」(あの一件以来、めちゃくちゃ料理の特訓したからな! 旋焚玖に美味しいと言ってもらいたくて、千冬さんと一緒に! 千冬さんは開始3分で逃亡したけどな! だが私は投げ出さなかった…! 投げ出さなかったぞぅ!)

 

一夏とシャルルの反応は勿論、旋焚玖が頬をリスのように膨らませて、自分の弁当をガツガツと食べてくれる姿を見た箒は、確かな手ごたえを感じると共に、単純に嬉しくてニコニコ顔である。

 

「ふふふ、満を持して真打の登場ですわ!」

 

 料理の鉄人な一夏をも唸らせる箒の激ウマ弁当をそれなりに平らげたところで、ババーンとセシリアが立ち上がり、また座ってバスケットを開いてみせた。……どうして立ち上がったんですかねぇ(ニヤニヤ)

 

 さて、バスケットの中身は何ですか!

 

「わたくしも今朝は早起きして作りましたの!」

 

 それは色鮮やかに彩られたサンドイッチだった! 

 すっげぇカラフルに仕上がっている。というかレインボーじゃねぇか。なるほど、大当たり確定って訳だな!

 

「イギリスの料理が不味いなんてお話は、もはや遠い過去の事なのです。どうぞ、お召し上がりくださいな♪」

 

 

【まずは香りから楽しむ】

【一気にバクつく】

 

 

 いや、ワインのテイスティングじゃないんだから。まぁでも、それだと食通っぽい雰囲気を醸し出せそうだし【上】でいっとくか。

 

 セシリアから差し出されたバスケットから漂う香りをクンカクンカ――。

 

「!?!?!?!?!?!」

 

 くさい(簡潔)

 

「ど、どうかしましたか?」

 

「……気にするな」

 

 うんこみたいな匂いがする(正直)

 

【お前コレうんこじゃねぇか!】

【塗り固められた嘘で褒める】

 

 

 うんことは言ってねぇよ!

 それくらいヤバいニオイですね的なアレなの例えなの! イギリス淑女がうんこをパンに挟んで出してくる訳ねぇだろアホか! というかその前に、もっと言わねぇといけねぇ事があるぞコラァッ!! 

 

 お前だお前セシリアお前コラァッ!! 

 イギリス美人コラァッ!! 

 お前マジでいったいナニをどう料理したらこんなニオイに出来んの!? 

 

 そしてソレを俺は褒めなきゃいけないのか(困惑)

 まぁハッタり慣れてる俺なら、こんなウンコを褒める事など造作もない事だが。……ウンコ? ああ、コレはやっぱりウンコなのか(錯乱)

 

 いいぜ、しっかり褒めてやる。

 嘘をつくのは得意さ(自虐)

 

「……まずは花」

 

「花、ですか?」

 

「ラベンダー……イメージでは何種類もの紅い花…それも一面の花畑だ。そこへ微かになめし皮…さらに梅干しに似たものが混じり、ただ事ではないウマみ成分を予感させている」

 

「まぁ…! 旋焚玖さんったらお上手ですこと♪」

 

 ただ事ではないマズみ成分を予感させている。

 いやこれは予感ではなく確信だ、悲しいかな。

 

「では、お一つどうぞ♪」

 

「……マジっすか?」

 

「へ?」

 

「いや、何でもない」

 

 だよなぁ。

 最低でも一つは摘ままねぇといけない流れだよなぁ……やだなぁ。

 

「……いただきマウス」(絶望)

 

「うふふっ、旋焚玖さんったら、珍しくはしゃいでますわね♪」

 

 うるせぇウンコ。

 その♪をやめろウンコ。

 

 覚悟をキメろ。

 苛烈で過酷な鍛錬に耐え続けてきた肉体を信じろ。……パクッ。

 

「!!!?!!!??!?!?!」

 

 ゴフッ…!

 

 こ、この衝撃は…! 

 内部から肉体を破壊してくる、だと…! 

 この身体を駆け巡る波動……これは【焔螺子】か!?

