「青い木蓮、宇宙を翔ける」   作:超天元突破メガネ

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全国のミグラントの皆様、大変長らくお待たせしました。
ついにみんな大好き「アレ」の登場でございます。



Mission:10「Vendetta:2」

「うわっ!」

「綾香ちゃん!?うぅ、敵が多い……!」

成子坂の、最後の出撃の最中。

叢雲から移籍した中学生アクトレスで構成されたチーム「バーベナ」は、ヴァイスの一団に思わぬ苦戦を強いられていた。

 

相手取っていたのはカブトガニのような独特のフォルムを持った大型ヴァイス「リムルインバス」。その強固な前面装甲は、アクトレスの攻撃を受けても簡単には傷つかない。

故にこのヴァイスを墜とすのであれば、回り込んでの攻撃がベターなのだが……

「あーっもう!ちょろちょろとすばしっこいのよ……!」

あっという間に距離を取ってしまうリムルインバスに、チームのリーダー、一条綾香は毒づいた。

 

このリムルインバス、サイズの割に動きが速い。冷静に懐に潜り込めればいいのだが、もたもたしているとすぐに転移で逃げられてしまう。

「こいつっ……ってマズ!」

「ちょっと睦海今は……わあっ!」

チームの参謀、小芦陸海の狙撃が前面装甲で受け止められ、そのままカウンター攻撃になって正面の綾香へと跳ね返る。

独特な動きを持つ慣れないヴァイスとの継戦で、連携も少しづつ綻んでいた。

 

「あーもう、何やってんのよ!」

「お、落ち着いて綾香ちゃん!サポートの怜さん達に来てもらえば……!」

「ただでさえ露払いをお願いしてるのに、これ以上頼るわけにいかないわ!あたしたちだけで何とかしないと……!」

愛花の助言を無視して、リムルインバスへと突っ込む綾香。

弾幕の切れ目から背後へと回り込み、手にした片手剣で斬りつける。

 

「こ、のおっ!」

弱点への直撃をもらい、巨躯が傅く。

「どうよ!」「綾香、前っ!」

追撃をかけようとした綾香の視界を、紫色の光が埋め尽くした。

両脇の砲門から放たれるレーザー……傷ついたリムルインバスの切り札が、目の前のアクトレスを捉えていた。

 

「っ——!」

躱せない。

綾香は咄嗟に、左腕の盾で身を守り——

 

直後、空に一閃が走った。

「えっ……?」

正に発射されようとしていたレーザーが立ち消え、前面装甲の背後で爆発が起きる。

思わず後退した綾香の前で、真っ二つになったリムルインバスが爆散した。

 

そして——

「はははっ!見てたよルーキー諸君!」

聞きなれない声が、通信越しに笑う。

「なかなかやるじゃない?ちょっと時間かかったけどね!」

黒煙の中から現れる、エミッションの煌めき。

大剣を握り、バイザーで顔を隠した黒衣のアクトレスが、3人の前に立っていた。

 

「だ、誰!?」

「いやなに、ただの援軍だよ。加純さんに頼まれてね~」

「加純さんに……!?」

東京最強の名前が出てきたことに驚いて、目を見開く愛花。

しかしその驚きは、直後の一言でひっくり返された。

 

「『ブルー・マグノリア』もいるし大丈夫だと思ったんだけど、やっぱまだ荷が重かったかな?」

「ブルー・マグノリア!?どうしてその名前を……!」

睦海の問いに曖昧な笑みを投げ、アクトレスは踵を返す。

「まーじゃあ頑張ってね!あそうだ、楓によろしく言っといて!!」

最後に何故か楓の名前を出し、アクトレスは飛び去って行った。

 

「ちょっとこらっ……待ちなさい!」

『おーい、3人ともー!』

追いかけようとした綾香を、通信越しのリンの声が引き留める。

「リンさん?」

『このへんのヴァイス、いなくなったよー。みんなと合流しようー?』

『急に反応が減って、大型ヴァイスも消えた。何かあったの?』

 

怜の声に辺りを見回し、気づく。

リムルインバスはおろか、残っていた取り巻きの姿もない。

——おそらく、あのアクトレスが片付けたのだろう。

「……あの、飛びながらでいいので聞いてもらえますか」

『え……?うん、別にいいけど……』

「ありがとうございます。行こう、2人とも」

状況に困惑する2人を連れ、綾香は怜たちのもとへと向かった。

 

 

 

「シタラ!?」「先輩!!」

大きく吹き飛ばされたアリスギアから、シタラの姿だけが掻き消える。

強制脱出(ベイルアウト)——アリスギアが致命的なダメージを受けた時のみ発動する最終手段が、実行されたのだ。

「一撃でギアが壊されるなんて……!」

「よそ見しないで、次が来る!!」

叫んだマギーの目の前で、別の個体が再び回転を開始する。

 

