苦労人戦記   作:Mk-Ⅳ

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第十六話

「セイッ!」

 

自治評議会の領地内の森林にて。トウガの振るい下ろした魔導刃が帝国魔導師の頭部に斬り込みそのまま竹を割るように縦に両断する。

 

「チッ!通信は!?」

「駄目です!術式ジャミングされていてどこにも通じません!!」

 

部隊長の怒号のような問いに、通信手が苦々しく叫び返す。

 

「対抗術式は!?」

「最大でやってます!!敵の出力が強過ぎて――ガッ!?」

 

通信手の胴体を、トウガがライフルで放った光学術式が防殻ごと貫く。

続けて放たれた術式を部隊長は横に跳んで回避すると、その間に距離を詰めたトウガは魔導刃を振るい、それを銃剣で受け止める。

 

「!?」

 

――筈だったが。刃が触れる直前でトウガの姿が掻き消え、デコイであると気づいたのと同時に、側面からトウガの蹴りが首元に叩きこまれ、ボキンッ!!という粉砕音と共に、首が曲がってはいけない方向を向いた部隊長は膝から崩れ落ち、二度と動くことはなくなった。

 

「く、うぅ…!」

 

少し離れた場所では、メアリーが帝国魔導師とライフルをぶつけて押し合っていた。

女子供であっても超人的な力を用いれる魔導師だが、同じ魔導師が相手の場合肉体を強化するような身体に影響する術式は魔力量で補えるとはいえ、本人の身体能力に依存するため。余程の魔力差がなければ大人と子供、男と女で越えがたい壁が生まれてしまう。

そのどちらでも劣る側であるメアリーは、近接戦では勝機は薄いので、他者以上に距離を詰められない戦いを求められるが。今だ数度の実戦しか経験していない故の未熟さを早々に見切られ、近接戦に持ち込まれてしまっていた。

 

「あっ!?」

 

腹部に蹴りを受け態勢をくずされたところに、銃床で頬を殴られ仰向けに倒されてしまう。

帝国兵魔導師はすかさず心臓がある左胸に銃剣を突き立てようとし、それを身を捩って避けると、地面に積もっている雪を掴み敵の顔面目掛け投げつける。

 

「うっ!?」

 

攻撃直後の無防備な瞬間だったため、もろに受けた帝国魔導師は視界を奪われ硬直する。その間に腰のホルスターからナイフを引き抜いたメアリーは、起き上がるのと同時に飛び込む勢いで敵へ体当たりし押し倒すと、逆に心臓部目掛け両手で逆手に持ったナイフを振り下ろす。

視界が不透明だが、本能的に危機を察知した帝国魔導師は、腕を掴み受け止めると押し返そうとし拮抗状態になる。

 

「あああああああああアアアアアアアアアアアア!!!」

 

あらん限りの力と術式に魔力をを込めながら、圧し掛かるようにし体重をかけ、徐々に押し込んでいくと、やがて切っ先が皮膚に触れ食い込んでいく。

敵も死にたくない!!!と言わんばかりの必死の形相で最後まで抵抗するも、刃は止まることなく進んでいく。

そして、遂に心臓にまで達すると。帝国魔導師の体がビクンッと一際大きく震える

 

「――母…さん…」

 

その一言が皮切りだったかのように、徐々に力が弱まっていき、口から血が流れ出すと掴んでいた手が離れると地面にダレるように落ち。瞳孔が開いていくと目から光が失われ、小刻みに起きていた痙攣が止まると、身じろぎ一つ動くことさえなくなる。

 

「フー、フーッ」

 

興奮の余り、そのことに気づいていないメアリーは、更にナイフを押し込もうと暫く力を込めていたが、氷点下に冷え込んでいた冷気の影響もあり、冷静さを取り戻すと、既に敵が息をしていないことに気づく。

 

「ハァ、ハァ、ハァ…」

 

