とある服飾店のマネキンと店員Aの話   作:水代

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最近お題で小説書くの楽しいなって思ってきた。


店員A「この課金屑が……」

 

「やっちまったわ」

「何が?」

 

 マネキンが色素の無い白い手で顔を押さえながら呟いた一言に、首を傾げる。

 男性用の黒いシャツに青のズボンを履いたマネキンは嘆息しながら、実は、と口火を切って。

 

「今月の給料全部使い果たしちゃってなあ」

「えっ?」

 

 告げる言葉に思わず驚きの声が漏れる。

 というかこれで驚くな、というほうが無理がある。

 

「お前、給料日昨日だぞ?」

「そうなんだよ……今月どうやって生活しよう」

 

 うちは個人経営の服飾店だが、街でも評判も高い。結構な稼ぎは出ているはずだし、実際給料もかなり良いと思う。

 一月暮らすだけなら余裕だし、そこそこ贅沢する程度の余りも出る。

 それだけの給料をたった一日の間に溶かすとか、どうすればそんなことができるのか。

 

「それがさあ、これ見てくれよ」

 

 そう告げてマネキンが差し出してきたのは最新式のスマホ。

 

「おい、馬鹿、仕事中だぞ」

「固いなあ……」

「店長に見つかったらどうすんだよ」

「うげ……そ、そうだな」

 

 慌ててズボンのポケットにスマホを仕舞い、元のポーズに戻る。

 

「まあ大よそ察しはついたけどな……またかよお前」

「……いやあ、わはは」

 

 愛想笑いで誤魔化そうとするマネキンだが、残念ながらそんなもので誤魔化せはしない。

 スマホを取り出した時点でだいたい理解はできた、できてしまった……残念ながら。

 

「課金のし過ぎだって毎回言ってるだろ……やっぱり限度額つけるか? ん??」

「いやいや、待って待って。悪かった、悪かったからそれだけは勘弁してくれ、ください、お願いします」

 

 平身低頭と言った様子のマネキンだが、実際にはポージング中のため1mmだって動いてはいない。

 まあ本当に悲しくなるくらいいつものこと、なので今更どうこう言いはしないが。

 

「まあお前の場合、別に金無くても困らないからな」

「そこは感謝しております、うぇへへへへ」

 

 何でこいつこんな性格なんだろう、と思いながら嘆息する。

 実際、マネキンなので食べる必要も無い。店で立っているだけなので住む場所だって必要無い。寝る必要も無いし、着る物だって必要無い、というか店の物着て立っているのがこいつの仕事だ。

 

「魔力切れだけは注意しろよ?」

「分かってますよ~、旦那ぁ」

「誰が旦那だ、誰が」

「あーでは」

 

 少しだけ考えた風に言葉を止めて。

 

「【()()】様とお呼びしましょうか?」

 

 少しだけ言葉を改めてマネキン……魔人ガーゴイルはそう尋ねた。

 

 

 * * *

 

 

「……つってただのアルバイトだけどな」

 

 ここから本編始まると思った? 始まらないよ、というか終始こんな感じだから覚悟しとけよ(メタ)。

 

「実際のとこ、【勇者】が生まれるまで【魔王】なんて仕事無いからな」

「へー……そういうもんですかい」

「何ださっきからその喋り方」

「いえいえ、あっしのような小物が魔王様相手にそんな恐れ多い」

「さっき超普通に喋ってたじゃん」

 

 こいつは創った時からそうだったが、何とも掴みどころのないやつだと思う。

 何せ生まれた直後の第一声が「あぁ……生きるのがだるい」だったからな。

 お前生まれたばかりだろ、というツッコミを入れたせいで型が崩れてもう一度創り直しになったのは忘れられそうにない。

 

「つうかお前、買う物あったんじゃないのか?」

「え?」

「いや、だって先月に『来月は限定版フィギュア出るんで課金は控えないとな』とか言って無かったか?」

「……え゛

 

 あ、こいつ忘れてやがった……まあ俺には関係無いが。

 

「うわあああああああああ、そそそそそそ、そう言えばあの限定版フィギュアの発売日明日じゃん!?」

 

 気づいた直後に全身をぶるぶると痙攣させながら慌てだすマネキンを横目で見やりながら何やってんだか、と嘆息する。

 

「ままままま、待て、まだ慌てるような時間じゃない」

「落ち着いてもお前に金はねえがな」

「ま……魔王様」

「何だよ」

 

 がばっ、とその場にひれ伏し。

 

「お金貸してください!」

 

 土下座し。

 

「……やだよ」

 

 即座に一蹴した。

 

 

 * * *

 

 

「そう言えばもうすぐクリスマスだな」

「……ソッスネー」

「お前のトナカイ服も中々似合ってるぞ」

「マオウサマノサンタコスモオニアイデスヨ」

「……いつまでいじけんの?」

「ベッツニー、イジケテネースケドー」

 

 ダメだこりゃ、と思いつつ少しずれてしまったサンタ帽を被り直す。

 

「にしても寒いな……」

 

 サンタなんて冬のイメージの癖にミニスカートというのはどうなんだろう。

 と思いつつこれが意外と売れている……主にカップルに。

 

「一体何に使うつもりなのやら」

 

 まあナニに決まっているのだろうが。

 何故か俺を見て『女性用ミニスカサンタ』を買う男は一体何を考えているのだろう。

 

「っけ……リア充どもが」

 

 横で出もしない唾を吐き捨てるポーズをしているマネキンの謎の言動に呆れた視線を送りつつ、店の外を見やる。

 見事にアベックだらけである。こいつら全員カップルなのか、と思うとさすがはクリスマスだと実感する。

 

「性夜だな」

「性夜っすね」

 