アクトレスたちがてんでばらばらに飛び退いた瞬間、生まれた空間を巨大な光輪が突き抜けていった。

「わかってると思うけど、あれに当たったら終わりよ……!」

「突進の射線を見失わないようにしながら、遠距離から集中砲火で仕留めるしかない。特に重武装型はしっかり距離を取って!」

マギーの指示の下、反撃に移るアクトレスたち。

機動力の高いギアを持った者が囮になって、2方向からの突進を何とか凌いでいく。

 

やがて後衛から敵の動きを見ていた文嘉が、声を上げた。

「……っ!やっぱり、連続して攻撃は出来ないみたいね」

「だったら、今仕掛けるっす!シタラ先輩の仇……!!」

隙を見せた敵へ向かって、夜露はライフルを連射する。

次々と突き刺さるエミッションの弾丸。しかし、

「効いてない……!?」

鋼色の巨躯は全く動じることなく、正面の夜露に狙いを向けた。

 

「クソっ!!」

再びの突進を回避し、さらに攻撃を重ねる。

しかし、やはり敵に傷がつく様子はない。まるで見えないバリアが存在するかのように、弾丸は着弾と同時に消えていく。

「夜露ちゃん!無理はしないでください!」

「分かってます!けど……っ!」

幾度となく繰り返される攻撃を躱しながら、夜露は戦場を見渡す。

 

成子坂のアクトレスによる攻撃は、間断なく続いている。

バズーカによる砲撃、レーザーの弾幕、ミサイルによる集中砲火——ありとあらゆる波状攻撃を意に介さず、敵は必滅の刃を振り回し続けていた。

「これじゃあキリが……うわあっ!」

そして、一瞬意識を外に向けたのが失敗だった。

わずかな隙を見せた少女へと、眩い光刃が驀進した。

 

「夜露!」

蒼翼が翻る。

マギーのギアが風を切り、夜露を引っ掴んで急降下する。

直後夜露がいた場所は、突進する光に飲み込まれた。

「あ、危なかった……マギーさん、すみませんっ!」

マギーは夜露を手から離し、「気にしないで」と短く返す。

 

「しかし、いよいよ打つ手がなくなってきたわね……」

「マギーさんのギアでもダメなんですか!?」

「コレだって所詮はアリスギアよ。というか多分ギアの攻撃は通らない」

夜露は目を丸くした。

「どういうことっすか……!?」

「これはあくまで予想だけど……皆、聞こえるかしら!」

夜露を連れて敵から大きく距離を取り、アクトレス全員の回線に繋ぐマギー。

 

「よく聞いて。あれはきっと、アリスギアと同じ位相のシールドを使ってる。

シールドがヴァイスの攻撃を防ぐ要領で、こっちの攻撃を無効化してるんだと思う」

——仮にアリスギアがシールドによって隔離されている次元位相をA,同様にしてヴァイスが存在している位相をBとしよう。

アリスギアによる攻撃は高次元エネルギーによって位相Bに送り込まれ、ヴァイスを傷つけることができる。

逆にヴァイスによる位相Bからの攻撃は位相の違いによって阻まれ、そこで生じるひずみだけがシールドへのダメージとして蓄積される。

そしてこれはアリスギアがアリスギアを狙った場合でも例外ではない。シールドと攻撃の位相のずれによって、アリスギアは同士討ちを防いでいるのだ。

 

——そしてあの未確認の敵が、アリスギアと同じ位相に存在するとしたら。

「だったら、倒せないじゃない……!」

悲痛な声を上げるゆみ。

「いいえ、手はあるわ。消耗戦に持ち込んで削り切るか……あるいは、向こうのシールドをぶち破るほどの攻撃を叩き込めればいい」

「……でも厳しいよ、それ。HDM一発じゃギアのシールドは破れないように出来てるし、そもそもこの消耗じゃ……」

平然と答えたマギーに、ジニーは苦い顔で告げる。

 

最後の交戦に総力をつぎ込んだ今の状況で、消耗戦を挑むのは無謀だ。間違いなく、こちらが競り負ける。

そして同じ理由で、もう一つの方法も使えそうにない。ギアの内蔵武装も殆ど撃ち尽くしてしまったうえ、現状HDMを展開できるアクトレスは残っていない。

もう、打つ手は残っていないように見える——そんな状況で。

「すぐに救援依頼を……」

「要らないわ、ここで終わらせる」

楓の提案を一蹴し、マギーは言い放った。

 

「隊長、聞こえるか——私のHDMの発動許可を」

次いでマギーが伝えた内容に、全員が目を丸くする。

「HDM、って……!?」

彼女が成子坂と契約した際に提出したデータに、彼女自身のHDMについての情報は無かった。

今までずっと使うそぶりすら見せなかったのもあって、持っているはずという疑念すら忘れてしまっていたのだ。

 

困惑と期待が入り混じった視線の中で、マギーの背後に巨大なワープドライブが発生する。

「……えっ?」

そこから現れた物を見て、夜露は思わず素っ頓狂な声を出した。

マグノリア・カーチスのHDM……それは貝殻のような形をした、巨大な金属の塊だった。

「あ、あの……それは一体?」

今起こっている事態も忘れ、思わず問いかける夜露。

「離れていて。あいつらに思い知らせて来るわ……私達の力を」

笑みを浮かべるマギーの背後で、黒鋼のギアが蒼炎を噴き上げる。

困惑する夜露を置いて、マギーは敵のいる方向へと吶喊した。

 

