戦闘シーンがどうしても薄くなるのが悩ましい所です。
「というわけで、『トライステラ☆』に決定!!」
昼下がりの事務所に、シタラの元気な声が響き渡る。
人員増加によって再構成された、シタラ、ジニー、舞によるセカンドチーム、その名前が決まった——ということで、その発表会をしていたのだ。
「若い子たちは楽しそうねー」
離れたところで呆れ気味に呟いたのは、成子坂に所属するアクトレスの一人、四谷ゆみ。アクトレスとしては年長の24歳だが、縁あって長くこの事業所に勤めている。
「ま、それはいいとして……どう、マグノリアさん?成子坂は気に入ってもらえた?」
楽しそうな後輩たちから一度目を離し、ゆみは隣に座る同年代に問いかけた。
「ええ、とてもいいところだと思う」
と、肯定を返すマギー。
「アクトレスのみんなは頑張ってるし、規模の割に設備はしっかりしてるし……ああそうだ、食堂のご飯も美味しかったわ」
一度零落したとは思えないと、マギーは答えた。
「……まぁ、ね。みんな、本当に頑張ってくれたから」
ゆみは答えて、またアクトレスたちを一瞥する。
叢雲による吸収の危機を救ってくれた、シタラと文嘉……そして、今ここにはいない夜露。
古巣から追いやられてなお、新しいこの場所で戦ってくれている、楓たち元叢雲工業所属のアクトレス。
そして彼女たちの縁を辿って集まってくれた、多くのアクトレスたち——正直なところ、こんな光景が見られるとは思ってもいなかった。
成子坂は、確かに変わった。
ゆみはふうっと息をついて、マギーへと少し意地悪な目を向ける。
「でも、そんなにべた褒めされるとは思わなかったわ。ミグラントって要は、企業体制が気に入らないアクトレスのやり方なんじゃないの?」
「全部が全部そうとは限らない。一つの組織に肩入れしたくないって人とか、単純に渡りのやり方が楽しいっていう変わり者もいるから」
そこで一度「それにね」、と区切り、マギーは一人の少女の言葉を口に出した。
「昨日、夜露に言われたのよ。私はここに来てよかったって……あんな目にあったのに、笑ってた」
彼女は自らが傷ついたことを悔いながらも、仲間の勝利を祝った。
彼女はフリーランスという異分子にも、何の屈託のない感謝を贈ってくれた。
正直なところ、それは予想外だった——何故なら。
「企業に居る中でも、自分がしたいように出来てる。自分が満足できるように、ね。
少し驚いたけど——嬉しかった」
「なるほどねぇ……マグノリアさんは自由が好き、と」「それは勿論」
何がおかしいという顔で、マギーは続ける。
「——好きなように生きて、好きなように死ぬ。誰のためでもなく」
「何それ」
「昔の仕事仲間が言っていたことよ。ここの人たちは、それができる気がする……
私は、そういうアクトレスに手を貸したいの」
「そう……それが、貴女なりのやり方ってこと」
ゆみがふっと笑顔を浮かべた、その時だった。
「はい、こちら成子坂……えっ、琴村さん!?」
指令室から声が聞こえるや否や、文嘉が事務所に駆け込んできた。
「文嘉!?」「救援要請の通信よ、ノーブルヒルズから!」
その場にいた全員が瞠目した。
「ノーブルヒルズって……今日は点検で動けないんじゃないの!?」
「今はそれを論じてる場合じゃない!通信こっちに繋ぐわ!」
文嘉がコンソールを叩くと、事務所の内線から通信の内容が流れ始める。
「す、すみませんっ、ノーブルヒルズの琴村天音ですっ!」
聞こえてきたのは、弱弱しい少女の声だった。
『交戦中に成子坂さんの出撃予定宙域に迷い込んでしまって……た、助けてくださいっ!!」
「ジニー、今のがノーブルヒルズの?」
「うん、双子の妹の方。でもどうして単独で……?」
ノイズが混じった通信からは、ギアの射撃音も聞こえてくる。本当に交戦中のようだ。
しかし、他のアクトレスが居るという雰囲気ではない。
ジニーが怪訝に思っていると、文嘉が端末を握ったまま振り返った。
「隊長が要請を承諾したわ。トライステラは出て!マギーさん、サポートで出撃お願いします!」
「「了解!!」」
シタラたちが整備棟へと駆け出す中、ジニーは一人、ぼんやりと立ち止まっていた。
稼業停止日であるにもかかわらず、単独での出撃。
そして、あのメンテナンスエリアでの事件もあるいは——
(何なの、あいつ等……どうして此処まで……!)
