次回から最終章です。
これは、マギーたち偵察班の交戦の最中に起こったこと。
「第一管制室は無人?そんな馬鹿な」
AEGiS情報本部、事務室。
情報本部事務官、愛宕右京は、通信端末を耳に当てたまま首を傾げた。
『私も信じられません。ですが、人影は見当たりませんでした』
「......分かりました。そのまま管制システムの確認をお願いします」
数分の沈黙ののちに、監視カメラが機能を復旧し、
『システムの再起動に成功しました。ハッキングの痕跡などもございません』
「ハッキングって、たいていバレないようにやるものなんですけどね......」
呟いた愛宕の手元にあった別の端末が、通知とともに画面にメッセージを映す。
「......第二管制室の準備が整ったようです。ここの調査も大事ですが、僕たちも一度戻った方がいいかもしれませんね」
『分かりました。では一度そちらに......っ!?』
端末越しの声が、何かに気づいたように息を呑んだ。
「どうしましたか?」
『これは......再起動した管制用端末に、メッセージのようなものが』
震えた声が、残された「メッセージ」を読み上げる。
『......
「アテナイ......アテナ......なるほど、AEGiSですか」
愛宕は呟いて、小さくため息をついた。
「地獄へようこそ」。その露骨なメッセージの、意味するところは。
「急ぎましょう。この戦い、このまま終わるとは考えられません」
『こちら成子坂!未確認種の無人兵器を撃破しました!』
大型種のド派手な爆散を引き金に、通信回線を大歓声が埋めつくした。
『やったぁ!......って、マギーさんは!?』
同じように喜んでいた夜露だったが、その爆発にマギーも巻き込まれていたことに気付き、途端に血相を変える。
『Check that out、夜露!大丈夫、マギーさんは――!』
声を上げたのは、ジニー。
その指さした先、消えていく爆炎の中から、2筋の輝きが飛び出してきた。
「......っ、ごめんなさい。突っ込んだ後のことを考えてなかった」
片方は、全てを出し切ったかのように掠れた光を零していくマギーのギア。
『お気になさらず。たまたまワタシが気付いただけです』
それを支えるのは、ボロボロに傷つき、それでも力強く光の轍を走らせるサンティのギア。
過酷な戦いを、誰よりも勇ましく戦い抜いた2人の傭兵が、仲間たちの下へと舞い戻る。
『マギーさん!良かった......!』
「気を抜かないで、夜露。まだ戦闘は終わってないわ」
『ワタシがこのまま、シャードまで曳航します。皆さんは引き続き、残敵の掃討を』
「Wilco. 頼んだよ、サンティ!」
交戦を続けるアクトレスたちに見送られながら、サンティとマギーは慎重に撤退を始めた。
先ほどサンティが「残敵の掃討」と表現したように、最早戦闘そのものは決着しつつあった。大型種の殲滅が引き金になったのか小型種の連携も乱れはじめ、こうしている間にも次々とレーダーの反応は少なくなっていく。
『そこのお2人、この先はまだ少し敵が残っています。撤退するなら随行しますよ』
こうして撤退を手助けできる余裕が出ているのも、その証拠と言えるだろう。
「どうする、サンティ?」
『出来ればお願いします。この状態でもし交戦することになると危険ですので』
数人のアクトレスに護衛を願いながら進んでいると、不意にレーダーに新たな友軍反応が現れた。
『これは......AEGiSの部隊が、こちらに向かっているようです』
「AEGiSが今更何を?もしかして、勝手に出撃したアクトレスを捕まえに来たとか」
『さっき
一同が困惑していると、次いで全員の回線にAEGiSからの通信が送られてくる。
『こちらはAEGiS東京、鳳加純だ!総員、この宙域から退避しろ――!!』
AEGiS部隊の先頭を疾走する加純が、切羽詰まった声を張り上げた、その時。