早く次の敵を探さないと、頭では理解しているも。手が接着剤で固定されたようにナイフから離れず、深呼吸を何度も繰り返して、ようやく引き剥がすようにして離すことができた。

 

「(――ああ、私…人を殺したんだ…)」

 

動かなくなった自分とそれ程変わらぬ若き帝国魔導師――その光の宿らなくなった瞳を見下ろし、己が人の命を奪ったのだと理解するのと同時に。目から無意識に涙が流れ落ちていた。

今の自分は軍人であり、相手は敵対国の軍人のため、当然ながら罪に問われることなどなく、寧ろ褒め称えられることであると散々に教えられてきたのだが。今更になってナイフから伝わって来ていた肉を裂いていく感触――命をこの手で奪っていく感触が呼び起されていき、激しい頭痛と吐き気に見舞われる。

 

「――ッカハッ!」

 

それでも『自分が選んだことだ』『覚悟はしてきた筈だ』と己に鞭を打ちながら、意地でも吐くまいと胃から這い上がってきていた物を気合で押し戻す。

そうこうしていると、雪を踏み鳴らす音が耳を刺激し、咄嗟に膝立ちの体制になり、ナイフを構える。

 

「ご苦労少尉」

 

背景から染み出すように現れたのはトウガであり、光学系の術式で景色に溶け込んでいたらしい。

敵でなかったことに緊張感を吐き出すように息を吐くメアリー。そんな彼女に歩み寄るとトウガは手を差し出す。

 

「初撃墜おめでとう。これで君はひよこから軍人だ」

 

その言葉に、メアリーあっ、と間の抜けた声を漏らす。これまでの戦闘では、生き残るので精一杯で撃墜などしたことがなかったことを思い出した。

それと同時に、彼がわざわざ姿を隠していたのは、いつでも加勢できるにも関わらず敢えて傍観していたのだと思い至る。

無論見捨てようとなどではなく。メアリーが1人の力で戦えるようにするためであり、彼女自身もそうなれるようにと望んでいたことを見越した上での行動であった。

 

「はい、ありがとうございます」

 

そんな彼の優しさと自分を信じてくれたことに、胸の内で暖かさが広がるのを感じながら、メアリーは手を取り支えられて、ふらつく足取りながら立ち上がる。

今作戦にあたり、彼ら義勇兵に与えられた役割は、敵哨戒線を担うコマンド部隊の排除と友軍の退路の確保であった。

敵の反応を見るためのものであるとはいえ、敵の対応が早過ぎれば求める成果を得られないどころか甚大な被害を被りかねないため、最重要な役割である。

そのため、敵の通信機能を阻害するために、ネクストの背部にはいつもは装備しているヴェスバーではなく、電子戦専用装備が納められたレドームと呼ばれる円盤状の物に換装されていた。

 

「どこか異常はあるか?」

「いえ、問題ありません。作戦の継続可能です」

 

ナイフをしまい、地面に落としたライフルを拾い上げ動作を確認し、張り切るように告げると、トウガは頼もし気に笑みを受かべると同時に。戦況を確認すべく、強化された通信・索敵機能をフルに使う。

既に本体は目標である村落を攻撃しているが。通信機から聞こえてくるのは、敵の頑強過ぎる抵抗に拡大していく損害に苦慮する声や、土嚢のような原始的だが強固な防護を施され、対戦車用の貫通術式でも抜けない家屋に驚愕する声だった。

軍事拠点でもない、ゲリラの拠点の襲撃ということもあり。帝国軍を相手にするよりは楽だろうと考えられていただけに、陣地化された村落に魔導師ですら突入できていない状況であった。

…それほどまでに共産党がやらかした(・・・・・)結果であり、自国民から嫌われていることの証左ともいえよう。

 

「!」

 

