「――終わらせましょう!散開して攻撃開始!」
『『了解!!』』
決戦の火蓋を切って落としたのは、アクトレス側だった。
マギーを中心にジニーとサンティが左右に展開し、篭手調べとばかりにそれぞれのギアの内蔵武装を発射する。
連射型誘導ミサイル、多連装ビーム砲塔、そして遠隔砲撃支援端末――並みの大型ヴァイスであれば十分怯ませられるほどの一斉砲火は――しかし。
「何――ッ!?」
敵の周囲を回るプレートから放たれたレーザーによって、その悉くが撃ち落とされた。
「対空砲火!?」
瞠目する3人へと、レーザーの弾幕が殺到する。
『うわあっ!』
「焦らないで!接近してあのプレートユニットから墜とすわ!」
『とは言っても......!』
周囲を旋回するプレートユニットからの砲撃の厚さに本体の機動力も相まって、応戦することすらままならない。
『だったら量で圧倒するまでです!合わせてください!』
再び放たれようとする一斉射に対しても、敵の方が速かった。
『うわっ!』『サンティ!?』
プレートユニットが寄り集まり、合図を飛ばそうとしていたサンティへ攻撃が集中する。
(こいつ、今までの相手と違う――!)
ジニーは確信していた。
目の前の相手は、今までの無人兵器のような、ただ愚直に攻撃を繰り返す思考をしていない。
複数の相手に囲まれていることを理解し、そのうえで最適な迎撃方法を模索し、有利に立ち回ろうとしている――まるで、人間同士で戦うように。
(なんで、ただの兵器が......!)
サンティもそれを理解し、そしてすぐに動いていた。
『ブルー・マグノリア!』
ショットギアを乱射しながら突撃し、強引に敵の視線を釘付けにする。
無論敵の攻撃は、サンティに集中し続けるが――
『この程度!ジニーさん!』
サンティの合図より数瞬速く、反対側から叩き込まれる射撃。
分かっていたと言わんばかりにジニーの援護射撃が叩き込まれ、敵の混乱を誘発する――そして
「はああああああっ!」
同時に、振り抜かれる斬撃。
マギーの繰り出した「MOONLIGHT」の一撃が、プレートユニットの1枚を叩き割った。
「よし――!」
手ごたえを感じながらも追撃はせず、振り抜いた勢いで前進し離脱。
振り返れば、サンティとジニーの牽制に阻まれながらも、無人兵器は明らかにマギーに向かって突き進んでいた。
まるで、自分を傷つけた相手を最優先目標として定めたように。
「......だったら、こいつで叩く!」
叫んだマギーが、左手を大きく横へ突き出す。
「HDM、オーバード・ウェポンを強制起動!来い!」
その声に呼ばれるかのように、転送される超巨大武装。
かつて人類が自らの手で生み出した可能性の象徴を再現した破壊の剣――「GRIND BLADE」。
その燃えたつような刃を見ながらも、無人兵器はマギーへと突進し続ける。
だが、間に合わない。
敵がどれだけ撃ち込もうと、起動した規格外兵器を止められるはずもない。
「これで――終わらせる!」
決着の一撃を叩き込むべく、「GRIND BLADE」を突き出した、その瞬間だった。
無人兵器の纏うプレートユニットに、今までとは違う輝きが灯る。
その意味に、敵の隠していたもう一つの武器に、マギーが気づいたときには。
「――!!」
突撃と同時に発振されたレーザーブレードが、今まさに駆動用アームと接続されようとしていた左腕を切り裂いていた。
『嘘っ――!?』『マギーさん!』
落ちていく。
片翼を奪われ、渡り鳥が墜ちていく。
緊急停止したHDMが放った閃光に焼かれ、マギーが思わず目を閉じた、その時。
「――!」
黒に逃避する視界の角に、青い木蓮は確かに見た。
まっすぐに前へと飛んでいく――1羽の鳥を。
――決戦の前日、AEGiS神奈川。
きっかけは、ブリーフィング後のジニーの一言だった。
「......ねぇマギーさん。どうして、成子坂からの依頼を引き受けてくれたの?」
「え?それは勿論、貴女たちから依頼されたからで――」
「そっちじゃなくて、最初の係争の時。マギーさんから話を持ちかけたんでしょ?」
サンティが「そうだったのですか!?」と驚く横で、ふむ、と少し考えるそぶりを見せるマギー。
「そう、ね......ちゃんと話す気も無かったんだけど、聞かれたら仕方ない」
マギーの紺碧の瞳が、どこか遠くを見るように細められた。
「......昔話をしてあげる。世界が破滅に向かっていた頃の話よ」
突然のことに当惑する2人をよそに、マギーは語り出す。
