苦労人戦記   作:Mk-Ⅳ

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第六話

帝国首都にある統合参謀本部。帝国軍の頭脳が集うこの建物内にある戦務参謀次長室にて、主である戦務参謀次長であるハンス・フォン・ゼートゥーアは映写機によって映し出された映像を凝視しながら渋面を隠せずにいた。

同席している盟友クルト・フォン・ルーデルドルフも、同じように表情をしかめながら流れる映像に目を通していた。

映像が終わると。彼は暫しの沈黙の後、重たくなった口を開くようにしながら、部下であり映像を持ち込んできたエーリッヒ・フォン・レルゲンに問いかけた。

 

「この映像は、実際に現場で撮られたもので間違いないのだなレルゲン中佐?」

「はっ。先に行われた連合王国本土での航空戦に際し、第二〇三航空魔導大隊が接敵した未確認の魔導士によるものです」

 

流された映像は、ターニャ率いる部隊とトウガが交戦した際のものであり。友軍救助のため戦力を分散させていたとはいえ、単騎で帝国最精鋭である第二〇三航空魔導大隊と互角に渡り合う光景は、彼女らの装備・練度を熟知している彼らにとってにわかに信じがたいものであった。

 

「この戦闘にて、大隊長であるデグレチャフ少佐ならびに部隊員1名が負傷したとのことです」

「…連合王国にこれほど高性能な演算宝珠を開発可能なのかね?いや、それよりこれは本当に魔導士なのか?」

 

最後の方は自問する形になりながらゼートゥーアも疑問を呈する。手元にある資料に添えられた写真に写るネクストの外観は、従来の常識から逸脱したものだったからだ。

 

「エレニウムシリーズの開発者であるシューゲル技師にも確認を取りました。反応に多少の差異はあるものの、この未確認の魔導士が使用しているものは演算宝珠と見て良いだろうとのことでした。それと、連合王国にエレニウムシリーズと同等の性能のものを開発可能かについては、その…」

「?どうかしたのかね?」

「いえ、独特な言い回しが多く要約しますと『自分のように神の啓示を受けた者が他にもいるのであれば可能だろう』とのことでした」

「「……」」

 

非常に言いにくそうに告げるレルゲンに、思わず同情的な目を向けてしまうゼートゥーアとルーデルドルフ。

エレニウムシリーズの開発者であるアーデルハイト・フォン・シューゲルは、技術的に不可能と目されていた複数の宝珠核の同調をなしえ、ライン戦線における決定打となった『回転ドア作戦』において使用された人力誘導式噴進弾――通称V1といった革新的な技術を生み出すまさしく天才と言える才覚を持っている人物だが。人命を軽視した仕様のテストを平然と行ったりと、人格面に大きな問題を抱えていることで有名であった。また、無信仰者であると公言していたのだが、ある日を境に突如敬虔な信徒となり色々な意味で周囲に衝撃を与えてもいたりした。

 

「しかし。連合王国の技術力から勘案しますと、これだけ高性能な演算宝珠の開発は現実的ではなく、情報部からもこのようなものが開発されているとの情報は上がって来ておりません」

「…となると、こいつの出所は合衆国、か」

「出現時期からして、その可能性が大かと…」

 

ルーデルドルフの言葉に重々しく頷くレルゲン。

このような異質な兵器を作れるとしたら他に思い当たる国もなく、かの国から義勇兵が送られてきたのと同時期に確認されたことからも最早確信犯とさえ言えるだろう。

 

「介入への下準備か、自分達の玩具を見せびらかしに来ただけか…」

「そのどちらでもあろうよ。全く余裕のある国は羨ましいよ」

 

ゼートゥーアは葉巻を取り出すと、紫煙を燻らせる。

かつては連合王国の植民地でありながら、資源に恵まれた広大な領地と、必要とあれば出身を問わず人材を用いる貪欲さによって。技術力に関しては最先端を往くと自負している帝国と、物量では『兵が畑で取れる』と言われている連邦に匹敵するとされている新大陸に存在する列強――それが『超大国』とも称される合衆国なのである。

 

「(我々に残された時間は、存外短いのかもしれんな…)」

 

ゼートゥーアは葉巻を燻らせながら、窓の外に視線を向ける。

見えるのは、鮮やかな秋模様を見せる首都と晴れやかな青空。季節は八月、間もなく訪れる冬は東部戦線に冬将軍という名の抗いようのない敵が迫り、遠い海の向こうでは、理不尽なまでの力を持つ巨獣がその足音が響かせ始めていた。

ゼートゥーアの危惧する通り、彼ら――帝国に残されている時間は決して多くはなかった。

 

 

 

 

青空の元、トウガはネクストを身に纏い周囲を警戒しながら海上を飛行していた。

そんな彼目掛け無数の術式弾が襲い掛かるも。それらを難なく避けると、トウガはライフルを飛来した方向へ構えると引き金を引く。

 