 

【焔螺子】……肉体を外部から傷付けるのではなく、内部から揺さぶる波動を叩き込んで内より破壊するという技。旋焚玖もとある男に喰らわされた最凶技の一つ。

 

「お味の方はいかがでしょうか?」

 

 味ってなんだよ(哲学)

 

 

【分かりやすく焔螺子を叩き込む】

【塗り固められた嘘で褒める】

 

 

 暴力はいけない。

 たとえそれが一番理に適った説明であっても。……暴力が理に適う料理って何ですか?(疑問)

 

「ハハ……さすがだな」

 

「うふふ! そうですわよね!」

 

 うるせぇウンコ。

 

「見事な果実の味わい、純粋無垢なピノノワールだ。熟成香は豊かな土壌からくる土の香り。仕上げにハーブ。たった一口だというのに、まるで100億人編成のフルフルオーケストラ…!」

 

「まぁ…♪」

 

 うるせぇウンコ。

 

「莫大な数の味が複雑に絡み合っているにもかかわらず、そのどれもが誇示し過ぎる事なく、そのどれもが緻密なまま。まさに完璧なバランスだ」

 

「まぁまぁ…♪」

 

 うるせぇウンコ。

 

 

【嘘を貫き通す(なおシャルルに全部食わせるものとする)】

【感想は正直に(なお自分一人で完食するものとする)】

 

 

 シャルルお前食えコラ!

 お前だけが食うんだよ!

 

 それで全てが丸く収まるんだ、みんなの為に犠牲になってくれ。少女漫画以上に貴公子なお前なら、コレを食ってもセシリアを傷つけるような事は言わんだろ。

 

 いけるいける、大丈夫だって。

 男ならそれくらいの敵に勝てなくて何とする! 良心の呵責? はんっ、知らんなそんなモン。

 

 そしてウンコが造ったウンコにシャルルが手を伸ばす。……くそったれぇ。

 

「……ッ、それに触るんじゃねェ!!」

 

「ぴゃっ!?」

 

「うわビックリした!? な、なに、どうしたの!?」

 

 あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ッ!!

 

 こちとら良心の呵責に打ち勝てるほど図太い神経してねぇんだよぉ! してたらこんな人生歩んでねぇんだよぉ!

 

「そのウンコに触れるな」(感想正直)

 

 いくら男とはいえ、こんな劇物食わす訳にはいかんだろうがい! シャルルは今日転校してきたばかりなんだってば! 

 初日でコレを全部食わされるとかイジメじゃねぇか! これで登校拒否になったらどうなる!? 犯人は誰になる!? そんなモンお前無理やり食わせた俺になっちまうだろぉ!

 

「はぁぁぁッ!? せ、旋焚玖さん! あ、あなた今! わたくしの作ったサンドイッチを今! 何と呼びましたか!?」

 

 キンキン叫ぶなよ!

 叫びたいのは俺じゃい!

 

「うんこォ!!」(心の叫び)

 

「あらお下品!? ひ、ひどいですわ旋焚玖さん! どうしてそんな事を仰いますの!? さっきまであんなに褒められていたではありませんか!」

 

「嘘です! 全て嘘です!」(トランクス)

 

「何ですかその口調は!? もういいですわ! わたくし自身で確かめますわ!」

 

 ウン…じゃなかった、セシリアがウンコに手を伸ばす。やめろバカ! 俺だってまだコレを喰らう覚悟が十分にできてねぇんだって!

 

「ガルルルルッ!!」

 

「ぴぃっ!? な、何ですの!?」

 

 威嚇。

 

「どうして邪魔しますの!?」

 

 俺が食うため(現実チラ見)

 俺だけが食うため(現実直視)

 全部食うため……ため五郎(現実逃避)

 

「(オロオロ…オロオロ…)」

 

第三者視点からだとまるで意味不明な旋焚玖と、そんな少年に対してプンスカプンなセシリア。そんな2人の様子を目の当たりにしたシャルルは、流石にオロオロしてしまっている。しかし、シャルルと同じ光景を眺める3人に動揺の気配はない。

 

旋焚玖と付き合いの長い彼らは経験的に知っているのだ。少年が無意味に女性を傷付けるような男ではないという事を! 

少年の意図までは理解らずとも、それが為に狼狽える必要など無し! な考えを3人は既に常備するに至っているのだ。

 

(……で、旋焚玖のあの妙ちくりんな言動の意図は掴めたか?)

(んー……あたしも推理ってはいるんだけど…いまいちピンとこないわ)

(うーん、うーん……)

 

(ならここは、私と推理勝負をしないか?)

(へぇ……いいわね。その勝負、乗ったわ)

(うーん、うーん……)

 

(ただ信じているだけでは、アイツの隣りに胸を張って立てん)

(一見意味プーな言動でも、ちゃんと了知してみせての恋人よね!)