こういった悪いことは重なるものである。探知術式に村落へ接近してくる多数の敵魔導反応を感知。隠すこともなく敢えて自分達の存在を垂れ流しており、それが敵への嫌がらせと、味方であるゲリラへ救援に来たことを伝えるものであると理解すると同時に、トウガは思わず舌打ちしてしまう。

即ちこちらの意図が読まれているのと同義であり、帝国が自治評議会を決して見捨てないと宣言していることを示しており。例え救援が間に合わなずとも、今後の両者の結びつきが強まる結果となるだろう。

そして、何よりも最悪なのが、接近してきている敵魔導部隊が馴染みになりつつあるものばかりであり、ライブラリから表示された『ラインの悪魔』の文字に本気で舌打ちする。

即座に友軍全体に警告を飛ばすと、焦燥感に駆られた司令部やドレイクらが撤退を促す声が通信機越しに交差している。

 

「こちらにも敵が来る。友軍が逃げ切るまで抑えるぞ」

「了解です!」

 

本体と別れった敵の中隊規模がこちらの退路に回り込んで来ており、自分達とは別に殿を務めていた連合王国魔導中隊と交戦状態に入っており。彼らの援護へ向かうのであった。

 

 

 

 

あの後帝国の悪魔共は村落の救援だったということもあり、早々に手を引いたことでさしたる追撃を受けることなくどうにかいなし、無事に帰還した多国籍軍。

それなりの犠牲こそ出たものの、目的は十二分に達しており。翌日は成功への祝いと、散った者達への哀悼を酒を飲み交わしていた。

 

「メリー・クリスマス!」

 

何より今日はクリスマス。戦場であろうとも聖なる日を祝し、駐屯地では盛大なパーティが開かれていた。

ある者は砂糖との歴史的友情を確認するだろう。また、ある者は食事という根源的ものへ拘泥していた。

指揮官として厳格な姿勢を求められるミケルやドレイクすら、無礼講と言わんばかりに部下らと一夜限りの祝日を満喫している。…周囲の目(・・・・)があるので、所属ごと――特に連邦人と他国の人間が交わるとこは、連邦の友人の身のためにも、意図的に避けられてこといるが。ここが、戦場の真っ只中であることを忘れてしまいそうなまでに、祭りは盛り上がりを見せていた。

 

「……」

 

そんな中、メアリーは1人集まりから離れた場所で、木箱に腰かけながらクリスマスの定番なもべものが盛りつけられた皿から、王道のチキンを手にし味わっていた。

 

「…トウガ?」

「うい?のした、メアリー?」

「…いや、大丈夫。本当に?」

「もんらいない、もんらいない」

 

いや、1人ではなく、隣にトウガが腰かけていた。――が、酒を飲んでいる内に、誰だと言いたくなる程の変身を遂げたパートナーに話に聞いていたとはいえ、困惑を隠せないでいた。

 

「♪~」

 

補給物資として届いた秋津島酒が余程嬉しかったのか、普段はまず見せない鼻歌を交えながら味わっているトウガ。――表情だけはいつも通りなのは流石と言うべきか、ツッコミを入れるべきか悩ましいものである。

 

「ん~」

「わわっ」

 

限界を迎えたのか、前後に揺れ始めたトウガを慌てて支えるメアリー。

 

「zzz…」

「寝ちゃった。もう…」

 

もたれかかって夢の世界に旅立ったパートナーに、メアリーはしょうがないなぁ、と言いながらも嫌がる素振りなど見せず支える。とはいえ、対格差的にこのままだと辛いのも事実であり、どうしようかと考え、そうだ、と膝の上に乗せていた皿をどかすと、代わりにトウガを自分の方に横にし頭を乗せた。

 

「ふふっ」

 

普段は真面目でどこまでも真っすぐな彼だが、まるで子供のように無防備な姿に。意外な一面を知れたこともあり、思わずクスっと笑みを浮かべるのだった。

 

 

 

 