「神様は人間を救いたいと思ってた。だから、手を差し伸べた――でもその度に、人間の中から邪魔者が現れた。神様の作ろうとする秩序を、壊してしまう者」
それは、遥か昔。人が地球に生きる命としての最後の抵抗をしていた時代の話。
ALICEの意思を離れ生まれた兵器たちのように。
アクトレスの中に生まれたミグラントのように。
秩序の中に生まれ、自由の翼を広げた者は、どんな時代にも存在した。
「神様は困惑した。人間は救われることを、望んでいないのかって」
それはきっと、人が人として歩もうとした証。
自由な空を目指し、自分だけの答えを見つけようとした証――故に。
「......そいつは『黒い鳥』って呼ばれたらしいわ。何もかもを黒く焼き尽くす、死を告げる鳥」
黒い鳥、秩序を壊す者。
しかしそれは、決して邪悪ではなく。
「秩序の下で立ち止まるのではなく、安寧を破壊してでも未来を目指す者――あぁ、確かに」
サンティは頷いて、ジニーの方を向く。
「成子坂製作所は、そんな信念を持った人々が集っていると思います」
「そうかなあ。みんな、自分のことで精一杯だと思うけど」
「ですが、アナタ達はどんな逆境でも諦めなかった......それは自分たちの信念を、自分自身の手で作る未来を守りたかったということではないですか?」
何とも言えない笑顔で、ジニーは頷いた。
「そっか......ジニーさんは、その『黒い鳥』になりたいんだ」
「......本当はそうなのかもね、でも、私は」
呟いて、マギーは左手へと視線を落とす。
鋼の義手――かつての敗北の証を、力強く握りしめ、
「私は、もう負けたくないだけ。何にも――誰にも」
目的や信念の奥にあった純粋な願いを、はっきりと口に出した。
ならば、さあ、今こそ――
「――まだよ、まだ私は戦える!」
喊声と共に、輝光が再び溢れだす。
「ここが、この宇宙が!」
全てを焼き尽くし――可能性を紡ぐ剣を振り上げ、「
「私の――私たちの魂の場所よ!!」
「黒い鳥」が舞い上がる。
青い光の翼を広げ、最後の渡り鳥が終幕へと突貫する。
無人兵器は当然、迫る破壊を回避しようとするが――しかし。
『させないッ!』『そこだあっ!』
再動したマギーに注意を向けた隙をつき、ジニーとサンティがプレートユニットを吹き飛ばす。
『行って、マギーさん!この戦いを終わらせよう!』
『ワタシたちの答えを!託します、
突き進む。
限界を越えたエネルギーを受け、左肩を咥え込んだ接続部が炎を噴き上げても、その翼が留まることは無く。
「喰らえええええええええッ!!」
『オオオオオオオオオッ―――!!』
マギーの叫びに応じるかのように、鋼の刃は巨鳥が如き嘶きを上げ――
「―――!!」
最後の一撃が、炸裂した。
回転する
「――さようなら」
過去が紡ぎ、現在に歪められた希望は、未来を願う者に討ち果たされた。
爆炎から飛び出す、大破した黒鋼のアリスギア。
まるで残り火のように僅かに灯るエミッションの輝きを感じ、その操縦者は目を覚ました。
「これで......終わりね」
【あぁ。私も......そして、君もだ】
何も聞こえなくなった聴覚保護システムに、その「声」だけが静かに響いていた。
【......認めない。人間の可能性など、僕は認めない】
アクトレスは何も言わずに、その声に耳を傾ける。
【欲望に縛られ、人の形に封じ込められた――そんな力を、僕は信じない】
その「声」に、今までのような軽薄な嘲笑は無かった。
ただ、絶望と諦観があった。
【僕が居なくなったところで、ヴァイスとの戦いは終わらない......それは、すべての破滅まで続くだろう】
アクトレスは悟った――否、既に気づいていた。
人類に見切りをつけ、真にヴァイスを打倒できる力を求めて、「彼」はこの戦争を引き起こしたのだと。
【......だがもし、君が例外だというのなら】
そこで初めて、声はこちらへ問いかけた。
【ならば生き延びるがいい。君にはその権利と義務がある】
「......えぇ、そうさせてもらうわ」
アクトレスは頷いて、辛うじて動いていたギアの防護システムにアクセスする。
行動不能につき最終保護システムを要請――
「私が――私たちが、戦い続ける限り」
淡い光を残し、渡り鳥が飛び立つ。
主を失ったアリスギアは、無人兵器と共に中枢の爆発に巻き込まれ、宇宙に消えた。
Day after day things are rolling on.
それでも変わらず、物語は続いていく。
次回はエピローグになります。