「うわ!?」

 

銃口から放たれた光学術式は寸分違わず標的の胸部を捉え、管制より撃墜判定が出る。

 

「ヤンキー05がやられた!」

「落ち着いて!陣形はそのままで、包囲を崩さないで!!」

 

仲間が堕とされたことに動揺する部下を、メアリーが奮起させながら指示を飛ばす。

現在義勇魔導部隊による模擬戦闘の真っ最中であり、トウガ対残りの隊員の構図で行われていた。

縦横無尽に飛び回るトウガに対し、メアリーらは対応が追いつかず、ある者は咄嗟に射撃の精度を上げようと足を停めてしまう。そこを狙い撃たれ撃墜者が増えていく。

 

『貴様らは何者だ!航空(・・)魔導士だろうが!空に遮蔽物などないのだぞ!機動せんでどうするか!!』

 

通信機越しに叱責を浴びせながら、ライフルで次々と撃墜していくトウガ。

 

「爆裂術式、斉射!」

 

メアリーの合図とともに放たれた一斉射がトウガに殺到し、周囲で激しい爆発を起こす。

 

「(目隠し、誘導か)」

 

爆煙に包まれ視界が塞がれる中、相手の意図を推察し、煙幕から抜け出しながら周囲を索敵すると。側にある雲からウェルフが飛び出してくると、銃剣に魔導刃を展開させ突進してくる。

 

「オオォォオ!!」

『甘い!もっと気配を消せ!』

 

トウガは体を捻りながら跳んで避けると同時に上を取り、無防備なウェルフの背中を蹴り飛ばす。

追撃しようとするトウガをメアリーらが射撃で妨害し、その間にウェルフは態勢を立て直した。

 

「ヤンキー03離れて!」

「まだだァ!!」

「ウェルフ!?」

 

メアリーからの支持を無視し、再び突撃していくウェルフ。

対するトウガも発振器を手にすると魔導刃を展開させ、突き出された刃を受け止める。

 

「でやぁ!!」

 

ウェルフ魔力を振り絞り魔導刃の出力を上げると、連続で斬りつける。それを受け流しながら後退していく。

 

「ウェル――03離れて!撃てない!」

 

メアリーが動揺を隠せない様子で呼びかける。事前の作戦では、奇襲に失敗した場合ウェルフは距離を取り、再度機会を伺うことになっていたのだ。

更に、トウガは敢えて防御に徹することでウェルフを誘導し、メアリーらの射線にのせられ援護を封じられてしまっていた。

 

『その勇敢さは良し!だが、味方との連携を忘れた時点で、ただの蛮勇でしかないッ!』

 

魔導刃で相手の刃を受け流すと、トウガは片手でウェルフの腕を掴むと引き寄せながら腹部に膝を叩きこむ。

そこからウェルフに体当たりすると、そのまま押し出していきメアリーら目がけて突進していく。

 

「ぜ、02指示を――!」

「――さ、散開!距離を取って!」

 

仲間を盾にする形で突撃してくるトウガに、どうすべきか困惑した部下が対応を求め。メアリーはどうにか指示を飛ばすも、逡巡する間に僅かだが隊としての動きが止まる。その間にトウガは自らの間合いに入っていた。

 

『反応が、遅い!!』

 

ウェルフをメアリー目掛け投げつけたトウガは、魔導刃を展開し一気に加速する。

 

「きゃ!?」

 

意表を突かれたメアリーは、咄嗟にウェルフを受け止めるも、その隙に纏めて斬られて撃墜されるのだった。

 

 

 

 

「作戦自体は悪くなかった。だが、いかなる事態も動じることなく対処せねばならん。特に指揮官の迷いは部隊全員を殺すことに繋がると思え。それと、独断専行をするなとは言わん。だが、常に味方を危険に晒す諸刃の剣であることを理解しろ。命令を無視する必要性と意義を必ず考えろ」

 

トウガの言葉にメアリーらがはいッ、と力強く答える。ただ、名指しされたも同然で叱責されたメアリーとウェルフは落ち込み気味ではあるが。

 

「各自、今日の演習の反省と改善点を明日の朝までに纏めて提出するように。それと、スー少尉は新しいフォーメーションも組んでくるように。では、解散!」

 

号令と共に解散していく部下を見送りながら、疲れを吐き出すように息を吐くトウガ。

そんな彼の元にロイドが顔を見せる。

 

「よう。様になってるじゃないオルフェス中隊長殿」

「…からかうな。見様見真似でどうにかやっているだけだ」

 

にしし、と愉快そうに肩を組んで笑ってくる上官に、ジロリとした目を向けるトウガ。

 

「それでも上手くやってると思うぜ?あの子らも生き生きしてるし、ドレイク中佐もいい指揮官になれるって言ってたしよ」

「で、あればいいがな…」

「謙虚なのは大変結構だが、お前は度が過ぎんぞ。少しくらい威張っても罰は当たらんぞ」

 

