『エキサイティングバトルのコーナーです。本日は、赤坂エリアを巡る成子坂製作所とノーブルヒルズ社との最終戦、その模様をお伝えします!』
画面の中のアナウンサーの声に応じて、スタジオセットにまたウィンドウが現れる。
『まずは気になる最終結果ですが……ノーブルヒルズ社96000ポイントに対して、成子坂製作所の最終得点は120000ポイント!連続の無得点では危ぶまれましたが、古豪の維持を見せつけ見事!エリアを守り切りました!!』
「いいいぃやったああああああっ!!」
ニュース番組を見ていた舞とジニーは、突然奇声を上げたシタラを見た。
「シタラ!?」
「……え、あれ?どうしたの、勝ったんだよ?」
「別にみんなとっくに知ってる……ああそっか、シタラは昼間病院に行ってたから聞いてないんだね」
「そんなぁ」
納得した様子のジニーを見て、しょぼんと肩を落とすシタラ。
「でも、良かった……係争には勝てて、シタラも無事で」
「うんうん。一時はどうなることかと思ったけど、最高のデビュー戦になったね!」
「『トライ☆ステラ』の力で、成子坂は救われたのだ!……そういうことにしとこう!」
気を取り直したシタラの一声に、ジニーは思わず噴き出した。
「そういうことにしとこう」なんて付け足したのはきっと、共に戦ってくれたあのアクトレスを思ってだろう。
「そういえば、みんなは?」
「文嘉たちは事務仕事手伝ってるし、何人か食堂で小結さんの手伝いしてるかな?」
「楓さん達は出撃の準備……かな?バーベナの子たちは、まだ来てないみたいだけど……」
何かに気づいた様子で、舞が不自然に言葉を区切る。
全員が気づいていたその違和感を、口に出したのはジニーだった。
「マギーさん、今日見てないよね?どこ行ったんだろう?」
いつもは事務所にいる筈のマギーの姿を、来た時からずっと見ていない。
「もう契約も終わるみたいだし、いろいろすることがあるんじゃない?」
「……なんだか、ずっと一緒に戦ってたみたい」
「はは……私もだよ、舞」
ぽつっと舞が呟いた言葉に、ジニーは思わず笑みを漏らす。
「一週間くらいの付き合いなのに、何でだろうね」
「いろいろありましたからなぁ……はっ!戦友に時間は関係ないって、こういうことか!?」
シタラの台詞で3人そろって笑ってしまった、その時だった。
「……マギーさんならAEGiSよ。契約の終了を伝えに行ったわ」
外からの声に、一斉に振り向く。
「文嘉?契約終了って……」
「昼に届いたAEGiSからの結果通達を以って、マグノリア・カーチスと成子坂製作所との契約は完了。もう報酬も支払ったわ」
部屋に入ってきた文嘉の答えに、3人は目を見開いた。
文嘉が談話室へと向かう、少し前のこと。
「……それじゃあ、これで。また機会があったら、一緒に戦いましょう」
「……は、はい。ありがとうございました」
事務所を去っていくマギーを、夜露は呆然と見つめていた。
「……ゆみさん、本当に良かったんですか?」
「仕方ないじゃない……マグノリアさんが、私たちを思ってこうしてくれたんだから」
文嘉の問いかけに、ゆみがやるせない声音で答える。
——今日AEGiSから伝えられた最終通知を基に、マグノリア・カーチスに対する報酬の清算が行われた。
それらの手続きがすべて完了するなり、彼女は荷物を纏めて出ていってしまったのだ。
理由は、マギー自身の立場にあった。
一時的な契約によって依頼を遂行するミグラントは、今のアクトレス業界にとっては鼻つまみ者でしかない。
係争下だったことでその契約の存在が公にならざるを得なかった以上、あまりミグラントと懇意にしていては、成子坂製作所自体の評判に関わる恐れがある。
あくまでこの契約は、係争に乗っかったミグラントとのビジネスである……それを強調するために、マギーはこんな手段を取ったのだ。
しかし夜露が、そんなことで納得できるはずがなかった。
「確かにマギーさんは、自分が稼ぐために成子坂と契約しましたけど……でもそれだけじゃないくらい、私たちを助けてくれました」
「夜露……」
「このままお別れなんて、私は嫌です……!」
マグノリア・カーチスが、夜露に語った思い。
そして夜露自身が、彼女へと語った思い。
それをマギー自身から聞いていたゆみには、唇をかみしめる夜露の気持ちが嫌というほどわかった。
だけど、何をすればいい?
