苦労人戦記   作:Mk-Ⅳ

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第二十二話

ある日の早朝。西部戦線に戻って来たトウガらは次の作戦に向け英気を養う日々を送っていた。

 

「ふむ、良い朝だな」

「…………」

「あぁ~」

 

宿舎を出て日の出を伸び伸びと浴びるトウガと、ブリッジ姿勢で奇声をあげる眼前の変態(ロイド)に硬直しているメアリー。

 

「こういう日は、気ままなに空を飛びたいとは思わんかねメアリー?」

「…………トウガ」

「んふ~ぅん」

 

逆立ちして脚を開いたり閉じたりを繰り返す馬鹿(ロイド)を、当たり前のように無視するトウガに、メアリーは縋りつくように声をかける。

 

「燃焼系~♪燃焼系~♪ア~ミ~ノ~式~♪」

「さて、朝食といこうかメアリー」

「待って、トウガ、置いていかないで色々な意味で」

 

地に手を着けずにその場で前転を始めた阿呆(ロイド)を気にせず、何事もないかのように食堂に行こうとする上官を、懸命に止めるメアリー。

 

「む?どうしたメアリー?」

「いや…あれ、見えてる?私だけしか見えていないとかないよね???」

 

明らかに目の前で異常事態が起きているのに、平然としている彼に、自分だけ幻覚が見えているのかと本気で不安になるメアリー。

お前のどこにそんな身体能力があるのかとツッコミだくなるような、サーカス団顔負けの動作で奇行を繰り広げる幼馴染を見て、ああ、と得心がいった顔をするトウガ。

 

「君は知らないのだったな。アレは良くアイディアに詰まるとこうなるんだ」

「そ、そうなんだ…。えっ待って、こんなこと良くあるの」

「ああ」

 

見慣れ過ぎてしまったのか、衝撃的な内容をさも当然のように話す彼の目は、どこか遠くを見ているようであり、関わったら負けだと語っていた。

 

「おい、いい加減にツッコめよ兄弟、疲れんだよこれ」

「知らんがな」

「なんて冷たい反応ッ。お前の使命だろうが、放棄すんなゴラァ!」

「そんなクソみたいなものを背負った覚えはないわボケ。キレたいのはこっちだドアホウ」

 

理不尽なキレ方をしてくる相方に、額の血管が浮かび上がるくらいにイラつくトウガ。

それでも甚だ遺憾だが、自分がやるしかないという現実に、深く深く息を吐くと口を開く。

 

「…………で、何に悩んでいるんだ?」

「うむ。嬢ちゃんのネクストだが、調整がどうにも上手くいかなくてな」

 

そういって、腕を組んで後頭部が地面に着くくらいに仰け反るロイド。

祖国から戻ってきてからの彼は、彼女専用のネクストを組み打立てていたのだが、どうやら何かに行き詰まったらしい。

 

「従来の宝珠同様の魔力で動作する仕様に変えるのが難しいのか?」

「いんや、それは問題ない。それ以外の仕様はそのままだと、今の嬢ちゃんの技量じゃピーキーすぎて扱えんからデチューンせにゃならんけど、それだとただの鉄の塊にしかならんのよ」

 

うーんうーんと唸りながら、逆立ちになって両足を限界まで広げ回転しだすロイド。

 

「すみません、私のせいで…」

「いんや、嬢ちゃんは悪くねぇで。ネクストは元々こいつ専用に作ってあんからね。当たり前のよいうに変態機動かますこいつが悪いんよ」

「左様ですか、それは悪うございましたね。汎用性も必要だろうと進言したのに無視した開発者様」

 

姿勢そのままに、足の指で人を指してくる馬鹿者に、浮かび上がる血管が増えるトウガ。

そんな彼らの元に、憲兵を連れたリリーヤが姿を現す。

 

「おはようございます皆さん」

「あ、リリーヤおはよう。どうしたの?」

「いえ、こちらに奇行を繰り広げる不審者がいるとの報告があったので」

「おい、お前が早くツッコまないから通報されてんじゃねーかっ!もうバカッ!」

「…………」

 

謂われない罵倒に、拳を握り締めた手を震わすトウガ。人前故に堪忍袋が切れるのをギリギリで耐えているようである。

その間に、メアリーがリリーヤに事情を話している。

 

「…なる程そうでしたか。それならば、我々連邦軍の新型を参考になさってみるというのはいかがでしょうか?」

 

事情を把握したリリーヤは憲兵を下がらせると、そう提案するのだった。

 

「新型…。新兵でも扱いやすいようにと開発されたという物ですか」

 

ふむ、と顎に手を当てて思案するトウガ。

話題に上がったのは連邦が軍備増強に合わせ新規に開発した宝珠であり、『練度の低い新兵でも取り扱い可能な安定性』を売り文句としたものだが。実態は機動性を完全に捨て、火力と防御力に特化させた代物であり、歩兵以下の速度でしか動けず、頼みの火力も必要最低限の簡易な作り故に、誤射を量産しかねない射撃精度しか持たず、生産性と堅牢な防御性能による生存能力の高さだけが取り柄というのが実際の評価であったりする。

 

「はい、オルフェス中尉。こういった場合は、発想の転換も一つの手かと」

 

他国からは『連邦人は航空魔導師の本分を何も理解していない』と陰で散々に笑われているが、人海戦術を得意とするドクトリンの連邦に合った仕様ともいえ、更に開戦時は魔導戦力を持たなかったかの国が、早急に航空魔導師を配備するにはもってこいの一品であり、用い方次第では十分に戦力になるのも事実ではあった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――――――それだッッッ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

言葉に表せられないような姿勢で、雷に打たれたかのような衝撃とともに、あらん限りに叫びだしたロイド。

 

「うるさっ。なんだいきなり」

 

トウガはそんな相方を冷めきった目で見るが、ロイドは構わず姿勢を戻すと肩を力強く掴んでくる。

 

「トウガ、出撃だ」

「どこに?」

「帝国の戦車を鹵獲してきなさい」

「航空魔導師が何でも屋とは言われるが限度はあるぞ?」

 

突拍子もないことをほざき出す野郎に、至極真っ当に返すトウガ。

 

「砲身が無事ならそこらの残骸でも構わん」

「…飯食ってからでいいか?」

「いいよ♡タネーチカ中尉もあんがとねん!」

 

トウガがもう何を言っても無駄だなと諦観したように言うと、ロイドはヒャッホイ!と狂ったようなテンションで、バレリーナのように回転しながら格納庫へと去っていき。その勢いに着いて行けないメアリーとリリーヤは、ただ目を点にして見送ることしかできなかった。

そんな2人を尻目に、トウガはやれやれと言いたげに息を吐くとポツリと呟く。

 

「…あいつ、何をする気だ?」

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