楓さんは何の用事でメンテナンスエリアに戻って来てたのか
そういえばあの地点で何時だったのか
そもそも成子坂の仕事は何時までやってるのかとか
よくわからない要素が多いので大幅にアレンジが含まれております。
「……お疲れ様。帰還しましょう」
作戦司令室のマギーが、出撃中のアクトレスたちに帰還を促す。
(じーっ……)
バージニア・グリンベレーは、通路の角からこっそりとそれを眺めていた。
右手一本で管制用端末を操作し、的確にアクトレスたちに指示を出す——何とも器用なものだ。
「……バレてるわよ。別に隠れてなくたっていいのに」
「あっ」
振り向くことなく声を掛けられ、おずおずと部屋に入る。
「……ジニーさん、だったっけ。気になるわよね、私の腕」
「……やっぱり、軍にいた時に?」
ジニーが問うと、マギーは少し間をおいて「そうよ」と頷いた。
「あまりいい思い出のない半生だったわ。エミッション適性があったのが、まだ救いだった」
「そうなんだ……」
ジニーは会話の傍ら、手にした携帯端末に目を落とす。
そこに映っていたのは、青銀のギアを纏った、一人のアクトレスの写真だった。
ブルー・マグノリア。
7年前、東京シャードに突如現れた彼女は、見る人すべてのその鮮烈な生き様で魅了した。
特定の企業、事業所に属さず、あたかも傭兵のように、あらゆる作戦に加わり活躍を残す。
まだ現在ほど企業競争が激しくない時代だったにせよ、相応の実力がないと到底成しえないそのやり方で、彼女は東京シャードを翔け抜けた。
同時期に「メリーバニー」が解散したこともあり、新たなエースの登場に、人々は酔いしれたのである。
——そして彼女が「伝説」になったのは、4年ほど前のこと。
ある大型作戦を最後に「青い木蓮」は姿を消した。
「……そういえば、貴女だったわね。私を『ブルー・マグノリア』と間違えたの」
「えっ!?ま、まあ」
こちらの思考を見透かしたような質問に、ジニーはしどろもどろに頷いた。
「割と昔のアクトレスなのに、良く知ってたわね」
「ファンなんてそんなものだよ。シタラなんか『メリーバニー』大好きだし」
苦笑して答える。
シタラに限らず、前世代のアクトレスに憧れる現役と言うのは、案外多いのだ。
「正直私も、アクトレスになりたての頃は憧れてた。かっこよかったわよね、彼女」
「へぇ……そういえば、アクトレスはいつから?」
会話の流れで、さりげなく聞いてみる。
「そうね……ドロップアウトしてからだから、4年くらい前からかしら」
ジニーは思案した。ちょうど「ブルー・マグノリア」の活動時期とずれるかたちだ。
(……やっぱ、別人なのかな)
1人で一応の納得をしようとした、その時。
「ただいま戻りましたー!」
仕事を終えた夜露たちが、事務所に戻ってきた。
「Welcome Back!! お疲れ様!」
廊下を渡り、一同を出迎える。案ずるまでもないことだが、依頼は問題なく終わったようだ。
「お疲れ様。依頼の報告は……」
「隊長がAEGISへ送っています。本日はオペレート、ありがとうございました」
次いで入ってきたマギーに礼を言う楓の後ろを、ぱたぱたとアクトレスたちが通り過ぎていく。
「……あっ、そうだマギーさん!ギアの調整をしたいので、メンテナンスエリアに来てほしいとのことでした!」
「了解、すぐに向かうわ」
夜露の伝言に頷きを返し、事務所を出ていくマギー。
それを見ていたジニーは、ひとつ気になっていたことを楓に尋ねた。
「あ、ねえ夜露。マギーさんのギアってどんな感じなの?あの人、専用機持ちなんでしょ?」
アリスギアには各企業共通の規格で設計された汎用型と、アクトレス個人に合わせて設計される専用型が存在する。
武装は勿論、操作系までオーダーメイドで造られるギアは言うなれば信頼と功績の証であり、総じてスペックも高い。若手アクトレスにとっては憧れの的だ。
出撃してきた夜露たちなら、メンテナンスエリアで目にしていると思った……のだが。
「……あー。確かに運び込まれてはいたんですけど」
「整備班のみなさんがずっと作業していて、見ることはできませんでした」
聞けば出撃前から戻ってきた後まで、ずっと整備士が貼りついていたらしい。
「私も見たかったですけど……残念っす」
「そうだねぇ……」
ジニーは頷いて、小さくため息を吐いた。
——という話を聞いたものだから、ジニーは尚更気になってしまった。
殆どのアクトレスが帰宅し、整備棟の明かりも落ちるのを待って、時刻は8時。
無人になった格納庫に、ジニーは一人で忍び込んだ。
「さってと……」
事務所から拝借した鍵で戸を開けると、自動照明が格納庫を照らし上げた。