交戦宙域の中心であり、本来の偵察部隊の作戦目標だった場所――東京シャード船尾の月面遺構が、突如大爆発を起こした。
「なッ――!?」
遠目からでもわかる巨大な爆発を映したマギーの碧眼が、驚愕に見開かれる。
『な、何事!?』
『あんな爆発......!シャードは大丈夫なの!?』
彼女だけではなく全てのアクトレスたちが、思わず戦闘を止め、目の前の景色に呆然としていた。
『まずいわ、どうにか撤退を――』
【無駄なことだよ、AEGiS】
加純の通信に被さるように、全員の耳に突き刺さる
『何ですかこの声、どこから......!』
『声じゃない、ギアの聴覚補正機能にハッキングしてる......!?」
声は混乱するアクトレスたちを嘲笑するかのように、不気味に干渉を続ける。
【......素晴らしい。全く驚異的だよ、君たちは】
「その声、さっきの......!何者だ、お前は!!」
声を上げたマギーを遮り、レーダーが突如警戒音を響かせる。
「うわっ!」『大丈夫ですか!?』
反射的に回避行動をとった2人をかすめ、レーザーが次々と飛来する。
まさか、とマギーが思案する間もなく、それは姿を現した。
『こちらエリアA、新手の反応多数!』
『エリアC、腕付きの大型が多数出現!』
『エリアBも!こいつら、いきなりどこから――!?』
月面遺構の爆発に巻き込まれ、破損したシャード外装。
その空隙から、次々と無人兵器が這い出ていく。
【何故、彼らを解き放ったのか。君たちの可能性を知り、比べるためだ】
『比べる......?ワタシたちと、何を比べると言うのですか』
姿の見えない敵を前に、サンティの声は虚空へと消える。
【僕は君たちに挑戦する。そして、抹殺する】
『ここはAEGiSの即応部隊が食い止める!消耗したアクトレスは下がれ!!』
AEGiSの援護を壁に襲い来る破壊の嵐を掻い潜り、退却するアクトレスたち。
サンティとマギーもそれに習おうとして、不意に目の前を遮られた。
「貴女......!」
『ごめん、ちょっと来てもらえるかな。2人ともね』
飛び込んできたもの――AEGiSのアクトレスはそう告げると、ふふっ、と小さく笑ってみせた。
『マギーさん......?』
『夜露ちゃん、今のうちに私たちも撤退を!』
『さっさとしなさい!加純さん、任せますよ!』
成子坂のアクトレスも、宙域からの離脱を敢行する。
【君たちに、可能性など存在しない。それを証明してみせる】
半ばゆみや楓に引っ張られるように逃げながら、夜露は遠のいていく戦場を見渡していた。
何度辺りを見回しても、マギーとジニーの姿が見えなかった。
NEXT CHAPTER
“神様は人間を救いたいと思ってた”
“だから、手を差し伸べた”
未来を創り上げることを託されたものたちは、いまも戦い続けている。
人の世界を守るために。そして、自らが生きるために。
"でもそのたびに、人間の中から邪魔者が現れた"
"神様の作ろうとする秩序を、壊してしまう者"
力を持ちすぎたもの、それは秩序を破壊するもの。
しかしその存在こそが、この世界に本当に必要だったのではないだろうか。
"そいつは、「黒い鳥」って呼ばれたらしいわ"
"何もかもを黒く焼き尽くす、死を告げる鳥"
何も知らないままでいられるのなら、それは幸せだと言えるのだろうか。
作られた正義のなかにも、自由と呼べるものはあるのだろうか。
「まだよ——私は、まだ戦える!」
「ここが、この宇宙が、私の——!!」
好きなように生き、好きなように死ぬ。それ以上の自由が、果たしてあるだろうか。
たとえ何かを失ったとしても、それは絶望を意味するものではきっとないのだから。
それぞれの思いを翼に載せ、渡り鳥たちは
——人は皆、運命に抗う権利を持っている。そしてその義務を負っている。
Final Mission「DAY AFTER DAY」
——「未来」を告げる、評決の日