ノリで書いてたらノーブルヒルズ側のことに触れてすらいなかったことに今更気づきました。ちくせう
そして、その日は思いがけず早く訪れた。
「『月面遺構強行偵察依頼』、か。ついに動き出すってわけね」
AEGiSの「ミグラント」仲介システムに掲載されていた依頼。
嘗ての人類が遺した無人兵器、彼らへの反撃の狼煙たる戦いへの参加要請を、マギーは二つ返事で引き受けた。
それが決戦の前触れだったと、この時のマギーには気付く由もなかった。
小さな「前触れ」は、もう一人の傭兵の元にも起こっていた。
「......契約解除?どういうことですか」
「どうもこうも、書いてある通りよ。もう、あなたの力を借りる必要は無くなったってこと」
新宿エリアに立ち並ぶビルの一つ、ノーブルヒルズ・ホールディングスのオフィス。
通達書を片手に疑問の声を上げたサンティに、琴村朱音はつっけんどんな態度で言い放った。
「まだ係争期間は終わっていません。それに、ポイントも差を縮められつつあります」
「そんなことあたしに言われても......決めたのは上の人であって、あたしはそれを伝えただけよ。もう逆転の可能性は無いって考えたんじゃないの?」
ノーブルヒルズの大差の裏には、AEGiS側の不正な審査があったのだが......それをサンティが知る由は無い。
自分も詳しい話は知らないと話を切り上げようとする朱音へ、サンティは訝しげな視線を向ける。
「......そんなこと、ですか。成子坂との係争には、絶対に負けられないのではなかったのですか?」
サンティの言葉に、朱音はその翡翠色の目を見開き......すぐに目を逸らした。
「......真面目だね、サンティは」
「朱音さん?」
「そうだよ、成子坂には負けられない。でも、あたしたちは成子坂に勝ちたいわけじゃないの」
一見矛盾したようなその言葉は、しかし。
「あいつらを潰すためなら、あたしは、あたしたちはなんだって利用する。そう、凪さんに誓ったから」
目的を果たすためなら、この手を汚しても構わない。
サンティは、あるいはノーブルヒルズすら、利用しているだけだったと。
笑みのない朱音の顔が、冷たい真実を語っていた。
「そう......ですか。ならワタシはもう、要らないですね」
「......今まで、本当にありがとう。あなたが居なかったら、ここまで来れなかった」
朱音と分かれ、重い足取りでAEGiSへ報告に向かう。
......サンティ・ラナは傭兵である。雇い主とはあくまでもギブアンドテイクの関係であり、その真意や目的に踏み込むべきではない。そう心に決めて生きてきた。
それでも、それでも。
(朱音さん、あなたは......)
琴村朱音。平和な東京シャードに暮らす、自分とそう年の変わらない少女。
彼女がこれほどまでに残酷な決意を抱いていたことが、サンティには耐えられなかった。
「......ワタシは、どうすればいいのですか?」
濃緑の瞳が、ビルに設置されたモニターを見上げる。
映し出されたニュース映像の中で、青鋼のアクトレスがシャードの空を駆け抜けていた。
異変は、唐突に訪れた。
「こんにちはー!......は!?」
「ゆみさん、司令室から直接通信を飛ばせませんか!?」
「指揮系統外だから何とも言えないけど、やってみる!そっちは隊長への連絡をお願い!」
放課後、いつものように事務所へやってきた夜露の目の前に飛び込んできたのは、ただならぬ雰囲気で事務所を行き交うアクトレス達の姿だった。
「ど、どうしたんですか?」
「Hello夜露、さっきから、マギーさんと連絡がつかなくて......」
「マギーさんって、今日はAEGiSの依頼で調査に行ってるんじゃ」
ジニーの返答に、暢気に首を傾げる夜露。
しかし実際、マギーが今日は成子坂に居ないという連絡は来ていた。というのも、AEGiSがついに件の月面遺構を調査することになり、マギーはそれに同行することになっていたのだ。
「そのはずだったんだけど、これ」
険しい顔でジニーが指さしたのは、いつもマギーが居座っている机のモニター。
「これってAEGiSの連絡フォーム......え!?マギーさんへの依頼は出してない!?」
表示されていたAEGiSからの返答に、夜露は一瞬で青ざめた。
「ちょっと待ってください、おかしくないですかこれ!?」
「うん、明らかにおかしいんだよ......隊長もマギーさんから指令書を見せられて、参加を承認したって言ってる」
存在しない依頼を引き受け、姿を消したアクトレス。
その意味する所は、余りにも質の悪い罠だった。
「......ダメだ、完全にハメられたわね。AEGiS内部の誰かが手引きして、ウソの任務でマギーさんを釣り出したとしか考えられない」
「でも何のために?確かに係争で活躍はしてたけど、アクトレス1人を引き離したところで......」
