今回、ACVDアーカイブの内容を一部含みます。
21世紀の文明レベルを再現している東京シャードにおいて、最も頻繁に用いられる交通手段は自動車である。
茜色に染まり始めた空の下では、今日もいくつもの車が通りを行き交っているのだ。
「……あんなこと言ってさあ」
そして、その一つ。
銀色の社用車のシートに座ったマギーは、隣から聞こえてきた真理の声に振り向いた。
「ついて来てって言った方が乗せてもらう?普通」
「仕方ないでしょう、バスは遠いし私は運転できないし」
「そこはちゃんと調べてきなさいな……」
傍若無人な言い分に呆れつつも、真理はマギーの指示通りに車を走らせていく。
「そろそろ中心街抜けるけど、遠いの?」
「そうね、一時間くらいかしら」
「マジか……」と肩を落とす真理の横で、マギーはふと窓の外に目を向けた。
きれいな夕焼けに染まっていく空を、いくつかの光が飛び交っている。
「あー、アクトレスちゃんが飛んでるー。どこの子だろう?」
「さあね。っていうか真理、よそ見しないで」
言いながらも、マギーの目は窓の外にくぎ付けになっていた。
空に光の軌跡を描いて、飛び去っていくアクトレスたち。
(そう——私が初めてアクトレスを見た時も、こんな空だった気がする)
消えていく光を見送り、マギーは静かに目を閉じた。
(今なら、思い出せるかな……あの時の、世界の色を)
あの日見たソラの景色を、忘れることはないだろう。
未だ紛争の続くシャードに生まれて、そして生きるために武器を取った。そこではそれが自然なことで、生まれてすぐ親を亡くした私には、それ以外出来ることが無かったから。
幸い戦う才能はあったようで、戦場で野垂れ死ぬというオチは当面なさそうだった。
だけど……軍人として生きる間、私の心は乾き続けていた。
理由は単純。退屈だったのだ。
才能というのはありがたくも面倒なもので、困難も無く勝利するだけの日々は、私に何も与えてはくれなかった。
そのうち私は度々問題行動を起こすようになり、敵にも味方にも嫌われるようになってしまった。
そして——彼女たちに出会ったのは、そんな時だった。
「アクトレス」。
私達が使っている玩具のような前時代の武器とは違う、高次元兵装「アリスギア」を操り、人ではなく「ヴァイス」——人類全体の敵と戦う存在。
彼女たちの戦いのスケールは、こんな下らない小競り合いとは比べ物にならなくて——だからこそ、その存在に惹かれてならなかった。
彼女たちを見たその瞬間、灰色だった世界に、再び色が付き始めた——そんな感覚だった。
私はこっそりとアクトレスの適性検査を受け——高いエミッション適性が認められるや否や、ほとんど逃げるように軍人を辞めた。
もうアクトレスになるにしても高齢で、いつ能力が減衰するか分からないと釘をさされたが、そんなことは関係なかった。
入りたい企業もコネもなかった私は、軍人時代の貯蓄をはたいて汎用ギアを個人購入し、当時衰退しつつあったフリーランスとして活動を始め——後は、知っての通り。
正直、自覚は一切なかった。ただ与えられた依頼を成功させ、生きる糧を稼いでいるだけのつもりだった。
目を付けられた原因はきっと、それを余りにも節操なくやったこと。あらゆる企業で成功を重ね続けたことが、私をただの「
そしてその姿は、抑圧の中でも自由を謳い上げる
数年ぶりに現れてしまった、その存在自体が勢力図を変える異分子——「ミグラント」
アクトレスを従えようとする企業連中を嘲笑うかのように、自由に空を舞う
黒と青に彩った——単純に好みのペイントだっただけなのだが——アリスギアを駆るアクトレスは、いつしか「
「ほら、ここよ」
マギーが真理とともにやって来たのは、新宿エリアの郊外にある工場だった。
規模としては成子坂と同じほど。どちらかと言えば製造がメインらしく、大きな工場施設からは騒がしい作業音が聞こえてくる。
「ここは……?」
「『有沢重工』。小さなギア製造企業よ。少し前までアクトレス事業も手掛けてたらしくて、事業撤退で使わなくなった倉庫を貸してもらってるの」
言いながら、敷地の隅にポツリと建った、小さな倉庫の前に立つ。
古いシャッターを引き上げると、夕焼けが暗い倉庫を照らし上げた。
倉庫の中にあったのは、成子坂の設備をそのまま小さくしたような整備室。
マギーに連れられるまま中に入った真理は、メンテナンスハンガーの前で足を止めた。
「これって……」
2つ並んで設置された、旧式のハンガー。
