「青い木蓮、宇宙を翔ける」   作:超天元突破メガネ

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大変お待たせ致しました。
ここからは第二章。本格的にマギーさんのお話に入っていきます。


Chapter2「BLUE MAGNOLIA」
Mission:13「After the Time」


後に「ミグラント」と呼ばれるようになる存在が東京シャードに現れたのは、今から10年ほど前のことだった。

特定の事業所に属することなく、様々な企業を渡り歩き、依頼を遂行するアクトレスたち。

専用のアリスギアを個人所有し、単身で企業間の趨勢をも変え得る「力」——アクトレスの「商品」化が進んだ現状に歯向かうように現れた彼女たちを、人々は新風と持て囃した。

 

しかしその「新風」が、長く続くことは無かった。

結局のところミグラントたちを迎えたのは、企業による抑圧と排斥。

例え彼女たちが実力を持ち、利益をもたらしうる存在だとしても——企業のためではなく自らのために戦う不安定な存在を、社会が認めることは無かったのである。

そして何より、アクトレスである以上避けられない能力減衰——時が経つごとに一人、また一人とドロップアウトしていき、ミグラントの姿はあっという間に消えていった。

 

 

 

そして。

東京シャード、新宿エリアの片隅にある安アパート。

「……ん」

暗い部屋の中で目を覚ましたマグノリア・カーチスは、今や絶滅寸前のミグラントの一人だった。

 

ゆっくりと頭をもたげ、ぼんやりと部屋を見渡す。

ベッドと事務机くらいしかない簡素な室内を、点けっぱなしのPCの淡い光が照らしている。

どうやら、深夜まで作業をしているうちに眠ってしまったらしい。

マギーはため息をついて、座ったまま目を閉じた。

 

成子坂製作所での仕事から、早数日。

ぼうっとしていると、すぐにその時のことが脳裏に浮かぶ。

——自らの使命に誠実に、そして自らの願いに懸命に戦う、少女たちの姿が。

「……なら私は、私の仕事をしないと」

そんな独り言を呟いたマギーは、姿勢を正してPCモニターに向き直った。

 

しばしの操作の後に表示されたのは、AEGiSが運用している特別契約斡旋サイト。

要するにフリーランス向けの仕事案内なのだが……今は殆ど利用されていない。

以前はミグラントのようなアクトレスを支援する動きも少なからずあったのだが、企業の圧力によって、こうして時間とともに目立たなくなっていった。

今日も朝の日課程度のつもりで、マギーはこのページを覗いたのだが……

 

「……えっ?」

更新されているところなど見たことも無かった、地味なインターフェースの案内ページ。

そこに一件、フリーランスへの依頼の表示があった。

「ど、何処から……!?」

予期せぬ事態に驚いて——内心はかなり心を躍らせながら——内容を確認する。

依頼内容自体は、よくあるAEGiS発注の外縁宙域調査任務、その共闘依頼。

肝心の依頼人は——

 

「聖アマルテア女学院。北条財閥傘下の大手が、どうして……?」

聖アマルテア女学院。

東京シャードの最大手「北条グループ」が運営する中高一貫の女子高で、学校レベルでのアクトレス教育に力を入れていることで知られている。

教育機関ではあるがその設備、規模は大企業にも引けを取らない。フリーランスなど必要もなさそうなものだ。

 

一度は首を傾げたマギーだったが、すぐに自嘲気味に首を振った。

「……まあいいわ。仕事を選べる立場じゃないし」

これを逃しては、次にいつ依頼が入るか分からない。

期待と疑念を一緒に抱きながら、マギーは契約の手続きに入った。

 

 

 

ヴァイス撃退に並ぶAEGiSの重要任務の一つに、シャード周辺宙域の調査任務がある。

フロンティア・プロジェクト——未開拓宙域の調査計画に基づき、シャード進路上の環境調査、ひいては居住可能惑星や資源となる惑星を見つけるための任務だ。

その作戦規模故に、委託は比較的大きな企業にしか行われない。高度な任務ではあるが、委託された企業にとっては大きな見返りが期待できるチャンスでもある。

 