(うーん、うーん……あ)

 

(いざ――)

(――尋常に)

 

(( 勝負――ッ!!))

 

「そうか! 分かったぜ、旋焚玖!」

 

(早すぎィ!?)

(早すぎィ!?)

 

以下、一夏の一夏による旋焚玖のための考察発表。

 

「セシリアのサンドイッチはやべぇんだな! でもせっかくの手料理を酷評するのは忍びない、気持ちだけでも嬉しいもんな! だから最初は優しい嘘をつく事にしたんだ! ただ、旋焚玖の誤算は……シャルルだ」

 

「ぼ、僕が誤算なの?」

 

「ああ、そうだ。シャルルもセシリアのサンドイッチを食べようとしたら、旋焚玖は声を上げて阻止しただろ? それだけセシリアのサンドイッチはやべぇんだ!(二回目)」

 

「そして、嘘を貫き通すのは不可能と判断した旋焚玖は、ある決断に至った」

 

「ある決断…?」

 

神妙に語る一夏を前に一同はゴクリ。

二度やべぇと言われたセシリアだったが、ここは彼女もぐっと怒りを堪えて静聴に臨んでいる。

 

旋焚玖は――。

 

(頑張れ頑張れ出来る出来る俺! 絶対出来る俺! 頑張れ俺! もっとやれるって俺! やれる俺! 気持ちの問題だ俺! 頑張れ頑張れ俺! そこだ俺! そこで諦めるな俺! 積極的にポジティブに頑張れ俺!)

 

現実(選択肢)から目を背け続けたところで変わらぬ未来に立ち向かうため、己で己を鼓舞し続けていた。

 

「シャルルを、そして俺たちをセシリアの作ったサンドイッチから守るため、そしてセシリアの手作りを無駄にしないため、旋焚玖は一人でコイツらを平らげるつもりなんだ…!」

 

「そ、そうなの旋焚玖!?」

 

「……ああ」

 

 毎度ありがとよ、一夏。

 俺に絡まる躊躇いの糸を、お前はいつも言葉で断ち切ってくれる。まったく…俺は最高のダチに巡り合えたぜ。

 

「うぅ……それでもわたくしはまだ納得できませんわ。せめて本当にマズいかどうか、わたくしにも確かめさせていただきたいのですが…」(実は美味しかった、なんてオチでしたら、わたくしはただの貶され損ですもの。旋焚玖さんに限って、そんな意地の悪い事はしないとは信じていますが、それでも……むむぅ)

 

 マズいとは言ってない。

 

 お前の造ったモンはな、そんな次元を超越してるんだよ。そうでなきゃ、こんな厄介な事態になってねぇわ。

 

 しかし、この一件でセシリアに嫌われてしまったら、俺はもう確実に不登校になるぞ。何が悲しくて男を助けて美人に嫌われにゃならんのだ。

 

 フッ……シャルルを助ける、一夏と箒と鈴に犠牲を出させない、セシリアに嫌われないようにする、焔螺子ッチを完食する。これらを同時にやらなくっちゃあならないってのが【選択肢】を背負う者のつらいところだな。いやホントに。

 

「セシリアは今回の料理が初めてか?」

 

「え? ええ、そうですけど」

 

 やっぱり初めてか。

 かなり才能あるぜ。七色の道具作りを任せたいくらいだ。

 

「失敗はすべて成功の糧となる。次に繋げればいいのさ」

 

「で、ですから! 仮に失敗していたとしましょう! でも、それをわたくしに確かめさせないのは道理に反してると思いますわ!」

 

「……それは了承しかねる」

 

「どうしてですの!」

 

「コレはお前に扱える代物じゃない」

 

「完全に危険物ではありませんか! わたくしはただサンドイッチを作っただけですのよ!?」

 

 実際、これを食べて平気な奴はこの中には居ないだろう。箒や鈴はもちろん、華奢なシャルルもアウトだ。一夏でもかなりの苦痛に蝕まれるのは必至。

 

 なら、俺しかいないだろう。

 コレに耐えうる鍛錬をしてきたんだ。自信を持て、俺なら耐えられる。

 

 今思えば、アホの【選択肢】にはこうなる事が分かっていたのかもな。だから俺に食わせるような【選択肢】を混ぜてきた気がする。……いや、ないか。だってコイツアホだもん。

 

「……セシリア」

 

「なんですか!」

 

 百聞は一見に如かず。

 

「俺の屍を越えてゆけ」

 

「な、何を急に」

 

 しかし、これを一つ一つ丁寧に喰らう余裕は俺にもない。【焔螺子】に似た性質を何度も喰らったら、流石の俺でも黄泉逝きだろう。ここは一気呵成に攻めるが良策だ…!

