トウガらが大海原へと出て暫く経つ中、クイーン・オブ・アンジュ―はトラブルもなく順調な航海を続けていた。だが、船内では異様に張り詰めた空気に包まれているのだった。
既に船は帝国制空圏内に入っており、いつ敵襲があってもおかしくなく。臨戦態勢下で誰もが興奮、不安、緊張感を感じながら職務に当たっていた。
「こちらヤンキー05異常なし」
「ヤンキー04も同じく異常なし」
そんな中、トウガら義勇軍部隊は周辺警戒の任に着いていた。
「対潜班どうか?」
「こちらヤンキー07潜水艦どころか、イルカやクジラもいませんよ」
「油断するな。我々が知らない未知の兵器が出てくるかもしれんのだ。軍事の世界は目まぐるしく進化し続けているんだぞ」
「油断大敵というやつですね」
了解です、と気を引き締め直す部下によろしい、と満足そうに告げて通信を終えると。管制から交代を告げる通信が入った。
「帰還するぞ。ヤンキー02隊を纏めろ」
「……」
「02?」
側にいるバディに呼びかけるも、どこか上の空といった様子で返事がない。
不審に思いながら片手で肩を揺するトウガ。
「02!」
「あ、はい!何でしょう!?」
「何でしょう?ではない。交代の時間だ」
「あ、すみません!すぐに部隊を纏めます!」
慌てて行動しようとするメアリーをトウガは呼び止める。
「ここ最近任務に集中できていないが、悩みがあるなら聞くぞ?」
「いえ、隊長のお手を煩わせることではありませんので大丈夫です!」
どこか逃げるかのように飛んでいくメアリーに、トウガは理由が思い当たらず困惑を隠せないのであった。
「はぁ~」
トウガから離れたメアリーは、無意識に溜息をついていた。
「また迷惑かけちゃった」
あるできごとがあってからというものの、任務に専念できず。トウガにフォローされていることに罪悪感を覚える。
「こういう時どうすればいいのかな?」
その時のことを思い浮かべながら、誰に聞かせるでもなく問いかけるのだった――
数日前。就寝時間前の自由時間に、ウェルフから話があると呼ばれたメアリーは。甲板の一角で彼と会っていた。
「すまないメアリー。こんな時間に呼び出してしまって」
「ううん、大丈夫。それで話って何かな?」
メアリーが促すも、ウェルフは周囲を見回しながら何か踏ん切りがつかない様子であった。
夜ということもあり、周囲には人気はなく、何か人に聞かれたくない話題のようであり。副隊長である身としてメアリーはしっかりと相談に乗らねばと、無理に聞き出そうとせず相手の心の準備が整うまで待つ。
暫しすると意を決したのか、ウェルフは真剣な眼差しで見つめてきたので、思わず姿勢を正すメアリー。
「メアリー!」
「は、はい!」
「俺は…俺は、君のことが好きだ。1人の女性として!」
「……え?」
羞恥で顔を赤くしながら放たれた予想外の言葉に、メアリーは最初は理解できずキョトンとしていたが。その意味を理解していくにつれ顔が赤くなっていき、トマト顔負けにまで染まる。
「え、ふぇええ!?すすすすす好きって、そんな私、なんかを!?」
「あ、ああ。君を異性として愛してしまったんだ」
何かの間違いだろうと言いたそうに慌てふためくメアリーに、ウェルフは確かだ、と言うように力強く頷いた。
「で、でも。私なんかよりもっと綺麗で素敵な人はいるし。そんな…!」
「そんなことはない!皆が死んでいってしまったあの戦いの後、悲しみに暮れる俺達の中で君は誰よりも早く立ち上がり俺達を励ましてくれた。俺がこうしてここにいられるのも、君がいてくれたからなんだ。俺にとって、君は誰よりも綺麗で優しく、そして強い人だ」
「ウェルフ…」
「そんな君をこれから先、何があっても側で守っていきたいんだ!」
情熱的なまでに語り掛けるウェルフに、心揺れ動くメアリー。だが、そんな彼女の脳裏に何故だがトウガの顔が浮かび、どう答えていいのか迷ってしまう。
「…すまない。こんな時に言うべきでないと思っていたんだが。あの戦いで軍人とはいつ死ぬかも分からないものだと実感した以上、心残りは残したくなかったんだ。今すぐ応えてくれとはいわない、君の決心がつくまで俺は待っているよ」
メアリーの様子を見て、何かを察した様子でウェルフは優しく語り掛けるのであった。
「(何で私あの時、彼の気持ちに応えてあげられなかったんだろう?)」
突然のことで多少の混乱はあったものの、ウェルフのことは嫌いなどでなく、二度と仲間を失わないように強くなろうと、誰よりも努力している彼を好意的に見ていた。
それでもトウガの顔が思い浮かんだ時、彼の想いを受け入れることに抵抗感が生まれてしまったのだ。
自分の中で渦巻く謎の感情に答えが見い出せぬまま、迷宮に迷い込んだような錯覚さえ覚えていた。
「お父さん。こんな時ってどうすればいいの…?」
思わず亡き父に問いかけしまうも、その答えが返って来ることはなかった…。
クイーン・オブ・アンジュ―に帰還したトウガは、部隊を解散させるとネクストを解除し整備員が用意してくれていた飲料水を飲みながら一息ついていた。
「……」
その彼の側でロイドが意味深な顔で何かを凝視していた。
不審者として通報されそうな視線の先には、仲良く話し合っているメアリーとウェルフがいた。
「なあ兄弟よ」
「何だ不審者?」
事実を言っただけなのに足に蹴りを入れられることに、トウガは納得がいかんと言いたそうな顔をするも。ロイドは気にせず話を続ける。
「あの2人を見て何か思うところはないのかね?」
「仲が良くていいことじゃないか」
青春だな、と感慨深そうに頷いている相方に、ロイドは思わず両手で顔を覆いながら涙を流す。
「どうしたいきなり。また徹夜し過ぎたか?」
「う、うう…。こんな、こんな子になってしまうなんて、どこで育て方を間違えたのかしら…」
「気持ち悪いことを言うな。お前は俺の母親か」
「すいませんアサギさん。しっかり面倒を見ますと誓ったのに、俺がいながらこんなドアホウに育ってしまいました」
「いや、何で今のやり取りで母さんに謝っている?大丈夫か病院に行くか、頭の」
情緒不安定な相方を本気で心配するトウガをよそに、ロイドは勢いよく両肩に手を置いてきた。
「いいか兄弟よッ!このままじゃお前一生独身だぞ!老いて死ぬ時、俺以外に看取る人がいなくなっちまうんぞ!」
「それはそれで嫌であるが「嫌だとコノヤロォ!?」…余計なお世話だ。というかお前にだけは言われたくないわ。せめて恋人の1人でも作ってから言えよ」
トウガからの指摘に、今までのハイテンションが嘘のように静まりかえるロイド。
「だ、だってお前の世話とか研究とかで忙しんだもん」
「だもんじゃない。というかさらっと俺のせいにするな、お前といると女性から妙な視線を向けられて困るんだが」
「うるせー!そうでもしなきゃお前ボッチだったじゃねーかッ!こっちだってどっちが攻めか受けか掛け算されるのしんどいんだよ!!このマフィア顔ーー!!」
「よろしい、ならば戦争だ」
禁句をほざいて逃げ出す愚か者を、全速力で追跡するトウガ。
戦火渦巻く情勢の中、彼らにとって変わらぬ『日常』の一幕であった。