マギーさんの二つ名に関して表記ゆれがありますが、
これは表記ごとにニュアンスを変える目的でわざとやってます。
カタカナだけなら「ブルー・マグノリア」という言葉だけを重視、
漢字にふりがなつきは肩書きとしての「青い木蓮」を重視って感じです。
「シャード外縁」は通常、ムーンシャード間高速連絡船の航路よりも外側、ヴァイス自動索敵システムの走査限界地点一帯のエリアのことを言う。
連絡船ゲートの防衛に時折出撃することを除けば任務の対象になることも殆どない、まさにシャードの辺境とも言えるエリアに、幾つかの光点が瞬いた。
(先遣調査とはいえ、この人数で......?)
その中の一つ、青と黒のアリスギアを纏ったマギーは、指定された航路を進みながら思案する。
視界の端でぽつぽつと瞬く、エミッションの光の数は9。マギーを入れれば10人ということになる。AEGiS指揮下での調査任務は何度か経験があるが、これほどまでに小規模なものは初めてだった。
そして、気になることはもう一つ。
(あの子......あの子も、ここに)
レーダーに映し出された、アクトレスの一人の名前を視線でなぞる。
「サンティ・ラナ」。
彼女がノーブルヒルズとの契約を解消したことをマギーが知ったのは、係争相手と同じチームに配置されることの是非を、AEGiSに確認した時だった。
(係争の真っ最中に解約だなんて、一体何が......)
『お、ブルーマグノリア発見!!』
マギーの思考に割り込んだのは、楽し気な少女の声だった。
同時に、急接近してきた一人のアクトレスが視界に飛び込む。汎用ギアに覆われた最新型のスーツには、AEGiS所属であることを示すエンブレムが貼りつけられている。
『お~、これが噂の専用ギア!いいなー、かっこいいなぁ~』
「前見なさい前。デブリにぶつかっても知らないわよ」
馴れ馴れしく話しかけてくる声に、マギーはバイザーの奥の眉をひそめた。
「AEGiSのアクトレスは一人だって言うから誰かと思えば......貴女よね?前の係争であの腕付きを撃ち落としたアクトレス」
『あ、覚えてくれてました?そうです、あの砲撃は私です!」
「えぇ、その節はどうも。おかげで助かったわ」
陣頭指揮担当として派遣されているこのアクトレスを、マギーは知っている。
ノーブルヒルズとの最初の係争で、無人兵器に超長距離砲撃を叩き込んだ張本人―帰還した後に分かったことだが、バーベナを援護したアクトレスも彼女だった―は、マギーの感謝の言葉に上機嫌に機体を躍らせた。
『ブルーマグノリアに褒められた......!加純に自慢できちゃうな~!』
「え、貴女鳳加純と知り合いなの?」
『知り合いと言いますか、仕事仲間?です。今回のせ......陣頭指揮も、加純からの依頼で』
「ふぅん、そうなの。大変ね、一人で知らないアクトレスを任せられるなんて」
マギーが何気ない風に呟くと、アクトレスは「そうなんですよ」と頷く。
『でも加純の話だと、本当は契約したアクトレスだけで調査させる予定だったらしくて。流石にそれはって、私が入ることになったんです』
思わず、小さなため息が漏れ出る。どうやら、あまり整った状況下での依頼ではないようだ。
『こちらチームβ、前方に無人兵器の反応を多数捕捉!』
2人の会話を遮ったのは、先行したチームからの通信だった。
『こちら部隊長、了解しました!予定通り、散開して各個突破を試みます!』
各個突破というアクトレスの指示は、事前に打ち合わせてあったもの。
大型種相手の場合はともかく、アリスギアと無人兵器の戦力差は大きい。であればそれぞれが敵を引きつけ戦力を分散し、性能差にモノを言わせて一気に振り切ってしまった方が速いというプランである。
「それじゃあ、また後で」
『はーい、どうかお気をつけて......』
エミッションの青い輝きが、マギーのそばから滑るように離れていった、次の瞬間。
正面へ視線を戻したマギーの前で、深紅の光線が迸り。
マギーの少し前で、ついさっきまで話していたアクトレスが、巨大な火球の中に飲み込まれた。
「......っ!?」
迫る熱波に、反射的にブースターを吹かし飛びのく。
遺されたギアの残骸に息を呑むアクトレスたちを、直後無数の光線が襲った。
「こいつ......っ!」
一度砲撃への思考を切り、現れた小型兵器の群れに応戦する。
周囲のアクトレスも迎撃を始めているものの、AEGiSのアクトレスが落とされた動揺が大きいのか、明らかに動きが鈍い。
「管制、聞こえるか!?指揮担当が落とされた、指示を――!」
状況を落ち着かせようと、マギーは通信回線に声を叩きつけ――
【あー、あー。えーっと、聞こえてるかな?】
