「青い木蓮、宇宙を翔ける」   作:超天元突破メガネ

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大変、大変長らくお待たせしました。新章開始でございます。




Chapter3「FORGIVE AN ANGEL」
Mission:21「Frag Is Raised」


夜の東京シャード。

摩天楼を見下ろす展望台の上で、少女は着信を受けた携帯端末を耳に当てた。

『やあ、調子はどうだい?』

「所属アクトレスとの顔合わせは終わりました。明日より作戦に出撃します」

『ああ、頑張ってくれたまえ』

端末越しの声が、クク、と笑い声を漏らす。

 

『君も知っての通り、相手はあの青い木蓮だ。……ハハ、流石の君も不安かい?』

「関係ありません。ワタシはワタシの仕事を果たすまでです」

『流石だ。期待しているよ、グルカの傭兵』

通話が切れる。

端末を仕舞い、顔を上げ、眼前の景色——その向こうに目を向ける。

 

「成子坂……『青い木蓮(ブルー・マグノリア)』……」

ぽつりと呟き、少女は夜景に背を向けた。

人気(ひとけ)の消えた展望台に、冷たい風が吹き抜けた。

 

 

成子坂に対し請求された特命随契監査は、メディアによる活発な報道もあり、たちまちのうちに東京シャードに知れ渡った。

世論は当然のように、請求を出したノーブルヒルズ・ホールディングスを後押しする。宇佐元杏奈の消えた「東京アクトレスニュース」は、ノーブルヒルズのアクトレスを期待の新星として紹介するようになった。

神宮寺真理が危惧した通り、成子坂は悪役の立場に立たされることとなる。

少女たちの反攻戦(ヴェンデッタ)は、最初から絶望の淵にあった。

 

「こんちわーっす」

事務所に響き渡った快活な声に、マギーはパソコンに向けていた顔を上げた。

ぱたぱたと近づいてくる、3つの茶色い制服姿。「トライステラ☆」の3人である。

「Hello,マギーさん……そういえば、マギーさんって出撃ない時何してるの?」

「AEGiSへの報告書作ったり、ヴァイス関連の情報収集……あと、整備の手伝いもしてるわ」

「整備も!?」

「……これでも、昔は独りで事業所を渡り歩いてたから。いつの間にか、整備士の真似事くらいは出来るようになってたみたい。あ、これ秘密よ?」

本来整備できるのは免許持ちだけだから、と釘をさす。

 

「すごい、ですね……流石『青い木蓮(ブルー・マグノリア)』……」

「やめて頂戴。真理に頼まれてその名前で復帰したけど、今はもうそんな大層なものじゃないから」

舞からの尊敬の視線を払おうとするマギーに、シタラがやれやれと首を振った。

「いやいやマギーさん、未だに影響力は大きいみたいですよー?昨日のニュースもその話題で持ち切りでしたし」

 

少しでも戦いを優位にするために、成子坂が最初に打った手。それがマギーの「青い木蓮(ブルー・マグノリア)」としての復帰だった。もう、成子坂の中では彼女の人となりは(左腕の真相も含め)周知のものとなっている。

数年前に姿を消した、最後のミグラントの電撃復帰。発案者である真理の見立て通り、マスコミはマギーに飛びついた。

要するにマギーをスケープゴートにすることで、成子坂の不正に関する報道から大衆の目を逸らそうとしたのである。

 

「……でも、良いのかな。マギーさんに負担を強いるようなことして」

「別に負担でもないわよ、ジニー。やってることは変わらないんだし、そもそも『青い木蓮』と私を結びつけるのだって難しいでしょうし」

今回報道に出たのはあくまで「青い木蓮(ブルー・マグノリア)」であり、マグノリア・カーチスという個人は話題にもなっていない。昔を知る人々に散々言われた「今のマギーはまるで別人のようだ」という評価が、この点に関してはマギーを助けていると言える。

 

「……とは言っても、ネットのヘイトも結構マギーさんに向かってますよ?どうしてまたあんな企業に味方するんだって」

「そんなのもう慣れてるわよ。昔の非難の方がまだキレがあったわ」

平然と言ってのけるマギーに、シタラもついに閉口する。

 

「つ、強いね、マギーさん……」

「Indeed……あのうるさい双子相手でも、全然怯まなそうだよね」

慄く2人に、マギーは余裕の微笑みを返して見せた。

 

 

そしてジニーの予想は、概ね的を射たものとなった。

「あんた、この間の係争の……!」

「……そういえば、こうして地上で会うのは初めてね。マグノリア・カーチス。成子坂に雇われたミグラントよ。

それとも、『青い木蓮(ブルー・マグノリア)』の方が通りがいいかしら」

相対したマギーの言葉に、双子のアクトレスは表情を強張らせた。

驚くのも当然だろう。先の係争で成子坂に味方していたアクトレスが、今大人たちが話題にしている伝説のミグラントその人であったのだから。

 

「……ふん、木蓮だかなんだか知らないけど、成子坂の肩を持つなんて落ちたものね」

「評判なんて関係ない。付きたい勢力に付くのが私たちのやり方よ。私にとってノーブルヒルズは何の魅力も無かった、それだけのこと」

「気に入らないわね。こんな悪徳企業、さっさと潰れてしまえばいいのに」

後ろにいるアクトレスたちの空気が、一気に険しくなった。

「何が悪徳企業ですか!そもそもそっちがありもしない悪口を言いふらして……」

「ストップ、夜露。こいつらにそんな真っ当な反論しても無意味よ」

 