「ジニー?」
「わっ……ま、マギーさん」
すぐ目の前にいたマギーの声に、我に返る。
何か返す間もなく、肩にとんと手が置かれた。
「何か気になるんなら、後で聞くわ。今は目の前の依頼に集中して」
「……わかった。ありがとう」
マギーは満足げに頷き、整備棟へと走り出す。
ジニーも急いで、その後へと続いた。
「こんな時にあれなんだけど……」
交戦ポイントへと急行する最中、シタラがふと切り出した。
「ポイント差って、今どうなってるんだっけ」
「昨日ノーブルヒルズが大型ヴァイスを撃破したみたいで、少し詰められてるね」
「まだこちらが優勢よ。それにこうやって、向こうが美味しい依頼を持ってきてくれた」
ついでにここで差をつけてやろうと、笑みを交えて言うマギー。
程なく雲一つない蒼穹の中に、ちらちらと瞬く光線が見え始めた。
「見えた!」「先行する、ヘイトが私に集まってるうちに殲滅して!」
四肢のメインブースターから蒼炎を迸らせ、黒鋼のギアを纏うマギーが戦火の中へと突撃する。
交戦ポイントではヴァイスワーカーの群れが、1人のアクトレスを包囲していた。
「聞こえるか、ノーブルヒルズのアクトレス!」
叫ぶと同時に、レーザーライフルを真正面へと発射する。
「あなたは……!?」
「救援要請を受けて来た。私が陽動するから、他のアクトレスと殲滅を」
ビームに驚いて振り向いたアクトレスに伝え、もう一度周囲を見回す。
突如現れたマギーへと、ヴァイスの目は集まっていた。
布石は打った。
「——じゃあ、よろしく!」
アクトレス——琴村天音に言い残し、マギーは手近なヴァイスワーカーへと突撃した。
『!!』「遅いッ!」
青い閃光が瞬くと同時に、溶斬されるヴァイスワーカー。
その爆風にさらに注意を逸らされた敵の群れは、直後ショットギアの弾幕に晒される。
「よっしゃ!一気に押し切るよー!」「Yes sir!!」「う、うんっ!」
トライステラ☆による一斉射——特にシタラの重武装化されたギアは、何もさせないままヴァイスワーカーを穴だらけにしていく。
「
機動力に優れたジニーと舞による追撃もあり、その場にいたヴァイスワーカーは苦も無く全滅した。
「いよっし終わった!天音さん、大丈夫!?」
「シタラ、油断しないで。まだ来るみたいよ」
マギーの声から殆ど間を空けずに、空間を蝕むようにワープドライブが発生する。
「Oh,第二波のお出ましだね」
「結構いる……囲まれないようにして……っ!?」
おどおどとつぶやいた舞の横を、不意にショットギアのレーザー光が掠めた。
「天音さん……!」
撃ったのは、後方にいた天音だった。
不安げな表情のままだが、その手に握ったアリスギアは、迷いなく眼前の敵を捉えている。
「私だってアクトレスです……!あなたたちには、負けません!」
毅然と、
それを見たマギーは、バイザー越しに満足げな笑みを投げかけた。
「……ははっ、いいじゃない。面白くなってきた!」
言うが早いか、1人で飛び出していくマギー。
「ちょっ、マギーさん!」「私達も続くよ、舞!」「う、うんっ!!」
3人もそれを追って、ヴァイスワーカーへと攻撃を開始する。
交錯する無数の光条。それらが全て止むころには、ヴァイスの群れは跡形もなくなっていた。
「今度こそ、終わったよね……?」「なんか結局、マギーさんが大体持ってった気がする」