片方にはマギーの専用ギア「FreQuency」が、その黒青に彩られた装甲を収めている。
そして、もう片方。
こちらはもう、長く使われていないのか——少し汚れたハンガーに繋げられていたのは、一対のアリスギアの残骸だった。
「っ……」
真理は思わず息を呑んだ。
無残なものだった。トップギアは左半分が派手に抉れ、全身装甲型特有の重厚な装甲板もそこら中がひしゃげている。
「『LA02 Fragrant』。成子坂製作所が最後に作った——ブルー・マグノリアの、専用ギアよ」
言葉を失い、ハンガーの前に立ち尽くす真理。
マギーはその背中を見つめた後、静かに瞑目した。
(……そう、あの日。私はこのギアを纏って……そして、
私の運命を変えたのは、3年前のとある大規模作戦だった。
シャード船団の進路上に見つかった小型のヴァイスコロニーを、手が付けられなくなる前に無力化する。
アウトランドが総力を挙げて挑むことになったヴァイスコロニー攻略作戦には、万全を期すためにあらゆる戦力が招聘され——当時東京シャード中で名を馳せていた「ブルー・マグノリア」にも、AEGiSからのお声がかかった、という訳だ。
『ブルー・マグノリア。貴女には主力陽動部隊として、コロニーを防衛するヴァイス群の駆逐に当たってもらいます。
作戦の成否に直結する、極めて重要な役割です……活躍を期待します』
「了解、まもなく陽動部隊に合流する。オペレーター、よろしく頼む」
通話を終え、黒鋼の専用ギアを目標地点へと走らせる。
(ブルー・マグノリア……あのギア、成子坂のやつなんだってね……」
(なんだって、あんな落ちぶれた企業に……)
(金になると見れば見境ないんでしょう。ミグラントなんてそんなものよ……)
待機中、他のアクトレスが口々に、そんな言葉を交わすのが聞こえてきた。
彼女たちが言っているのは、私の纏う専用ギア——「Fragrant」のことだった。
このギアの製造元である成子坂製作所といえば、4年前に「メリーバニー」解散の原因となった事故を起こした曰く付き企業。
「青い木蓮」がそこと契約を結び、さらには専用ギアまで発注したことに、当時のアクトレス業界はにわかに沸き立っていた。
(まあ、ミグラントだって相当嫌われてるみたいだからね。嫌われ者同士手を組んだんでしょう……)
「ふん……勝手に言ってなさい」
私は一人、そう呟いていた。
ミグラントになった時から、非難の目など飽きるほどに浴びていた。
そんな視線を憚らず、1人自由を謳い上げる——それが自分のやり方だと思っていたから。
そして——ヴァイスとの激しい戦闘の最中、「奴ら」は現れた。
『——全アクトレスに緊急通達!陽動部隊γが未確認のヴァイスと交戦の後、全滅!
指定座標で交戦中のアクトレスは、即時撤退してください!』
突然の通達は、アクトレスたちを一瞬で混乱と動揺に陥れた。
アクトレス部隊が全滅したという座標からの、救難信号は無かった——つまり、信号を出す間もなく全滅したということ。
しかも、相手は未確認——言うまでもなく、前代未聞の事態だった。
そして、その混乱の中で。
「……っ!」
「ブルー・マグノリア!!?」
撤退していくアクトレスたちと、正反対の方向に飛び出した。
『止まってください!貴女1人行ったところで!!』
オペレーターの制止を無視し、私は部隊が全滅した座標へと急行した。
——今となっては後悔でしかないが、あの時の感情は明確に覚えている。
私は、ひたすらに戦いに焦がれていた。
ミグラントという在り方自体を疎まれ続けた私にとって、アクトレスとして戦う事だけが唯一の居場所だった。
アクトレスになったところで、結局やっていることは変わらなかったということだ。
そして、部隊が最後に居た座標に到着し——私は「それ」を見た。
「何、これ……!?」
異常な光景が広がっていた。
一片も回収されることなく放置されたヴァイスの残骸と、
まるでそこにあった全てを壊し尽くされたかのような惨状の中で、「それ」は静かにたたずんでいた。
眼球のような巨大な球体の周囲で、触手のようなパーツが蠢く機械。
同じような球体に大きな2本の腕が生えた、不気味な巨躯。
ヴァイスという脅威からもかけ離れた、異形の姿がそこにあった。
アーカイブの内容を含みます(ざっとマギーさんの過去を引用するだけ)
今回悩んだところに、「(基本的にゲーム本編に出ない)ACキャラの過去を回想で語っていいのかな」っていうのがあったんですけれど、
結局それが一番わかりやすいと思ったのでこの形にしました。