東風谷さんはあの日を境に元気になった。お粥が効いてくれたのならいいけど。
(あんなこと言ってキモイとか思われてないよな〜…いや、思われてるよ。絶対…)
それからというもの、東風谷さんは俺の帰宅途中の道にある公園まで俺を迎えに来てくれるようになった。
「あ!新くん!!」
「ただいま、東風谷さん。」
「おかえりなさい!!」
「今日は何があったんですか?」
「今日は友達と体育の時にバスケをしましたよ。」
「へぇ〜!健康的ですね!」
「今日は夕飯何にしますか?」
「うどんがいいですね!俺も手伝います!」
「肉うどんにしましょうか!」
「明日もいい一日になるといいですね!!」
「はい!きっと、いい一日になりますよ。」
こんな風に他愛もない話を家に着くまで交わしている。そして俺は思う。
──なんて温かい時間なんだろう。
そしてそう思うと同時に俺の頭にあの不安が蘇る。
──東風谷さんが居なくなったら俺はどうなるんだろう。
今はかなり表情は隠せるようになったけど、頭にこの言葉はずっとよぎり続け、俺を苦しめる。
でも、俺は決めた。
東風谷さんが幸せなら俺はいくらだって彼女を応援すると。
だから、どんな結末が来ようと、俺は耐えきる。
それが、東風谷さんのことを考えた最前の策なんだ。
そんなことを考えながら東風谷さんと家に帰った。
「東風谷さん、今日はやっぱりカレーにしませんか?」
「うどんはいいんですか?…まぁ新くんが決めたならそれでいいですけどれそれじゃあ早速準備しましょうか!!」
「頼まれたからにはやるしかない。早苗ちゃんは僕の友人でもあるから。早く見つけて連れて帰らないと…」
「東風谷さん今日は何されてたんですか?」
俺は食後のデザートのみかんを食べながら東風谷さんに質問する。
「今日は少しお散歩に行きました!」
「へぇ〜。どんな所に行ったんですか?」
「猫がいっぱいいる所があってですね!」
「あぁ〜、林道さんとこの猫ちゃん達かもしれない。」
「あ、それとですね…」
その時、お風呂が沸いたことを知らせるアラームがなった。
「お風呂沸いたみたいですね。東風谷さん先にどうぞ〜」
「はい!お言葉に甘えますね!!」
東風谷さんはそう言ってリビングから去った。
1人になった俺は窓際に行って、夜空を見上げた。
(いつまで…続くのかな。この時間は。)
できればずっと続いてほしい。ずっと東風谷さんの隣に居たい。いつか、この思いを伝えられる日がきっと来る。今はまだ迷いがあってうまく伝えられそうもないけど、その時が来たら、絶対に伝える。
「新くん、お風呂あがりましたよ!」
「は〜い。」
朝、登校していると、来人と合流した。来人はいつも学校に行く時間が早いので、合流することなんて無いのだが、多分、俺のことを気遣ってわざと時間を遅らせたんだと思う。
「おはよう、新!」
「おはよう来人」
「どうだ?あれからなんか変わったか?」
「うん。まぁ少しだけどさ。」
「このまま解決するといいな!!」
「頑張るよ。」
朝から悪友に元気づけられた。ありがとう、来人。
「はい、ここがXなら、ここは必然的にYに……」
俺は、ぼーっとしながら、授業を聞いていた。
最近はずっとこんな感じで一日を過している。
静かに外の風景を眺め、東風谷さんはこの風景を見て何を思うのだろう…東風谷さんは何してるだろう…東風谷さんは俺のことどう思ってるのだろう…
そんなことをぼんやりと考えながら。
「片想いってのは、勝手に相手に期待しちまうもんだよなぁ。」
──誰だ?この声は。
「そんな淡い期待、さっさと捨てれば楽なのになぁ…」
──お前は誰だ!俺に何を教えたい!
「こんな風にならないといいけどなぁ…」
我に返ると、いつの間にか俺は東風谷さんがいつも待ってくれているあの公園に立っていた。
「あれ、俺今まで授業受けてたのになんで…」
すると、東風谷さんが満面の笑顔でこっちに走ってくる。
「東風谷さn…」
でも、その笑顔は俺に向けられたものじゃなかった。
知らない、白髪の男の人。しっかりしてそうで、優しそうで、かっこいい。
その男の人に向けられた笑顔は、東風谷さんをさらに輝かせた。
「東風…谷さん…」
そして東風谷さんとその男の人は俺の方を見てこう言った。
「さようなら!!」
────新くん!
「うわぁぁぁぁぁぁっ!?」
俺はどうやら居眠りをしていたらしい。
俺の叫び声を聞いたクラスの人間は一同騒然。その後すぐに、誰かが笑ったのを皮切りにクラスは一気に笑いに包まれる。
でも俺は全然笑えなかった。
(今日、帰ったら絶対に東風谷さんにこの思いを伝えよう。じゃないと…手遅れになる!!)
「なぁ、今日の朝、3組の園原が4組の七宮に告ったらしいぜ。」
「へー。それでどうなったの?」
「園原玉砕!ま、あの顔で七宮はきついだろ!」
「片想いは相手に勝手に期待しちゃうもんな〜」
来人がその友人達と楽しげに話している。その内容はこれから俺に起こりうることだった。
「新はどう思う?」
「っ!?…おっ、俺?」
「うん。」
「おっ、俺も…そう思うよ…」
俺は不意に振られた話題に少し戸惑い、同意した。
「だよなー!!」
正しい答えなんてわからない。唯一分かるのは、自分がその人に恋をしたということ。
そんな複雑な考えが俺の頭の中を渦巻いていた。
俺は学校が終わるとすぐ、あの公園に向かって急いだ。
きっと東風谷さんはあの公園で今日も待っているはずだ。
あの夢と同じことが起こらないように。
俺が息を切らしながら公園につくと、いつも東風谷さんが座るベンチに、東風谷さんはいた。
(良かった……!)
俺は東風谷さんの姿を見ると安心し、声をかけた。
「東風y…!?」
東風谷さんは俺が声をかける前になにかに気づいて、ベンチを立ち上がる。
その表情はまさにあの夢と同じ表情だった。あの輝いた笑顔。
その視線の先には……
あの白髪の男の人がいた。
「嘘だ…」
東風谷さんはそのままその人のところに行くとその人に抱きついて泣いていた。
この人なんだ。この人が以前夢を見たと言った時に出てきた『好きな人』だったんだ。
「は…はは…はははは……」
もうダメだ。あの時は強がってどんな結末だろうと耐え抜くと言ったけど…どんなに辛くても彼女を応援するって決めたはずなのに…
俺はそのまま来た道を走った。
頬に涙をこぼしながら。
もう何もかもがどうでも良くなった。
続く
今回も最後まで読んでいただき、ありがとうございます!ついに次回で本作は終わりですが、ご意見やご感想はまだまだ待っています!次回作の参考にしたいので、どしどし送っていただけると嬉しいです!評価もお願いします!
本日もありがとうございました!