ショットギアを下げる舞の横で、ため息交じりに呟くシタラ。
程なくジニーも、ショットギアを片手に軽快に戻ってくる。
「せっかくトライステラ☆の初陣だったのに、今日はマギーさんがMVPだね」
「流石ミグラントと言うべきか……あ、そうだ天音さんは」
きょろきょろと辺りを見回したシタラは、少し離れたところの光に目をとめる。
「あれ?天音さんと……マギーさん?」
「どうしたんだろ。行ってみようか」
3人はそろって、マギーのいる方へと向かった。
「はあっ、はぁ……終わった……」
「……お疲れ様。大変だったわね」
1人離れたところで飛んでいた天音に、マギーは後ろから話しかけた。
「あ、えっと……マグノリアさん……?」
「へぇ、ちゃんと調べてるのね。そう、フリーランスのマグノリア・カーチスよ。
貴女たちに勝つために、成子坂に依頼されて働いてる」
敢えて挑発気味に返し、ついでに気になっていたことを尋ねてみる。
「聞かせてもらっていいかしら。どうして、緊急点検中なのに出撃していたのか」
「そ、それは……」
「言いにくいことならいいの。なんなら、成子坂の人たちには秘密にするわ」
少女は不安げな顔のまま、それでしたら、と頷いた。
「か、会社の人が懇意の事業所にお願いして、1人だけでも飛ばせないかって……」
マギーはため息を吐いた。
想像はついていたが、やはり企業側の無理強いだったようだ。
「……大変だったわね」
「い、いえっ、最終的に承諾したのはわたしですし、それに……」
ふるふると首を振った少女は、すっと射抜くようにマギーを見つめる。
「負けるわけには、行きません。わたしたちは」
「……」
その鋭い瞳と言葉に、マギーは一瞬圧倒された。
一見気弱そうに見えたが……もしかしたら、なかなかの強敵なのかもしれない。
「いい度胸ね。少し見直したわ」
それでも、マグノリア・カーチスは告げる。
「だけど、私も勝ちは譲れない。ミグラントとして、成子坂を勝たせるのが今の仕事だから」
ノーブルヒルズのアクトレスと別れ、事務所へと帰還する。
「……絶対。絶対負けませんから」
繰り返されたその言葉は、マギーの耳には届かなかった。
——そして異変は、翌日に起こった。
「はい。成子坂……隊長さんですか?」
最初にその知らせを受け取ったのは、隊長からの通信に応じた事務員の安藤だった。
「あ、昨日の分の集計結果ですね……えっ?」
送られてきたデータ……昨日の出撃までの、両事業所のヴァイス撃破ポイントの累計。
いつものようにそれを受け取った安藤は、中身を一瞥して瞠目した。
「どうして、こちら側に1ポイントも入っていないの……?」
成子坂製作所——36000。
ノーブルヒルズ・ホールディングス——54000。
昨日の出撃の成果は、全てノーブルヒルズの側に入っていた。
Tips「チーム:トライステラ☆」
シタラと彼女の友人2人で構成された、成子坂製作所のセカンドチームの一つ。
ジニーの故郷、旧アメリカの国旗「星条旗」、
バレリーナの星である舞、
そしてサンスクリット語で星を意味するシタラ……と、3つの星になぞらえて名付けられたもの。
重武装の後方支援型、軽量の近接戦闘型、攻撃力を重視した遊撃型とギアの傾向が綺麗に分かれており、
欠落している前衛タンクの役に入るために、全身装甲型アリスギアを駆るマギーがサポートに入っている。