呆れ顔でロイドが背中を叩いてくる。幼少の頃から変わらぬ姿勢に敬意も抱くが、同時にもっと胸を張って生きて欲しいとも思っているのだ。

 

「母の祖国に『勝って兜の緒を締めよ』という言葉があるからな。調子にのって痛い目に会いたくはないな」

「まあ、最もだからいいがね」

「それで、帝国が動いたか?」

 

トウガの言葉に、ロイドがああ、と頷く。

現在彼らは、連合王国籍の豪華客船クイーン・オブ・アンジュ―と共に連邦領へ向かっていた。

海洋国家の威信を注ぎ込んで生み出された巨大客船は、輸送船団に匹敵しうる支援物資を積載し狩人(敵潜水艦)が潜む海洋を護衛船もなく単独で悠々と航行していた。

巡航速度で三十ノットという、城とさえ形容できる巨体に見合わぬ瞬足をもって、帝国の海上封鎖網を嘲笑いながら進んでおり。当然ながら、帝国はそれを指を咥えて見ている道理はないだろう。

 

「向こうさんの陸と海がコソコソ動き始めたそうだ」

「やはり空は動かんか?」

「ないらしい。奴さんら大陸国家よろしく、雷撃機を持っとらん。せいぜい爆撃機で急降下爆撃しか空軍は対艦船ができんそうだ」

「それも元々は内線戦略に重きを置いていた国だからな。ことさら海への備えが不足していても無理はあるまい」

 

帝国は比較的新興国であり。周辺を大国に囲まれた立地と、設立の過程で生じた領土問題によって四方全ての国を仮想敵国にせざるを得なかった。

そういった経緯もあり、帝国は防御に重きを置いた戦略を選択しており。他国の領土へ攻め入ることなど想定されてすらいないのである。更に大陸国家にあるが故に、海上での戦闘が軽視されるのは必然の理と言えよう。

 

「となると、相手は潜水艦と航空魔導師といったところか。――ライン悪魔の足取りは?」

「少し前に東部(連邦戦線)で確認されてからは不明だ。本国に戻ったとも言われてるが、どうにもハッキリせん」

「では、相まみえる可能性があるということだな」

 

是非遠慮願いたいね、と辟易するロイド。

トウガとしても仕事は楽に済ませたいものだが、経験上往々にして厄介ごとが舞い込んでくるのが世の常であった。

 

「仮に奴らが来た場合、こっちは二個連隊いるがどうにかできると思うか?」

 

クイーン・オブ・アンジュ―の護衛にはトウガら義勇兵の他。ドレイク含む連合王国の航空魔導士が二百人規模で当たっているのである。

吐き出せるものは全て吐き出し、国の威信をかけた布陣は鉄壁の防壁として、あらゆる攻撃を弾き返すことだろうと関係者が息巻いていたのがトウガらの脳裏に思い起こされる。

 

「…船を無傷で守れるとは断言できんな。あの部隊の戦闘能力は世界一とさえ言えよう」

「この前の戦闘を解析したが、何だあのデコイの使い方頭おかしいだろ。本国の教導団でもあんな真似できねぇよ」

「生きるために心血注いで生み出したのだろう。あれだけの域に昇華させるだけの戦火を潜り抜けてきた不断の戦歴に敬意を抱くよ」

 

感嘆とした様子で語るトウガ。ラインの悪魔とその部隊の練度は、航空魔導師の理想形と言えるものであったのだ。

本国の戦技教導向上のため、教導団に戦闘データを送ったところ。「映画の撮影じゃないのか?」や、「人が映っている物を寄越せよ」という賞賛の言葉がが届いていたりする。

 

「まあ、命令がある以上叩かせてもらうが」

「勝算はあんのか?」

「『アレ』を使う必要があるかもしれん。調整はどうだ?」

「…まだ時間がかかる。そもそもあれは偶然の産物だ。何より、お前への負担が想定しきれん。本来は頼るもんじゃねぇぞ」

 

腕を組んで気乗りしない顔で苦言を呈するロイド。それでもトウガは、揺るぎない覚悟を秘めた目で語り続ける。

 

「無理を言っているのは重々承知している。それでも、あの子達を帰りを待つ人達の元へ無事帰すために頼む」

「ま、贅沢言ってらんねえ相手なのは確か、か。しゃあねぇ、できる限り急ぐがよ。ただな、お前が欠けてたら意味がねえぞ。お前も含めた『全員』で必ず帰ってこい、いいな!」

 

深々と頭を下げる相方に、ロイドはビシッ、と指を差しながら言い聞かせるように話す。

 

「ああ。ありがとう友よ」

 

自分を気遣ってくれるかけがいのない(親友)存在に、トウガは僅かとはいえ笑みを浮かべるのであった。

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