長方形のプレハブ施設には、整備の済んだギアがハンガーに格納されて並んでいる。
全盛期の頃は、この建物は多種多様な企業のアリスギアで埋まっていたのだろう。
そんな過去を思わせる閑散としたハンガーを、ジニーはてくてくと歩いていく。
ヤシマ、センテンス、ベルクラント、アーリー。
企業別に格納されたアリスギアの間を進んでいると、あっという間に空のハンガーにたどり着いてしまった。
「……あれ?」
立ち止まり、ジニーは思わず振り返った。
自分が使っているギアをはじめ、ここにあったのは見慣れた仲間たちのギアばかり。変わったギアは無かったような気がする。
「見逃した……かな?」
もう一度ちゃんと確認しようと、来た道を戻ろうとして。
すぱんという音を立てて、勢いよく入り口の戸が開け放たれた。
「誰かいるの!?」
「うえっ……!?ま、マギーさん!?」
格納庫の入り口、ちょうど真正面に現れたマギーの姿に、ジニーは飛び上がった。
「……良かった、ここのアクトレスね。忘れ物?」
ジニーの姿を見て、安堵の声を漏らすマギー。戸締りした筈の格納庫の電気がついていたので、心配して見に来たようだ。
「そ、そんなところです……あれ、でもマギーさんはどうして?」
「ついさっきまで、持ってきたギアの調整をしていたの。メンテナンスエリアで」
結局調整が終わらずに、ギアを置いたまま戻ってきたのだと、マギーは話した。
それで、ジニーも納得した。道理で格納庫にそれらしいギアがない筈だ。
一度事務所に戻るというマギーに、ジニーもついていくことにした。
「事務所って、まだ誰かいるの?」
「Well……もう安藤さん以外は帰っちゃったかも」
何も言わずにカギを持って出てきたことを思い出し、思わずばつの悪い顔を浮かべる。
バレたら怒られるだろうか……そんなことを考えた時だった。
「……っ!?」
突然がたり、という物音が聞こえ、マギーが足を止めた。
「……聞こえた?」
「……yes」
小声で問いかけたマギーに、ジニーは肯定を返す。
物音が聞こえてきたのは、格納庫の反対側にあるメンテナンスエリアの方からだった。
ついさっき、マギーが作業を切り上げて施錠したばかりの。
自然と、二人は歩みを早めた。
張りつめていく空気の中で、その足音は駆け足に変わる。
そしてメンテナンスエリア側の扉の前にたどり着き、2人は顔を見合わせて頷きあった。
小さな物音が、扉の奥から漏れ聞こえていた。
言葉を交わす間もなく、ジニーとマギーは同時に動いた。
「マギー!」
パスコードを打ち込み解錠した瞬間、マギーが扉を蹴破る勢いで突入する。
運の悪いことに、照明のスイッチがあるのは反対側。薄暗いままのメンテナンスエリアに乗り込んだマギーは、暗闇の中へ向かって叫んだ。
「誰だ!」
「っ!?」
息を呑む音。
そして確かに感じた視線に、マギーはフロアを蹴って飛び出す。
中央のメンテナンスハンガーを飛び越えた時、大音響とともに地下室に光が差した。。
「お姉ちゃん、こっち——!」
「嘘っ!?」
ハンガー横の非常口が——施錠されているはずの頑丈なドアが吹き飛んでいた。
予想外の事態に足を止めるマギーの前で、人影が外から伸びる手に引っ張られていく。
それでもどうにか食らいつこうと、そちらへと手を伸ばし——
「ぐあっ……!?」
死角だった左肩を、思い切り突き飛ばされたと悟ったときには、既に遅く。
「「うわああっ!!」」
マギーの体は背後のジニーに激突し、その隙に侵入者は逃げていった。
「逃げられた……っ、ジニー!?」
ジニーはすぐには起き上がれずに、倒れたままげほげほと咳込んだ。
「う、ぐっ……!大丈夫、だけど……」
マギーに抱えられ、ジニーは侵入者が消えていった大穴を見やる。
「……してやられた」
苦虫をかみつぶしたような顔で、ジニーは吐き捨てた。
暗かったせいで、侵入者の姿はよく見えなかった。しかし。
——お姉ちゃん、こっち!
追跡劇の最中に聞こえた声は、明らかに聞き覚えのある声だった。
「Actress Personal Identification Card」
—アメリカ仕込みの凄腕シューター—
「バージニア・グリンベレー」
誕生日 6月19日
年齢 16歳
身長 166cm
血液型 O型
職業 高校生
Tips「専用アリスギア」
アクトレス個人に合わせてオーダーメイドで作られるギア。
操作系を使用者のイメージに合わせて設定するため、使用者以外では装備することはできても動かすことはほぼ不可能である。
汎用のギアとは一線を画す性能を持ち、専用スーツ及び専用ギアの所有はアクトレスにとって重要なステータスとなる。
広義には専用チューンを施した汎用ギアもこれに含まれる。