「登録アクトレスが出撃中に行方不明になったってだけで十分アウト。最悪、当分出撃できなくなるわ」
そこまで言い切り、ゆみは悔し気に机を叩いた。
「クソっ、不正な審査も杏奈さんが止めてくれた矢先だってのに!」
「と、とにかくやれることをしましょう!未帰還報告を出して探してもらうって手も......」
混乱し始めた状況に追い打ちをかけるように、夜露の声をアラートが遮った。
「こ、今度はなんですか!?」
「警報アラート......ヴァイスがシャードに近づいてるってことだけど......」
AEGiSの警報システムにアクセスし、レーダーを確認する。
「うっわ、このタイミングで......!」
表示された反応種別を見て、ジニーは腹立たしく声を漏らした。
東京シャードに迫りつつあったのは、無数の無人兵器の群れだった。
「もう自動防衛ラインも突破されてる!どうして緊急出撃が出ないの!」
「落ち着きなさいジニー。今他の事業所にも動きが無いか確認してる......!」
憤るジニーを諫めながらも、ゆみ自身も冷静ではいられなかった。
最初のアラートから数十分、AEGiSのレーダーマップには、続々と未確認反応......無人兵器の侵攻を示す表示が近づきつつある。
なのにまだ、AEGiSから迎撃任務が発注される気配はない。東京シャードの全てのアクトレス事業所が、動けずにいる状態ということだ。
「ごきげんよう......とか言ってる場合じゃないわよねこれ!」
「おっと、アマ女も来たわね。見ての通りよ、正直ヤバい」
「さっき来るとき、もうアラートが鳴り始めてたよ。大分近づいてる......!」
続々とアクトレスたちが駆けつけるものの、状況が変わるわけでもない。
「あーもう、何がどうなってるのよ!」
「分からないから困ってるんだよ、綾香」
「マグノリアさん、大丈夫かな......」
不安そうなバーベナの3人の横では、楓もまた何もできない現状に歯噛みしていた。
(こんな状況でも、私たちは何もできない......企業としてアクトレス業務を委託されているだけの私たちには......!)
その時だった。
楓の端末に、一通のメールが届いたのは。
「これは......!?」
届いた通知に、楓は瞠目する。
件名は「
(そんなまさか......でも)
送られてきたメールのアドレス、AEGiSの公用アドレスであることを示すドメインを信じ、内容を確認する。
『青い木蓮はここにいる。成就しろよ、君たちの答えを』
「......!」
反射的に、添付されていたURLを叩く。
「ゆみさん!これを見てください!」
「楓?どうしたの?」
ほとんど叩きつけるように机に置かれたスマホへ、全員の視線が集まった。
映っているのは成子坂の司令室に表示されるものと酷似した、戦闘指揮用のレーダーマップ。
しかしレーダーが示している戦場は、シャード後部外縁区域......まさに今、マギーが戦っている場所だった。
「これってまさか、AEGiSの管制システム.....?」
「メールには、こうありました。『成就しろよ、君たちの答えを』と」
「......確かに、こいつをうちの管制システムにリンクさせることはできる。けどね楓」
「分かっています。AEGiSの依頼なしに出撃するのは、明確な規定違反です」
それでもと、楓は言葉を継いだ。
「私は、このまま黙って見ていたくありません。先の係争の時も、偏向報道に苦しめられた時も、私たちは自らの正義を信じて戦い続けました。
そしてそんな私たちにあの人は......マグノリア・カーチスは、寄り添い続けてくれた」
もう一度、画面に目を移す。
無数の敵の中、たった一人立ち向かう輝きを見て、確信した。
誰よりもアクトレスの自由を願った渡り鳥に、今こそ答えを示す時だと。
「あの人の願いに応えるには、今しかない」
そして、それ以上に。
「アクトレス業界を散々振り回した彼女たちのように、今度は私たちが変えてやる番です」
果たして、その一言が火をつけたのか。
「......だってさ。みんな、覚悟は決まった?」
「Sure!!一発派手にぶちかましてやろうよ!」「よっしゃあ!」
「正直気乗りしないけど......このまま黙ってるのは、アクトレスとして納得いかない!」
ジニーが、シタラが、堅物な文嘉でさえも声を上げる。
「まあ、一番気乗りしなそうな人に聞いてないんだけど......ええっと、磐田さん?」
「おう、全部聞いてたぞ。遠慮はいらん、行け!」
「そ、即答っスか!?いくらなんでもやばいんじゃ......!?」
「馬鹿言え、文嘉の言う通りだ。このまま大人しく待っていられるか!」
豪胆に言い放つ整備部長の姿に、ゆみは呆れたように肩をすくめる。
熱意は、瞬く間に成子坂を覆いつくした。
ACプレイヤーが一番疑う四字熟語「強行偵察」説