でも、いちいち聞かないで「落ち込んでる?」なんて。
確かにそうだわ。もう死んでしまいたいくらい。
この世界は、私につまらない渇きしかくれないから。
ああ、壊してしまいたい。
さあ、壊してしまいましょう。
私の中でくすぶり続ける、どうしようもない高揚と渇きを——!
暗くなり始めた夕焼け空の下で、マギーは空を見上げていた
ここからでも小さく見える戦火——バージニア・グリンベレーが、一人で戦っている証。
「ジニー……」
「最終調整終わった。行けるぞ、マギー」
マギーが振り向くと、そこには整備服姿の初老の男が立っていた。
成子坂製作所整備部長——磐田宗一郎。
「……本当に、大丈夫なのね?」
「もう通常システムの準備は出来てる。HDMと『アーマード・コア』を使わないなら問題ない」
通常戦闘ならば十分使えると答えながらも、磐田は小さく目を伏せる。
「……すまん、この事態は俺たちの不手際なのは分かってる。
それでも……あいつらを助けてやってくれないか」
昨夜の侵入事件、そして起こってしまった事故。
整備士として最善を尽くしながらも止めきれなかった事態に、彼もまた責任と悔しさを感じているのだ。
——それが、痛いほどに伝わってくるからこそ。
「——私はミグラントだ。例えどんな状況であろうと、依頼されたなら戦うわ」
1人のアクトレスとして、マギーは毅然と答えた。
「……それに、これの調整までしてもらったんだしね」
そう続けて、自らの左腕——アリスギアに接続された、金属の義手を一瞥する。
「今回の雇い主は、いいところでよかったわ」
「ハハッ、そりゃよかった——よし、飛ばすぞ!」
磐田は満足げに頷いて、気丈に声を張り上げる。
「メインシステム、通常モード起動!」
「ジェネレーター、稼働安定!」
「エミッション、初期出力最大っす !」
「イグニッション、カウント開始!」
整備士たちの声と同時に、アリスギアのブースターに火が灯る。
「システム、
青いエミッションの炎を噴き上げ、マギーは夕景へと舞い上がった。
「夜露ちゃん、しっかりしてください……!!」
製作所の前に着地して、楓は腕の中の夜露を見下ろした。
息はあるようだが、意識が戻る様子はない。
か細い息で乾いていく口元の血痕が、楓を焦らせる。
そして何より、ジニーを残したままなのだ。
「兎に角夜露ちゃんを預けて……早く戻らないと……!」
アリスギアのまま事務所に飛び込もうとした、その時。
「———っ!?」
事務所の向こう側、整備棟から、一筋の光が登っていくのを見た。
「あれって……!」「——楓さん!?夜露さんは……!!」
思わず目を奪われていた楓は、事務所から聞こえてきた安藤の声で我に返る。
「安藤さん!夜露ちゃんを介抱できますか!?」
「は、はい!とりあえず救護室まで……!」
担架を担いで飛び出してきたほかのアクトレスに夜露を預け、整備棟へと駆け戻る。
——後は、お願いします——!
待っていた磐田の姿を見とめながら、楓は心の奥でそう祈った。
「やばっ———きゃあっ!?」
躱しきれなかった射撃が、ジニーの足を掬い上げる。
例えアリスギアの次元隔絶が、直接的な損傷を与えないとしても——エミッションによる制御下では、衝撃が痛みとなって伝播する。
その逃れられない
そして——無慈悲な機械の獣は、その隙を見逃すはずもなく。
遠方より構えられた狙撃型の砲が、無防備になった
「……流石にもう無理!ごめん、二人とも——!」
迫る弾丸に、ジニーは思わず目を閉じた。
——しかし。
果たしてその弾丸は、ジニーに届くことは無かった。
代わりに響いたのは、鈍い金属音。
ジニーとヴァイスの間に割り込んだ何かが、必中の砲撃を受け止めた。
「え————?」
——恐る恐る目を開く。
目の前に広がった光景に、ジニーは言葉を失った。
左膝部の装甲板から白煙を燻らせる、上下一対のアリスギア。
お返しとばかりにその肩から多連装のミサイルが放たれ、ヴァイスの群れに風穴を開ける。
そして巨大な黒鋼の狭間から覗いたのは、静かに靡く金色の髪だった。
ああ——まさか。
驚愕の中で、ジニーは確信する。
暗雲を引き裂いて、
そう——一輪の花が、そこにあった。
青と黒、二色の花弁をエミッションの淡い光に彩られた、鋼鉄の花が。
「……よく耐えた。アクトレス」
アクトレスが——マグノリア・カーチスが、そこにいた。
「マギー、さん……!?」
「遅れてごめんなさい。でも何とか、間に合った」
