王の刃に憑依した話   作:@Katze

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作者はTSも、キアランも、仮面巨人残光ブンブン丸もドロリッチも好きです。でもマルドロと木目ローリング仮面巨人雷クレイモアは許さない。おまえらのエモート煽りに何度煮え湯を飲まされたことか。


プロローグ

ある者が、貴様は何だと、影へ誰何の声を上げた。影は答えた。私は刃だ、と。

処女の微笑んだような白磁の仮面は、その奥に仕舞いこまれた貌を悟らせない。黒の装束を薄闇に溶かし、黄金と暗銀が血の赤を伴って虚空を踊る。彼女の剣技はいっそ舞踏のようで────────

 

 

古い時代。

“生きもの”すら、霧に覆われ目に映らなかった時代。世界は灰色の岩と大樹と朽ちぬ古竜があるだけだったという。

しかし、ある日突然、はじまりの火がおこった。尋常ならざる火は灰の終焉と共に、これまでの世界に熱と冷たさ、光と闇、生と死と多くの差異を齎したのだった────。

 

「なあ、シフ。俺の性別にも差異が齎されてたけど、これって最初の火の不具合なのかな? 」

 

ロードラン最大の城塞都市、アノール・ロンド。富と力、輝かしい栄華を誇る神々の郷。

その象徴たる王の居城は、荘厳な白亜の城であり、水晶の彫刻さながらの美しさと儚さを併せ持ったアノロン屈指の建造物である。

そんな城の一室、暖炉が橙色の光で照らす仄暗い部屋で、壁に掛けられた油絵と、剥製にされた鹿の首とが、一匹の狼にもたれかかるようにして本を読んでいる少女を見下ろしていた。

 

「というかさあ、おかしいだろ。なんで子供向けの絵本すらこんなに難解なんだよ。これ書いた作家はフロムのまわし者かよ。ガッデム! 」

 

読んでいた絵本を合掌するようにして閉じ、そのまま床に叩きつけプンスカと憤る少女。宥めるように、シフと呼ばれた狼は舌で少女の頬をなぞる。それにくすぐったそうに体を震わせると、少女は倒れ込むようにして寝転んだ。

 

「はーままならねえなあ……」

 

自身の体を受け止めたシフの柔らかい毛並みを撫でながら、少女は独りごちる。

床を伝う金糸、いや少女の腰まである長い髪束は元々黒い短髪だった。白魚のような透き通る肌はもっと黄色に濁っていたはずだし、股間には自慢のグレートソードがついていたはずだ。

そもそもの話、少女はこの世界の住人ではなかった。

 

۞ 

 

私、株式会社○○、開発部の鈴木拓也と申します。

 

少女こと、俺の前世は、とあるゲーム会社で働く、冴えない企業戦士であった。

残業なんていつものことで、けれど裁量労働制だから残業代は出ない。珍しくないデスマーチで精神と肉体を削り、少ない給料に喘ぐ生活。

自慢し誇れるのは股間のロスリック騎士の大剣だけ。使う機会がなかったのは言うまでもない。

それでも、俺にはたったひとつの趣味のおかげで幸せだった。それはゲームをすること。中でもとあるRPGゲームが大好きだった。

 

SOULSシリーズ

 

フロム・ソフトウェアが送る死にゲーシリーズであり、非常に難易度が高く、ほぼ初見殺しのボスやギミック、レベルを上げても油断すれば雑魚モブに容易に殺されるシビアさ。常人なら匙を投げるだろう。

けれど、その圧倒的世界観に俺は吸い込まれた。光に惹かれる虫のように、俺は沼にハマった。

デモソすき! 無印たのしい! 2はマルドロが糞!3ちょーたのしい!

対人戦やRTA、白霊攻略。まったく飽きなかった。時間があればひたすらダークソウルをプレイした。

あの日も帰宅してすぐ、疲れた体を椅子に預けてパソコンを起動した。

 

────今日は無印するぜ。俺の裸セスタスはDLCすら粉砕するのだ。クァーッハッハッハ!

 

聖獣を殴り、森庭を駆け抜け、闘技場でアルトリウス兄貴とセスタスで死闘を演じた。裏汁の篝火を灯し、そしてキアラン姉貴と戦おうともう一度闘技場に訪れたとき…… 突然俺の意識は飛んだ。

そして気づいたときには、

 

「女の子だもんなあ…… しかも赤ん坊のときに捨てられて城前に放置とか人生ハードすぎるだろオイ」

 

クゥーンと、分かっているのかいないのか、シフが共感するように心做しか悲しい響きで声を漏らす。そんなシフの頭を優しい手つきを意識して撫でる。

俺は、生まれてすぐにこの城の門の前に置き去りにされていたという。今の育て親がそれをあわれに思い拾ったそうだ。

ちなみに俺の意識は、三年前、少女が六歳のときに覚醒した。目が覚めたらモノホンの銀騎士がお菓子をくれる不思議な状況、一周まわって冷静になり、俺は今自分が置かれる状況がダクソ世界であることを理解した。そして絶望した。深くは語らないが、その場で粗相をしてしまった記憶がある。黄金水。

 

「はあーシフ。おまえは俺の癒しだよすきすきらぶらぶちゅっちゅっ」

 

大きな灰色に頬ずりすると、シフの体温が伝わってくる。一寸先は死というこのダクソ世界で、この体温は俺にとって宝物だ。気持ちいいし。

 

「おーい、ちびっ子どもー! 飯できたぞ! 早く来ねぇとあの大飯食らいにとられちまうぞー」

 

部屋の外から野太い声が響いてきた。今ではもう馴染み深い、俺を拾い育ててくれた恩人の声だ。どうやら俺とシフを呼びに来たようである。

 

「わかった! 今からそっちにいくからまってて、レド! 」

 

急いで立ち上がり、パンパンっと手でスカートをはたいて埃を落とす。シフも立ち上がったのを確認すると、俺たちは部屋をあとにした。

そうそう、ところで今世での俺の名前なんだが。実はな────

 

「ん? キアラン、シフ。なんだ、来ていたのか。このシチューは美味だぞ。よそってやろう 」

「…………アルト。おまえはつくづくタイミングが悪いと思う」

 

────キアランである。

 


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