宿舎から賑やかな喧騒が漏れ聞こえる中。連邦軍人であり、共産党員である所謂政治将校リリーヤ・イヴァノヴァ・タネーチカは1人人気のない屋外にいた。

日が沈んだ東欧真冬の風は、まるで人間など自然の前では矮小だと嘲笑うかのように襲い来る。

防寒コートに身を包んでいても、心身共に凍てついてしまいかねず。手袋をしていることさえ忘れ、思わずといった様子で、手にハァ~と息を吹きかけてしまう。

 

「…何してんの、こんなところで?」

「ひゃっ!?!?」

 

そんな彼女に背後からロイドが声をかけると、飛び跳ねんばかりに悲鳴を上げるリリーヤ。

 

「ふ、フレッド主任!?な、何をしているんですかこんなとこで!?」

「いや、そのこんなところで1人黄昏てるユーに言われたくないざます」

 

恥ずかしいところ見られた、と言わんばかりに慌てふためくリリーヤに、至極真っ当なツッコミを入れるロイド。

 

「不審者がウチらの建物の周りをうろついていたから見に来たけど、連邦人でもこの寒さは死ねるで。こっち来んしゃい」

「え、あの…!」

 

リリーヤの手を掴むと、有無を言わさず引っ張っていくロイド。

暫く歩くと、特派が使用している格納庫に辿り着いた。

明かりを着けると、手近な椅子に彼女を座らせると暖房機を側に置く。

 

「あの、いいのですか?他国の人間をこんな風に入れてしまって…」

「いいかね。こういうのはバレなきゃいいのだよ」

「はぁ…」

 

困惑を隠せないでいるリリーヤを尻目に、格納庫を出ていくロイド。すぐに戻ってきた彼の両手には、料理が盛りつけられた皿が乗せられていた。

ほい、と押しつけるように皿を渡すと、隣に腰かけ自分の分を食べ始めるロイド。

 

「あの…」

酔いつぶれた奴(トウガ)の分略奪しただけだから、気にしなくていいで」

「…後で怒られるのでは?」

「久々に好物の酒が飲めるからって、早々に潰れてメアリーの嬢ちゃんに膝枕してもらってるやつが悪い。決して嫉妬心からではない」

「ああ、オルフェス中尉を取られてしまって…」

 

何かを察したような目を向けてくるリリーヤ。心なしか何故か頬が赤く染まる

 

「違うざます。誰も彼もそういう方向にもっていくのはやめるざます」

「違うのですか?お二方は夫婦のようだとお聞きしますが」

「ようであって夫婦になる気はないざます。ミーはノーマルざます」

「そうでしたか。それはすみません」

 

心外だと言わんばかりの抗議に、どこか安堵したようにホッとするリリーヤ。

 

「んな話はもういいから、冷めない内に喰っちまいな」

「では、いただきます」

 

チキンを手にし口に運ぶと、肉の本来の旨味と味付けの絶妙なハーモニーに顔がほころぶ。

そんな彼女をロイドは楽し気に見ていた。

 

「あ…」

 

そのことに気づき、しまった、いった様子でリリーヤは顔を背ける。

 

「気にすんな。仮面(・・)は脱げる時には脱いどきな。でなきゃ窒息しちまうよ」

「……」

「大変だな嫌われ者(政治将校)演じる(・・・)ってのは」

「そのようなことは…」

「俺は育ち故ってのかね。誰がどういう仮面を被ってのかわかんのよ。だから、あんたが無理してしたくない仮面を被ってんのかなってくらいは感じんのよ」

 

ま、勝手な妄想だがね、と肩を竦めるロイドに。リリーヤは暫し顔を伏せると、何かを色々と吐き出すように深く息を吐くと顔を上げた。そこには、清廉さと共産党員としての誇りを持った彼女はおらず、疲れと諦観を貼りつかせた顔を持つリリーヤ・イヴァノヴァ・タネーチカがいた。

 