 クリスマスは神が人に対して『産みに励め』と言った日とされているが、実際のところそれは宗教家たちが聖書を誤読した結果であり、実際には神が『日々に休め』と言った日である。

 とは言えそんなこと六千年ほど前から生きてるやつでもなければ知らない話であり、人間の間では『性に励むことを推奨された夜』とされている。

 このとんでも無い勘違いに神が割と憤慨している事実を知っているのは俺を含めた少数のやつらだけなのだが。

 

 まあ人間にそれを教えてやる義理も無いし、言ってもどうせ信じないので別に良いだろう。

 

「あーやってらんねえ……こちとら画面の向こうの嫁にもっと貢がないとならねえってのによぉ」

「仕事中にスマホはするなよ?」

「分かってるって魔王様は心配性だなあ」

「黙れ前科持ち」

 

 トイレに行ってきます、とか物凄い素っ頓狂なことを言って店の奥に隠れてスマホ弄っていた前科がこいつにはある。

 だいたいマネキンが排泄なんてするわけないだろ、という当然の話に何故気づかないのか。

 こいつ実は馬鹿なんじゃないだろうかと思うこともあるのだが、これでも一応魔人である。

 それなりに頭脳は秀でているはずなのだが……普段の言動を見るととてもそうは思えないのが不思議だ。

 

「見ろよあのカップル……彼女が彼氏に腕ひしぎ決めながら歩いてるぜ」

「仲良いなあ……滅びればいいのに」

 

 あれは仲が良いというのだろうか?

 彼氏の顔が凄いことになってるが。

 

「あっちのカップルは彼氏が彼女にアイアンクローされながら歩いてやがる」

「っけ、イチャつきやがって」

 

 彼氏が引きずられながらぴくりとも動いていないのだが……あれはイチャついているというのか?

 

「おいおい、あれ見ろよ……男三人引き連れてやがるぜ、逆ハーレムってやつか?」

「……あの、男の首に鎖ついてるように見えるんですが」

 

 ヒィ、とマネキンが小さく悲鳴をあげながら窓の外の光景を見ている。

 人間というのは不思議な生き物だ。

 何故半裸の男を3人、首に鎖をつけて歩いているのか。

 そんな扱いをされているにも関わらず男たちのほうは何故か満足気である。

 

「ホント……人間ってのは変な種族だな」

「あれは極めて例外だと思うんですが(マジレス)」

「そうか? 普段のマネキンも同じような感じだが」

「えっ……」

 

 極めて意外、と言った様相のマネキンが表情を引きつらせる……まあ目や鼻、口にあたる部分は白一色なので分かりづらいが。

 

「ああ、それとマネキン」

「なになに?」

「新年に一度魔王城帰るから、お前も一緒に行くぞ」

「えー……俺、新年はソシャゲで個ラン上げるって決めてるんだけど」

「…………」

「……あ、あの、魔王様?」

「うるせえ、良いから来い」

「あ、はい」

 

 魔王城は代々の魔王が受け継いできた広大な城である。

 その中央部には巨大な魔結晶が存在し、年に一回魔王がそこに魔力を注入することで魔界全体に魔力がいきわたるようになる。

 これを欠かすと魔界全体が魔力不足に喘ぐことになり、特に自力で魔力を生み出せる悪魔以外、大半の生物が魔力欠乏によって死ぬことになる。

 俺からすればちょっと出向いて五分ほどで済むような用事でも魔界全体から見れば非常に重要な儀式なのである。

 

「それにこの時期の人間界は寒いからな」

「魔界は暑いというか熱いってレベルだけどなー」

 

 瘴気が噴き出し、獄炎が燃え盛る魔界における平均気温は二百度を優に超える。

 故に魔界の生物は大半が熱には強いが寒さには弱い。

 マネキン……ガーゴイルのような魔造生物は元となった素材に準拠するので別とするが。

 

「俺は魔王になった時に熱いのは平気になったけど、寒いのは未だにダメなんだよ」

 

 正直ミニスカの下にタイツ履いて無かったら寒さで凍えていた気がする。

 こっそり熱の魔術で体を温めているのにこれである。人間というのは良くこんな環境で生きられるものだと感心すらする。

 

「魔王城は快適なんだが……なあ」

 

 未だに勇者が生まれるまでしばらくの時が必要である以上、魔王がする仕事なんて魔界の存続くらいしかない。

 それだって一年に一回、それも五分で終わる。

 つまり魔王城に人を置いておく必要が無いのだ。

 

「つまり俺が一緒に行かないとボッチってことか」

「ボッチじゃねえよ……無駄な人員削ってるだけだよ」

「要するに寂しいんすね魔王様」

「寂しくねえし、ちょっと退屈だから暇つぶしにお前連れてくだけだし、勘違いすんなよ? 絶対だかんな!」

「分かってるって、ヒヒヒ」

 

 気持ち悪い笑い声を挙げるマネキンにチョップを入れつつ、途切れることの無い人の往来を店から見つめる。

 

「そろそろ上がりの時間だな」

「だなー……また今日もマラソンしなきゃな」

「マラソン? マネキンがなんで?」

「いや、ソシャゲで……周回するって意味で」

「お前いっつもそんなのばっかだな……」

「サーセン」

 

 そんな話をしている間にも外では雪が降り積もる。

 

 どこまで積もるのだろう、そんなことを考えながら。

 

「まあ、魔王様が帰られるなら俺も付き合うよ」

「当然だ、お前は俺が作った俺の物なんだからな……ちゃんと自覚しろよ?」

「イヒヒ……りょーかい、魔王サマ」

 

 

 もうすぐ今年も終わりだな、そんなことを思った。

 

 

 




どういう世界観なんだよこれ(
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