「青い木蓮、宇宙を翔ける」   作:超天元突破メガネ

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思ったより長くなっちゃったので2話分割。
今回アクトレスたちがSPスキルを使いますが、新人の夜露は☆3のキャノン、あとは☆4のスキルで書いてます。


Mission:9「Vendetta:1」

『赤坂周辺エリアの優先権を巡る、成子坂製作所とノーブルヒルズ・ホールディングスの戦いも、いよいよ大詰めっ!』

モニターの向こうで、係争の様子を、アナウンサーが笑顔を振りまきながら伝える。

『序盤は均衡状態でしたが、3回目の出撃で成子坂が先行……』

「……っちょい文嘉!!なんで消しちゃうのさ!せっかく杏奈ちゃんが出てるのに~!!」

「見てる場合じゃないでしょ。少しは状況を……」

言い切ることなくため息を吐き、机に置かれた端末に目を落とす文嘉。

AEGiSから伝えられた最新の査定ポイントは、成子坂36000、ノーブルヒルズ54000。

結局昨日の出撃も、成子坂への加点にはならなかった。

 

「……仮に実力で負けるなら、悔しいけど納得できます」

告げられた彼我の差に対して、夜露はそう呟いた。

「でもこんなの……こんなのってないですよ!」

「すみません、わたしも抗議したんです。でも、上層部には逆らえなくて……」

安藤の返答に、いきり立った肩をしゅんと落とす。

彼女には何の落ち度もないと分かっているし、声を荒げたところで状況は変わらない。

夜露だけじゃない。文嘉も他のアクトレスたちも、不甲斐なさと悔しさでいっぱいなのは同じだ。

 

しょんぼりと黙り込みながら、夜露は昨日の文嘉の話を思い出していた。

——考えてみれば、初めからそうだった。

叢雲工業による吸収も、聖アマルテアとの係争も、AEGiSが手を貸してくれることは無かった。

てっきりそれは成子坂が小さかったからだと思っていたが、半分当たりで半分外れ。

この時から既に、成子坂への攻撃は始まっていたのだろう。

 

「このままじゃ、赤坂エリアが取られちゃいます……どうにかならないんですか?」

「……審判を買収されて、どうやって勝つのよ。被害を最小限に食い止める手を考えるべきだわ」

文嘉は少し、考えるそぶりをすると、

「そうね……例えば、ノーブルヒルズと和解する。赤坂を取られてでも、最低限のエリアは確保するとか」

「そんなのただの降参じゃないですか!こんな理由で負けを認めるなんて……!」

「仕方ないじゃない、全てを失うよりマシよ……!」

やるせなさに、夜露は唇をかみしめた。

結局、アクトレスはヴァイスと戦うことしかできない。

マギーが病室で語った怒りの意味が、今になって夜露にのしかかった。

 

沈黙した夜露を最後に、声を上げるアクトレスはいなくなった。

得点差、18000。

期間内の出撃可能回数は1回。

最早、逆転を期待するには遠すぎる差だった。

 

「——でも」

小さく響いた声に、全員の視線が集まる。

「楓さん……?」

「それでも、わたしたちのすべきことは変わらないはずです」

ただ一人声を上げたのは、楓だった。

 

「ずっと、考えていたんです。わたしたちは、なんのために戦っているのか。

わたしたちが戦うのはポイントのためでも……エリアや、会社のためでもないはずです」

迷いを捨て、凛とした表情で訴える楓。

夜露の目にはその姿に、隻腕のアクトレスが重なって見えた。

——アクトレスには、もっと自由でいてほしかった。

何にも縛られることなく、ただ自分の信念に殉じて戦うこと。

それが彼女の……マグノリア・カーチスの願い。

 

そして、自分自身の願いは。

「……私も、楓さんと同じ気持ちです!」

「夜露ちゃん……」

楓に負けじと、声を張り上げる。

「大事なことを忘れるところでした……!みんなを守るために戦う、それがアクトレスですよ!」

2人の様子に一度は目を丸くした文嘉だったが、すぐにため息交じりに頷いた。

「……そうね。マギーさんも、こんなことに囚われてたら怒るでしょうし」

「全くよ。あえて何も言わなかったけど正直見てられなかった」

突然の声に、その場にいた全員が振り向く。

 

「……でもみんな、気づいてくれたみたいね」

「マギーさん!?そのスーツは……」

現れたマギーの姿に、楓は目を見開いた。

 

昨日まで使っていた成子坂の備品ではない、ギアと同じ黒鋼色の戦闘用スーツ。

通常のものと違うのは、スーツの上からさらに、軽装甲のようなプロテクターを纏っていること。

「『アーマード・コア』。全身装甲型のギアと同時に開発された、エミッション伝導を強化するためのプロテクターみたいなものよ。

……まあこれも、負荷の割に効果がショボくてすぐに打ち切られたんだけど」

「もしかして、長いこと整備してたのって……」

「そういうことだ。全く苦労したぜ」

 