「フレッド主任。あなたは私がこの歳でどうして共産党員になれたと思いますか?」

「革命時から共産党に協力していた貴族の家系だからとか?」

 

帝国主義から共産主義に移るにあたり、『平等』の名のもとに貴族のような特権階級は文字通り根絶やしにされたが、党に協力的だった者達は例外的に存続を許されていた。

リリーヤの気品ある立ち振る舞いから、そういった出なのではいかとロイドは見ていた。

 

「そうです。私の父は『赤い貴族』とも言われている、共産党に協力的な旧家の家系です。ただ、母は市井の出の愛人なのです」

「……」

「周囲の目もあり、私も母も父とは離れて暮らしていました。でも、母が病で亡くなると父に引き取られました。母は父のことを何も話してくれなかったので、その時に初めて貴族の血を引いていることを知りましたが」

「で、その縁で党員になれました…ってんならまだいい話で終わるんだろうねぇ」

 

その先の流がわかっているかのようなロイドの言葉に、リリーヤはええ、と頷く。

 

「私の存在は家にとって都合が悪いようで。引き取られてからも父は私に会おうとはせず、周りからは疎まれていました。それでも、党への忠誠の証にはなるとしてアカデミーに入れられました」

「人質という名の厄介払い、か」

「はい。とは言っても、必要になれば簡単に切り捨てられる形だけのものですけども」

 

自嘲気味に笑うリリーヤ。それでも、どこかスッキリしたような清々しさも見られた。

 

「悪いが大変だなってとしか言ってやれん。兄弟なら上手く慰めてやれるんだが」

「いえ、人に話すのは初めてですけど。聞いてもらって何だが気が楽になりました変に同情される方が多分辛いと思いますから」

 

リリーヤはそういって微笑む。それは、これまでのような人当たりの良さを見せようとすつものでなく、無意識に見せた彼女らしいと思える柔らかい笑みにロイドは見えた。

 

「可愛いやん」

「ふぇ!?」

 

思いもよらない言葉に、顔を真っ赤にして固まるリリーヤ。それに対し、当のロイドは無意識に発していた言葉に、目を点にしていた。

 

「…あれだな。その若さで政治将校ってのも凄いやん。裏があるとはいえ、こんな大仕事任されるんだから才能あるってことやろ」

「そう、なんでしょうか。物覚えは良いとは言われますが。でも、今の任務についてはやりがいを感じています。ミケル大佐方『祖国』を守るべく戦っている人々のお役に立てるのですから」

「…その当人らには嫌われてるけどな。あんな所にいたのも気を遣ったからか。だからって…」

 

凍死しかねないような所にいたのも、彼女なりに己に罰を与えようとしていたのだろうと考え、眉を顰めるロイド。

 

「メアリーは誘ってくれたのですけど断らせてもらいました。その方が皆さん心置きなく楽しんで下さいますから。それも仕方ありません。それだけのことを、党が彼らにしたのですから。ラーゲリに入れられた者は人として扱われず、十分な食事も防寒具も与えられない上、過酷な労働を強いられ餓死や凍死が絶えないと聞きます。私を怨むことで少しでも大佐方の憎しみが晴れるなら、本望です」

 

謂れのない罪すら引き受けることを、誇るように胸に手を当てるリリーヤ。その清廉と真心ある姿に見惚れるロイド。

 

「…美しぃ」

「ふぇ!?」

 

先程と同じ流れと反応を繰り返す両者。これを秋津島皇国ハーフが見たら天丼かよ、とでもツッコんでいたことだろう。

 

「あの~主任」

 

扉が開きメアリーが顔を覗かせてきたので、神速の如き速さでロイドはリリーヤをシートで覆い背後に隠す。

 