敢えて語気を強め、マギーは朱音を睨みつける。

「また下らないことを考えてるんでしょうけど、もう同じ手は食わないわ。今度こそ、完全に叩き潰す」

「一回勝ったくらいでいい気にならない事ね。こっちだって、あたしたちだけじゃないのよ」

言うと朱音は戸口の方を向き、「サンティ!」と呼びかけた。

 

すっと、事務所の引き戸が開く。

顔を出したのは、夜露と同じくらいの年代の少女だった。

黒い大きな瞳が、物珍しそうにこちらを覗き込んでいる。顔立ちや浅黒い肌を見るに、東京シャードの人間ではないようだ。

少女はそのまま事務所に入ると、一同の前でぺこりとお辞儀をした。

 

「初めまして、サンティ・ラナです。今回の係争に、ノーブルヒルズのアクトレスとして参加することになりました」

「……気になる言い方ね。正式に所属するアクトレスでは無いと?」

「はい。AEGiSからの契約派遣です」

にこりと笑うサンティに、朱音が不機嫌そうな眼差しを向ける。

「サンティ。そんな丁寧は挨拶は不要よ。こいつらは敵なんだから」

「そうはいきませんよ。せっかくかの『青い木蓮』に会えたのですから」

 

マギーの眉が、ぴくりと持ち上がった。

「あら、今どきのアクトレスで私のことを知ってる子が居るなんてね」

「ええ、よく知っていますよ。ずっと……会いたかった」

サンティは不敵に笑うと、おもむろに小さな手で双子を押しのけた。

 

「サンティ……?」

動揺する朱音を無視して、サンティはマギーを見上げる。

「貴女が何故舞い戻って来たのか、理由はワタシには分かりません……ですが」

そこで、マギーは気づいた。

見下ろす少女が纏う気配に……双子とは違う敵意に。

 

そしてその敵意は、すぐに言葉になって現れた。

「ここで、ワタシは貴女を倒す。この戦いで、後進に道を譲ってもらいますよ。ブルー・マグノリア」

 

事務所の空気が、一瞬で凍り付いた。

「さ、サンティ!?あんた何言って……」

「へぇ……大きく出たわね、お嬢さん」

朱音までもが恐々と声を震わせる中で、マギーは興味深くサンティを見つめ返す。

 

「私を倒すのは勝手だけど、貴女の敵は私だけじゃない。きちんと係争の成果も出さないと、AEGiSに怒られるんじゃない?」

「大丈夫ですよ、貴女以外は相手にもなりませんから。全員、所詮は一般人です」

背後の夜露たちが色めき立つ。

「……面白いこと言うね、君」

2人の間に割って入ったのは、少し離れて話を聞いていたジニーだった。

 

「ジニー……」「貴女は……」

割り込んだ金髪のアクトレスを見て、サンティは満足そうに笑みを浮かべた。

「……ははっ、面白いですね。まさかこんなところで本物に出会えるなんて」

何も答えず、サンティを見つめるジニー。

3人の異様な雰囲気に、周囲のアクトレスは何も声を上げられなかった。

 

事務所に警報が鳴り響いたのは、その時だった。

「な、何ですか!?」

「ちょっと待って!このコード……AEGiSからの緊急出撃命令(スクランブル)よ!」

ゆみの言葉に、一同が目を剥いた。

ヴァイスの大規模襲撃などでシャード航行に関わる事態が発生した際、通常まずはAEGiSの即応部隊が対応し、その間に各委託事業所に命令が下される。

それすらもすっ飛ばした、AEGiSによる最上級の指令が緊急出撃命令(スクランブル)——年長者のゆみやマギーでさえ、経験のないことだった。

 

「はぁ!?何が起きてるのさ!!?」

「黙ってシタラ!今確認を……っ!」

指令室に駆け込んだ文嘉が、愕然と言葉を詰まらせる。

「出撃していたエンパイア中野の合同部隊が……調査中の未確認ヴァイスと遭遇!!?」

聞こえてきた声に、その場にいた全員が吃驚した。

「それってまさか、この間の……!」

「ついに尻尾出したわね!隊長さん、聞こえるかしら!」

 

事務所内の端末から、ゆみがすぐに隊長に連絡を入れる。

「はい……はい、流石隊長さん、準備が速い!すぐに出るわ!」

「出撃詳細が来た!トライステラと叢雲で出撃、サポートはゆみさんとマギーさん!」

突然のことに困惑しながらも、指示を受けた6人が動き出す。

 

そしてサンティも、自分の端末に来たアラートを見て頷いた。

「こちらも出撃指示が来ました。行きましょう、朱音さん、天音さん」

「えっ、ちょ、ちょっとサンティ!」

「い…行こう、お姉ちゃん!お、お邪魔しましたっ!」

すたすたと出口へ歩いていくサンティ。双子も慌てて、それについていく。

「では……また(うえ)で」

誰かを見つめるように一度振り返って、サンティは走り去っていった。

 




エタってたまるかああああああ!!
......ということで、申し訳ありません。3度目の改稿です。
サンティはこの作品で重要な位置に置くキャラクターなので、自分の中で出し方がずっと定まらず、非常に長い間投稿が出来なくなっていました。
今回でやっと、思い描いた通りの文章を書けたと思っています。

またぼちぼち続きを投稿していくので、どうか見届けていただけたらと思います。
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