シタラの声を肯定したのは、後輩を連れて事務所に入ってきた磐田だった。

「ウチでも流石に、アーマード・コアは扱ってなかったんでな。運よく設備はあったんで、こいつらと総出で調整してたんだ」

「はぁ、はぁ……完璧とはいかずとも、最善は尽くしたッス!」

「もちろん、皆さんのギアもしっかりと整備しましたよ……!」

「私達の方も、やれることはやった。後はお願い!」

激務を果たし、後を託す整備士たち。

 

彼らとて、成子坂の戦いは他人事ではない。

決して表には見えなくとも、ずっとずっと、共に戦ってくれていたのだ。

「磐田さん、皆さん……ありがとうございます!」

「……ここまでされたら、私も引き下がってられないわ」

頭を下げる夜露の横で、我慢の限界とばかりに首を振る文嘉。

 

「そうそう、あんまり嫌われ役になろうとするのもやめなさい?そこの渡り鳥さんは、そういう貧乏くじが大嫌いらしいから」

「ゆ、ゆみさん、別にそういう訳じゃ……」

振った首をすぐにそっぽに向けた文嘉に、周囲から小さな笑いが漏れる。

 

文嘉は小さくため息をついて、マギーの方へ向き直った。

「これが私たちの答えです、マギーさん。

はっきり言ってもう勝機は薄い。それでも……最後まで、戦ってくれますか」

彼女に倣ってマギーを見る、アクトレスたちの瞳にもう迷いはない。

 

「……ええ。仕事はきっちりとさせてもらう。

それと……ありがとう。貴女たちみたいなアクトレスに会えて、本当に良かった」

マグノリア・カーチスは、感謝とともに頷いた。

 

 

 

空には、雲がかかっていた。

時折設定される降雨環境。雲に覆われた空を斬り裂くように、いくつもの光が疾走する。

『こちらトライステラ、会敵するよ!』

『こちらバーベナ、突っ込むわ!』

「こっちも行けます!隊長、お願いします!」

 

最後の出撃で、成子坂は総力戦に打って出た。

隊長が同時に2チームの戦術指揮を行い、トライステラ☆はサポートのマギーが司令塔になる。

外部からのアクトレスを指揮担当に据えるという判断にマギーははじめ困惑したが、最終的にはアクトレスたちの要望もあって承諾した。

信頼と実績、そして実力。フリーランスアクトレスにとっての唯一の担保に、全てを賭したのだ。

 

3つのチームに分かれて飛ぶ、成子坂のアクトレスたちとマギー。

成子坂製作所の、最後の反攻が始まった。

 

「夜露ちゃんと前に出ます!」「後ろは任せて、思いっきり暴れて!」

文嘉とゆみのサポートを受け、成子坂のエース2人が突撃する。

片割れは大剣を振るう夜露。ルーキーとは思えない大胆な剣さばきが、ヴァイスを薙ぎ払う。

大神の如く迫る夜露に群列を乱したヴァイスは、次には真横からの奇襲に晒された。

 

もう片割れ——楓の振るう「太刀」。

大剣を切り詰め、鋭さを極めた刀身がもたらすのは高速の斬撃。

専用ギアの高い機動力から放たれる一閃が、次々とヴァイスを斬り伏せていく。

夜露の動きを大胆不敵な若狼に例えるのなら、楓はまさに戦いを知り尽くした熟練の老狐。

叢雲という大舞台で養われた「力」と「志」……自らの信念を刃に載せ、楓は白雲の空を駆ける。

 

「結合粒子、充填完了!」「隊長、お願いします!」

瓦解したヴァイスの群れに向けて、2人は切り札を解き放った。

背中を合わせた2人の下へ、光と共に巨大なビーム砲が転送される。

撃破されたヴァイスが放出する結合粒子のエネルギーを転用した、戦術級特殊兵装。

それがH(High)D(Dimensional)M(Module)と呼ばれる、アクトレスたちの切り札たる力——!

 

「冥土の土産だ、遠慮しないで全部もってけ!!」

「全力を以ってお相手します……!どうか、ご覚悟を!!」

渾身の一射が迸る。

覚悟の砲火が、暗い空をヴァイスの爆炎と共に照らし上げた。

 

そして——

「分断した!」「お願い!」

「行っけええええええっ!!!」

戦闘空域の最前線で、群れを率いた大型ヴァイスと交戦する「トライステラ☆」。

 

相手取るのはネルモス種の雷撃変化型「エレクネルモス」。種に共通する多彩な誘導攻撃は、その回避の難しさで知られているが——

「っと……!」「斉射(Fox)!まだまだ行くよ!!」

弾幕の中を、舞が踊るようにすり抜ける。

そのスピードに魅了された……否、注意を逸らされたエレクネルモスを、ジニーによる至近距離からの集中砲火が襲う。

2人の進撃を助けるのは、シタラによる火力支援。

高威力のスナイパーライフル、そして砲撃モジュールを増設した専用チューンのギアが、群れるヴァイスを片っ端から撃ち落としていった。

 