返ってきたのは、強いノイズの混じった男の声だった。
「は......?」
【あぁ、聞こえてるみたいだね。悪いけど、AEGiSとの通信は切らせてもらったよ」
凍り付くマギーをよそに、声は飄々と言葉を紡ぐ。
【騙して悪いけど、君たちにはここで消えてもらわなきゃならない】
「何を言って......何者なの、貴方は!?」
叫んで、マギーは気付いた。
今こうして声を上げている自分への。
言葉を失い、立ち尽くしているアクトレスたちへの。
無人兵器たちの攻撃が、ぱったりと止んでいることに。
「まさか、お前がこいつらを!」
【あぁ、
「質問に答えろ!こいつらを目覚めさせて、何をしようとしているの!?」
マギーの問いを遮るように、光弾がギアの装甲を掠めていく。
攻撃を再開した小型種の弾幕が、アクトレスたちへと襲い掛かった。
「クソっ、総員撤退!倒せるだけ倒して逃げるしかない!!」
迎撃を続けながら後退を試みるが、敵の攻撃が弱まらない。小型種の自爆攻撃への回避に意識を向けなければならないことも足枷になり、アクトレスたちは宙域へと釘づけにされていく。
「こうなったら!」
味方の一人が捌き切れずに直撃をもらったのを見て、マギーは咄嗟に前へ出た。
「FreQuency」の高い防御力と積載量にものを言わせ、壁役になりながら武装を乱射する。
『
端末から零れ落ちたようなその声で、マギーは今庇ったアクトレスが誰なのか気付いた。
「サンティ!怯んだら負けよ、やるだけやるしかない!!」
『......言われなくとも!!』
砂色のアリスギアを纏うサンティが、「FreQuency」の陰から飛び出す。
マギーとサンティ、2対の翼を先頭に応戦を続けるアクトレスたち。
(このまま少しづつ......いや、ちょっと待て!)
少しづつ、しかし着実に後退していく中で、マギーはある見落としに気付いた。
今まで確認された無人兵器は2種類。
ミサイルや光弾を武器にし、強力な自爆攻撃を仕掛けてくる小型種。
巨腕を振るい、アクトレスを一撃で仕留める力を持つ大型種。
しかしその中に......アクトレスを撃ち落とすような、砲撃能力を持った個体は居たか?
「まさか!」
マギーが「それ」に気付くのと、聴覚補助機能へ凄まじいノイズが入ったのは同時だった。
「くっ......!」
『
小型種の群れを掻き分けるようにして現れた「それ」に、サンティが悲鳴のような声を上げた。
1枚で大型ヴァイス「レントラー」の全幅に匹敵するかという、巨大な鋼鉄の翼。
目の前で折りたたまれていく翼の中央に接続されているのは、大口径の砲口らしきモジュールを胸部に備えた、屈強な人型のユニット。
暗い宇宙の中で、深紅の機体を青いエミッションの輝きを以って照らし上げ......超大型の無人兵器が、アクトレスの前に立ちふさがった。
『あんなものまで......!?』
「全くとんでもないものを作ってくれたみたいね、私たちのご先祖様は!」
驚愕するサンティの横で、マギーはほとほと呆れたように吐き捨てる。
【......そうだ。これが人が遺したチカラだ】
その時、また通信に割り込むように......否、鳴り響いていたノイズがねじ曲がり音を造ったかのように、男の声が響き渡った。
『この声は......!』
【『アリス』の意思を越え、その力を利用し、創り出された人類の希望......ハハ、ハハハ!素晴らしいじゃないか!彼らこそが、君たちアクトレスを超える存在だ!】
低く響くノイズが、狂ったような哄笑を上げる。
【さて、そろそろ遊びは終わりにしようか。まずはここに集めたイレギュラー......君たちから消させてもらうよ!ハハハハ!】
声のようなノイズが再び歪んでいくと同時に、超大型種の胸部に輝きが灯る。
集束していく紅いエネルギーが、先ほど炸裂した火球の正体であると一発でわかる、凄まじい熱量を放ち始める。
「総員退避!アレを喰らったら終わりよ!」
『でも、この数の中じゃ......!』
小型種に包囲され身動きが取れないまま、紅色の炎が全てを焼き尽くす準備を終える。
「――!」
その焔はまるで、嘗て翼を奪われた日の炎のようだった。
「まだ......まだよ......!こんな所で、私は......!!」
視界に重なったあの日の炎を、深青の瞳が睨みつけた、その瞬間。
「さあああああせるかあああああああああああああっ!!!」
破滅の紅蓮をかき消すように、眩い輝きが炸裂した。
というわけで、ミスター・イカれ野郎にもご登場いただきました。
本作の「彼」は、原作とは少々違った役割を与えています。
というのも実は、アリスギアのシナリオにも出てきてるんですよ、「財団」。