謝罪と共に返される、ヘッドギアのバイザー越しの微笑。
すんでのところで送り届けられた助け舟に、らしくもなく頬が安堵に緩む。
「……それにしても。よく頑張ったわね、ジニー」
ぽんっと、肩に載せられる
その冷たい感触に、それが義手であると一瞬で理解する。
「……この程度。2人でささっと終わらせよう、マギーさん」
2人がかりでなら、十分突破できる——そう考えた矢先だった。
「……だまして悪いけど、仕事だから。
隊長、聞こえるか。予定通り指示系統をそちらに移管——単独で残ヴァイスを殲滅する!」
「——へ?」
その通達に、ジニーが耳を疑う間もなく。
四肢に備わったブースターから蒼炎を引き、マギーは残ったヴァイスの群れへと突っ込んだ。
「マギー!?」
思わず、ジニーは叫んでいた。
想像通りの景色——ヴァイスによる一斉砲火が、黒鋼のアリスギアへと殺到する。
——しかし。
「はああっ!」
鳴り響く、甲高い金属音。
弾幕を抜けたマギーの左膝が、ヴァイスワーカーの一体に突き刺さる。
吹き飛んでいくヴァイスワーカーへと、マギーは三日月状のクロスギアを握って追走する。
「ふッ!!」
青いレーザーが爆ぜると同時に、ヴァイスワーカーは真っ二つになって爆散した。
「何あれ——ていうか、蹴った——!?」
溶斬されるヴァイスワーカーを見て、ジニーはぽかんと口を開けた。
エネルギー発振型のクロスギアなど見たことがない。そしてそれ以上に驚かされたのは、蹴りと言う手段。
被弾、さらにいえば直接の衝撃を考慮されていない通常のアリスギアで、格闘戦を行うアクトレスなど殆ど存在しない。
マギーがこの手段を取れたのは、単純に「それができるから」だろう。
大型のミサイルコンテナを載せた肩部と、重装甲に覆われた脚部。
明らかに機動力より防御力を優先した、後衛砲撃戦型のギアなのだが——
「すごい……」
今ジニーの目の前で、マギーはヴァイスと鮮やかな高機動戦闘を演じていた。
大型のブースター——これも小回りが利かないはずの高出力型のものだ——を巧みに操り、弾幕の間を駆け抜けていく。
そしてその間にも、反撃の布石は打たれていた。
ヴァイスの間を抜け飛翔したマギーの右手から、青い燐光が迸る。
それはショットギア——アクトレスの切り札たるHDMと見紛う、超大型のレーザーライフル。
まるでエネルギーを溜めに溜めたかのように光り輝く撃砲を、マギーはヴァイスの群れへとつきつけた。
「——ブチ抜けえっ!!」
一閃。
残ったヴァイスを軒並み巻き込んで、空に光の橋がかかる。
『領域内の、全ヴァイス撃退を確認——』
「———」
任務完了を告げる機械音声も、全く耳に入らないまま。
目の前の光景に、ジニーは完全に言葉を失っていた。
大型のラジエーターフィンを、翼のように広げたドレスギア。
鳥の嘴のように伸びた、ショットギアの砲身。
夕景の中で立ち尽くすその姿はまるで——空にはばたく
Tips「マグノリア・カーチス専用ギア一覧」
〇ショットギア「X000 KARASAWA」
メーカー:ヤシマ重工
武器種:エネルギースナイパー
【マグノリア・カーチス専用】
『かなり大型の砲身を備え、単発火力に特化した超高出力型です。スペックを見た時は常識外の一言でしたよ。』
〇クロスギア「X100 MOONLIGHT」
メーカー:ヤシマ重工
武器種:両手剣
【マグノリア・カーチス専用】
『レーザーの刃で攻撃する、エネルギー発振型クロスギアの試作モデルです。全体にヤシマの最新技術が詰め込まれていますね。』
〇トップドレスギア「FreQuency/T」
メーカー:ヤシマ重工
【マグノリア・カーチス専用】
『重装甲に大型ブースターを搭載し、高い推力と防御性能を両立しています。極端な性能なので、扱いは相当難しいようです』
ギアスキル:サイレントライン
基本装弾数:6
『小型の強誘導ミサイルを連射する
機体負荷が軽く、発射直後に回避行動がとれる』
〇ボトムドレスギア「FreQuency/B」
メーカー:ヤシマ重工
機動タイプ:重装
【マグノリア・カーチス専用】
『単独での戦闘能力を重視して設計されています。最大出力に特化したブースター、大型の装甲板など、現在のアリスギアにはない装備が多く見られますね』
ギアスキル:ラストレイヴン
基本装弾数:4
『スキャニング機能を持った防御型ピジョンを展開する
起動中はダメージが削減され、また射撃のロック、誘導性能が向上する』