射撃、狙撃、遊撃。

それぞれの才を輝かせる3つの星が、嵐雲を切り開き——

「マギーさん!」

その光を導に、渡り鳥は空を往く。

ヴァイスワーカーを両断し、残骸を踏み台にして蹴り上がり、中央のエレクネルモスに躍り掛かるマギー。

「はああああああっ!」

一撃を叩きこみ、すかさずマギーは巨躯を蹴って退避する。

 

「リミッター解除っ!」「ごめんね、終わらせるよ!」

間断なく展開される、シタラとジニーのHDM。

2つの超巨大火砲による砲撃は、体勢を崩したエレクネルモスを消し炭に変えた。

 

「よっし!」

ガッツポーズするシタラの下へ、他のアクトレスも戻ってくる。

「こっちは終わったみたいね。お疲れ様」

「お疲れ様でした。えーっと、他のチームは……ん、バーベナがちょっと苦戦してる?」

 

他チームの状況を確認して 、眉をひそめるジニー。

「叢雲の子たち?援護に行った方が良いかしら」

「そうかも……あれ、ちょっと待って」

さらに首をかしげるのを見て、シタラと舞もどうしたどうしたと覗き込む。

 

「え、なんかどんどん撃破されて……」

「……あ、終わった。なんだったんだろ?」

「そういう作戦だったんでしょう。ほら、夜露たちも終わったみたいよ」

マギーの声に顔を上げると、レーダーの反応と全く同じく、こちらへ飛んでくる夜露たちが見えた。

「こっちも終わったんですね、お疲れ様でした!」

「お疲れ様でした。バーベナもすぐに合流するそうです」

 

程なくバーベナも合流し、アクトレスたちは帰路につく。

「これで終わりか……マギーさん、ありがとうございました」

「本当ね……これからどうなることやら」

「やるだけやったんだし、何とかなると思いたいけどね」

「そうですねぇ……あ、そうだ」

ふと、シタラが隣を飛んでいたアクトレスに問いかけた。

 

「愛花ちゃん、さっきちょっと危なげだったけど、大丈夫だった?」

声を掛けられた赤毛のアクトレス……先ほど不穏な戦況を見せていたチーム「バーベナ」の一人である愛花は、控えめに口を開いた。

「そ、その……大型ヴァイスの撃破に手間取って、本当に苦戦してたんですけど」

「知らないアクトレスが救援だーって来て、そのままだーっとやっつけちゃったの!あれ誰だったんだろう?」

「知らないアクトレス?」

割り込んだリンの答えに、全員が首をかしげる。

「隊長、いつのまに救援の依頼を……?」

文嘉が隊長に問い合わせようとした、その時だった。

 

「……待ってください!!何かいるっす!!」

先頭を飛んでいた夜露が、急に停止して声を上げた。

「撃ち漏らし!?」

「そんなはずは……っ?なんですか、あのヘンなの……?」

夜露の指さす先を見た楓が、滅多に出さない困惑の声を漏らす。

 

夜露たちの前方、ちょうど作戦空域の外縁のあたり。見たこともない大型ヴァイスが2体、ふよふよと浮いていた。

丸い胴体から生える2本の巨大な腕。胴体には大きな赤い一つ目が光り、時々ぎょろりと不気味に蠢いている。

「え、マジ、もしかして新種!?」

「あのヘンなの、新種っすか!?あれ、倒したらボーナスとかもらえますか!?」

「落ち着きなさい。本当に未確認だとしたら、AEGiSに問い合わせる必要があるわ」

文嘉の言葉を無視して、ハイになったシタラと夜露は先行していく。

 

「ちょっと2人とも!下手に刺激したら……!」

「全くもう。マグノリアさん、何か言ってやって……うわあっ!?」

あきれ顔で振り向いたゆみは、直後凄まじい噴射に軽く吹き飛ばされる。

すぐ横を飛んでいたマギーが、突然全速力で飛び出したのだ。

「マグノリアさん!?」

あまりの出力に面食らうアクトレスたちをよそに、マグノリアは前を飛ぶ2人へと叫ぶ。

 

「2人とも!すぐにそいつから離れろっ!!」

「えっ?」「マギーさん?」

2人が振り向いた、その時。

 

突如未確認ヴァイスが光を放ち、高速で回転し始めた。

「マジか……っ!」

「シタラさ……うわっ!?」

混乱した夜露はシタラに突き飛ばされ、マギーに受け止められる。

そして、その眼前で。

突進してきたヴァイスの巨躯が、シタラを抉り抜いた。

 

 




Tips「アーマード・コア」
全身装甲型アリスギアと同時期に開発された、専用スーツの上から装着する特殊なプロテクター。
アリスギアの被覆面積を増やし、負荷の増大と引き換えにエミッション伝導を向上させる作用がある。
こちらも副作用に見合った効果が上がらず、早期に開発は打ち切られた。現在のアリスギアに、アーマード・コアに対応した機種は殆ど存在しないとされている。

なお全身装甲型ギアとアーマード・コアの仕様には、開発当初のアリスギアとの類似点が指摘されている。
開発規模の小ささゆえにそのつながりに理由があるのかは不明だが、旧型ギアの堅牢さと現行ギアの高出力を両立したかったのでは、という説が有力。
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