そして今。ムーンシャード船団進路上、未開拓宙域。

シャード運航の安全確保のための環境調査任務が、聖アマルテア女学院によって行われていた。

『A班、ヴァイスの中規模集団を確認。交戦開始します』

『こちらB班、エリア7の環境調査完了。移動を開始します』

汎用型のアリスギアを身に纏い、指揮教員の指示の下調査を進める女子生徒たち。

 

その傍らに、黒鋼のアリスギアを纏った、1人のミグラントの姿があった。

『いいかミグラント、お前の仕事はヴァイス出現時の対応だ。余計な真似はしてくれるな』

「……そんなに不安なら、フリーランスなんて雇わない方がよかったのでは?」

指揮官の通信に投げやりな返答をしながら、マギーはちらりと横を見やる。

……アマルテアは大財閥の運営であることから、生徒にも企業や良家の子女が多い。

フリーランスという未知の異分子の存在に、彼女たちの奇異の目は容赦なく向けられていた。

 

『……今回の契約は学院からのものではない。生徒会長からの要請だ』

「生徒側から?」

思わず聞き返したマギーの耳に、指揮官のくぐもったため息が聞こえてくる。

『全く何を考えているのやら……とにかく、こちらの邪魔はしてくれるなよ』

呆れたような声を最後に、通信が切れる。

 

それとほぼ同時に、レーダーが大型の反応をキャッチした。

『こちらC班、大型ヴァイス1体を捕捉!』

「私が行くわ、手が空いてたら援護を」

ボトムギアに格納された自律ユニット(ピジョン)を展開しながら、マギーは反応のあった座標へと先行する。

現れたのは蠍型の大型ヴァイス「セルケト」。強敵で知られる相手と、マギーはたった一人で対峙した。

 

「さ、始めましょう——!」

迸る蒼炎。

ハサミ状の部位から乱射される速射砲を躱し、渡り鳥は翼を広げ驀進する。

飛行したままライフルを構えたマギーの横で、先ほど射出したピジョンが瞬いた。

 

通常一時的な障壁強化やオールレンジ攻撃のために搭載されるピジョンだが、「FreQuency」に搭載されたものはそれらとは違う役割を与えられている。

「スキャニングピジョン」——周囲状況をスキャンし、敵の解析や射撃補正を行う情報支援特化型兵装。

常時送信される情報によって予測演算が行われ、武装のロックオン機能は通常より大幅に引き上げられる。

 

大推力のブースターによる高速飛行——その最中でも、「KARASAWA」の銃口は確実にセルケトを捉えていた。

「行けっ——!」

そして溢れんばかりの光を湛えた巨砲から放たれる、極大の光条。

射撃型HDMの砲撃と見紛う一撃が、セルケトに風穴を開ける——かに見えた。

 

「……まだ、足りない」

光を裂いて現れた巨躯に、顔をしかめるマギー。

セルケトは大型ヴァイスの中でも、射撃に対する耐性が高い。仮に本物のHDMを叩きこんだところで、一撃では倒せないだろう。

「だったら!」

牽制としてミサイルをばら撒きながら、マギーは接近戦の間合いへ突撃する。

 

しかしその前進は、振るわれた巨大な尾によって阻まれた。

「ちっ……!」

蠍を模したセルケトの、一番の特徴とも言える尾部。強力なビーム砲と射突機構を備えたそれは、言うまでもなくこちらの接近を阻む脅威である。

一度距離を取ったマギーは、迫る射撃に再びライフルで応戦した。

 

一進一退の攻防。

大型ヴァイスと単身で互角の戦いを演じるミグラントに、周囲のアクトレスの視線も集まっていく。

そして少女たちの前で——戦局は渡り鳥に傾く。

マギーの放った光線が掠めると同時に、セルケトの尾が爆発とともに破壊された。

 