「?どうかしましたか?」

「嬢ちゃんの装備のアイデアとか練ってただけさぁね。それよりどうしたん?」

「そろそろトウガをお部屋で寝かせてあげたいんですけど、いいですか?」

「全然構わないけど、何でそんなに申し訳なさそうなんざます?」

「いえ、迷惑かな、と」

「そんな女房の仕事を取ってしまって。みたいな顔しなくていいざます。変な気を遣わなくいいんざますよ。というか、そもそも俺に確認なんぞいらんでござる」

 

恋のライバルに遠慮でもするかのようなメアリーの態度に、勘弁してくれと言いたげにツッコミを入れるロイド。

それではと、メアリーが退室すると、ふぅ…と額の汗を拭うロイド。

 

「――――」

「ああ、ごめんごめん」

 

リリーヤがもぞもぞと何か主張し出したので、シートを外すとぷはぁ、と少し息苦しそうに顔を出す。

 

「大丈夫?」

「はい。すみませんご迷惑ばかりかけてしまって」

「いいよいいよ。一番手のかかるのは嬢ちゃんが見てくれてるから、最近は暇なくらいよ」

「…あのお2人仲が良いですものね」

 

傍から見ても特別な関係に見えるトウガとメアリーの姿を思い浮かべ、どこか羨んでいる様子のリリーヤ。

 

「せやな。あいつにもようやくそういう人ができたんやなって」

 

本当に嬉しそうに、ロイドはソフトドリンクの入ったカップを(状況的に酒は避けたらしい)祝うように呷る。

 

「夢ばっか追いかけていたあいつがなぁ」

「夢、ですか?」

「そ、あいつとは物心つくかのガキンチョの頃からの付き合いでさ。両親が航空魔導師やってたてのもあって空が好きでな。昔っから自由に空を飛びたがってたのよ。でも、あいつには魔導師としての素質がなかったのよ」

「…それは、辛いですね」

 

魔導師としての適性は完全に先天性のものであり、持たぬ者にはどれだけ努力しようが得ることはできない。故に、その事実を知った時の絶望感は、想像を絶するものだっただろうと容易に想像できた。

 

「それでもあいつは諦めようとしなくてな、家族以外俺も含めて周りから馬鹿にされても足掻き続けてよ。気づいたら手を貸すようになってたよ」

 

そういうと、ロイドはハンガーに収められているネクストに視線を移す。

 

「もしや、あれは兵器として開発された物ではないので?」

「そ、ただあの馬鹿の願いを叶えるために、てな。そのために有用性を示したりする必要があるから軍事転用したってだけよ」

「そこまでして、あなた方が叶えたい夢とは一体なんなのですか?」

 

諜報活動と取られなねない発言であるが。彼女の純粋な興味から口にした言葉であり。それを理解しているのか、ロイドは嫌な顔一つしないどころか、知ってもらいたいと言うように語り出す。

 

「空の先を見ることさ」

「空の、先…宇宙ですか?」

 

そうさ、と言うと立ち上がり格納庫の入り口に歩き出すロイドに、リリーヤは着いて行く。

 

「君はあの空の先には何があるか知ってるかい?」

「太陽や月、それに星座のような星があるくらいしか…」

 

天を仰げば、夜空に広がる月と星々の輝きが見事なグラデーションを描いていた。

その光景を無邪気な目で見つめながら、楽し気にロイドは言葉を続ける。

 

「そういったもの以外に、地球の外には何があるのか、宇宙ってのはどういった世界なのか直接行って確かめたい。それが俺達の夢なのさ」

 

子供の頃、誰もが一度は疑問に思ったことのある星々の世界。だが、確かめる術はないとすぐに失ってしまう好奇心を、彼らは持ち続け諦めずに挑もうとする。

 

「それは、とても素敵な夢ですね」

 

にしてもキレーだなぁ~、と子供のようにはしゃいでいるロイドが、リリーヤにはとても輝いて見えるのだった。




本作では、リリーヤに家族のこと等原作にない設定を付け足していますので、ご了承下さいませ。
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