 

旋焚玖は己の口へとバスケットを傾ける。

 

「いやいや、入んないでしょ」

 

 お、そうだな。

 なら、どうする?

 

「あー……アガッ…!」

 

「うぉい!? 何やってんのアンタ!?」

 

「ひにふるな」(気にするな)

 

 どうという事はない。

 顎を外して口の許容範囲を広げただけだ。

 

 あとは巨悪の根源達をそこに全部落とし込む。

 そしてやはりと言うか何と言うか。

 

 舌に触れた瞬間、駆け巡る波動――!!

 

「んぐっ……ッ~~~~~~~!!!!!!!」

 

 意識を絶やすな、味わうな、咀嚼は控えて飲み込め――!!

 

「~~~~~~~ッ!!………ゴクンッ…」

 

 ぐおぉぉぉ…!

 乗り切れ、乗り切れ俺…!

 

 これを越えたら俺はさらに超えられる筈だ…!(自己奮起)

 

「……う…」

 

しかし現実は無情である。

悲壮な決意に肉体は付いて行けず。

ついに両膝から崩れるように倒れ込むのだった。

 

「「「 旋焚玖!? 」」」

 

「せ、旋焚玖さん!? しっかりしてくださいまし!」(あの旋焚玖さんが苦悶の表情で倒れた…! これを見て、まだ自分を正当化する程わたくしは愚かではありませんわ!)

 

倒れた旋焚玖に駆け寄る少年少女たち。

 

「大丈夫か、旋焚玖!?」

 

 い、意識が薄れる。

 こうなると分かってたら、起死回生薬を用意しておくんだった。安易にお茶を持って来てしまった自分が恨めしいぜ…。

 

「ちょっと!? しっかりしなさいよ旋焚玖!」

 

「くそっ! 私達にはどうする事もできんのか!」

 

 誰か持って来てたりはしない、か…?

 

「旋焚玖!? どうした、何か伝えたい事があるのか!?」

 

「こ…コーラが飲みたい」(無意識)

 

 あ、アカン。

 これだと絶命前の袁術みたいじゃないか…! え、俺、死ぬの? フラグなの? こんなセリフが最後とか絶対に嫌なんだけど。……あぁ、瞼が重い…。

 

「そ、そうか! コーラだ! 誰か持ってないか!?」

 

コーラは旋焚玖にとってのエクスポーションである。

ラストエリクサーとまではいかないが、それでもこの危機を防ぐに十二分な役割を果たしてくれる事に期待できる。

その事実を知っているのは一夏、箒、鈴、セシリア。

この中で唯一知らないシャルルは、旋焚玖は飲み物がほしいのだと、カバンから取り出して一夏に渡す。

 

「アイスティーしかなかったんだけどいいかな?」

 

 やっぱりホモじゃないか!(偏見)

 あ、心のツっこみで意識…が……。

 

「くっ…待ってろ、旋焚玖! 俺がすぐに買って来てやるからな!」

 

「頼むぞ一夏!」

 

「頼むわ一夏!」

 

「頼みます一夏さん!」

 

「え…えっと……た、頼んだよ、一夏!」

 

シャルルは空気の読める聡い子だった!

 

何故、コーラを?

というか、一体この流れは何なんだろう。と思ったシャルルだが、新参者の自分には分からない世界がそこには在るのだと、自分を無理やり納得させるのだった。

 

「おう! 任せろ!」(条約なんか知った事か! 早く旋焚玖を助けるんだ! 来い……【白式】――ッ!!)

 

ISの無断展開はご法度。

それを承知で一夏は【白式】の顕現に――。

 

 

「その必要はない」

 

 

「「「!!?」」」

 

風に舞う凛とした声。

皆が振り向いた先に立っていたのは……――。

 

 

「待たせたな」

 

 

旋焚玖の危急に我在り。

コーラを手に持つ千冬だった!

 

 






一夏:俺は世界で最高の姉さんを持ったよ!

千冬:( +・`ω・)b


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。