「かかった——!」

自らの尾が爆散したことに、動揺のようなしぐさを見せるセルケト。

それを見て、マギーは不敵に笑った。

射撃耐性が高いのなら、何も無理にショットギアで墜としに行く必要はない。

先ほどからの射撃戦は、この面倒な得物を叩き落とすためのものだったのだ。

 

セルケトは小型の随伴機を射出し、3方向からの集中攻撃に切り替えるが——もう遅い。

右手にクロスギアを握り、マギーは隙を見せた敵の眼前へと躍りかかる。

その剣の名は——「MOONLIGHT」

「はああっ!!」

月光の如き青い輝きが、セルケトを真一文字に斬り裂いた。

生まれた傷口へと時間差で高出力レーザーが叩き込まれ、鋼の巨躯を内側から焼き尽くす。

青い尾を引いて刃を振り抜いたマギーの前で、セルケトは爆炎を残して消え去った。

 

「……意外とかかったわね」

クロスギアを仕舞い、マギーはふうっと息をつく。

残骸の中心で平然と佇む彼女の姿を、アマルテアのアクトレスたちは呆然と見つめていた。

そう、散らばった残骸——大型ヴァイスと交戦しながら、一体いつの間に巻き込んでいたのか。

セルケトに随伴していた小型ヴァイス諸共、ヴァイスの反応は作戦エリアから消え失せていた。

 

「この辺りの調査は終わったかしら?」

「……は、はいっ!たった今、調査エリアの移動指示が」

「了解。大きい反応が出るまで、このままそちらに随行するわ」

思わぬ助っ人の登場に調子づいたのか、それとも見せつけられた力を恐れたのか……足並みを速めて移動するアクトレスたち。

マギーもそれについて移動を始めた時、1人のアクトレスが目の前に割り込んできた。

 

「何———っ」

一言言おうとしたマギーは、思わず声を詰まらせた。

エミッションの光を輝かせる、白馬を思わせる意匠のアリスギア。

そしてそれを纏い、静かにたたずむ銀髪のアクトレス。

言い表せない威圧感のようなものを発するその姿に、マギーは圧倒されていた。

 

「貴女は——」

目つきを細めたマギーの前で、アクトレスが目元を覆っていたバイザーを外す。

「流石は現役のミグラント。期待以上の腕前でした」

青い瞳の真っ直ぐな視線と共に贈られたその言葉で、マギーは目の前の少女の正体に気が付いた。

そう、この依頼を出したのは——

 

「……成る程、貴女が依頼を出した生徒会長さん?」

少女は頷いた。

「生徒会長を務めております、3年生の紺藤地衛理です。

ミグラント、マグノリア・カーチス……貴女には、一度お会いしたかった」

 

困惑を胸の奥に仕舞い込み、マギーは右腕で義手を握って腕を組んだ。

「ふぅん……こんな行き遅れに会いたかっただなんて、変わり者も居るものね」

「そう思われても、仕方ないかもしれませんね。ですが、理由があってのことなのです」

真剣な眼差しで、マギーを見つめる地衛理。

そして少女は、更に予想外の一言を告げた。

「貴女と、個人的にお話がしたいのです。この調査が終わった後、少しお時間を頂けませんか?」

 

数刻の静寂が、2人の間を過ぎ去り、

「……ありがとうございます」

静かに頷いたマギーに礼を言い、地衛理は光跡の飛び交う空に消えていった。

 

「………」

残されたマギーは一人、俯いてはあっとため息を吐いた。

一瞬、断ろうとも思った。単に女子高生が興味で近づいたのだろうと。

しかし彼女の瞳を見た時、気づいてしまった。

「なんで、あの子があんな……」

自分と同じ——闘争の中にある人間の眼。

地衛理の眼は——かつてのミグラントたちと同じ眼だった。

 




本作の「ミグラント」はリンクス(ネクスト)の要素も結構含んでます。
リンクスの「単身で趨勢をひっくり返せる力」+ミグラント(傭兵)の「どの陣営にも属さない自由なやり方」のイメージです。
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