「マギーさん!?」

溢れ出るエミッションの光が、翼のように舞い上がる。

すれ違った数人が空中で体勢を崩すほどの勢いで、マギーは疾走する。

「うわっ——!」

「あれが、あのギアの全力……!?」

「全員退避!巻き込まれても知らないわよ!!」

猛スピードで迫るマギーに、前衛にいた全員が一斉に振り向いた、その時。

 

マギーを中心に、凄まじいエネルギーが吹き荒れた。

「うわあっ……!?」「何ですか、こきゃあっ!?」

エミッションの奔流が、衝撃波になって周囲を襲う。

アクトレスたちが吹き飛ばされる中、マギーのHDMが動き出した。

外殻のようなユニットがアームによって分離し、右肩へ。

そしてその中から現れた巨大なスラスター状のユニットが、左腕の義手へと接続される。

「まさか———!」

起き上がった楓の前で、スラスターの先からエミッションの青炎が吹きあがる。

その瞬間、楓はマギーが使おうとしているものの正体に気づいた。

 

集束した炎が作り出す、青い刃。

マグノリア・カーチスのHDM——それは超大型の発振装置とカウンターウェイトで構成された、巨大なレーザーブレードだった。

 

 

 

『不明なユニットが接続されました。システムに深刻な障害が発生しています——』

「やるなら早くしろ、機体が吹っ飛ぶぞ!!」

けたたましく鳴り響くエラーメッセージの中で、磐田の通信が聞こえてくる。

HDMからの凄まじいエネルギーを堪えながら、マギーは「ええ!」と頷いた。

限界を超える出力を溢れさせ、全身装甲のアリスギアは青い火の玉になって突進する。

 

凄まじいエミッションの奔流を引き出しているこの剣は、ただのHDMではない。

オーバード・ウェポン——人類が唯一「ALICE」に頼ることなく生み出した切り札。

アリスギアを強制ハッキングし、限界を超えて引き出された出力を叩きつける規格外兵装、そのひとつ。

 

それは最早、ただの大型兵装ではない。

ALICEによって齎された力をも糧としてしまうそれは、人間の可能性が生んだ奇跡。

人の覚悟と意地の象徴たる刃を握りしめ、ミグラントは疾走する。

 

「チャージ……完了!!」

「ぶちかませ、マギー!!」

驀進するマギーに気づいた敵が攻撃態勢を取るが、もう遅い。

「はあああああああああっ!!!」

燦然と輝く青炎の刃を、マギーは全力で振り下ろした。

 

 

 

バージニア・グリンベレーは、空を覆う厚い雲が引き裂かれるのを見た。

巨大なエミッションの刃が、空諸共敵を斬り裂くのを。

二つの巨大な爆炎が辺りを染め上げ——最後には黒煙と、雲が消えた空から漏れ出る光だけが残った。

「倒し、た……?」

敵影は無い。

見えるのは巨大な鋼鉄を背負った、黒い渡り鳥の姿だけ。

 

成子坂のアクトレスは1人の例外もなく、その姿に見入っていた。

「マギー、さん……」

日差しを受けて一人佇むその姿に、ジニーは身の毛がよだつのを感じた。

マギーの持つ本当の力。その大きさに、無意識のうちに恐怖した。

 

そう——それは暴力だった。

人が扱うにはあまりにも強大な——全てを焼き尽くす暴力だった。

 




Tips「Overed Weapon」
オーバード・ウェポン。
アリスギア開発初期に造られた、結合粒子のエネルギーを転用した大型兵器の総称。現在のHDMのひな型に当たる。
あまりの高出力に当時のアリスギアでは制御しきれず、その問題を解決するため「アリスギアを直接ハッキングし、システムを暴走させて無理やり駆動する」という方法がとられた。
そこから放たれる攻撃の威力は正に「規格外」。数世紀前の武装であるにもかかわらず、現行のHDMをはるかに超える破壊力は「全てを焼き尽くす暴力」とも語られる。

なおアリスギアは人工知能「ALICE」に提示されたプランをもとに開発されたが、オーバード・ウェポンは完全に人類の手で開発されたものである。当時はまだALICEに対する反感に近い感情があり、その過剰とも言えるパワーには人間の力を、可能性を示すための意味合いもあったと考えられている。

長い移民と戦いの歴史の中で大部分が喪失したが、今でも個人や企業によってごく少数が保管されており、マグノリア・カーチスのように実戦で使用しているアクトレスも存在する模様。

マギーの所有するオーバード・ウェポンは通称「GIGA BLADE」。シャードの推進器の技術をを応用したとみられる巨大なレーザーブレードと、カウンターウェイトを兼ねたジェネレーターで構成され、絶大な射程と威力を兼ね備える。
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