1人眉間を押さえ、2人を見ながら考えていた、その時。
「あの~」
やや間延びした声と一緒に、一台の社用車が目の前に停まった。
「うわっ!?……こ、小結さん?」
「お疲れ様です~。祝勝会の食材、買ってきましたよ~」
車から降りてきたのは、成子坂に勤務している栄養士、大関小結。
続けて開いた後ろのドアからは、段ボール箱を抱えた楓たち元叢雲の3人も降りてくる。
「ああ、それか……おかえりなさい」
「お疲れさまです。楓さん、小結さんのお手伝いに行ってたんですか?」
「はい、なるべく人手が欲しいとのことだったので……」
「小結さーん、これ食堂でいいんだよねー」
「はい、お願いします~。それでは、失礼しますね~」
食材の入った段ボールを抱えて、食堂へと歩いていく小結たち。
しばらくそれを眺めていた文嘉とゆみは、はっとして顔を見合わせた。
「……あの、ゆみさん」
「……そうね。流石に、このままじゃ終われないもの」
頷きあう2人の意図は、夜露にもすぐに伝わった。
「マギーさん、最後の手続きに行くって言ってたわよね。時間かかるかしら」
「恐らくは。その間に全員に確認とって……夜露?」
「了解です、行ってきます!」「「ちょっ!!?」」
事務所を飛び出し、夜露はあっという間に走り去っていく。
「……マギーさんAEGiSに行ってるって、今の会話で分かったのかしら」
「分かってない方に賭けますよ私は。それじゃあ、確認取ってきます」
去っていく文嘉を、ゆみは軽く手を振って見送った。
一方、その頃。
授業を終えて事務所へとやって来たバーベナの3人は、事務所の横に見慣れないトラックが停まっているのを見つけた。
「あれ、何だろうあのトラック」
「陸海、知らないの?あれはAEGiSの運搬車両よ」
「綾香ちゃん、知ってるの?」
「ギアとかを運ぶための車両。あたしたちが叢雲からギアを持ってくるときにも、あれで運んだはずよ」
でもそんな用事あったかしらと、答えながらも考える綾香。
そのまま事務所の前まで来ると、AEGiSの職員と混ざって作業する整備士たちの姿があった。
「磐田さん、ごきげんよう」
「おう、綾香たちか。聞いたぜ、よくやってくれたな」
見慣れた厳つい顔を幾分か緩めて、磐田が珍しく笑顔を見せる。
「当ったり前よ!あたしたちがいるんだから、成子坂が負けるわけないじゃない!」
得意げに胸を張る綾香の横で、愛花はトラックを見上げて尋ねた。
「あの、何してるんですか?」
「……コイツをな、返却する準備をしてたとこだ」
そう言って、磐田が指を差した先。
運搬用のハンガーに収められていたのは、黒鋼色の大きなアリスギアだった。
「マギーさんの専用ギア……!?」
「……そっか、もう契約は終わりだから」
呟いた陸海に、そういうことだと、磐田が頷く。
「さっき、事務所で報酬の清算もしててな。もう今日中には引き払うらしい」
「え……そんなに早く?」
「俺たちのことを考えてだろうさ……全く、余計な世話焼きやがって」
そう言う磐田は、珍しく落ち込んだ顔をしている。
「私たちのことって……」
「……そうか、お前たちにはよくわからんかも知れんな」
磐田がマギーの意志を伝えると、3人は顔を見合わせた。
「そんなことまで考えて……」
「全くだ……しかし、なんだかなぁ」
磐田はまたマギーのギアを見上げ、目を細める。
「たかだか1週間の付き合いだってのに、どうしてこんなに寂しくなるんだか」
綾香はそれを、驚いた顔で見つめていた。
いつもの頑固で厳しい顔とは似ても似つかないほどに、その初老の整備士の目は寂しそうだった。
「……あの、磐田さん」
鈴木がおずおずと顔を出したのは、その時だった。
「ん、有人か。AEGiSへのデータ送信は済んだのか?」
「はい、終わったんですけど……その、さっき文嘉さんと会って」
言伝を頼まれたんですと、何処か困惑した様子で言う鈴木。
「文嘉が?」
「はい、今夜の祝勝会なんですけど……」
鈴木から伝えられた、文嘉の「提案」。
それは、予想外の物だった。
そして現在。
「え、そ、そんないきなり!?」
ジニーは思わず、文嘉に聞き返した。
「私だって面食らったわよ。支払いが終わった途端、『じゃあまた、機会があれば戦いましょう』なんて言って出ていくんだもの……」
ふうっとため息をついて、文嘉は続ける。
「……でも、それが普通なのかもね。渡りのアクトレスなんて、企業から見ればはみだし者だもの」
ジニーははっとして、目を伏せた。
確かに、企業から見ればミグラントは異分子だ。力の売り買いだけで生きている彼女たちには、感傷なんて与えられないのかもしれない。
自らの役目が終わればすぐに手を切り、次の戦場へと向かう。それが普通なのだろう。
黙ったまま、3人の方をちらりと見る。
「でも、なんでわざわざAEGiSに?」
「フリーランスで活動してるアクトレスには、色々と報告義務があるらしいわ。マギーさん、専用ギアを個人で所有してるでしょう?そっちの事情もあるみたい」
「そっか……やっぱり、厳しいんだね……」
思いっきり顔に出ている舞は言うに及ばず、シタラも文嘉も寂し気に話している。
ジニーは瞑目し、係争の間のことを思い出した。
夜露のギアの不調、査定の改竄、そして未知の敵。
いくつものイレギュラーに、マギーは一緒に立ち向かってくれた。
契約上の共闘でしかない筈なのに、成子坂を全力で助けてくれた。
そんな彼女と——こんな別れ方はしたくない。
ジニーは意を決して、文嘉へと問いかけた。
「……ねぇ文嘉、マギーさんAEGiSに行ってるって言ったよね?」
「え?ええ、そうみたいだけど……」
「あのさ、今夜の祝勝会、マギーさんも誘えないかな……なんて」
唐突な提案に、目をぱちくりさせるシタラと舞。
文嘉は静かに視線をジニーへと移し、ふっと笑みを浮かべた。
「……奇遇ね、それを提案しに来たのよ。もう他の皆には話を通してるわ」
後ろの2人の顔が、ぱあっと笑顔に変わる。
「あれだけお世話になったんだもの、お礼をさせてもらわないと。
……行くなら早く。このままだと本当に帰っちゃうわよ」
「Thank you so much!! 行ってくる!!」
ジニーも笑顔で頷き、談話室を飛び出した。
次回、第一章最終回。
同時投稿も一週間空けるのもあれなので、
次回更新は明日の22時を予定しております。